兵庫県地労委平成12年(不)第6号

命  令  書

  申立人                           全日本港湾労働組合関西地方神戸支部
                                     代表者 支部執行委員長 馬越 輝光

  被申立人                         本四海峡バス株式会社
                                     代表者 代表取締役社長 川真田 常男

 兵庫県地労委平成12年(不)第6号本四海峡バス不当労働行為救済申し立て事件について、当委員会は、公益委員会議における合議の結果、次のとおり命令する。

                        主       文
1 被申立人本四海峡バス株式会社は、申立人全日本港湾労働組合関西地方神戸支部の組合員古川雅昇及び同近藤則明に対してなした平成12年5月12日付け各出勤停止処分並びに同月22日付け各出勤停止処分をいずれも取り消し、同各処分がなかったならば同人らが受けるはずであった賃金相当額と既に支払った賃金の額との差額を支払わなければならない。
2 被申立人本四海峡バス株式会社は、申立人全日本港湾労働組合関西地方神戸支部の組合員古川雅昇に対してなした平成12年6月5日付け転勤命令を取り消し、同人を原職(徳島営業所運転士)に復帰させなければならない。
3 被申立人本四海峡バス株式会社は、申立人全日本港湾労働組合関西地方神戸支部の組合員に対し、申立外全日本海員組合以外の労働組合を認めない旨を表明するなどして、同組合の運営に支配介入してはならない。
4 被申立人本四海峡バス株式会社は、申立人全日本港湾労働関西地方神戸支部に対し、申立外全日本海員組合に貸与しているのと同等の事務所を速やかに貸与しなければならない。
5 その余の申立は、これを棄却する。

