平成17年6月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成15年(行ウ)第610号 不当労働行為救済命令取消請求事件
口頭弁論の終結の日 平成17年3月24日

                         判           決

      原告                        本四海峡バス株式会社
                                    同代表者代表取締役      川真田 常男 

      被告                        中央労働委員会
                                    同代表者会長          山口 浩一郎

      被告補助参加人                 全日本港湾労働組合関西地方神戸支部
                                    同代表者支部執行委員長   馬越 輝光
                         主           文

  1. 原告の請求のうち、中労委平成13年(不再)第44号事件及び同59号事件・平成15年9月17日付け命令主文U項中、兵庫県地労委平成12年(不)第6号事件・平成13年11月20日付け命令の主文1項、2項に係る再審査申立てを棄却した部分の取消しを求める請求について、訴えを却下する。
  2. 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
  3. 訴訟費用は原告の負担とする。
                         事 実 及 び 理 由
第1 請求
 被告が中労委平成13年(不再)第44号事件及び同第59号事件について、平成15年9月17日付けでした命令を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、原告の被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)組合員に対する出勤停止処分及び転勤命令、補助参加人組合員に関する発言や個別面談等、補助参加人に対する組合事務所の不貸与及び団体交渉申入れへの対応はいずれも不当労働行為であるとして発出された救済命令について、原告が被告に対し、各行為は不当労働行為に当たらない等として、その取消しを求めた事案である。
 なお、原告が取消しを求めている中労委平成13年(不再)第44号事件及び同第59号事件(以下併せて「本件再審査申立事件」という。)の命令(以下「本件救済命令」という。別紙1のとおり)の初審は、兵庫県地労委平成12年(不)第15号事件(以下「15号事件」という。)及び同第6号事件(以下「6号事件」という。その命令主文は別紙2のとおり)である。
 1. 前提事実(証拠などを摘示した点を除き争いがない。)
  
  (1)当事者等
ア 原告は、一般乗合旅客自動車運送事業等を目的とする株式会社であり、肩書地に本社を置くとともに、大磯、洲本(いずれも淡路島にある。)及び徳島に営業所を有している。
 原告は、明石海峡大橋の供用開始に伴い事業規模の縮小等を余儀なくされる一般旅客定期航路事業者の共同出資により、新規事業の開拓及び船員離職者の雇用確保を目的として平成7年4月14日に設立され、その営業開始時(平成10年4月)の従業員数は83名(本件再審査申立事件の初審である6号事件審問終結時(平成13年)の従業員数は104名であった。)で、その運転士及び整備士(以下「運転士等」という。)の大部分は、上記定期行路事業者に勤務していた船員等から採用されたものである。(弁論の全趣旨)  
イ 補助参加人は、港湾産業及びこれに関連する事業の労働者で組織する労働組合であり、全日本港湾労働組合(以下「全港湾」という。)の下部団体である。なお、6号事件審問終結時の組合員数は321名である。(弁論の全趣旨)
ウ 全日本海員組合(以下「海員組合」という。)は、海上労働者を主体とする全国組織の労働組合で、本件再審査申立事件の初審である15号事件審問終結時(平成13年)の組合員数は約3万5000名である。
 海員組合は、平成12年3月31日、原告の発行済み株式総数の約55パーセントを取得し、これを契機に、原告本社機能を海員組合関西地方支部を置く所有ビルに移転させ、同支部長代行TN(以下「TN」という。)が、同年4月27日、原告代表取締役に就任した。
  (2) 労働協約
 原告と海員組合は、平成10年6月26日、有効期限を同年4月1日から平成11年3月31日までとして、次のとおり、ユニオン・ショップ制を定めて労働協約を締結した(以下「本件協約」という。)。(乙99)
第4条 (ユニオン・ショップ制)
 会社の所属運転士及び整備士(以下運転士等という)は、すべて組合の組合員でなければならない。

