命  令  書

  再審査申立人                        本四海峡バス株式会社
                                      代表者 代表取締役社長 川真田 常男

  再審査被申立人                      全日本港湾労働組合関西地方神戸支部
                                      代表者 支部執行委員長 馬越 輝光

 

 上記当事者間の中労委平成13年(不再)第44号事件(初審兵庫県地労委平成12年(不)第15号事件)及び中労委平成13年(不再)第59号事件(初審兵庫県地労委平成12年(不)第6号事件)について、当委員会は、平成15年9月17日第1388回公益委員会議において、会長公益委員山口浩一郎、公益委員諏訪康雄、同今野浩一郎、同横溝正子、同落合誠一、同若林之矩、同曽田多賀、同林紀子、同上村直子、同荒井史男、同佐藤英善、同椎谷正、同渡辺章、同岡部喜代子、同山川隆一出席し、合議の上、次のとおり命令する。


主      文

T 中労委平成13年(不再)第59号事件に係る初審命令主文第4項を次のとおり改める。

  1.  再審査申立人本四海峡バス株式会社は、再審査被申立人全日本港湾労働組合関西地方神戸支部に対し、本命令書受領後、速やかに下記の文書を手交しなければならない。



平成  年  月  日
全日本港湾労働組合関西地方神戸支部
   支部執行委員長 馬越 輝光 殿
本四海峡バス株式会社   
代表取締役社長  川真田 常男
 当社が、洲本営業所において、全日本海員組合に対し組合事務所を貸与していた期間、貴組合から申し入れのあった組合事務所の貸与を拒否したことは、中央労働委員会によって、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。今後このような行為を繰り返さないよにいたします。


U その余の再審査申立てを棄却する。

理      由

第1 事案の概要

  1.  中労委平成13年(不再)第59号事件(以下「59号事件」という。)本件は、本四海峡バス株式会社(以下「会社」という。)が、@全日本港湾労働組合関西地方神戸支部(以下「全港湾神戸支部」という。)組合員古川雅昇(徳島営業所運転士、全港湾神戸支部本四海峡バス分会の副分会長。以下「古川」という。)及び同近藤則明(徳島営業所運転士。以下「近藤」という。)を、平成12年5月12日付け及び同月22日付けで出勤停止処分としたこと、A古川を、同年6月5日付けで徳島営業所から洲本営業所に転勤させたこと、B全港湾神戸支部組合員に、不利益な扱いを示唆して脱退勧奨を行ったり、全港湾神戸支部に所属する意思の確認を行うなどしたこと、C全港湾神戸支部に組合事務所及び組合掲示板を貸与しなかったことが、それぞれ不当労働行為であるとして、兵庫県地方労働委員会(以下「兵庫地労委」という。)に、@、B及びCについては同年5月29日に救済申立てが、Aについては同年6月5日に追加して救済申立てがあった事件である。
     兵庫地労委は、平成13年11月28日、会社に、救済申立て内容のうち、@古川及び近藤に対する各出勤停止処分の取消及び同各処分がなかったならば同人らが受けるはずであった賃金相当額と既支払額との差額支払、A古川に対する転勤命令の取消し及び原職復帰、B全港湾神戸支部の運営に対する支配介入の禁止、C組合事務所の貸与を命じ、その余の申立てを棄却した。
     会社は、これを不服として、同年12月6日、再審査を申し立てた。
  2.  中労委平成13年(不再)第44号事件(以下「44号事件」という。)本件は、全港湾神戸支部が、会社及び会社とユニオン・ショップ協定を締結し、会社の筆頭株主でもある全日本海員組合(以下「海員組合」という。)に、平成12年7月31日、前記1の@、A、B及び兵庫地労委平成11年(不)第5号事件(以下「5号事件」という。)の命令の受入れ等を議題とする団体交渉を申し入れたところ、会社は、折衝には応じるものの、全港湾神戸支部との間に労使関係を認めて団体交渉に応じることはできないなどとしたこと、海員組合は、団体交渉の「主催者」ではないとしてこれに応じなかったことが、それぞれ不当労働行為であるとして、兵庫地労委に、同年10月13日に救済申立てがあった事件である。
     兵庫地労委は、平成13年8月28日、会社に、救済申立て内容のうち、5号事件の命令の受入れに関する議題を除く団体交渉に誠意をもって応じることを命じるとともに、5号事件の命令の受入れに関する団体交渉応諾の申立て及び海員組合に対する申立てを却下し、その余の申立てを棄却した。
     会社は、これを不服として、同年9月4日、再審査を申し立てた。
  3.  当委員会は、平成14年5月21日、44号事件と59号事件を併合して審査した。