理   由

第1 認定した事実

 1 当事者

(1) 申立人全日本港湾労働組合関西地方神戸支部(以下「全港湾」という。)は、港湾産業及びこれに関連する事業の労働者で組織する労働組合であり、審問終結時における組合員数は321名である。
(2) 被申立人本四海峡バス株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社を置くとともに、大磯、洲本及び徳島に営業所を置き、一般乗合旅客自動車運送事業を主たる業務とし、審問終結時の従業員数は、運転士及び整備士(以下「運転士等」という。)を含め104名である。
 なお、会社は、明石海峡大橋の供用に伴う影響により、事業規模の縮小を余儀なくされる一般旅客定期航路事業者(以下「関係船会社」という。)が共同出資し、新規事業の開拓及び船員等の離職者の雇用確保を目的として、平成7年に、設立されたものであり、会社の運転し等の大部分は、関係船会社の船員であった者を会社が雇用したものである。
 2 運転士等の海員組合脱退以降の労使関係
(1) 会社においては、平成11年7月30日までは、関係船会社の元船員であった従業員全員が申立外全日本海員組合(以下「海員組合」という。)に所属しており、海員組合と関係船会社が会社設立に力を合わせて取り組んだ経緯から、会社と同組合はユニオン・ショップ協定を締結している。
(2) 海員組合に加入していた運転士等58名は、海員組合の運営の在り方に不満を募らせ、平成11年7月30日、海員組合を脱退し、全港湾に加入した。
(3) 同年8月9日、全港湾は会社に対し、運転士等58名が全港湾本四海峡バス分会(以下「分会」という。)を結成し、中田良治分会長以下の分会役員を抽出したことを通知した。
(4) 会社は、海員組合から、分会長中田良治、副分会長日野隆文及び書記長板谷節雄(以下「中田ら3名」という。)をユニオン・ショップ協定に基づき解雇するよう要請されたことを理由に、同日付をもって中田ら3名を解雇した。
 これを受け、全港湾が同日、中田ら3名の解雇撤回を申し入れるために会社の事務所に赴いたところ、同事務所は閉鎖されていた。
 そこで、全港湾は、同月13日、当委員会に団体交渉開催のあっせん申立を行ったが、会社はあっせんに応じず、同月23日、当該あっせんは打切りとなった。
 その後、中田ら3名の解雇については、同月18日、同人らが申立てを神戸地方裁判所に行い、平成12年1月31日、申立てを認容する決定がなされている。
(5) 平成11年9月20日、全港湾は当委員会に対し、会社の団体交渉拒否を理由として不当労動行為救済申立てを行った〔平成11年(不)第5号事件〕。
 これに対し、当委員会は、平成12年6月20日、団体交渉応諾を命ずる救済命令を発したが、同年7月4日、会社がこれを不服として中央労働委員会に再審議の申立てをし、現在、同事件は同委員会に係属中である〔中労委平成12年(不再)第40号事件〕。
(6) 平成11年9月17日、会社は海員組合に対し、洲本営業所の一室を「本四海峡バス対策仮事務所」として、また、平成12年1月6日には別棟の建物を「海員組合洲本仮事務所」として貸与し、同月10日以降、オルグを常駐させた。同仮事務所は、審問終結時、洲本営業所内にある。
(7) 平成11年10月1日、会社からの要請を受け、海員組合役員であったIDは支配人に、同じくIUは、副支配人にそれぞれ就任した(以下、それぞれ「ID支配人」、「IU副支配人」という。)。
(8) 同月12日、全港湾は会社に対し、中田ら3名の解雇撤回など当面する緊急要求事項についての団体交渉開催を申し入れたが、会社がこれに応じないので、同組合は、平成12年1月7日、神戸地方裁判所に会社を責務者として、全港湾が会社に対して団体交渉を求める地位にあることを仮に定める仮処分を求める申立てを行い、同年3月14日、申立てを認容する決定がなされている。
 なお、全港湾が上記緊急要求事項のひとつとして申し入れた組合掲示板の設置については、会社は平成10年4月に海員組合との間で、掲示をする一定の場所を会社の施設内に設ける旨の労働協約を締結しているものの、実際にはこれを提供していない。
 3 新路線の乗務をめぐる対立
(1) 平成12年1月11日、会社と海員組合との間で労使協議が行われ、「徳島〜関空路線」(以下「新路線」ろいう。)の開設を機に、必要に応じて人員の配置転換を行う旨の確認がなされた。
(2) 同月19日、会社のID支配人は全港湾の池内則行書記長らに対し、関西リムジンバス運営協議会の協議において新路線の運行は海員組合所属の運転士のみで行ってほしい旨の発言があったことを理由として、全港湾の組合員は新路線に乗務させないと発言した。
 また、同年2月4日には、会社幹部が徳島営業所に赴き、同営業所の運転士等を集め、会社は海員組合しか認めない、海員組合員の組合員でなければ新路線には乗務できない、新路線は徳島営業所の持ち行路であり、乗務できない人がいると勤務交番が組めないので転勤が必要であると説明した。
 ところが、全港湾が関西空港リムジンバス運営協議会に対し、全港湾の組合員を排除する旨の発言の有無について照会したことから、同協議会から会社に対し苦情の申出があり、新路線運行に係る近畿運輸局からの免許にも影響が出かねないことを危惧した会社は、同月9日、全港湾の組合員に対し、上記発言と説明を撤回し陳謝した。
 4 会社の新体制発足と海員組合
(1) 海員組合は、平成11年秋、会社の発行済株式総数の約10パーセントを取得し、第3位の株主となっていたが、さらに株式の譲渡を受け、平成12年3月31日、その約55パーセントを取得して筆頭株主となったので、会社は、翌4月1日、今後の会社の安定と発展に寄与すべく海員組合が会社の筆頭株主になったという趣旨の通知を従業員に行った。
(2) 同月9日、会社は、海員組合が筆頭株主になったのを機に、円滑な業務の遂行と経費の削減等を図り、経営効率の向上に努めるとして、本社機能を海員組合所有ビル内の事務所へ移転した。
(3) 同月27日、会社は、臨時株主総会を開催し、海員組合関西地方支部の支部長代行であったTNが、海員組合役員を辞任のうえで代表取締役専務に就任した。また、ID支配人は総務担当の常務取締役、IU副支配人は労務担当の常務取締役にそれぞれ昇格した。
(4) 同年5月9日以降6月下旬ころにかけて、TNは、本社会議室において、従業員に対する個別面談を一人当たり約1時間ないし2時間半かけて行ったが、その内容は、昨年度の決算状況がよくないこと及び会社が海員組合以外の労働組合の存在を認めないことを説明した後、全港湾の組合員に対しては全港湾で活動を続ける理由を尋ねるものであった。