2. 会社に新しく採用される組合員でない運転士等は、採用後おそくとも1ヵ月以内に加入手続きをとるものとする。

3. 会社は組合に加入しない者、または組合員の資格を失った者を引き続き運転士等として雇用しない。
  (3) 運転士等の海員組合からの脱退、団体交渉の申入れ拒否
ア 海員組合所属の運転士等58名は、平成11年7月30日、同組合に対し、連名で「私達一同は貴組合の活動方針に対し賛同出来ず、これ以上貴組合に留まる事は出来ませんので、ここに本書を以って脱会する事を届出致します」と記載した脱会届(以下「本件脱会届」という。)を提出し、同日、全港湾に加入した。(乙86)
 なお、全港湾に加入した運転士等は、平成11年8月9日、補助参加人本四海峡バス分会(以下「分会」という。)を結成し、分会長に中田良治(以下「中田」という。)を、副分会長に日野隆文を、分会書記長に板谷節雄(以下、これら3名を併せて「中田ら」という。)を選出している。(乙22、236、237)
イ 海員組合は、これに対し、平成11年8月6日、本件脱会届の提出を主導したのは中田らであると判断して、同人らを除名処分とするとともに、原告に対し、同人らについて、本件協約に基づく措置を講じるよう要請した。
ウ 海員組合の要請を受けた原告は、平成11年8月8日、中田らに対し、本件協約の基づき同月9日付けで解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。
エ 補助参加人は、平成11年8月9日、原告に対し、分会結成の通告並びに@組合活動についての協定、A労働条件についての緊急要求事項及びB本件解雇の撤回を協議事項とする団体交渉の申入れをするため、原告事務所に赴いたが、同事務所は閉鎖されていた。そこで、補助参加人は、同日、分会役員と分会員の氏名を記載した「ご通知」、団体交渉の申入れを兼ねた「組合結成通告書」等を送付するなどしたが、原告からは何らの応答もなった。(乙22、44、90、236)
オ また、補助参加人は、平成11年9月20日、兵庫県地方労働委員会(以下「兵庫地労委」という。)に対し、原告を被申立人として、団体交渉開催を申請事項とするあっせんを申し立てたが、原告がこれに応じなかったため、同月23日、当該あっせんは打ち切られた。(弁論の全趣旨)
カ そこで、補助参加人は、平成11年9月20日、兵庫地労委に対し、原告の団体交渉拒否は不当労働行為に該当するとして、団体交渉の応諾及び誓約文の掲示を求めて救済申立てをし(平成11年(不)第5号事件)、これに対し、同地労委は、平成12年6月20日、団体交渉の応諾を命じた(以下「5号事件救済命令」という。)
 原告は、これを不服として、平成12年7月4日、被告に対し、再審査の申立てをしたが(平成12年(不再)第40号事件)、平成14年1月9日、再審査申立ては棄却されたため、同年2月11日、その取消しを求めて訴訟を提起した(当庁平成14年(行ウ)第68号救済命令取消請求事件。)この訴訟について、平成15年1月15日、請求棄却の判決がされ、控訴審上告審においても、これが維持されたことにより、平成16年2月26日、この判決は確定した。(丙3ないし5)
  (4) 組合事務所の不貸与
ア 原告は、平成11年9月17日、海員組合に対し、洲本営業所の一室を本四海峡バス対策仮事務所として貸与し、さらに、平成12年1月6日、同営業所内に建物を新設して、海員組合洲本仮事務所として貸与した(ただし、平成13年7月、原告は、当該建物を撤去している。)。
イ 補助参加人は、平成11年10月12日、原告に対し、本件解雇撤回に加え、洲本営業所における組合事務所の貸与、原告各営業所での組合掲示板の設置・貸与等を交渉事項として団体交渉を申し入れたが、原告は、これに応じなかった。
  (5) 補助参加人組合員に関する発言や個別面談
ア 平成12年1月19日、補助参加人の組合員が、「徳島〜関空路線」(新路線)開設に伴う人員配置に関して、原告本社に赴いたところ、原告支配人(後に常務取締役に就任)のIDは、「全港湾神戸支部(補助参加人)の組合員は新路線に乗務させない」と発言した。また、同年2月4日には、原告のKS常務取締役やIDらは、徳島営業所において運転士らを集めて、「会社は海員組合しか認めない」、「海員組合の組合員でなければ新路線に乗務させない」、「新路線は徳島営業所の持ち行路であり、乗務できない人がいると勤務交番が組めないので転勤が必要である」と説明した(原告は、後に上記発言を撤回し補助参加人に陳謝した。)。
