ひこばえ俳句会 主宰:切立 昇


   主宰、副主宰、同人の俳句   

  ひこばえ5月号(令和七年)


 春 の 宵     小河 洋二
手品めく僧の真言春の月
鬼と邪の薄ら笑ひや春の闇
邪気も又春の宵なら浮かれ酔ひ
魂を攫われてもよし春の宵
盗人の心を真似る春なれば
春月や鴟尾の光沢鈍きまま
魂を盗まれてゐる春の夢

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
銅像の馬に蒲公英咲きにけり
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
水鏡いちまいひそめ草茂る

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  ひこばえ4月号(令和七年)


 梅 二 輪     小河 洋二
三川の流れ溶け合ふ二月かな
墓石より母の声聞く春立つ日
研師来て村に音立つ二月かな
寒明けの水吹き上がる伏見蔵
一徹の空の硬さや梅二輪
梅二輪示す京都の勅使門
燭の災の揺れ無き夜の温め酒

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
をとこ来て蒲公英のいろ濃くしたり
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
春昼の飛び石みだす何もなし

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  ひこばえ3月号(令和七年)


  猪  垣     小河 洋二
神杉へ差す日新たに稲野神
猪垣の囲む背戸より人の声
寒村へ木橋一本冬の川
燃ゆるとは一寒村の冬紅葉
冬薔薇の門扉に鉄の臭ひ無し
猪垣の中に地蔵の大祠
猪垣の連なる村を通りけり

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
老杉や弥陀の国より寒茜
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
折鶴の声なき疲れ雪降れり

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  ひこばえ2月号(令和七年)


  山 眠 る    小河 洋二
茎漬へ業師のやうに塩を振り
大根引く神山揺する音一つ
神官の腰を伸ばせし落葉掃き
やまびこの返る速さや山眠る
神殿の奥の冥さや冬木の芽
茎漬へ坐りよき石選びをり
灯台の白の目覚めや石蕗の花

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
除夜の鐘ひとつは遠く鳴りにけり
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
篁は風を離さず年ゆけり

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  ひこばえ1月号(令和七年)


 晩  秋      小河 洋二
秋風や源氏平氏の戦跡
扁額に阿吽の鳩や秋寂しき
高札の文字くろぐろと秋時雨
鹿の声遠きに聞こゆ奈良の宵
晩秋の寺鐘の一打池に消ゆ
露草に露の重さのありにけり
参道は幾重に折れて葛の花

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
松ケ枝をわたるしぐれや波明り
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
詠みのこす「女の一生」葱きざむ

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  ひこばえ12月号(令和六年)


 秋 彼 岸     小河 洋二
竹の春門扉開きし閻魔堂
金色の幹の曼陀羅竹の春
零余子飯野古道の一里半
放生会濡れ癖残る太鼓橋
鐘の音の峰に響きて秋彼岸
波を追ふ波あらあらと九月尽
秋彼岸形見に残る妻の声

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
晩稲田に日がずしずしと沈むなり
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
日と風に芒があそぶ明日香村

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  ひこばえ11月号(令和六年)


 新 走 り     小河 洋二
新走り酌んで女人の新語かな
手に結ぶ水の重さや帰燕どき
鋏音を立てて始まる松手入
波音を踏んで熊野の稲架を組む
松手入れ進む一寺の広さかな
猪垣の尽きぬ一村通りけり
雨欲しき夕べに西瓜切りにけり

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
折りとりて茎のつめたき曼珠沙華
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
草の露の瑠璃ため眠る沼

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  ひこばえ10月号(令和六年)


 松 花 堂     小河 洋二
朝蟬の声の中なる松花堂
空蟬の吹かれて哀し遊女塚
夏菊や少し傾ぎぬ遊女塚
竹幹の金色を射る夏日かな
河骨の黄の点々と神の池
月見草昼も哀しき遊女塚
草茂る昼の悲哀を遊女塚

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
蟬を吹く風音をたてにけり
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
遠かもめ日傘が孕む風無尽

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  ひこばえ9月号(令和六年)


 夕 牡 丹     小河 洋二
田水張る村の底まで水の青
時の日や振子時計の鳴る昼餉
手に触れば命の音や夕牡丹
田水張り水曼陀羅の近江郷
山深き天領地なり田水張る
橋桁へ水曼陀羅の五月尽
落し文遊女の塚の悲文かな

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
地震ふりて梅雨ふかき夜の掛鏡
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
天炎えて孤に徹しゐる大鳥居