 5 会社の新体制発足後の労使関係

(1) 平成12年4月6日、全港湾の組合員古川雅昇(徳島営業所運転士であり、分会の副分会長。以下「古川」という。)、同近藤則明(徳島営業所運転士。以下「近藤」という。)らは、海員組合関西地方支部の幹部と面談し、全港湾を脱退する意思を表明した。
(2) 同月14日正午過ぎころ、古川が海員組合関西地方支部の支部長代行であったTNに対し、全港湾脱退の意思表明を近藤と一緒に撤回する旨電話で伝えたところ、同日午後7時30分ころ、会社は古川に本社出頭を命じた。
 これを受け、古川が本社へ向かうため高速バスの学園都市駅で下車したところ、待ち受けていた会社、海員組合、全港湾の関係者らの間で本社出頭命令をめぐって口論となった。その後、関係者らは本社へ移動し、改めて会社は古川に対し事情聴取を行い、同人の全港湾への所属意志を確認した。
(3) 同月17日、全港湾は会社に対し、古川に対する本社出頭命令は、同人の全港湾への所属意志の確認のためだけになされた不当労働行為であるとして抗議するとともに、当該本社出頭命令についての釈明及び全港湾の組合員に対する脱退工作についての謝罪を求める団体交渉開催の申入れを行った。
(4) 同月18日、近藤は、午後1時35分新神戸発徳島行きのバスの運行業務に従事したが、乗客からシートベルトを着用せずに運転していた事実を徳島陸運局へ通報され、同月21日、WD徳島営業所副所長は、同陸運支部から会社の運行管理、安全運行に十分注意するようにとの指導を受けた。
(5) 同年5月12日、会社は、古川に対し、同年4月14日に会社が行った本社出頭命令の目的である事情聴取を同人が妨害したことが就業規則第3条第1項に定める職務上規律違反である等として7日間(平成12年5月15日から同月21日まで)の出勤停止処分を、近藤に対し、同年4月18日の運転業務中にシートベルトの着用を怠っていたことが就業規則第3条第1項に定める法令遵守義務違反である等として4日間(平成12年15日から同月18日まで)の出勤停止処分をそれぞれ決定し通知した。
(6) 同年5月15日午後、全港湾は、会社に対し、上記(5)の各懲戒処分は懲戒権の濫用であるとして、海員組合所有ビル前の公道上で1時間程度抗議行動を行った。その際、古川及び近藤も同行動に参加した。
(7) 同月22日、会社は古川及び近藤に対し、出勤停止期間中にもかかわらず、同人らが上記(6)の全港湾の抗議行動に参加したことが就業規則第21条に定める会社施設における集会禁止違反及び同第22条に定める勤務時間中の組合活動禁止違反であるとして、それぞれ3日間(平成12年5月24日から同月26日まで)の出勤停止処分を決定し、通知した。