イ 平成12年4月28日、原告は、TNが原告の代表取締役に就任したこと等を報告する文書に「海員組合の発言は代表取締役である社長の発言と同様と肝に銘じ対応をお願いします」と記載し、代表取締役社長名で全従業員に配布した。次いで、TNは、同年5月9日以降、全従業員に、本社会議室において一人当たり約1時間ないし2時間半かけて個別面談をし、その中で、会社が海員組合以外の労働組合の存在を認めないことを説明し、補助参加人の組合員に対して補助参加人において活動を続ける理由を尋ねた。(乙43、54、179)
  (6) 出勤停止処分
ア 原告は、平成12年5月12日、補助参加人組合員である古川雅昇(徳島営業所の運転士、副分会長、以下「古川」という。)に対し、同人が、同年4月14日、原告から出頭命令を受けた際、事情聴取を妨害したとして、就業規則に基づき同年5月15日から21日までの出勤停止処分(懲戒処分)を行った。
 また、原告は、平成12年5月12日、補助参加人組合員の近藤則明(徳島営業所運転士、以下「近藤」という。)に対しても、同人が同年4月18日にシートベルトを着用せずにバス運行業務に従事したとして、同年5月15日から18日までの出勤停止処分を行った。
イ 原告は、さらに、平成12年5月22日、古川及び近藤に対し、同人らが上記アの出勤停止処分期間中に補助参加人の抗議行動に参加したことが就業規則に違反するとして、それぞれ、同月24日から同月26日までの出勤停止処分を行った。(以下、上記アの出勤停止処分と併せて「本件各出勤停止処分」という。)。
  (7) 転勤命令
 原告は、平成12年6月2日、古川に対し、同月5日付けで徳島営業所から洲本営業所への転勤を命じた(以下「本件転勤命令」という。)。
  (8) 救済申立て
ア 補助参加人は、平成12年5月29日、兵庫地労委に対し、@本件各出勤停止処分の取消し及び当該処分により逸失した差額賃金の支払い等、A原告が、分会所属の組合員に対し、乗務する路線について不利益取扱を示唆して補助参加人からの脱退を勧奨したり、原告本社への出頭を命じその意思確認をするなどして、補助参加人の運営に支配介入しないこと、B補助参加人に対し、組合事務所及び組合掲示板を貸与すること、C謝罪文の掲示を求めて救済申立てをした(6号事件、その後、本件転勤命令があり、補助参加人は、同年6月5日、本件転勤命令の取消し等を救済内容に追加している。)。
 これに対し、兵庫地労委は、平成13年11月20日、本件各出勤停止処分の取消し及び差額賃金の支払い、本件転勤命令の取消し、原告の補助参加人の運営に対する支配介入の禁止、組合事務所の貸与等を命じた(以下「6号事件救済命令」という。)。
イ また、補助参加人は、5号事件救済命令を踏まえ、平成12年6月30日以降、原告との折衝を行ったが、原告は、補助参加人との間に労使関係を認めて団体交渉を行うことはできないとの姿勢を変えなかったことから、同年7月20日にはストライキを実施するとともに、同月31日、古川に対する不当労働行為の謝罪、本件転勤命令、5号事件救済命令の受入れを協議事項として、原告及び海員組合に対し、団体交渉を申し入れた。
 これに対し、海員組合は、団体交渉の主催者ではないとして、これを拒否し、原告も、海員組合との間でユニオン・ショップ協定を締結しており、原告の従業員中に補助参加人の組合員が存在しているとは認識していないとして、これを拒否したことから、補助参加人は、平成13年10月13日、兵庫地労委に対し、原告及び海員組合を被申立人とする救済申立てをした(15号事件)。
 兵庫地労委は、平成13年8月28日、海員組合に対する申立を却下するとともに、5号事件救済命令の受入れに関する事項を除き、原告に団体交渉の応諾を命じる救済命令を発した(以下「15号事件救済命令」という。)。
ウ 原告は、上記ア、イの命令を不服として、平成13年12月6日(平成13年(不再)第59号事件)、同年9月4日(同第44号事件)、再審査を申し立てたところ、被告は、両事件を併合審査の上、平成15年9月17日、別紙1のとおり、原告が補助参加人に対し、組合事務所の貸与を命じた点を変更し、文書の交付を命じたほかは、基本的に初審命令を維持して、再審査申立を棄却した(本件救済命令)ため、原告は、同年11月14日、本訴を提起した。
 2. 原告の主張
  