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  ひこばえ8月号(令和六年)


 須磨の浦      小河 洋二
青蛙鳴けば快楽と聞くばかり
父の忌の波音荒し五月尽
みづうみの満る刻あり行々子
水口に野の物供へ田水張る
閻王の崩さぬ膝や紅牡丹
波音の八十八夜の須磨の浦
伊吹嶺の曇り癖なる麦の秋

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
髪は夜の黒さをもちてほととぎす
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
樹々よりの匂ひが支ふ五月闇

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  ひこばえ7月号(令和六年)


 時  鳥      小河 洋二
宇治川の流れ清しき五月かな
茅花風吹けば神嶺青曼陀羅
雨意の風吹き来る嶺や時鳥
時鳥早や鳴き継ぐや神の山
麦秋の湖北に波のさはさはと
水音に尖りの見ゆる五月かな
初夏の潮目あらあら濃く青し

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
茅花手につばな流しの中にあり
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
踊る火の真只中にゐて他郷

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  ひこばえ6月号(令和六年)


  蝶の昼      小河 洋二
堂柱に弥陀の彫絵や蝶の昼
杓の柄の竹新しき梅二月
水温む心の紐の解け具合
蕗味噌や熊野の雨の降りやまず
ものの芽や目立てやすりの銀びかり
火入れ待つ窯の大口鳥帰る
帯留の翡翠ひすいの斜光梅開く

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
后陵出てかつらぎへ日傘さす
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
薫風を真つすぐに来る多感な眸

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  ひこばえ5月号(令和六年)


 冬かもめ      小河 洋二
日の色を波に流して冬かもめ
帆柱に日のうすうすと冬かもめ
夕ざるる敦盛塚や浜千鳥
松籟の敦盛塚や千鳥鳴く
相思とは鴛鴦の契のあらばこそ
白梅や一弦琴の音哀し
貫入の陶の曼陀羅梅白し

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
海峡の大いなる暾に四月来ぬ
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
梅寒し方丈に脱ぐ女靴

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  ひこばえ4月号(令和六年)


 かいつぶり     小河 洋二
映像は戦ばかりや枯尾花
寂しさは橋に宿りぬ寒の川
寒晴れや波さびさびと魚見台
蓮枯れて山門少し高く見ゆ
赤蕪を干して湖北の風貰ふ
離れては孤をたのしまむかいつぶり
浮くたびに日暮れの迫るかいつぶり

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
啓蟄のその夜の月の繊かりき
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
啓蟄の玉砂利あらく踏みにけり

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  ひこばえ3月号(令和六年)


 冬かもめ      小河 洋二
日の色を波に流して冬かもめ
帆柱に日のうすうすと冬かもめ
夕ざるる敦盛塚や浜千鳥
松籟の敦盛塚や千鳥鳴く
相思とは鴛鴦の契のあらばこそ
白梅や一弦琴の音哀し
貫入の陶の曼陀羅梅白し

 句 集 「余  光」 南部 憲吉
石蹴つて谷の音きく二月かな
 句 集 「薔  薇」 横山美代子
辞書閉ぢて寒夜の雨の音とほす

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  ひこばえ2月号(令和六年)


  浮寝鳥       小河 洋二
神水へ日の薄々と蓮枯るる
石蕗の咲く灯台守の低館
風荒れの嶺美しき十二月
鳰潜る水の面を狂はしつ
一身を水に委ねて浮寝鳥
神官の髭剃り跡や鷹の声
浮寝鳥浮遊の夢を抱きつつ

  句 集 「余  光」  南部 憲吉
水仙に時計短く鳴りにけり
  句 集 「薔  薇」  横山美代子
咳きの谺となりて枯山中

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  ひこばえ1月号(令和六年)


  小鳥来る       小河 洋二
人の世の寂しさ誘ふ鉦叩
丸薬を干す軒深し柿実る
里の子の遊び上手や相撲草
小鳥来て手紙の余白埋めにけり
大洞の奥の碑文や昼ちちろ
小鳥来る一途な声を籠堂
鮎落ちて川音瘦せる頃なりし

  句 集 「余  光」  南部 憲吉
晩節のかくしづかなる霜日机
  句 集 「薔  薇」  横山美代子
石蕗咲くや分校に果つ浦の道

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  ひこばえ12月号


  今日の月       小河 洋二
竹幹の三百本へ今日の月
竹林の葉擦れも失せし今日の月
八幡の神嶺確とけふの月
十五夜の月置く嶺や神のこゑ
水音の寂しきものや月今宵
大松の幹くろぐろと今日の月
雁渡る空さびさびとあるばかり