 6 本件救済申立て後の労使関係

(1) 平成12年6月2日、会社は、古川に対し、同月5日付けで徳島営業所から洲本営業所への転勤を命じた。これに対して、全港湾は、同月5日、本件申立ての請求する救済内容に古川に対する転勤命令の撤回及び原状回復措置を追加した。
(2) 同月5日、古川は、会社に対し、上記(1)の転勤命令への異議を申し立てた。
(3) 同月26日、全港湾は、平成11年(不)第5号事件に係る当委員会の同月20日付け救済命令〔前記2(5)〕を受け、会社に対し、団体交渉の申入れを行ったが、同月30日、会社は、全港湾に対し、当該命令について再審査の申立てを行うことになると回答するとともに、海員組合と全日本港湾労働組合中央本部との問題については、会社には問題を解決する当事者能力がないので団体交渉には、応じられないと回答した。
 そこで、全港湾は、同日、争議行為予告通知を行い、同年7月20日、ストライキを実施した。
(4) その後、会社は、本件審問係属中であった同年9月14日、平成12年度上期に全港湾の組合員でない運転士が起こした路線外を無許可で運行中乗用車に接触した事故等を含む交通事故について、いずれも会社の就業規則上の懲戒処分には当たらない訓告に付する決定をした。
(5) 同年10月7日、古川及び近藤は、会社を相手として、平成12年5月12日付け各出勤停止処分及び同月22日付け各出勤停止処分の無効確認を求める訴えを神戸地方裁判所に提起した。
(6) さらに、同年10月13日、全港湾は当委員会に対し、会社及び海員組合を被申立人として、本件申立てに係る請求する救済内容等を交渉事項とした団体交渉応諾を求める救済申立てを行った〔平成12年(不)第15号事件〕。

 7 賃金制度

 (1) 賃金の種別及び体系
 会社の運転士に支給される賃金は、基本給等からなる基準内賃金(以下「基本給等」 という。)と乗務員手当、割増賃金、日当、宿泊手当等からなる基準外賃金をもってこうせいされている。
 なお、基準給等は、毎月25日にその月分を支給し、基準外賃金(通勤手当を除く。以下「乗務員手当」という。)は、その月分を翌月25日に支給することとなっている。
 (2) 基本給
 基本給は、年齢に応じて支給される年齢給、勤務年数に応じて支給される勤続給、及び等級別に支給され、人事考課によって昇給する職能給によって構成される。
 (3) 乗務員手当
ア 乗務員手当
走行距離に応じて支給する。
イ 割増賃金
割増賃金は、超過勤務手当、夜間手当及び祝日手当等勤務手当からなる。
ウ 日当
業務のため出勤した日に応じて支給する。
エ 宿泊手当
会社の指示により指定された施設で宿泊した場合に支給する。
 8 出勤停止処分及び転勤命令の賃金等への影響

 (1)
古川及び近藤に対する各出勤停止処分並びに古川に対する転勤命令の賃金への影響
 各出勤停止処分はいずれも平成12年5月中の一定期間を対象として行われたものであるところ、基本給等には影響はなかったものの、翌月に支払われる当該期間中の乗務員手等は、乗務を拒否されたことにより減少した。
 また、本件転勤命令は、古川に対し、洲本営業所への転勤を命ずるものであるところ、転勤後の平成12年7月分以降の同人の乗務員手当等は、従前に比べ半分以下に減少している。このうち、割増賃金については、転勤前の徳島営業所では支払われていたが、洲本営業所では、会社が古川に転勤を命じた当時から審問終結時に至るまで、同営業所の従業員の過半数が全港湾の組合員であり、同組合と会社との間において時間外勤務に関する労使協定(36協定)が締結されておらず、時間外勤務ができないために割増賃金が支給されなかったことが大きく影響している。
 (2)古川に対する本件転勤命令の賃金以外への影響
 上記(1)のほか、古川は徳島県海部郡牟岐町にある自宅と洲本営業所が122キロメートルも離れているため、同営業所近くに当初単身赴任することになり、その後は、自宅から通勤しているものの、遠隔地通勤の連続を回避するために洲本営業所宿舎に宿泊することもある。
 本件転勤を命ずるに当たり、会社は、海員組合との協定に基づいて古川に社宅を用意したり、移転費用、帰省旅費、通勤手当等を負担、支給している。
 また、古川は徳島営業所所属の従業員二十数名のうち全港湾に加入している3名のうちの一人であったところ、本件転勤命令により全港湾は同営業所所属の中心人物を欠くこととなった。
 9 本件申立てに係る請求する救済内容
(1) 会社は、古川及び近藤に対する平成12年5月12日付け各出勤停止処分並びに同月22日付書く出勤停止処分を取り消すとともに、これら懲戒処分によって両名が失った運行手当等の賃金相当額に年6分の割合による金員を加算して支払うこと。
(2) 会社は、古川に対し洲本営業所への転勤を命じた平成12年6月5日付け辞令を取り消すこと。
(3) 会社は、分会の組合員に対し、乗務する路線について不利益取扱いを示唆して全港湾からの脱退を勧奨する行為、同組合に所属する意志の最終確認をしたり、同組合への結集理由を質すなどの行為により同組合の運営に支配介入しないこと。
(4) 会社は全港湾に対し、組合事務所及び組合掲示板を貸与すること。
(5) 謝罪文の掲示