  (1) 本件協約
ア 原告は、海員組合を中心とした関係者の強い働きかけによって制定された「本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法」(以下「特別措置法」という。)に基づき、明石海峡大橋開通により事業縮小を余儀なくされる一般旅客定期航路事業者10数社が共同出資して、自らバス事業の展開を図ることで旅客輸送サービスを継承し、併せて離職者の雇用を確保することを目的として設立された会社である。原告が雇用した従業員のほとんどは、上記定期航路事業者から再雇用された元船員であり、特に、原告の営業開始時(平成10年4月)のバス運転手は、全員が上記定期航路事業に勤務し、かつ、海員組合の組合員であった。
イ 原告は、設立の経緯を踏まえ、原告と海員組合との信頼関係の維持が極めて重要との考えから、海員組合との間で、平成9年8月、原告の運転士及び整備管理責任者として採用募集する応募者は、本州四国連絡橋の供用開始に伴い離職を余儀なくされる海員組合員又は同組合が認めた者に限るとする確認書を交わし、次いで、平成10年3月26日、協定を締結した上で、原告の経営基盤の安定を企図して、本件協約を締結するに至っているのであって、本件協約はいわゆるクローズド・ショップ制を定めたものというべきである。
ウ 本件協約の特殊性、憲法22条、28条、29条及び労働組合法7条1項ただし書に照らすと、本件において、一般のユニオン・ショップ協定に関する法理を適用することはできない。本件協約の効力は、本件協約締結組合(海員組合)を脱退、又は、除名され、他の労働組合に加入した労働者に対しても及び、その団結権は否定されるべきである。
 なお、補助参加人の団結権及び団体交渉権を否定できないとしても、海員組合が人的・物的の総力を傾注して、特別措置法の制定及び原告の設立を働きかけ、離職組合員の雇用を確保してきた経緯、そして、現に原告の営業開始時のバス運転士は海員組合の組合員であることを前提に原告に雇用され、今なお、一般旅客定期航路事業者からの離職者約400名が原告への雇用を希望し待機している現状に照らすと、雇用の確保に何ら寄与しない補助参加人にこれらの権利の行使を認めることは、権利の濫用であり、著しく社会正義・公平に反するというべきである。
  (2) 本件各出勤停止処分
ア 補助参加人は、本件各出勤停止処分の取消しと差額賃金の支払いを求めるが、古川及び近藤は、平成12年10月7日、懲戒処分の無効確認と差額賃金の支払等を求めて訴えを提起している(神戸地方裁判所平成12年(ワ)第2231号、以下「別件訴訟」という。)。本件各出勤停止処分の当事者本人が、抜本的な法的解決を求めている以上、補助参加人において、この点につき救済命令の申立てをする必要性・相当性はないというべきである。
 本件申立ては、上記法的解決を無視し、原告と補助参加人との間に形式的な紛争を生じさせることを目的とするもので、その権利を濫用した違法な申立てというべきである。
イ また、原告は、別件訴訟において敗訴判決を受け、これが控訴審、上告審においても維持されて確定したことから、これに従い、平成15年2月27日付けで本件各出勤停止処分を取り消した。差額賃金については、別件訴訟の控訴審判決言渡後である平成14年9月19日に支払済みである。
 したがって、本件救済命令が発せられた平成15年9月17日以前に、本件各出勤停止処分等につき、6号事件救済命令を維持する利益は失われていたのであり、それにもかかわらず、これを維持した本件救済命令は違法である。
  (3) 本件転勤命令
ア 原告が、平成12年6月2日付けで、古川に対し、徳島営業所から洲本営業所への転勤を命じたのは、業務上の必要性に基づくものであり、不当労働行為に該当しない。
 人事異動は、人事の停滞による活力の低下を防止するため不可欠で、原告においても、業務内容の拡大に伴う人事異動は避け得ないところ、原告は、平成12年当時、淡路花博に係る旅客輸送の実施に伴い、洲本、大磯営業所の運転士を増強する必要が生じたことから、徳島営業所から2名運転士を大磯営業所に異動させ、それとともに、営業所長業務の補助等を担うことも考慮して、相応の経験を有する古川を洲本営業所に移動させたのであって、本件転勤命令に懲罰の趣旨はない。古川は、本件転勤命令を拒否することなく、直ちに異動に応じているし、原告としても、古川に対し、社宅を用意するなど、経済的な不利益は負わせていない。
イ なお、原告は、平成15年10月1日付けで、古川を徳島営業所に復帰させており、本件申立ての利益は失われている。
  (4) 支配介入(補助参加人組合員に関する発言や個別面談等、組合事務所の不貸与)
ア 上記(1)のとおり、本件協約は、一般のユニオン・ショップ協定と性格を異にする。原告においては、本件協約締結組合である海員組合を脱退し、他の労働組合に加入した労働者の団結権は否定されるべきであるから、原告の行為はおよそ不当労働行為に該当しない。
イ なお、ポストノーティスを命じることができるのは、これ以外に適切な救済方法がなく、同種の不当労働行為が繰り返されているような場合に限られる。原告は、当初、海員組合との協力関係上、同組合に対して組合事務所を貸与していたものの、6号事件救済命令を受け、海員組合との組合事務所に係る賃貸借契約を解約し、以後、同組合に対しても組合事務所を貸与しておらず、何ら差別的な取扱いはしていないのであって、これを命じた本件救済命令は、裁量権の範囲を逸脱し、違法である。
  (5) 団体交渉拒否
ア 原告においては、もともと従業員との間に、雇用条件等について紛争はない。当初、労務体制が十分に確立していなかったが、その後、従業員の意見を聴取して整備を進め、補助参加人が、平成11年8月9日、原告に対して求めた賃金体系、退職金制度、年間休日、交通費等の改正、改善について、それ以上の条件で改定に応じているし、本件転勤命令の撤回等、それ以外の事項についても、多くの事項が解決済みである。
 また、原告は、15号事件救済命令の後、補助参加人と11回にわたり交渉を行い、これに誠実に対応し、平成15年1月以降も、補助参加人との交渉を継続する一方で、海員組合と全港湾との交渉を強く要請してきた。
イ 以上のとおり、原告は、救済命令・判決を真摯に受け止め、交渉を行っており、補助参加人の団体交渉権を侵害するような対応はしていない。
 
