平成13年10月1日 判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
 平成12年(ワ)第505号 労働契約上の地位確認等請求事件(甲事件)
 平成12年(ウ)第925号 団体交渉を求める地位確認請求事件(乙事件)
 口頭弁論終結の日 平成13年7月9日
                  判       決          
  甲事件 原告                      中田 良治、日野 隆文、板谷 節雄

  乙事件 原告                      全日本港湾労働組合関西地方本部
                                     代表者 地方執行委員長 梶浦 正男

                                全日本港湾労働組合関西地方神戸支部
                                     代表者 支部執行委員長 喜多 英征


  甲乙両事件 被告                   本四海峡バス株式会社
                                     代表者 代表取締役 川真田 常男

  甲事件 被告補助参加人               全日本海員組合
                                     代表者  井出本 榮


           主       文
  1.  甲事件原告らが甲事件被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
  2.  甲事件被告は、甲事件原告中田良治に対し、1018万0352円及び平成13年7月10日から本判決確定の日まで毎月25日限り月額32万9468円の割合による金員並びに内金51万2846円に対する平成11年12月4日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金53万4215円に対する平成12年7月6日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金54万4899円に対する平成12年12月6日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金100万円に対する平成12年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  3.  甲事件被告は、甲事件原告日野隆文に対し、1047万5480円及び平成13年7月10日から本判決確定の日まで毎月25日限り月額33万9159円の割合による金員並びに内金53万6016円に対する平成11年12月4日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金55万8350円に対する平成12年7月6日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金56万9517円に対する平成12年12月6日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金100万円に対する平成12年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  4.  甲事件被告は、甲事件原告板谷節雄に対し、1187万4203円及び平成13年7月10日から本判決確定の日まで毎月25日限り月額39万5267円の割合による金員並びに内金57万0302円に対する平成11年12月4日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金59万4065円に対する平成12年7月6日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金60万5946円に対する平成12年12月6日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金100万円に対する平成12年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  5.  甲事件原告らの訴えのうち、本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払を求める部分をいずれも却下する。
  6.  甲事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
  7.  乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方本部が乙事件被告に対し別紙団体交渉事項目録(関西地本)記載の各事項につき団体交渉を求め得る地位にあることを確認する。
  8.  乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方神戸支部が乙事件被告に対し別紙団体交渉事項目録(神戸支部)記載の各事項につき団体交渉を求め得る地位にあることを確認する。
  9.  乙事件被告は、乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方神戸支部に対し、100万円及びこれに対する平成12年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  10.  乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方神戸支部のその余の請求及び乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方本部の請求をいずれも棄却する。
  11.  訴訟費用は、甲事件原告らに生じた費用の10分の1と甲乙両事件被告に生じた費用の20分の1と甲事件被告補助参加人に生じた費用の10分の1を甲事件原告らの負担とし、乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方本部に生じた費用の2分の1と甲乙両事件被告に生じた費用の8分の1を乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方本部の負担とし、乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方神戸支部に生じた費用の3分の1と甲乙両事件被告に生じた費用の12分の1を乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方神戸支部の負担とし、甲事件被告補助参加人に生じた10分の9を甲事件被告補助参加人の負担とし、その余は甲乙両事件被告の負担とする。
  12.  この判決は、金員の支払を命ずる部分に限り、仮に執行することができる。
                  事 実 及 び 理 由             
第1請求

 1 甲事件
(1) 主文第1項と同旨
(2) 甲事件被告は、甲事件原告中田良治に対し、平成11年8月9日から毎月25日限り月額32万9468円の割合による金員並びに365万1980円及び内金51万2846円に対する平成11年12月4日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金56万3928円に対する平成12年7月6日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金57万5206円に対する平成12年12月6日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金200万円に対する平成12年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 甲事件被告は、甲事件原告日野隆文に対し、平成11年8月9日から毎月25日限り月額33万9159円の割合による金員並びに376万3404円及び内金53万6016円に対する平成11年12月4日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金60万7618円に対する平成12年7月6日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金61万9770円に対する平成12年12月6日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金200万円に対する平成12年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 
(4) 甲事件被告は、甲事件原告板谷節雄に対し、平成11年8月9日から毎月25日限り月額39万5267円の割合による金員並びに392万9959円及び内金57万0302円に対する平成11年12月4日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金67万3096円に対する平成12年7月6日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金68万6559円に対する平成12年12月6日から支払済みまで年6分の割合による金員、内金200万円に対する平成12年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 乙事件
(1) 主文第7項、8項と同旨
(2) 乙事件被告は、乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方本部に対し、200万円及びこれに対する平成12年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 乙事件被告は、乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方神戸支部に対し、300万円及びこれに対する平成12年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 
第2 事案の概要
 本件は、甲乙両事件被告(以下「被告」という。)の従業員であった甲事件原告らが、被告と甲事件被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)との間で締結されていたユニオン・ショップ協定(以下「本件協定」という。)に基づく解雇が無効であるとして、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに未払い賃金及び損害賠償の支払いをもとめるとともに、乙事件原告らが、被告が乙事件原告らの団体交渉権(団体交渉の当事者適格)等を争ったり、乙事件原告らとの団体交渉を正当な理由なく拒否したとして、被告に対し、団体交渉を求め得る地位にあることの確認及び損害賠償を求めた事案である。
 1 争いのない事実等(証拠を掲げた事実以外は、当事者間に争いがない。)