第2 判断

 1 懲戒処分について

 (1)当事者の主張
ア 全港湾の主張
 海員組合は古川及び近藤に全港湾を脱退するように働きかけ、古川及び近藤がその勧誘を拒否して全港湾に留まる旨回答したところ、会社は海員組合の意を酌んで、@古川を会社業務の執行妨害を理由として平成12年5月12日付け7日間の出勤停止、A近藤をシートベルト不着用を理由として同日付け4日間の出勤停止、B古川及び近藤を無断職場離脱を理由として同月22日付各3日間の出勤停止の各懲戒処分に付したが、これらはいずれも古川及び近藤が全港湾を脱退しない旨表明したことに対する報復行為であり、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。
イ 会社の主張
 本件各懲戒処分は、いずれも適正な懲戒処分である。
 とりわけ、平成12年五月12日付け出勤停止処分により古川及び近藤には自宅待機義務があるのに、これに反して、同人らが勤務時間中に会社施設内で組合活動を行ったことは職務専念義務違反であり、同人らを同月22日付で懲戒処分にしたことは不当労働行為には該当しない。
 (2)当委員会の判断
ア 古川に対する業務妨害行為を理由とする懲戒処分
 古川に対する平成12年5月12日付け懲戒処分は、古川が、平成12年4月14日、本社に出頭した際に会社の古川に対する事情聴取を妨害したこと理由とするものである〔第1の5(5)〕が、第1の5(2)で認定したとおり、古川は会社の命令に従って出頭しており、出頭した現場で混乱が生じたのは、会社の関係者や海員組合の役員、全港湾の役員らが待機して、古川が出頭するや、古川に対する出頭命令の当否をめぐって対立し、口論になったことによるものであり、古川が積極的に会社の業務の遂行を妨害する行為に出たと認めるに足りる疎明はない。
イ 近藤に対するシートベルト不着用を理由とする懲戒処分
 近藤が、同月18日、シートベルトを着用せず運転業務の従事したことは事実であるが、第1の6(4)で認定したとおり、そのころ、全港湾に加入していない運転士が交通事故を起こしたことに対する措置は、いずれも懲戒処分ではない訓告止まりであり、その程度を比較すると、シートベルト不着用に対する4日間の出勤停止処分は、著しく処分の均衡を失している。
ウ 古川及び近藤に対する職務専念義務違反を理由とする懲戒処分
 会社は、出勤停止期間中の従業員は自宅待機することが職務であるのに、これに反して勤務時間中に会社施設内で組合活動を行ったことは職務専念義務違反であると主張するが、就業規則〔乙第56号証〕及び賞罰委員会懲戒決定通知書〔甲第7号証の1及び2〕には自宅待機を定める文言はなく、他に会社が古川及び近藤に出勤停止期間中自宅待機するよう指示したことを認めるに足りる疎明もない。
 また、出勤停止期間中の組合活動が許されるか否かは別として、本件においては平成12年5月12日付け各出勤停止処分自体が上記ア及びイのとおり相当性を欠いており、その組合活動も本社前の公道上での約1時間の抗議行動〔第1の5(6)〕であって、会社の業務遂行に具体的な支障が生じたとの疎明もないことから判断して、古川及び近藤の上記抗議行動を勤務時間中の会社施設内での組合活動として懲戒の対象とすることは妥当でない。
 なお、会社は出勤停止期間中も賃金を支給したので、古川や近藤には不利益は生じていない旨主張するが、基本給等は支給されていたものの、乗務員手当等は乗務を拒否されたことにより減少したこと〔だい1の8(1)〕が認められるので、経済的にも不利益な処分であることは明らかである。
エ 不当労働行為の成否
 上記アからウまでで判断したとおり、本件各懲戒処分はいずれもその処分の相当性が認めがたいところ、本件各懲戒処分は、いったんは全港湾を脱退する意思を表明した古川及び近藤が、最終的に全港湾を脱退しない旨表明してから間もないころに行われたものであること、しかも、古川と近藤とが同時に懲戒処分に付された経過〔第1の5〕を併せ考えるならば、本件各懲戒処分は、古川及び近藤が一度は全港湾を脱退する意思を表明しながら、その意思表明を撤回して全港湾に留まったことに対する報復としてなされた不利益取扱いであり、全港湾の影響を排除する目的で実行された支配介入であって、いずれも労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断する。
 2 転勤命令について