 3. 被告の主張
 被告の認定した事実及び判断に誤りはなく、原告の主張は理由がない。
 なお、労働組合法は、使用者による団結権の侵害行為を不当労働行為として、労働組合や労働者に対する使用者の一定の行為を禁止した上、この禁止の違反について労働委員会による特別な救済手続を定めているのであって、労働者個人が訴訟を提起したからといって、不当労働行為の救済を申し立てる権利が制限されるものではない。
 4. 補助参加人の主張

  (1) 本件協約
 本件協約がユニオン・ショップ協定であることは明らかであり、クローズド・ショップ制を定めた協定とはいえない。
  (2) 本件各出勤停止処分
ア 司法救済と行政救済は制度目的を異にし、そのいずれを選択するかは、労働者・労働組合の自由というべきであって、およそ本件申立てを権利の濫用ということはできない。
イ また、原告は、本件各出勤停止処分を取り消した上、差額賃金を支払っており、本件救済命令を取り消すことの実質的利益はないのであるから、本訴は、この点について、訴えの利益を欠くというべきである。
  (3) 本件転勤命令
 不当労働行為に該当しないというい点は争う。
 なお、原告は、古川を徳島営業所に復帰させており、本件救済命令を取り消すことによって回復されるべき実質的な利益は失われているのであるから、本訴は、この点についても、訴えの利益を欠くというべきである。
  (4) 支配介入
 本件協約は、クローズド・ショップ制を定めるものではないが、クローズド・ショップ協定締結組合が存する会社であっても、労働者の労働組合選択の自由や他の労働組合の団結権は等しく尊重されなければならず、当該協定締結組合を脱退し、他の労働組合に加入した労働者の団結権を否定することは許されない。
 原告の組合事務所の貸与拒否は不当労働行為に該当し、これについて、ポスト・ノーティスを命じた本件救済命令に裁量権の逸脱はない。
  (5) 団体交渉拒否
 原告と補助参加人との間で折衝が重ねられたことは認めるが、これは団体交渉としての性質を有するものではない。
 原告は、本件救済命令以降も、従業員に補助参加人組合員が存在することを明確に肯定せず、労働協約の締結を拒否する対応を継続しているし、本訴においても、海員組合を脱退し、他の労働組合に加入した労働者の団結権は否定されるとし、他の労働組合に団結権及び団体交渉権を認めるとしても、本件においては、それは権利の濫用とするのであって、上記折衝が団体交渉としての性質を有するものでないことはは明らかである。
第3 当裁判所の判断