 (1) 当事者
ア 被告は、一般乗合旅客自動車運送事業等を業とし、本州四国連絡橋(明石海峡大橋)開通による一般旅客定期航路事業者の事業の縮小に伴う対策としての新事業展開、船員等の離職者の雇用確保を目的として、平成7年4月14日に設立された株式会社である。
 被告は、明石海峡大橋の開通に伴い、平成10年4月6日から、大阪・神戸ー淡路ー徳島間のバス路線を西日本ジェイアールバス及びジェイアール四国と共同運行している。
 被告の営業開始時の従業員数は83名弱であったところ、そのうち運転士(事務兼務を含む。)及び整備管理者は合計58名であり、そのうち52名が船員等の本州四国連絡橋関係離職者である。これらの者は、約半年間に及ぶ事前の訓練を終えた後、営業開始直前の同月1日、被告に雇用された。また、被告の役員及び管理職も、共同汽船、関西汽船等の一般旅客定期航路事業者及びジェイアール出身の者で占められている。
イ 甲事件原告らは、もと船員であり、同日、被告にそれぞれ雇用され、甲事件原告中田良治(以下「原告中田」という。)は運転士として、同日野隆文(以下「原告日野」という。)及び同板谷節雄(以下「原告板谷」という。)は運転士兼指導員、後に主席運転士として勤務していた。
ウ 乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方本部(以下「原告関西地本」という。)は、港湾産業及びこれに関連する事業の労働者で組織する全日本港湾労働組合(以下「全港湾」という。)の関西地方における下部組織である。
エ 乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方神戸支部(以下「原告神戸支部」という。)は、原告関西地本の下部組織であり、全港湾の神戸地方を統括する支部組織である。
 (2) 甲事件原告らの解雇
ア 被告の従業員の大半がもと船員であったことから、甲事件原告らを含む被告の運転士及び整備管理者58名全員が補助参加人に所属し、被告と補助参加人との間で本件協定が締結されていた。
 すなわち、労働協約書第4条には、「会社の所属運転士及び整備士(以下運転士等という)は、すべて組合の組合員でなければならない。」(第1項)、「会社に新しく採用される組合員でない運転士等は、採用後おそくとも1ヶ月以内に加入手続きをとるものとする。」(第2項)、「会社は組合に加入しない者、または組合員の資格を失った者を引き続き運転士等として雇用しない。」(第3項)と定められている(甲8)。
イ 甲事件原告らを含む被告の運転士及び整備管理者58名全員は、平成11年7月30日付けで補助参加人に脱会届を提出し(甲1の1ないし3、甲16、89ないし91)、同日付けで全港湾に加入の手続きをとった(甲2ないし4、16、19の1、2、甲43、82,83,89ないし91)。
 原告中田は、原告神戸支部本四海峡バス分会分会長、原告日野は同分会副分会長、原告板谷は同分会書記長である(甲16ないし18,19の2、甲89ないし91)。
ウ 補助参加人は、同年8月6日付けで甲事件原告らを除名処分とし、同日、被告に対し、本件協定に基づいて甲事件原告らを解雇するように要請した。
エ 被告は、これを受けて、同年8月9日付けで甲事件原告らを解雇した(以下「本件解雇」という。)すなわち、被告は、同年8月8日付けで、「当社は、平成十一年八月六日付で、全日本海員組合より、貴殿を除名処分にし労働協約第四条(ユニオンショップ制)にもとづき処置することを強く要請されました。従いまして当社は、貴殿を労働協約第四条により平成十一年八月九日付をもって解雇いたします。」との通知書(甲5の1ないし3)を甲事件原告らに送付し、同年9日午前、これらが甲事件原告らにそれぞれ到達した。
 (3) 賃金、一時金
ア 本件解雇前3か月間の平均総支給給与額は、原告中田が32万9468円(甲10の1ないし3)、原告日野が33万9159円(甲11の1ないし3)、原告板谷が39万5267円である。
イ 被告は、甲事件原告らを除く全運転士に対し、平成11年12月3日、冬季一時金として、各人の基本給に勤務地手当、扶養手当、技能手当、主席手当を加算した額(以下「基本給等の額」という。)の2.4か月分の一時金を支払った。
ウ 被告は、甲事件原告らを除く全運転士に対し、平成12年7月5日、夏季一時金として、各人の前示基本給等の額の2.5か月分の一時金を支払った。
エ 被告は、甲事件原告らを除く全運転士に対し、同年12月5日、冬季一時金として、各人の前示基本給等の額の2.55か月分の一時金を支払った。
 (4) 団体交渉の申入れ
ア 平成11年8月9日当時、被告本社事務所は、閉鎖されていた。
イ 原告神戸支部による団体交渉開催申入れに関する文書(甲19の1、3)は、同月10日、被告に到達した。
ウ しかし、被告からは何らの応答もなく、また、被告本社事務所も閉鎖されたままであったので(同事務所は、同年10月11日ころまで、閉鎖されたままであった。)、同年8月13日、原告神戸支部は、兵庫県地方労働委員会(以下「地労委」という。)に対し、団体交渉の開催を求めて、あっせん申請を行ったが、同月23日付けであっせんが打ち切られた。
エ 原告神戸支部は、同日、団体交渉開催要求書(甲28の1)を内容証明郵便で被告に送付し、同郵便は、同月24日、被告に到達したが、被告からは、何らの応答もない状態が続いた。
オ 同年10月12日朝、被告本社事務所の入り口ドアには、「許可無く立ち入りを禁止します」、「ドアは閉めてあります インターホンでご連絡ください」との張り紙がされていた。
 被告本店支配人ID及び同副支配人IUは、原告神戸支部役員らに対し、「私たちが対応します。」と申し出た。ID及びIUは、補助参加人のもと組合員であり、同月1日、労務担当社員として、被告に雇用されていた。
 IDらは、同役員らの「団体交渉を設定すべく、速やかに協議したい。」との申入れに対し、被告本社事務所に入室することを拒否したうえ、「あなた方から組合の結成通告や団交申入れが来ていることは承知しているが、わが社は全日本海員組合と労使関係を持っており、その海員組合が組合員の脱退を認めていないので、全港湾を認めるわけにはいかない。したがって、あなた方とは労使関係は持てない。」と返答し、更には、同役員らが持参した団体交渉開催申入書等(甲29の1,2)の受領を拒否した。
 このため、原告神戸支部は、同月13日、上記団体交渉開催申入書等(甲29の1,2)を配達証明郵便で被告に送付し、これは、同月14日、被告に到達したが、被告は、これを原告神戸支部に返送した。
カ 同月15日、原告神戸支部分会員らが全港湾の組合員であると申し出たのに対し、IDは、「本人らが全港湾の組合員だと主張しても、海員組合が脱退を認めていない限り会社は認めない。」と述べたが、団体交渉の開催については、「社内で検討のうえ、10月22日に回答する。」と返答した。
キ 同月22日に行われた原告神戸支部とIDらとの事務折衝において、原告神戸支部が団体交渉開催にあたっては社長等権限のある者が出席するように求めたところ、IDは、団体交渉開催の諾否を含め、同月25日に回答すると答えた。
 ところが、被告は、同月22日付けで、「全港湾神戸支部との関係について」と題する文書(甲33)を全従業員の自宅に郵送した。その内容は、「海員組合では当社からの脱退者は居ないと理解しているものと考えられます。海員組合が脱退を認めていない状態の中で、会社が脱退を認めることは、労使関係のルールからいってできません。」、「会社はこのような事情を、全港湾神戸支部に対して繰り返し説明し、全港湾神戸支部と労使関係を結ぶことはできないと主張してきました。会社のこの立場はこれからも変わるものではありません。」というものであった。
ク 同月25日に行われた事務折衝において、IDらは、「会社として、今は全港湾と労使関係を持つ体制にはないと判断した。団体交渉については拒否する。」と回答した。
ケ 原告神戸支部は、上記の団体交渉拒否について抗議し、その結果、同年11月4日、原告神戸支部と被告との会合がもたれた。
 その冒頭、被告常務HNは、「これは団体l交渉ではありませんが」と断ったうえで、経緯の説明を行うとし、同年8月9日以降の本社の閉鎖については、「全港湾が押しかけてきて本社機能がマヒすることを避けるための緊急避難である。」と述べた。そして、HNは、「全港湾とは労使関係をもてない。」、「団体交渉はできない。」と述べた。
コ 被告は、同年12月13日、「組合費の源泉徴収について」と題する文書(甲38)を各営業所に掲示して、従業員全員のチェックオフを停止することを表明したが、同文書において、「この事は全港湾神戸支部との労使関係を認めず、海員組合との労使関係を継続していくという、従来からの会社の方針を変更するものではありません。」と述べた。
サ 平成12年1月19日に行われた原告神戸支部と被告の会合において、IDは、「これは団体交渉ではなく、要求書は受け取れないし、回答を文書で出すこともできません。」と述べて、原告神戸支部が提出した要求書(甲45)の受け取りを拒否した。
シ 乙事件原告らは、被告に対し、同年2月9日、全港湾中央本部、原告関西地本及び原告神戸支部本四海峡バス分会の2000年春闘要求書(甲51の1ないし4)を提出し、団体交渉への出席を求めた。
 しかし、被告は、これらの要求書の受け取りを拒否し、乙事件原告らが出席を要求した同年3月9日及び同月22日の原告関西地本の統一集団交渉並びに原告神戸支部が出席を要求した同月17日及び同月31日の原告神戸支部の統一集団交渉の全部に主席しなかった。
ス 神戸地方裁判所は、同年1月31日、甲事件原告らの地位保全仮処分決定をし、同年3月14日、原告神戸支部の団体交渉を求め得る地位保全仮処分決定をした。
セ 被告は、同年4月1日付け書面で、補助参加人が被告の筆頭株主になったと発表し、同月10日付け書面で、被告本社事務所を補助参加人関係団体のみが事務所を構えている海員ビル内に移転した旨を従業員に通知した。
ソ 地労委は、被告に対し、同年6月20日、原告神戸支部との団体交渉に誠意をもって応じるように命ずる救済命令(以下「初審命令」という。)を発した(甲61)。
タ 中央労働委員会は、同年9月25日、初審命令を履行するよう勧告した(甲73、以下「履行勧告」という。)。
 2 主要な争点
(1) 本件解雇の効力(甲事件)
(2) 乙事件原告らの当事者能力の有無(乙事件)
(3) 訴えの利益の存否(乙事件)
(4) 団体交渉拒否の有無(乙事件)
 3 当事者の主張

 (1) 本件解雇の効力(甲事件)について

  (甲事件原告らの主張)
 ユニオン・ショップ制を定める協約条項の有効性については、組合選択の自由(自ら組合を結成し又はこれに加入する自由)の観点から論議のあるところであり、近時無効説も有力に主張されるところであるが、仮に有効と解しても、協定締結組合から脱退し又は除名されたが、別の組合に加入したり、新たな組合を結成した者については、ユニオン・ショップ協定の効力は及ばず、使用者のした解雇が解雇権の濫用として無効となるのは確立した判例である(最高裁平成元年12月14日第一小法廷判決、同月21日第一小法廷判決)。
 しかるところ、甲事件原告らは、協定締結組合である補助参加人に脱退届を郵送で提出したのと同じ日に全港湾に加入しているのであるから、甲事件原告らにユニオン・ショップ協定は及ばず、本件解雇は、解雇権の濫用であって、無効であることは明らかである。
  (被告の主張)

  ア ユニオン・ショップ協定の合理性
 労働組合法7条1号ただし書がユニオン・ショップ協定を有効としているのは、労働組合の団結強制と組織統制を認め、統一的な組合運動を保障するためであるから、同協定を締結している労働組合の団結権は、労働者個人の持つ団結権に対して優位すると解すべきである。
 そうである以上、同協定が締結されている場合、特に除名者あるいは理由なく脱退した者に対する解雇は基本的に有効であり、同協定を締結している労働組合の団結権よりも労働者個人の団結権を保護しなければならないやむを得ない理由があり、かつ、脱退の方法、態様が相当である場合に限り、同協定に基づく解雇が許されないこととなると解すべきである。
 イ 本件協定の特殊性
 本件協定は、被告の特殊性に由来したきわめて特殊な性格を有しているものであり、通常のユニオン・ショップ協定と同様に理解することはできない。
 すなわち、被告は、明石海峡大橋の開通に伴い、事業の縮小等を余儀なくされる旅客船事業者の離職者対策を重要な目的として、本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法(以下「特措法」という。)の規定に基づいて設立されたいわば国策会社である。離職者とはすなわち船員であり、補助参加人組合員である。補助参加人は、離職者対策を政府に強く働きかけて、これが特措法の制定につながったし、補助参加人が、離職者対策や被告の事業免許取得などに果たした役割はきわめて重要である。
 そして、甲事件原告らを含む被告の営業開始時の運転士は、同組合員であることを前提に採用されたものであり、本件協定は、実質はクローズド・ショップ協定である特殊な協定である。クローズド・ショップ協定の場合、使用者の採否の自由と採用資格の存否が問題であり、ユニオン・ショップ協定のように組合選択の自由の問題ではない。
 以上によれば、本件協定の解釈、適用にユニオン・ショップ協定に関する一般理論は適用できない。
 ウ 本件解雇の合理性
 被告は、資本金の額が現在でも1億5000万円にすぎず、従業員の数は甲事件原告らを解雇する直前で合計85名ときわめて少数であり、また、さしたる資産も有していないのであり、甲事件原告らが引用する最高裁判決で争われたような大会社ではない。また、被告は、甲事件原告らを解雇した当時、設立後3年、営業開始後わずか1年あまりしか経っていなかったのであり、会社の経営基盤が安定していない状態である。しかも、平成13年には、被告とジェイアール各社に限定されている免許の規制が撤廃されることになっている。このため、安定した経営基盤を構築するため、補助参加人との信頼関係の維持、構築が重要であることは明白である。
 さらに、甲事件原告らは、被告に雇用される前から補助参加人組合員であったところ、ユニオン・ショップ協定の意味も効用も十分に理解したうえで被告に雇用されたものであるし、同組合員の地位にあったことから、入社の際の職業訓練や被告への入社などについて多大な恩恵を受けていたものである。にもかかわらず、甲事件原告らは、本件協定後わずか1年で、かつ、本件協定締結時と全く事情変更が認められない状況下で、突然補助参加人を除名されたものであり、かかる経過をみても、甲事件原告らの存在が被告と補助参加人との間の信頼関係を破壊し、被告の存立すら揺るがしかねないものであり、看過し得ないものであることは明白である。
 したがって、本件解雇には十分な合理性があり、解雇権を濫用したものではなく、本件解雇は有効である。
  (補助参加人の主張)