 (1) 当事者の主張
ア 全港湾の主張
 古川に対する徳島営業所から洲本営業所への転勤命令は、業務上の必要性も人選の合理性もなく、副分会長として分会の中心的役割を果たす同人を転勤させて全港湾の弱体化を図る意図を持って発令されたものであり、これによって、同人は乗務員手当が減少する経済的不利益を受けており、本件転勤命令は労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。
イ 会社の主張
 本件転勤命令は、淡路花博開催に伴い洲本営業所の運転士を増強する必要があったため発令され、同人もかねてから転勤を希望していたので同人が人選されたものであり、基本給等、各種手当の基準額には変化はなく、経済的不利益は受けていない。
 (2) 当委員会の判断
ア 本件転勤命令の必要性と人選の合理性
 本件転勤命令の必要性を検討するに、会社は、各営業所別の乗客数の推移、運転士の必要数、勤務実態などの具体的事実を持って、本件転勤命令に業務上の必要性があることを疎明しておらず、加えて、徳島営業所所属の運転士二十数名の中から古川一人を人選した合理性についての疎明も不十分である。
イ 不当労働行為の成否
 上記アに加え、海員組合の会社に対する影響力が強化され、海員組合に所属していたTNが会社の代表取締役専務に就任するなど会社の新体制が発足して以降、全港湾と会社との対立関係が鮮明になってきた時期に、しかも、前記各出勤停止処分の直後に本件転勤命令が突然発令されたものであること〔第1の3から6まで〕、本件転勤命令により、古川の受け取る乗務員手当等の額が大幅に減少したこと〔第1の8(1)〕、同人の自宅からの通勤を事実上困難にしたこと〔第1の8(2)〕、また、同人が全港湾の中心的な活動家であったことを併せ考えると、本件転勤命令は、古川が分会の副分会長であることを嫌悪して同人が全港湾に留まったことへの報復としてなされた不利益取扱いであって、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
 なお、会社は、古川がかねてから転勤を希望していたと主張するが、その疎明はなく、また、転勤に伴う諸費用を負担し、通勤手当等を支給していること〔第1の8(2)〕は認められるが、このことをもって不利益取扱いであることを否定することはできない。
 また、本件転勤命令、全港湾の影響力を減殺することを意図してなした支配介入であって、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
 3 支配介入について