  句 集 「余  光」  南部 憲吉
新涼の一杓を伏せ杉あふぐ
  句 集 「薔  薇」  横山美代子
鳥翔ちて秋思を深む塚一基

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  ひこばえ11月号


  盆の月        小河 洋二
真つ先に妻の声聴く門火かな
父母も星妻も星とや墓洗ふ
浦風の筋まで見ゆる盆の月
蚊を打ちつ辿る御寺の奥の院
逝く夏の蔵にあふるる水の音
大に字に寢ても一人や盆の月
かなかなや湿りほどよき熊野道

  句 集 「余  光」  南部 憲吉
さんさんと驟雨をあびて祭獅子
  句 集 「薔  薇」  横山美代子
昼の月蓮の実とべる静かさに

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  ひこばえ10月号


  糸蜻蛉        小河 洋二
蟬時雨止みし刹那の雨の音
糸蜻蛉神の遣ひの水叩き
雲の峰崩れて神領雨となる
鋏研ぐ手元の冥さ百日紅
大灯蛾に熊野の闇の匂ひかな
灯蛾掃きて僧衣の襟を正しけり
ゆく夏の蔵にあふるる水の音

  句 集 「余  光」  南部 憲吉
倒れつつたふれつつ滝殺到す
  句 集 「薔  薇」  横山美代子
吊橋を渡り切つたる白日傘

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  ひこばえ9月号


  梅雨半ば        小河 洋二
濡れつつも香りを放つ紫蘇畑
水門の口大開き梅雨半ば
どくだみの白の十字や杜の闇
潮騒は近きがよかれ瓜の花
詩心は脳幹にあり青葉木菟
黒南風や二重に曇る島一つ
いさぎよき熊野も奥の男梅雨  

  句 集 「余  光」  南部 憲吉
鮎焼きし燠ぞ山川とどろける
  句 集 「薔  薇」  横山美代子
夕日浴び白地はなやぐ中年期

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  ひこばえ8月号


  水 鶏 笛        小河 洋二
蟇の出て根来も寺の矢玉痕
河鹿笛聴くや根来の闇の底
夏風邪へ竹の葉擦の心地よし
葭切の声夕風を流し来る
水鶏鳴く湖北も西の船着場
夕風に乗り来るものに水鶏笛
蛇の衣にまだ濡れ色のありにけり

  句 集 「余  光」   南部 憲吉
まつ青に七月がくる茗荷畑
  句 集 「薔  薇」  横山美代子
羅や威儀くづさざる能楽師

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  ひこばえ7月号


  ほととぎす        小河 洋二
夏草や三川既に濁り初む
敗走の明智が峰や竹の秋
芯までも青葉若葉の光かな
時鳥鳴き継ぐ嶺の戦神
ほととぎす鳴けば曇天なほ重し
万緑や神嶺重き翳まとひ
うす衣や川の湿りを浴びるまで

  句 集 「余  光」   南部 憲吉
晩稲田に日がづしづしと沈むなり
  合同句集 「五百重山」  横山美代子
吊橋を渡り切つたる白日傘

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  ひこばえ6月号


  新 樹 光       小河 洋二
芹摘めば揺るる水面の柔らかし
赤よりも白美しき雨の薔薇
行間の白の清しき新樹光
寂しさは植田の中の無音かな
すかんぽや諭す言葉の折れやすき
茎立や雀の遊ぶ寺の屋根
神嶺の風を賜はる更衣

  句 集 「ひょんの笛」 南部 憲吉
六月や藻を梳る飛鳥川
  句 集 「薔 薇」   横山美代子
検診車来る郭公の森抜けて

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  ひこばえ5月号


  春 の 月       小河 洋二
春の月記憶の中に母が居て
言葉よりなほ美しき春の月
手の内を晒してもよし春の月
滾る湯を静めて若布干しにけり
短命な母を偲びつ蓬摘む
木瓜咲いて須磨の薬師の市ひらく
堤防は日をまんべんに鹿尾菜干す

  句 集 「ひょんの笛」 南部 憲吉
髪は夜の黒さをもちてほととぎす
  句 集 「薔 薇」   横山美代子
水櫛に梳き麦秋の婆ひかる

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