 1.本件協約及び不当労働行為について
(1) 原告は、その設立及び本件協約締結の経緯にかんがみると、本件協約締結組合である海員組合を脱退し、補助参加人に加入した労働者について団結権を認めることはできず、補助参加人の団結権や団体交渉権は否定されるべきであると主張する。
 ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず、又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより、間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものではあるが、他方において、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があるのであって、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきである。
 したがって、ユニオン・ショップ協定が、労働者の労働組合選択の自由や他の労働組合の団結権を侵害することになる場合には、これは民法90条により無効と言うべきである(最高裁昭和60年(オ)第386号、平成元年12月14日第一小法廷判決)。
(2) 原告は、本件協約は、クローズド・ショップ制を定めたもので、一般のユニオン・ショップ協定と同様に解することはできない旨の主張もする。証拠(甲7、8 乙126ないし131、138ないし144)によれば、原告の設立の経緯及び本件協約締結の経緯について、前記第2の2(1)ア、イにおいて原告が主張するような事実関係が認められる。しかし、そのような事情を考慮しても、本件協約(前記第2の1(2))が、その文言上、原告は海員組合の組合員だけを雇用することができ、また従業員が海員組合の組合員でなくなったときはこれを解雇しなければならないとするクローズド・ショップ制を定めたものとは解し難いし、そもそも、クローズド・ショップ協定を締結した労働組合が存在する場合であっても、労働者の労働組合選択の自由や労働組合の団結権は等しく尊重されるべきであり、当該協定締結組合を脱退し、他の労働組合に加入した労働者及び当該労働組合の権利を否定できないことに変わりはなく、いずれにしても、原告の主張は採用することができない。
(3) 原告は、社内に海員組合と補助参加人という2つの労働組合が併存しているにもかかわらず、本件協約締結組合に対しのみ組合事務所を貸与し、その団体交渉に応じる一方、補助参加人とはこれをいずれも拒否しているのであって、これが、補助参加人の団結権や団体交渉権を侵害するとともに、同組合に所属する労働者に対する差別待遇として、その団結権や団体交渉権を侵害するものであることは明らかである。
 また、前記第2の1(5)ア、イの原告の発言や個別面談等が、補助参加人の存在を嫌悪し、その排除をする意図の下で行われたことも明らかである。
 なお、原告は、15号事件救済命令を受けて、補助参加人との間で多数回にわたり交渉を行ってきたと主張するが、原告は、補助参加人との間に労使関係を認めて団体交渉を行うことはできない、原告の従業員中に補助参加人の組合員が存在しているとは認識していないとの態度に終始し、本訴においてなお、補助参加人の団結権は否定すべきとしているのであって、これをもって、原告が団体交渉に応諾したということはできない。
(4) 原告が団体交渉を拒む正当な理由があることを認めるに足りる証拠はなく、原告の団体交渉拒否は労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するというべきであり、また、原告の組合事務所の不貸与や前記第2の1(5)ア、イの発言、個別面談等が同条3号の不当労働行為に該当することは明らかである。
 なお、原告は、被告が、救済方法として文書の手交を命じたことについて、裁量権の逸脱を主張する。