 (1) 当事者の主張
ア 全港湾の主張
 会社が、@全港湾の組合員は新路線に乗務させない、乗務でない人は転勤もやむを得ないとの発言をしたこと、A古川に対し、全港湾への所属意志を確認することのみを目的として本社への出頭を命じたこと、B会社の実施した個別面談において全港湾の組合員に全港湾で活動を続ける理由を質したこと、C会社は海員組合と組合掲示板設置を協定し、また、海員組合に対しては、現に洲本営業所内で組合事務所を貸与したのに、前項和に対しては組合事務所の貸与及び組合掲示板の設置を拒否していることは、いずれも全港湾の運営に対する支配介入行為であり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
イ 会社の主張
 全港湾が主張するような事実はなく、会社が労使関係のない全港湾に対し、組合事務所及び組合掲示板を貸与する義務はないので、会社が全港湾の運営に支配介入したことはない。
 (2) 当委員会の判断
ア 全港湾に対する言動
 会社は、平成11年7月30日に運転士等58名が海員組合を脱退して全港湾に加入した際、分会長中田ら3名を解雇し〔第1の2(2)から(4)まで〕、以来、全港湾から団体交渉の開催を求められてもこれに応じなかった〔第1の2(5)、6の(3)、(6)〕。
 こうした状況下において、会社は、平成12年1月19日、全港湾の組合員を新規路線の乗務から排除する発言をし〔第1の3(2)〕、同年4月14日、古川に対し全港湾への所属意志を確認するため本社出頭を命じ〔第1の5(2)〕、さらに、同年5月9日以降6月下旬ころにかけて個別面談を実施して、会社が海員組合員以外の労働組合との労使関係は一切認めないと明言するとともに、全港湾の組合員に対して、全港湾で活動を続ける理由を問い質している〔第1の4(4)〕
 会社のこれらの言動等は、全港湾の存在と活動を嫌悪し、その排除を図る意図の下に行われた一連の行為と見るべきであって、全港湾の組合員に対する脱退勧奨行為に該当し、労働組合法第7条3号に規定する不当労働行為であると判断する。
イ 組合事務所の貸与拒否
 会社は、平成12年1月6日に対して組合事務所を貸与している〔第1の2(6)〕にもかかわらず、全港湾に対しては組合事務所の貸与を拒否している。
 これは、会社が全港湾との労使関係を一貫して否定し続けた態度の表れであって、労働組合法第7条第3号に規定する不当労働行為であると判断する。
 なお、組合掲示板については、会社と海員組合との間の労働協約において、その設置が合意されたのは分会が結成される以前のことであり、また、実際には海員組合、全港湾のいずれに対しても設置場所は提供されていない〔第1の2(3)、(8)〕から、両組合の間に取扱い上特別な差異がないので、不当労働行為に該当するとはいえない。

 4 救済方法について

 (1)懲戒解雇処分及び転勤命令に対する救済
ア 会社が行った古川及び近藤に対する各出勤停止処分に対する救済としては、主文第1項のとおり、会社に対し、同格出勤停止処分をその決定時点に遡ってなかったものとするとともに、同格処分がなかったならば同人らがそれぞれ受けるはずであってた賃金相当額と既に支払った賃金の額との差額の支払いを命ずるのが相当である。
 なお、申立人は、これに年6分の割合による利息相当額の付加をも求める〔第1の9(1)〕が、救済の程度としては、上記の程度をもって相当であると考える。
イ 会社が行った古川に対する転勤命令に対する救済としては、主文第2項のとおり、会社に対し、同転勤命令を発令時点に遡ってなかったものとし、古川を現職に復帰させるよう命ずるのが相当である。
 (2) 脱退勧奨行為及び組合事務所貸与拒否に対する救済
 会社が海員組合員以外の労働組合を認めないと明言していること〔第1の4(4)〕から判断するならば、会社は今後も前記3の(2)アのような脱退勧奨行為による支配介入を行う蓋然性が高いので、会社に対し、主文第3項のとおり、支配介入の禁止を命ずるとともに、組合事務所の貸与問題に関しては、主文第4項のとおり、海員組合と差別することなく、全港湾に対してもこれを貸与するよう命ずるのが相当である。
 (3) その他
 申立人は、本件救済の方法として、謝罪文の掲示をも求める〔第1の9(5)〕が、主文の程度を持って相当であると考える。
第3 法律上の根拠
 以上の認定した事実及び判断に基づき、当委員会は、労働組合法第27条及び労働委員会規則第43条の規定を適用して、主文のとおり命令する。
  平成13年11月20日

                         兵庫県
地方労働委員会
                                     会長   安 藤 猪 平 次 


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