 ア 職場確保契約
 被告は、補助参加人がその組合員の雇用確保を求め、長期間にわたり、全国的に展開した運動の成果というべき特措法に基づいて設立された会社であり、補助参加人は被告設立後の運送事業免許取得や人材の教育そのものにも関与しているものであるから、被告は、補助参加人の構成員たる組合員の雇用確保を主たる目的として存在する会社であるということができる。そして、被告を離職船員のための再就職先として確保するためには、職場としての被告の従業員を補助参加組合員のみに限定することが絶対に不可欠であった。
 その意味で、本件協定は、通常のユニオン・ショップ協定ではなく、民法上の無名契約としての被告と補助参加人との間の「職場確保契約」(被告を補助参加人組合員のみの職場とする契約)であり、一種の変形クローズド・ショップ協定ということも可能である。
 本件協定の基礎となる団結権は、通常の団結権とは異なり、個人の生存権(職場確保、再就職先確保による個人の生存の確保)を支えるための団結権(生存権的団結権)である。通常の団結権は、生存件的団結権の下位に位置するというべきである。甲事件原告らは、自己の生存を補助参加人の活動と上記生存権的団結権によって確保し得たにもかかわらず、下位の通常の団結権を口実として、上記生存権的団結権(とこれが支える自己の生存)を放棄したものにほかならない。
 しかも、本件における職場確保契約は、大量離職船員(補助参加人組合員)の職場確保・雇用確保という公益目的を有しており、現に、本件解雇後も、離職船員が被告に新規に雇用され、更にその多くの離職船員が就職を心待ちにしているのである。
 したがって、この目的を達成するために必要な限度での解雇は、まさにこの契約に従った解雇として正当であり、有効と解するほかはない。
 イ 本件協定の有効性
 本件協定が職場確保契約でないとしても、本件における甲事件原告らの除名・解雇は、平成元年12月14日の最高裁判決の射程外に位置するものと考えるべきである。
 上記判例は、解雇条項を無効とする根拠に関し、労働者の「労働組合選択の自由」と「労働組合の団結権」を指摘している。このことは、労働者の「労働組合選択の自由」と「労働組合の団結権」に関して合理的な制約が存在する場合には、その限度で解雇条項の有効性が認められる余地を残したものと考えなければならない。
 そして、本件においては、甲事件原告らの「労働組合選択の自由」と「労働組合の団結権」は、補助参加人組合員が有する「生存権的団結権」という上位概念による制約を受けているのであり、その「生存権的団結権」維持の限度で、解雇条項は有効と考えるべきである。
 まして、時限立法である特措法の目的が同組合員の職場確保にあるということを考えるなら、少なくとも目的達成までの間、甲事件原告らの「労働組合選択の自由」が一定の制約を受けるとしても、何の違法性もない。
 ウ 解除条件付雇用契約
 甲事件原告らと被告との間の各雇用契約は、甲事件原告らが補助参加人組合員であることを条件とした雇用契約であり、もしこれを失ったときは、雇用契約を解除することのできる解除契約付雇用契約であって、本件解雇は有効である。
 私企業が労働者を雇い入れる際に、思想、信条を一つの基準とすることは違法ではない。また、解約権留保付きの雇用契約も、それが合理性を有する限り有効であり、解約権の行使も、それが客観的に合理性を有していれば、違法ではない(最高裁昭和48年12月12日判決(三菱樹脂事件))。
 被告は、同組合員の職場確保を目的としているから、同組合員から運転士を採用してきたし、甲事件原告らも同組合員であったからこそ、被告に雇用されたものである。上記目的の達成は、いまだに職を得ることができない多くの同組合員がいることや、今後も新たな離職者が発生することを考えれば、きわめて高い公益性を有している。
 かかる公益性、合目的性のために、被告が従業員の資格を同組合員に限定し、しかもその維持を雇用の条件とすることは、前記最判の趣旨からしても、何ら違反ではない。
 甲事件原告らのとった行動は、補助参加人にとって明らかな統制違反行為であるのみならず、被告の存続目的にも反する行為である。かかる行為に対し、解除条件の成就を主張し、雇用関係を終了させたとしても、その目的自体が反社会的又は公序良俗違反等でない限度において、解雇は合理性を有していると考えるべきである。
 (2) 乙事件原告らの当事者能力の有無(乙事件)について

  (乙事件原告らの主張)
 規約・諸規定集(甲57)の全港湾規約によれば、全港湾は、全国単一組織であり、その下部組織として、地方本部、支部、分会を有している。地方本部は、全国10地域に置かれ(同規約第9条)、原告関西地本はその一つである。支部は地方本部の下部組織であり、全国の各港湾に置かれる(同規約第10条)。原告神戸支部は、原告関西地本の下部組織である。
 そして、各地方本部及び各支部は、全港湾規約に準じて、それぞれの規約を定めることとされている(同規約第13条)。原告関西地本においても(甲58)、原告神戸支部においても(甲59)、それぞれ規約を定めている。それぞれは、意思決定機関としての大会についての規定を置き、また、それぞれの組織を代表する執行委員長を選出する規定を置いている。
 全港湾の各支部については、それぞれの組織の事情により、法人登記をしているものとそうでないものがあるが、そのことによって組織としての性格、位置付けに何らの相違もない。
 また、全港湾は、各地本レベルの問題は各地本において交渉し、各支部レベルの問題は各支部において交渉すべく、団交権、交渉権等の権限を各地方組織に順次委譲しているのである。
 以上によれば、乙事件原告らは、いずれも当事者能力を有する社団であることは明らかである。
  (被告の主張)

 ア 原告神戸支部の当事者能力
 原告神戸支部は、法人登記はされておらず、全港湾及びその下部組織である原告関西地本の下部組織にすぎないのであって、権利能力を有しない。
 民訴法29条の用件を満たさない限り、法人格を有しない原告神戸支部が当事者能力を有することはないが、これを認め得るための立証は尽くされていない。かえって、原告神戸支部の関係者は、原告神戸支部は全港湾の機関として活動している旨繰り返し証言しているのであり、独立した法主体として活動しているのではない旨証言している。
 したがって、原告神戸支部は、訴訟法上の当事者能力を有しない。
 イ 原告関西地本の当事者能力
 乙事件原告らの求める訴えは、実質的には同一内容の訴訟である。そして、乙事件原告らはいずれも全港湾の下部組織であり、原告神戸支部は、乙事件被告との団体交渉に関する紛争は原告神戸支部の管轄する職場における紛争であるから、法人格を有していなくても原告神戸支部に当事者能力が認められると主張しているのである。
 これによれば、仮に原告神戸支部に独立した当事者能力が認められるというのであれば、乙事件被告との団体交渉に関する紛争は、原告神戸支部にのみ当事者能力が認められ、原告関西地本には重複して当事者能力は認められない。
 (3) 訴えの利益の存否(乙事件)について