 しかしながら、上記のとおり、原告の行為が不当労働行為に該当することは明らかであり、この場合、これについていかなる救済方法を講じるかは、労働委員会に広範な裁量権が与えられていると解されるところ、本件においては、いわゆるポスト・ノーティス命令とは異なり、文書の手交を命じているにすぎない上、当該文書内容も、原告が組合事務所の貸与と拒否したことが、被告によって、不当労働行為であると認定された、今後、このような行為を繰り返さないようにするというに止まることに照らすと、本件において文書の手交を命じたことが、被告の裁量権の範囲を逸脱するものとはいえない。
 2. 本件各出勤停止処分及び本件転勤命令について
(1) 証拠(甲2、3、5の1ないし5、 乙316)及び弁論の全趣旨によれば、平成12年10月7日、古川と近藤は原告に対して本件各出勤停止処分の無効確認と差額賃金の支払を求める訴えを提起した(神戸地方裁判所平成12年(ワ)第2231号、別件訴訟)ところ、同裁判所は、本件各出勤停止処分の無効確認と差額賃金の支払いを命じる判決を言い渡したこと、原告はこれを不服として控訴したが、大阪高等裁判所は控訴棄却の判決を言い渡し、平成14年9月19日、原告は古川及び近藤に判決で命じられたとおり差額賃金を支払ったこと、この判決は、上告棄却及び上告不受理により確定したこと、そこで原告は平成15年2月27日付けで本件各出勤停止処分を取り消したことが認められる。
 本件救済命令は平成15年9月17日に発出されたものであるから、その時点においては、本件各出勤停止処分の無効が確定し、差額賃金も支払われていたため、本件各出勤停止処分の取消しと差額賃金の支払いを求める部分については救済の利益がなかったとも考えられる(ただし、再審査申立事件の手続きにおいて、原告や補助参加人から、被告に対して、上記判決が確定したことや差額賃金が支払われたことは主張されず、疎明資料も提出されていなかった。)。
 しかしながら、別件訴訟の判決確定により本件出勤停止処分の無効が確定し、原告自ら本件各出勤停止処分を取り消し、差額賃金の支払いもされている以上、そもそも、本件救済命令のうち、本件出勤停止処分に関する部分は目的を達し効力を有しないというべきである。別件訴訟の判決確定により、原告において支払った差額賃金の返還を求める余地もない本件においては、この点について、本件救済命令の取消しを求める法律上の利益は存しないというべきである。
(2) 証拠(甲4)によれば、本件救済命令が発出された後、原告は古川に対し平成15年10月1日付けで徳島営業所に異動を命じた事実が認められる。補助参加人自身が、古川の徳島営業所勤務復帰により本件救済命令を取り消すことによって回復されるべき実質的な利益は失われていると主張し、本件転勤命令の不当労働行為性の主張を続ける意向がないと窺われることも併せせると、本件救済命令の内容うち、本件転勤命令に関する部分は実質的に既に実現し、その限りで目的を達して効力を喪失したというべきであり、その取消しを求める法律上の利益は存しないというべきである。
第4 結論
 以上のとおりであるから、原告の本件各出勤停止処分、古川及び近藤に係る差額賃金並びに本件転勤命令に係る請求、すなわち、本件救済命令主文U項中、6号事件救済命令の主文1項、2項に係る再審査申立てを棄却した部分の取消しを求める請求については、訴えを却下し、その余の点については、請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用(補助参加人費用を含む)の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、66条を適用して、主文のとおり判決する。

    東京地方裁判所民事第19部

          裁判長裁判官   中西 茂

          裁判官       森富 義明

          裁判官三輪方大は、転補につき書名押印することができない。

          裁判長裁判官   中西 茂
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