  (乙事件原告らの主張)
ア 労働組合法第7条の規定は、単に労働委員会における不当労働行為救済命令を発するための要件を定めたものにとどまらない。同条の規定は、労働組合と使用者との間でも私法上の効力を有しており、労働組合が使用者に対して団体交渉を求め得る法律上の地位を有し、使用者はこれに応ずべき法律上の地位にあることを意味しているのであって、団体交渉をめぐる労働組合と使用者との関係は私法上の法律関係に立つ。そして、請求にかかる団体交渉事項が団体交渉の対象事項であるかどうかが判決をもって確定されれば、その限りで当事者間の紛争が有効適切に解決されるから、確認の利益は十分に存するのである(最高裁平成3年4月23日第三小法廷判決参照)。
イ 乙事件原告らは、被告に対し、それぞれ別紙団体交渉事項目録(関西地本)及び同(神戸支部)記載の各事項(以下、両者を併せて「本件団体交渉事項」という。)について団体交渉を求め得る地位にあることの確認を求めるものである。
 本件団体交渉事項は、いずれも、被告における基本的な労働条件、被告従業員の重要な身分、あるいは、正常な組合活動に関する事項であり、当然に使用者と労働組合間における団体交渉事項とされるべき事項である。
ウ 被告は原告関西地本が原告適格を欠くかのごとき主張をしているが、原告関西地本は、平成12年2月9日、春闘要求書を提出している(甲51の1ないし4)。被告は、この要求書の受取り自体を拒否し、統一集団交渉にも欠席しているのである。
エ 被告は、甲事件原告ら以外に、被告に原告神戸支部組合員が存することが明確でないと主張する。
 しかし、被告においても、甲事件原告らが全港湾組合員であることを認めている。
 また、被告は、乙事件原告らから組合結成通知書や度重なる団体交渉要求書の送付を受け、更には、初審命令、団体交渉を求める得る地位保全仮処分決定まで受けてきたにもかかわらず、補助参加人がその組合員の脱退を通知していないとの一点において、被告内における全港湾組合員の存在を確認できないとして、組合否認を続けているのである。補助参加人から被告に対するその組合員についての脱退通知の有無によって、脱退の効果は左右されない。 
  (被告の主張)
ア 労働組合法7条2号の規定は、これにより使用者は団体交渉を不当に拒否してはならないという公法上の義務を負うものとしているということができても、乙事件原告らが主張するような団体交渉権という私法上の権利を直接規定している実定法が存在しないのみならず、仮にそのような権利を認め、団体交渉の不当な拒否に対して、労働委員会による救済とは別途に、直接に裁判上の本案請求又は仮処分申立てにより団体交渉の拒否禁止又は応諾を求め得るものとしても、憲法上保障される私権としての団体交渉権の権利性を現行法上どのように把握し、いわゆる団体交渉請求権なるものに対応すべき使用者の責務の給付内容をどのように特定するか、そして、団体交渉の履行を法律上強制することの能否並びにその履行を裁判上強制してみたところで果たして実効性を確保し得るかなど、多くの困難な実践的解釈上の問題を生じ、到底憲法28条ないし労働組合法7条が私法的な団体交渉請求権なるものを認めているとは解し難い。したがって、労働組合法7条2号に基づく行政救済申立権が発生すること以上に、これにより使用者に対し交渉に誠意をもって応ずべき旨の作為を求める私法上の債権、すなわち具体的団体交渉請求権を取得したとして、直ちに被告が乙事件原告らに対して団体交渉に応ずべき私法上の義務が発生する筋合いはない(東京高裁昭和50年9月25日決定・労民集26巻5号723項)。
 以上によれば、乙事件原告らは、被告に対し、団体交渉を求め得る私法上の権利を有していないので、本件訴えは不適法と解すべきである。
 労働組合と使用者との間で団体交渉に関して紛争が生じている場合、その紛争の態様、原因には種々のものがあり、単に団体交渉を求め得る地位を有することを確認しても、何ら紛争の直接的かつ効果的な解決にはならず、端的に給付、作為若しくは不作為を求めるのが相当である。乙事件原告らは、前記のとおり、直接的な解決策である労使間の団体交渉を求める仮処分が法的に認められないため、これを潜脱する目的で本訴を行ったことは明らかである。
 仮に本件訴えが適法であるとしても、これは紛争の直接的な解決に結びつくものではない。紛争のより直接的な解決方法は、団体交渉を応諾するよう求める方法であり、その方法は、第一次的には地方労働委員会に救済の申立てを行うことである。
 乙事件原告らがすでに地位保全仮処分及び地方労働委員会での救済を求めている以上、団体交渉を求め得る地位にあることを確認する訴えなどという迂遠な手続きが訴えの利益を欠くことは明らかである。
イ そもそも本件紛争は、労使の紛争ではなく、ユニオン・ショップ協定に関する労働組合間の紛争である。その意味で、被告においては実質的な労使の紛争はない。本件紛争においては、補助参加人と全港湾との間において被告の従業員の帰属問題が解決しない限り、被告としては全く対処が不可能であり、その意味で、被告は、本件の背景にある紛争に関して処分権を有しないのである。処分権を有しない被告に対して確認判決を発したところで、実質的には労使の紛争のない労使間において何らの問題の解決にもならない。
ウ 
(ア) 被告の従業員は、全て補助参加人組合員で構成されている。仮に被告の従業員中に原告神戸支部組合員がいることが確定すれば、補助参加人からその旨の通知があり、本件協定に基づいた解雇の要求があるはずである。しかしながら、被告は、今日まで、補助参加人からその旨の通知を受けたことはない。その意味で、被告の従業員中に原告神戸支部組合員はいないのである。
(イ) 補助参加人組合員が補助参加人を脱退しようとした場合、各人が個別に脱退届を文書で補助参加人に提出し、これを補助参加人が各人ごとに個別に審理することになっているようである。脱退という個々人の身分に関する意思表示について、その真意を確認するために、各人が個別に文書によって申し立てるという慎重な手続をとることには十分な合理性がある。
 しかしながら、原告神戸支部がその組合員であると主張している被告の従業員から補助参加人に対し、手続に則って、個別に書面で脱退届が提出された事実はない。現に複数の従業員について、明確に補助参加人組合員であることが確認されている。
 原告神戸支部がその組合員であると主張している被告の従業員が真に補助参加人を脱退し、原告神戸支部に加入したというのであれば、補助参加人の手続に従い、各人が個別に脱退届を文書で補助参加人に提出し、補助参加人からの脱退承認を得て、そのうえで、被告に対し、原告神戸支部組合員であることを表明すべきである。
 なお、脱退届(写し)(甲1の1ないし3)によって個々人の意思が明確にされたものとは到底認められない。

(ア) 甲事件原告らの解雇問題については、被告のみならず、甲事件原告ら自身が団体交渉等による解決は不可能と認識し、団体交渉等による解決を放棄して法廷闘争を行っているのである。
 また、被告は、原告神戸支部の代表との交渉の際、解雇を撤回する意思がないことを明確に表明しており、近時は、交渉の場で同問題が議題に上がったことはない。被告と原告神戸支部は、同問題についてはすでに団体交渉を行っており、原告神戸支部も、現時点では、同問題を団体交渉事項とは考えていないのである。
 さらに、団体交渉とは、労使が会見して、組合員の労働条件に関する交渉を行うものである。交渉である以上、それぞれに交渉事項に関し処分権がなければならず、また、労働組合法は合意を強制していないのであるから、処分ができず、合意の成立が見込まれないものについても、団体交渉事項とはならないものである。
 同問題については、被告に処分権がないともいえるのであり、かつ、労働組合間の紛争が解決しない限り、合意に達し得ない事項である。したがって、同問題は、いわゆる団体交渉事項ではない。
 現時点で、同問題について団体交渉を行う実益が認められない。
(イ) 原告神戸支部が団体交渉を求めている労働条件に関しては、その要求している以上の好条件で、被告がすでに実施しているものもあり、就業規則にも明記されているものも多い。
 被告が補助参加人と協議して改善した内容は、原告神戸支部側にも連絡し、その理解を得ている。現時点で、被告とその従業員との間には、労働条件も含め、労使問題は一切生じていない。
 したがって、現時点で、原告神戸支部が求めている労働条件に関して団体交渉を行う実益は認められない。
オ 原告関西地本が求めている団体交渉事項は、原告関西地本が港湾関係各社に対して行った統一要求事項である(甲51の1、2)。これを見ても、具体的な要求はなく、港湾関係各社に対して、いわばスローガンとして抽象的な要求を挙げているにすぎない。
 上記団体交渉事項は、港湾関係各社のみを対象とし、港湾関係各社のみが誠実に対処できる事項であり、バス会社であり港湾関係の会社ではない被告が処理権限を有しない事項ばかりである。また、賃上げ要求等、被告で対処可能と考えられる事項については、被告は、原告神戸支部との度重なる交渉の中で対処してきている。
 以上によれば、原告関西地本が団体交渉を求め得る地位にあることを確認することも訴えの利益を欠く。
 (4) 団体交渉拒否の有無(乙事件)について

  (乙事件原告らの主張)
ア 被告は、原告神戸支部との団体交渉に一切応じない姿勢をとり、その姿勢は一貫して変わることなく現在に至っている。
イ 被告は、乙事件原告らが出席を要求した各統一集団交渉にいずれも出席しなかった。
ウ 被告は、全港湾組合員の存在を認めず、書面協定の作成を一貫して拒絶してきたのであって、乙事件原告らとの間で団体交渉を行ったことは一度もない。
 被告が団体交渉において解決したと主張するのは、被告と補助参加人との交渉において協議され解決された事実をさしている。
  (被告の主張)
ア 被告は、初審命令後、原告神戸支部との間で、16回にわたり、交渉を行った。その他、電話による折衝も5度行った。被告は、原告神戸支部からの申入れや交渉を拒否したことはなく、誠実に対処してきている。
イ 原告関西地本が求めている団体交渉は、原告関西地本が港湾関係各社に対して行った統一要求事項であり(甲51の1、2)、一度原告関西地本から被告宛に書面が郵送されてきただけである。原告関西地本が被告と原告神戸支部との間の交渉の席に同席したことはほとんどなく、原告関西地本が積極的に上記の団体交渉事項について団体交渉の応諾を求めてきたという事実はない。
 以上によれば、被告が原告関西地本との団体交渉を不当に拒否したということはできない。
第3 当裁判所の判断

 1 本件解雇の効力(甲事件)について
(1) ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものであるが、他方、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合(以下「締結組合」という。)の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきである。したがって、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、上記の観点からして、民法90条の規定により、これを無効と解すべきである(憲法28条参照)。そうすると、使用者が、ユニオン・ショップ協定に基づき、このような労働者に対してした解雇は、同協定に基づく解雇義務が生じていないのにされたものであるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効であるといわざるを得ない(最高裁昭和60年(オ)第386号平成元年12月14日第一小法廷判決・民集43巻12号2051項、最高裁昭和62年(オ)第515号平成元年12月21日第一小法廷判決・裁判集民事158号659項)。
(2) これを本件についてみると、本件協定の「会社は組合に加入しない者、または組合員の資格を失った者を引き続き運転士等として雇用しない。」(労働協約書第4条第3項)という規定のうち、締結組合である補助参加人以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合である補助参加人から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者である被告の解雇義務を定める部分は民法90条の規定により無効というべきところ、前記争いのない事実等によれば、甲事件原告らは、平成11年7月30日付けで締結組合である補助参加人を脱退して全港湾に加入の手続をとったというのであるから、その後になされた本件協定に基づく本件解雇は、本件協定に基づく解雇義務が生じていないのにされたものであり、他に本件解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効である。
(3)
(ア) これに対し、被告は、甲事件原告らの脱退の意思が明確でないとか、各人が個別に脱退届を提出していないとか、補助参加人が脱退を承認していないなどと主張する。
 しかしながら、労働者は組合脱退の自由を有し、労働組合に対する一方的な脱退の意思表示によって脱退の効力が生じると解されるところ、証拠(甲1の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、甲事件原告らは、補助参加人に対し、明確に脱退の意思表示をしたと認められ、甲事件原告らが個別ではなく連名で脱退届を提出したことや補助参加人が脱退を承認していないことは、脱退の効力発生を妨げるものではないと解すべきである。
(イ) 被告は、補助参加人がその組合員の雇用確保のため、特措法の制定や被告の設立に尽力し、被告設立後も離職者対策に大きな役割を果たしたことを強調し、被告は補助参加人組合員の効用確保を目的として設立された特殊な会社であり、本件協定は通常のユニオン・ショップ協定と異なる特殊な協定であるなどと主張する。
 しかしながら、前記争いのない事実等によれば、被告は、本州四国連絡橋開通による一般旅客定期航路事業者の事業の縮小に伴う対策としての新事業展開、船員等の離職者の雇用確保を目的として設立された株式会社であるというのであり、かつては甲事件原告らを含む離職者全員が補助参加人組合員であったとしても、被告がことさら補助参加人組合員のみの雇用確保を目的としているとまで認めることはできないから、これを前提として、本件協定の特殊性をいう被告の主張は理由がない。
(ウ) また、被告及び補助参加人は、補助参加人組合員のみが被告に雇用(採用)されることになっていたことから、本件協定はユニオン・ショップ協定ではなく、実質はクローズド・ショップ協定あるいは職場確保契約であるとか、甲事件原告らと被告との間の各雇用契約は解除条件付雇用契約であるなどと主張する。
 しかしながら、本件協定は、補助参加人組合員の資格を失った者を雇用しない(解雇する)と定める点において、通常のユニオン・ショップ協定と何ら異なるものではない。上記主張は、要するに、本件協定のうち、締結組合である補助参加人から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入した者等について使用者である被告の解雇義務を定めた部分も有効であるから、本件解雇は有効であるというものであり(解除条件付雇用契約の主張にいう解除条件も、本件協定と同様の内容である。)、このような解釈を採用することができないのは、前記説示のとおりである。
(エ) さらに、被告は、締結組合の団結権が労働者個人の団結権に優位すると主張し、補助参加人は、甲事件原告らの組合選択の自由や労働組合の団結権は補助参加人組合員の「生存権的団結権」によって制約されると主張する。
 しかしながら、前記説示のとおり、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、締結組合の団結権と同様、他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであって、補助参加人あるいはその組合員の団結権が労働者の組合選択の自由や他の労働組合の団結権に優越すると解すべき特段の合理的事由は、これを見出すことができない。補助参加人が被告の設立や離職者対策に尽力したからといって、締結組合からの脱退者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害することが許されるものではない。
(オ) そして、被告は、本件解雇には十分な合理性があると主張するが、つまるところ、補助参加人との信頼関係の維持、構築が重要であると主張するにすぎず、これをもって本件解雇の合理性を裏付ける特段の事由の主張とみることはできない。
 被告は、甲事件原告らが補助参加人を除名されたことは被告の従業員としての資質にきわめて強い疑問を抱かせるものであるとも主張するが、その主張には具体性がなく、本件解雇の合理性を裏付けるものとはいえない。
 本件において、他に本件解雇の合理性を裏付ける特段の事由を認めることはできない。
(4) 以上によれば、本件解雇は、解雇権の濫用として無効である。
 2 甲事件原告らの賃金額及び損害額について

 (1) 甲事件原告らの賃金額
ア 前記のとおり、本件解雇は、解雇権の濫用として無効であり、労務提供の受領拒否による甲事件原告らの労務提供の履行不能は、債権者である被告の責めに帰すべき事由に基づくものであるから、甲事件原告らは、反対給付としての賃金請求権を失わないものというべきである(民法536条2項本文)。

(ア) 前記争いのない事実等によれば、本件解雇前3か月間の平均総支給給与月額は、原告中田が32万9468円、原告日野が33万9159円、原告板谷が39万5267円であるというのであるから、それぞれ同額をもって甲事件原告らの各賃金月額とみるべきである。
 また、証拠(甲42)及び弁論の全趣旨によれば、被告における賃金の支給日は、毎月25日であると認められる。
 ところで、甲事件原告らは、本件解雇から将来にわたって上記賃金額の支払いを求めているが、被告は、現時点においては、本件解雇が有効であるとして、賃金の支払義務を争っているものの、甲事件原告らが被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する判決が確定したときは、甲事件原告らに対して賃金を支払うことが見込まれるから、甲事件原告らの訴えのうち、本件確定の日の翌日以降の賃金の支払いを求める部分は、あらかじめその請求をする必要があるとはいえず、訴えの利益を欠くものと解すべきである。
 そうすると、甲事件原告らは、被告に対し、本件解雇がなされた平成11年8月9日から本件口頭弁論終結の日である平成13年7月9日までの賃金額は、次のとおりであると認められる。すなわち、平成11年9月分から平成13年6月分までの22か月分の賃金額合計額は、原告中田が724万8296円、原告日野が746万1498円、原告板谷が869万5874円である。また、平成11年8月分(23日分)の賃金額は、上記賃金月額の31分の23であるところ、その額は、原告中田が24万4444円、原告日野が25万1634円、原告板谷が29万3262円である(1円未満切捨て、以下同じ。)さらに平成13年7月分(9日分)の賃金額は、上記各賃金月額の31分の9であるところ、その額は、原告中田が9万5652円、原告日野が9万8465円、原告板谷が11万4754円である。これらの合計額は、原告中田が758万8392円、原告日野が781万1597円、原告板谷が910万3890円である。
 なお、証拠(甲49)によれば、被告が甲事件原告らに対し、平成11年8月25日、同月1日から9日までの賃金をそれぞれ支払ったことが窺われるが、本件においては、これを裏付ける証拠がないから、この点は、賃金額の算定において考慮しないこととする。
(イ) また、前記争いのない事実等によれば、被告は、甲事件原告らを除く全運転士に対し、本件解雇後である平成11年12月3日、冬季一時金として、各人の基本給等の2.4か月分の一時金を支払い、平成12年7月5日、夏季一時金として、各人の基本給等の額の2.5か月分の一時金を支払い、同年12月5日、冬季一時金として、各人の基本給等の額の2.55か月分の一時金を支払ったというのであるところ、これらの一時金も労務提供の対価としての性質を有するから、甲事件原告らの賃金額に加算すべきである。
 そして、証拠(甲10の1ないし3)によれば、原告中田の基本給は18万3190円、勤務地手当は5496円、扶養手当は1万9000円、技能手当は6000円、首席手当は0円であったことが認められ、これらの合計額は21万3686円の2.4か月分は51万2846円、同額の2.5か月分は53万4215円、同額の2.55か月分は54万4899円であると認められる。これらの一時金合計額は159万1960円である。これに対し、原告中田は、一時金合計額が165万1980円であると主張するが、一時金合計額が上記認定を上回ることを認めるに足りる証拠はないから、上記請求金額と上記認定額との差額である6万0020円の請求は棄却を免れない。
 また、証拠(甲11の1ないし3)によれば、原告日野の基本給は18万8680円、勤務地手当は5660円、扶養手当は1万9000円、技能手当は6000円、首席手当は4000円であったことが認められ、これらの合計額22万3340円の2.4か月分は53万6016円、同額の2.5か月分は55万8350円、同額の2.55か月分は56万9517円であると認められる。これらの一時金合計額は、166万3883円である。これに対し、原告日野は、一時金合計額が176万3404円であると主張するが、一時金合計額が上記認定額を上回ることを認めるに足りる証拠はないから、上記請求額と上記認定額との差額である9万9521円の請求は棄却を免れない。
 さらに、証拠(甲12)によれば、原告板谷の基本給は20万3520円、勤務地手当は6106円、扶養手当は1万8000円、技能手当は6000円、首席手当は4000円であったことが認められ、これらの合計額23万7626円の2.4か月分は57万0302円、同額の2.5か月分は59万4065円、同額の2.55か月分は60万5946円であると認められる。これらの一時金合計額は、177万0313円である。これに対し、原告板谷は、一時金合計額が192万9959円であると主張するが、一時金合計額が上記認定額を上回ることを認めるに足りる証拠はないから、上記請求額と上記認定額との差額である15万9646円の請求は棄却を免れない。
ウ 以上によれば、原告中田は、被告に対し、本件解雇がされた日から本件口頭弁論終結の日までの賃金額合計758万8392円と一時金合計額159万1960円の合計額918万0352円及び本件口頭弁論終結の日の翌日である平成13年7月10日から本判決確定の日まで毎月25日限り月額32万9468円の割合による賃金を請求することができる。
 また、原告日野は、被告に対し、本件解雇がされた日から本件口頭弁論終結の日までの賃金額合計781万1597円と一時金合計額166万3883円の合計額947万5480円及び本件口頭弁論終結の日の翌日である平成13年7月10日から本判決確定の日まで毎月25日限り月額33万9159円の割合による賃金を請求することができる。
 さらに、原告板谷は、被告に対し、本件解雇がされた日から本件口頭弁論終結の日までの賃金額合計910万3890円と一時金合計額177万0313円の合計額1087万4203円及び本件口頭弁論終結の日の翌日である平成13年7月10日から本判決確定の日まで毎月25日限り月額39万5267円の割合による賃金を請求することができる。
 (2) 甲事件原告らの損害額

  ア 遅延損害金請求
 労働契約は双務契約であり、被告の賃金支払義務に同時履行の抗弁権が付着しているから、甲事件原告らが被告に対してその履行遅滞に基づく遅延損害金を請求するためには、甲事件原告らが債務の本旨に従った履行の提供をしたことが必要である(民法533条本文)。
 もっとも本件のように被告が労務提供の受領拒否の意思を明確に表明している場合には、甲事件原告らは、現実の提供までする必要はなく、甲事件原告らが客観的に労務を履行する意思及び能力を有していると認められれば、債務の本旨に従った履行の提供として十分であると解すべきであり、弁論の全趣旨によれば、甲事件原告らについてこれを認めることができる。
 そして、被告は株式会社であるから、「商人」にあたり、甲事件原告らの一時金請求権は商行為によって生じたといえる。
 したがって、甲事件原告らは、被告に対し、前記(1)イ(イ)の各一時金合計額に対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を請求することができる。
 なお、一時金についての上記各請求額と上記各認定額との差額に対する遅延損害金の請求は上記と同様に理由がないから、いずれも棄却を免れない。
  イ 慰謝料請求
 被告は、権利の濫用である本件解雇により、甲事件原告らの雇用を保持する利益や名誉、更には団結権や組合選択の自由を侵害したものであり、甲事件原告らは、これにより精神的苦痛を被ったと認められる。
 そして、証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば、原告中田は、被告労務担当部長吉野に対し、平成11年7月31日午前5時ころ、甲事件原告ら58名が補助参加人を脱退して、全港湾に加入した旨を電話で伝えたと認められるから、被告側は、本件解雇の際、甲事件原告らがすでに締結組合である補助参加人から脱退して、他の労働組合である全港湾に加入していたことを知っていたものであり、上記権利侵害による損害の発生について故意が認められる。
 したがって、甲事件原告らは、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償を請求することができる。
 そして、甲事件原告らの精神的苦痛を慰謝するために要する金額は、本件解雇後約2年が経過したこと、甲事件原告らは、平成12年1月31日の地位保全仮処分決定に基づく賃金の仮払いを受けるまで、賃金を得られず、生活に支障を来したと考えられること、被告において全港湾組合員として活動することを妨げられたこと、本件解雇が何ら合理的な理由もなくされたものであることなど、本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、それぞれ100万円と認めるのが相当である。
 また、甲事件原告らは、被告に対し、上記損害金に対する不法行為の日の後であり、かつ訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成12年3月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求することができる。
 他方、甲事件原告らのその余の損害賠償請求及びこれに対する遅延損害金請求は理由がないから、いずれも棄却を免れない。
 (3) 原告神戸支部の当事者能力の有無(乙事件)について
(1) 被告は、原告神戸支部は、法人登記がされておらず、民訴法29条の要件事実の立証もされていないから、当事者能力を有しないと主張する。そこで、原告神戸支部の当事者能力の有無について検討する。
(2) 民訴法29条は、法人でない社団すなわち権利能力のない社団であっても、代表者等の定めがあるものは、その名において訴える当事者能力がある旨規定しているところ、権利能力のない社団といい得るためには、団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体として主要な点が確定しているものでなければならないと解すべきである(最高裁昭和35年(オ)第1029号同39年10月15日第一小法廷判決・民集18巻8号1671項参照)。
(3) これを本件についてみると、前記争いのない事実等によれば、原告神戸支部は、原告関西地本の下部組織であり、全港湾の神戸地方を統括する支部組織であるというのであるから、原告神戸支部は、団体としての組織をそなえているということができる。
 また、全日本港湾労働組合関西地方神戸支部規約(甲59)によれば、原告神戸支部の機関として大会、支部委員会、支部執行委員会、常任執行委員会が置かれていること(同規約第1条)、議案は出席者の過半数の同意をもって決めるものとされていること(同規約第12条)、大会の構成や運営方法等について規定されていること(同規約第4章第1節)、執行委員長、副執行委員長、書記長、執行委員、会計監査員の各役員がおかれ(同規約第32条)、執行委員長が組織を統括し支部を代表するものとされていること(同規約第33条)、加入と脱退について規定されていること(同規約第7章)、原告神戸支部の財政は組合費、加入金等で賄うものとされ(同規約第47条)、その財政管理は執行委員会がその責めを負うものとされていること(同規約第50条)が認められる。
 これらの事実によれば、原告神戸支部は、多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているといことができる。
 したがって、原告神戸支部は、権利能力のない社団としての実体をそなえているものということができ、前記認定のとおり、代表者の定めもあるから、当事者能力を有するものと認められる。
 4 訴えの利益の存否(乙事件)について

 (1) 団体交渉を求め得る地位確認請求の適法性
 労働組合法第1条1項等によって示される団体交渉の性質、同法7条の規定に違反する法律行為の効力、同法第6条及び27条等の関連規定や労働委員会規則35条及び40条に規定する審問手続の当事者主義的構造、更に労働組合法と憲法28条との密接な関係を総合的に考慮すると、労働組合法7条の規定は、単に労働委員会における不当労働行為救済命令を発するための要件を定めたものであるにとどまらず、労働組合と使用者との間でも私法上の効力を有するもの、すなわち、労働組合が使用者に対して団体交渉を求め得る法律上の地位を有し、使用者はこれに応ずべき法律上の地位にあることを意味するものと解すべきであって、団体交渉をめぐる労働組合と使用者との間の関係は、上記の限りにおいて一種の私法上の法律関係であるというべきである。
 そして、本件において争われているのは、労働組合が使用者に対して一定の事項について団体交渉に応ずべきことを裁判上請求することができるような具体的団体交渉請求権の存否ではなく、乙事件原告らが団体交渉権(団体交渉の当事者適格)を有するか否かということや、本件団体交渉事項が当事者間の団体交渉の対象となるか否かということ、すなわち、乙事件原告らが被告に対して本件団体交渉事項につき団体交渉を求め得る地位を有するか否かということであり、この点が判決もって確定されれば、その限りで当事者間の紛争が解決されることになるのであるから、確認の利益が認められるものというべきである。
 確かに、上記のような点の確認をしても、それによって直ちに本件の団体交渉権(団体交渉の当事者適格)や団体交渉事項についての紛争が解決されるわけではないが、これによって乙事件原告らが上記のような団体交渉を求め得る地位にあるものであることが確定し、被告がこれに反するような主張をすることは許されなくなるのであるから、なお紛争解決の実効性があるというに妨げない。
 したがって、乙事件原告らから被告に対し本件団体交渉事項につき団体交渉を求め得る地位にあることの確認を求める本件訴えは適法であり、単に団体交渉を求め得る地位を有することを確認しても、何ら紛争の直接的かつ効果的な解決にはならず、訴えの利益がないとする被告の主張は採用することができない(最高裁昭和62年(オ)第569号平成3年4月23日第三小法廷判決・裁判集民事162号547項、東京高裁昭和61年(ネ)第682号、第2041号同62年1月17日判決・労民集38巻1号1項参照)。
 また、被告は、そもそも本件紛争は、労使の紛争ではなく、ユニオン・ショップ協定に関する労働組合間の紛争であり、被告には処分権がないから、団体交渉を求め得る地位確認判決を発したところで、問題の解決にはならないと主張するが、本件の団体交渉権(団体交渉の当事者適格)や団体交渉事項についての紛争は、まさに乙事件原告らと被告との間の問題であるというべきであるから、被告の上記主張は採用することができない。
 (2) 原告神戸支部の団体交渉権(団体交渉の当事者適格)の有無について
ア 被告は、被告の従業員中に原告神戸支部組合員はいないと主張する。これは、原告神戸支部には団体交渉権(団体交渉の当事者適格)がない旨の主張と理解することができる。そこで、この点について検討する。
イ まず、前記のとおり、本件解雇は無効であり、かつ、甲事件原告らは全港湾に加入し、原告神戸支部に所属したから、甲事件原告らは、被告の従業員であり、かつ、全港湾の下部組織である原告神戸支部組合員である。
 また、前記争いのない事実等によれば、甲事件原告らを含む被告の運転士及び整備管理者58名全員は、平成11年7月30日付けで補助参加人に脱会届を提出し、同日付けで全港湾に加入の手続をとったといのであり、甲事件原告らの補助参加人からの脱退が有効であるのと同様、それ以外の被告の従業員らの補助参加人からの脱退も有効であると解される。
 そして、証拠(甲43、92)及び弁論の全趣旨によれば、その後、同年8月中旬ころまでの間に、補助参加人から脱退した上記58名のうち、14名が補助参加人に復帰したものの、依然として残り44名が原告神戸支部組合員であると認められる。
 そうすると、被告の従業員の中に原告神戸支部組合員がいると認められるから、原告神戸支部は、被告に対し、団体交渉権(団体交渉の当事者適格)を有していると認められる。
ウ なお、被告は、補助参加人から被告の従業員中に原告神戸支部組合員がいる旨の通知がない旨主張するが、その通知の有無によって補助参加人からの脱退や全港湾への加入の効力が左右されるものではない。
 (3) 原告関西地本の団体交渉権(団体交渉の当事者適格)の有無について
ア 被告は、原告神戸支部に当事者能力が認められる場合には、原告関西地本には重複して当事者能力が認められない旨主張する。これは、原告関西地本には団体交渉権(団体交渉の当事者適格)がない旨の主張と理解することができる。そこで、この点について検討する。
イ 前記争いのない事実等によれば、原告関西地本は、全港湾の関西地方における下部組織であるというのであるところ、法人登記がされ(弁論の全趣旨)、独自の規約を有している(甲58)ことからすると、原告関西地本は独立の労働組合であると認められる。
 そして、前記争いのない事実等よれば、原告神戸支部は原告関西地本の下部組織であるというのであり、また、前記認定のとおり、被告の従業員の中に原告神戸支部組合員がいるのであるから、原告関西地本は、被告に対し、固有の団体交渉権(団体交渉の当事者適格)を有していると認められる。
ウ さらに、証拠(甲92)及び弁論の全趣旨によれば、全港湾は、その団体交渉権を各地方組織に順次委譲しており、賃金・統一労働条件及び各地方レベルの問題については各地方本部において交渉し、夏季・冬季一時金、各企業単位の問題及び各地域の問題については各支部において交渉することとされていると認められる。
 すなわち、原告関西地本は賃金・統一労働条件及び各地方レベルの問題について、原告神戸支部は夏季・冬季一時金、各企業単位の問題及び各地域の問題について、それぞれ団体交渉権を有していると認められる。そして、本件団体交渉事項は、それぞれこのような権限の分配に応じた内容となっていると認められる。
 そうすると、乙事件原告らがそれぞれ団体交渉を求めている事項は重複するものではない。仮に乙事件原告らが同一事項について二重交渉を求めてきた場合には、被告はそれを拒否することができると解すれば足りることであって、二重交渉のおそれがあることが原告関西地本の団体交渉権(団体交渉の当事者適格)を否定する理由になるものではない。
 したがって、被告の上記主張は理由がない。
 (4) 本件団体交渉事項が当事者間の団体交渉の対象となるか否かについて
ア 憲法28条は勤労者の団体交渉をする権利を保障し、これを受けて、労働組合法7条2号は使用者の正当な理由のない団体交渉拒否を不当労働行為として禁止しているところ、団体交渉とは、労働者の団体が使用者又はその団体との間で対等の立場に立って労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する労働協約を締結するために交渉することいい(労働組合法1条1項等参照)、憲法及び労働組合法の規定による団体交渉権の保障も、このような団体交渉を対象とするものと解される。
 このような団体交渉権保障の趣旨に照らすと、使用者が団体交渉をすることを労働組合法によって義務づけられている事項(義務的団体交渉事項)とは、団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものをいうものと解される。
イ これを本件についてみると、本件団体交渉事項は、いずれも労働者の労働条件その他の待遇に関する事項であって、被告に処分可能なものと認められるから、義務的団体交渉事項にあたると解すべきである。なお、本件団体交渉事項の中には、被告の経営に関するものと思われるものもあるが、労働者の労働条件その他の待遇と全く無関係であるとまではいえないから、労働者の労働条件その他の待遇に関する限りで義務的団体交渉事項にあたるというべきである。

(ア) これに対し、被告は、甲事件原告らの解雇問題は、労働組合間の紛争が解決しない限り、合意に達し得ない事項であり、被告には処分権がないと主張する。
 しかしながら、本件解雇は、被告が補助参加人から本件協定に基づく解雇を要請されたとはいえ、本件協定の該当部分は前記のとおり無効なものであるから、それに拘束されるいわれはないのに、被告自らの判断で行ったことであり、本件解雇の撤回と甲事件原告らの原職復帰も被告の従業員に関する問題であって、被告自らの判断で行うべきことであるから、これらは被告に処分可能な事項であるというべきである。
 したがって、被告の上記主張は理由がない。
(イ) また、被告は、原告関西地本が求めている団体交渉事項は、いわばスローガンとして抽象的な要求を挙げているにすぎないとか、上記の団体交渉事項は、原告関西地本が港湾関係各社に対して行った統一要求事項と同一であるから、港湾関係各社のみを対象とし、港湾関係各社のみが誠実に対処できる事項であり、バス会社であり港湾関係の会社ではない被告が処理権限を有しない事項ばかりであると主張する。
 しかしながら、そもそも団体交渉事項はその性質上ある程度抽象的な内容とならざるを得ないから、そのことをもって直ちに義務的団体交渉事項にあたらないということはできない。
 また、原告関西地本が求めている団体交渉事項は、前記認定のとおり、いずれも労働者の労働条件その他の待遇に関する事項であるところ、その内容は普遍的であって、港湾産業に特有のものとはいえないから、これらは被告に処分可能な事項というべきである。
 もっとも、別紙団体交渉事項目録(関西地本)第4項記載の「港湾産別協定の完全実施について」という団体交渉事項は、港湾関係の会社のみを対象としているようにも見えるが、港湾産別協定の内容自体は普遍的なものであると推認できるし、被告がこれを締結することは妨げられないから、なお被告に処分可能な事項であるというべきである。
 したがって、被告の上記主張は理由がない。
(ウ) なお、証拠(乙1、証人IU)によれば、本件団体交渉事項の一部はすでに実施されていることが窺われるが、使用者は、労働協約を締結しない限り、団体交渉をすべき義務を免れないと解されるところ、証拠(証人池内則行、証人IU)によれば、被告は乙事件原告らとの間で労働協約を締結していないことは明らかであるから、被告は、本件団体交渉事項について、団体交渉をすべき義務を免れないものというべきである。
 (5) 結論
 そして、本件において、乙事件原告らが団体交渉権(団体交渉の当事者適格)を有することや本件団体交渉事項が義務的団体交渉事項にあたることが認められるにもかかわらず、被告がこれらを争っていることは、後記認定のとおり、被告が原告神戸支部による団体交渉の申入れを拒否したこと及び被告の本件における主張自体から明らかであるから、乙事件原告らか被告に対し本件団体交渉事項につき団体交渉を求め得る地位にあることの確認を求める本件訴えについて、確認の利益があると認められる。
 5 被告の団体交渉拒否の有無(乙事件)について
(1) 前記争いのない事実等及び前記認定事実に加え、証拠(甲62、66、68、70、71、72の1、2、甲74、75、78、86、ないし88、乙1、8、証人池内則行、証人IU)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
ア 原告神戸支部は、初審命令が発せられる前、少なくとも、平成11年8月10日、同月24日、同年10月12日、同月14日、同月15日、平成12年1月19日の6回にわたり、被告に対して団体交渉を申し入れたが、被告側は、被告は補助参加人と労使関係を持っており、補助参加人が組合員の脱退を認めていないので、全港湾を認めるわけにはいかず、原告神戸支部とは労使関係を持てないとの理由で団体交渉の申入れを拒否した。
イ 原告神戸支部は、初審命令が発せられた後である平成12年6月26日、被告に対して団体交渉を申し入れたところ、同月30日、被告の常務であるIU(以下「IU」という。)は、原告神戸支部側に対し、「海員組合の方針はあくまで争うという立場であり、このもとで会社は主体的な判断ができない状態にあり、会社には問題を解決する当事者能力がない」と述べた。
ウ 被告側は、同年7月13日の原告神戸支部との折衝において、「『全港湾を交渉相手として認め、今後誠実に交渉する。』という点について、会社として合意できるかについて社内で再検討して決定し、翌日午前中に回答する。」と述べたが、同月14日、IUは、原告神戸支部側に対し、「社内で検討の結果、中労委に再審査を申し立てて争うとしている事情もあって、団体交渉をやるとしても狭義のものとならざるを得ないということになりました。つまり昨年7月30日以前の状態、すなわち全港湾がいない状態に戻すための条件についての交渉であれば、IUの判断で受けることができる。海員組合の方針のもとで、これが限界です。」と電話で述べた。
エ 被告側は、原告神戸支部側に対し、平成12年7月18日の折衝において、「全員昨年7月30日以前の状態に戻す。」、「全港湾を交渉相手として、『折衝』を行う。(解決のためにのみ)」などと記載された交渉メモ(案)(甲66)を提出した。
オ 原告神戸支部は、被告及び補助参加人に対し、同月31日、団体交渉を申し入れたが、同年8月8日、被告側は、原告神戸支部に対し、「当社は、労働委員会の命令が出された以降、誠実に団体交渉には応じているとの認識であり、今回の改めての申し入れには、戸惑いを感じております。」などと記載された「団体交渉開催の申し入れ(回答)」と題する書面(甲70)を郵送したので、原告神戸支部は、IUに対し、事実経過の歪曲であるとして抗議した。
カ IUは、同月10日の原告神戸支部との折衝において、「初審命令を履行する。」と表明し、原告神戸支部に対し、「交渉事項について」と題する書面(甲71)を送付した。これをもとにして、同月24日、原告神戸支部と被告は、交渉事項整理を目的とする折衝を行い、同年9月1日に団体交渉をすることについて合意し、併せて事前に被告の回答を提示する旨の合意が成立した。
キ ところが、IUは、原告神戸支部に対し、同年8月29日、「全港湾とは労使関係にないので、協定を拒否いたします。」などと記載された回答メモ(甲72の1)を送付したので、原告神戸支部書記長である池内則行(以下「池内」という。)は、IUに対し、電話で抗議し、再回答を求めるとともに、同年9月1日開催予定の団体交渉の延期を通告した。
 IUは、原告神戸支部に対し、同月4日付け再回答メモ(甲72の2)を交付したが、その内容は回答メモ(甲72の1)とほぼ同一であった。
ク 原告神戸支部は、被告に対し、「中央労働委員会「履行勧告」受け入れおよび団体交渉開催の申し入れ」と題する書面(甲74)を提出したところ、IUは、同書面を受け取り、「中労委で違う結論が出るまでという限定付だが、全港湾との団体交渉に応じる」と回答したので、原告神戸支部と被告は、折衝を行い、同年10月6日に団体交渉をすることについて合意した。
ケ IUは、原告神戸支部側に対し、同年10月6日、「これまでの『全港湾はいない。』とする会社姿勢を転換して、「全港湾らしき者がいる。」との立場に立つ。初審命令はあくまで仮のものであるが、中労委の履行勧告もあるので団交には応じる。しかし、株主である海員組合の意向は明確で、全港湾との間で労使協定(労使関係)を結ぶことについては一切まかりならんということであり、全港湾との間で書面などは作れない。」と述べたので、原告神戸支部側は、被告に対し、再考を求めたところ、IUは、「『中労委で違う結論がでればこの限りでない。』という条件付で、全港湾と書面協定を結ぶ形が取れるかどうか、これから筆頭株主らと協議するので時間がほしい。」と答えた。
コ IUは、池内に対し、同年10月12日、神戸地方裁判所において、「株主らとの協議の結果、やはり全港湾と協定はできないとの結論です。」と述べたので、同月13日、原告神戸支部は、地労委に対し、被告及び補助参加人を被申立人として、団体交渉拒否について不当労働行為の救済を申し立てた。
サ 原告神戸支部は、被告に対し、平成13年1月26日、団体交渉を申し入れ、両者は折衝を行ったが、被告の対応は変わらなかった。
シ 原告神戸支部と被告は、労働協約を締結していない。
(2) これらの事実によれば、原告神戸支部は、被告に対し、初審命令の前に少なくとも6回、初審命令の後に少なくとも4回、団体交渉を申し入れ、そのうち2回については、双方が団体交渉をすることについて合意したものの、結局、被告は、全港湾とは労使関係がなく、全港湾と労使協定を締結することができないという理由により、原告神戸支部による団体交渉の申入れを一貫して拒否し続けたと認められる。
 また、上記の理由は、前記説示のとおり、原告神戸支部が団体交渉権(団体交渉の当事者適格)を有することからすると、正当なものとはいえない。
 したがって、被告は、原告神戸支部と団体交渉をすることを正当な理由がなく拒んだものと認められる(労働組合法7条2号参照)。
 そして、不当労働行為を禁止する労働組合法7条の規定は、憲法28条に由来し、労働者の団結権等を保障するための規定であるから、上記法条の趣旨に照らし、これに違反する行為は、労働者の団結権を侵害するものとして違法であり、故意又は過失が認められる限り、不法行為が成立すると解すべきである。
 前記認定のとおり、被告側は、本件解雇の際、甲事件原告らがすでに締結組合である補助参加人から脱退して、他の労働組合である全港湾に加入していたことを知っていた。また、前記争いのない事実等によれば、原告神戸支部による団体交渉開催申入れに関する文書(甲19の1、3)が平成11年8月10日に被告に到達したというのであり、これらと同時に到達した通知書(甲19の2)に甲事件原告らが原告神戸支部本四海峡バス分会を結成した旨が記載されていることを併せ考えれば、被告側は、この時点で、被告の従業員中に原告神戸支部組合員がいること、すなわち、原告神戸支部が団体交渉権(団体交渉の当事者適格)を有することを知っていたといえるから、その後に行われた前記認定の正当な理由のない団体交渉拒否による損害の発生について故意が認められる。補助参加人から被告に対して被告の従業員中に原告神戸支部組合員がいる旨の通知がなかったことは、被告側の上記故意の存在を左右するものではない。
(3)
ア なお、「関西空港便の関西空港における食事に関する要望」と題する書面(甲77)は、被告に対する要望にすぎず、これをもって原告神戸支部が被告に対して団体交渉の申入れをしたものとみることはできない。
イ また、乙事件原告らは、被告は乙事件原告らが出席を要求した各統一集団交渉にいずれも出席しなかったと主張する。
 しかしながら、使用者に統一集団交渉を義務づけるためには、使用者が統一集団交渉の当事者となるべき使用者団体に交渉を委任したり、他の使用者と連携・協力したりするなど、使用者に統一集団交渉をすることができる体制が整っていたことを要すると解されるところ、本件において、被告にそのような体制が整っていたことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告に統一集団交渉を義務づけることはできないから、被告が上記各統一集団交渉にいずれも出席しなかったことは、不法行為を構成するものではない。
ウ さらに、原告関西地本は、原告神戸支部と被告との折衝に同席したことはあるが(乙1、証人池内)、被告に対し、原告神戸支部とは別個独立に団体交渉を申し入れたと認めるに足りる証拠はないから、被告が原告関西地本による団体交渉の申入れを拒否したということはできない。
 したがって、被告が原告関西地本と団体交渉をしなかったことは、不法行為を構成するものではない。
(4)
(ア) 他方、被告は、原告神戸支部からの申入れや交渉を拒否したことはなく、誠実に団体交渉を行ったと主張し、これに沿う証拠(乙1、8、証人ID)がある。
 しかしながら、証人IDは、会って話をすること自体が団体交渉であると理解しているとか、労働条件だけを決めるのが団体交渉とは思っていない旨証言していることからすると、要するに前記認定の折衝等を団体交渉と呼んでいるにすぎない。前記認定のとおり、被告は、原告神戸支部との折衝により、団体交渉をすることについて合意したものの、結局、全港湾との労使関係がなく、全港湾と労使協定を締結することができないという理由により、原告神戸支部による団体交渉の申入れを拒否したものであり、証人IDも、全港湾と労使関係がないから協定書ができない旨証言し、原告神戸支部と労働条件等の事項に関して団体交渉をしたことを具体的に証言していないことからすると、被告が前記4(4)アにいう意味での団体交渉をしなかったことは明らかである。
 そうすると、証人IDの証言及びこれと符合すると証拠(乙1、8)によっても、被告が原告神戸支部と団体交渉をしたと認めることはできず、他に被告が原告神戸支部との団体交渉を拒否したとの前記認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
 したがって、被告の上記主張は理由がない。
(イ) また、陳述書(乙1)には、全港湾の要求事項について「解決済」と記載されているものがあるが、証人IDの証言よれば、これは、原告神戸支部との団体交渉により解決したという趣旨ではなく、被告が補助参加人との間で合意した内容を原告神戸支部に説明して理解を得たという趣旨である。前記説示のとおり、使用者は、労働協約を締結しない限り、団体交渉をすべき義務を免れないから、被告が補助参加人との間で合意し、すでに実施した事項であっても、前記認定のとおり、被告が原告神戸支部との間で労働協約を締結していない本件のもとでは、被告は、なお原告神戸支部と団体交渉をすべき義務を免れず、団体交渉をすることを正当な理由がなく拒んだことは違法であるというべきである。
 6 原告神戸支部の損害について
 法人又は法人でない社団は、その権利が侵害されたことにより、無形の損害が生じた場合には、民法709条、710条により、その損害の賠償を請求することができると解される。
 前記認定のとおり、被告は、原告神戸支部による少なくとも10回に及ぶ団体交渉の申入れを拒否し続けたものであり、これによって、原告神戸支部は、その団体交渉権が侵害されたことによる無形の損害を被ったものと認められる。
 そして、前記認定のとおり、被告の上記団体交渉拒否が1年5か月以上もの長期間に及んだこと、その間に初審命令や履行勧告が出されたにもかかわらず、被告がこれらを結局無視したこと、2回にわたり、原告神戸支部との間で団体交渉をすることについて合意しながら、全港湾とは労使関係がないという自己の主張に固執して、上記合意を一方的に覆すなど、不誠実な態度に終始したこと、原告神戸支部による団体交渉申入れの回数や原告神戸支部が再度不当労働行為の救済を申し立てたことなど、本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、上記無形の損害額は100万円であると認めるのが相当である。
 また、原告神戸支部は、被告に対し、上記損害金に対する不法行為の日の後であり、かつ訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成12年5月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求することができる。
 他方、原告神戸支部のその余の損害賠償請求及びこれに対する遅延損害金請求は理由がないから、いずれも棄却を免れない。
 7 結論
 以上によれば、本件解雇は無効であるから、甲事件原告らは労働契約上の権利を有する地位にあると認められ、賃金請求及び損害賠償請求並びにこれらに対する遅延損害金請求は上記の限度で理由があるが、甲事件原告らの訴えのうち、本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払を求める部分は不適法である。
 また、乙事件原告らは、被告に対し、本件団体交渉事項につき団体交渉を求め得る地位にあると認められ、原告神戸支部の損害賠償請求及びこれに対する遅延損害金請求は上記の限度で理由があるが、原告関西地本の損害賠償請求及びこれに対する遅延損害金請求はいずれも理由がない。
第4 結語
 よって、甲事件原告らの本訴請求は主文第1ないし第4項掲記の限度で理由があるからこれらを認容することとし、甲事件原告らの訴えのうち、本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払を求める部分は不適法であるこれらを却下することとし、甲事件原告らのその余の請求は理由がないからこれらを棄却することとし、乙事件原告らの本訴請求は主文第7ないし第9項掲記の限度で理由があるからこれらを認容することとし、乙事件原告らのその余の請求は理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法61条、64条本文、66条を、仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
  神戸地方裁判所第6民事部

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