第2 当委員会の認定した事実

 1 当事者

 (1)

 会社は、肩書地に本社を、大磯、洲本及び徳島の営業所を置き、一般乗合旅客自動車運送事業を主たる業務としており、59号事件初審審問終結時の従業員数は、運転士及び整備士(以下「運転士等」という。)を含め104名である。
 なお、会社は、明石海峡大橋の供用に伴う影響により、事業規模の縮小等を余儀なくされる一般旅客定期航路事業者(以下「関係船会社」という。)が共同出資し、新規事業の開拓及び船員等の離職者の雇用確保を目的として、平成7年に設立されたものであり、平成10年4月の営業開始時の従業員数は83名で、このうち運転士等の大部分は、関係船会社に勤務していた船員等を会社が雇用したものである。

 (2)

 全港湾神戸支部は、港湾産業及びこれに関連する事業の労働者で組織する労働組合であり、59号事件初審審問終結時における組合員数は、321名である。

 (3)

 再審査申立外海員組合は、海上労働者を中心とする全国組織の労働組合であり、44号事件初審審問終結時における組合員数は、会社の組合員も含め役35,000名である。

 2 全港湾神戸支部本四海峡バス分会の結成と当時の労使関係

 (1)

 平成10年6月26日、会社と海員組合とは、運転士等に限定して、その効力を同年4月1日からとするユニオン・ショップ制を定める労働協約を締結した。

 (2)

 平成11年7月30日、運転士等58名全員が、「私達一同は貴組合の活動方針に対し賛同出来ず、これ以上貴組合に留まる事は出来ませんので、ここに本書を以って脱退する事を届出致します。」と記載した脱退届に連名で署名して、これを海員組合に提出し、同日、全港湾神戸支部に加入した。

 (3)

 平成11年8月6日、海員組合関西地方支部長は、中田良治、日野隆文及び板谷節雄(以下「中田ら3名」という。)が本件脱退届提出の首謀者であると判断し、会社に、同人らを組合統制違反として除名処分を決定したことを理由に上記(1)の労働協約の基づき解雇するよう要請されたことを理由に、同人らに同月9日付けで解雇するとした通告書を郵送した。

 (4)

 平成11年8月9日、全港湾神戸支部に加盟した運転士等が、全港湾神戸支部本四海峡バス分会(以下「分会」という。)を結成し、中田良治分会長ほかの分会役員を選出した。
 同日午後1時ころ、全港湾神戸支部は、会社に分会結成の通告と組合活動についての協定事項、労働条件についての緊急要求事項及び中田ら3名あての解雇通知の撤回を交渉事項とする団体交渉を申し入れるため、会社の事務所を訪れた。しかし、事務所は閉鎖されており、会社と連絡を取ることができなかったため、全港湾神戸支部は、分会役員と分会員全員の名前を記載した通知及び団体交渉申入れ等の書面を会社に送付したが、会社からは何ら返答がなかった。

 (5)

 平成11年8月13日、全港湾神戸支部は、会社を被申請人として兵庫地労委に団体交渉開催のあっせん申請をしたが、会社はこれに応じなかったため、同月23日、あっせんは打ち切られた。

 (6)

 平成11年9月17日、会社は、海員組合に洲本営業所の一室を「本四海峡バス対策仮事務所」として貸与した。その後、平成12年1月6日、会社は、洲本営業所内にプレハブの建物を新設して海員組合に貸与し、同組合はそこを「海員組合洲本仮事務所」として、同月10日以降、オルグを常駐させたが、会社は、平成13年7月、同建物を撤去している。

 (7)

 平成11年9月20日、全港湾神戸支部は、上記(4)の団体交渉の応諾及び誓約文の掲示を求めて兵庫地労委に救済を申し立てた(5号事件)。
 なお、この時までに、14名の組合員が全港湾神戸支部を脱退し海員組合に復帰していた。

 (8)

 平成11年10月1日、会社からの要請を受け、海員組合役員であったIDは支配人に、同じくIUは副支配人にそれぞれ就任した(以下それぞれ「ID」、「IU」という。)。

 (9)

 平成11年10月12日、全港湾神戸支部は、会社に中田ら3名の解雇撤回、洲本営業所における組合事務所の貸与、各営業所での組合掲示板の設置・貸与など当面する緊急要求事項についての団体交渉開催を申し入れたが、会社はこれに応じなかった。
 なお、組合掲示板については、会社は海員組合との間の上記(1)の労働協約で、掲示をする一定の場所を会社の施設内に設ける旨定めているものの、実際にはこれを提供していない。

 3 新路線の乗務をめぐる対立

 (1)

 平成12年1月11日、会社と海員組合との間で労使協議が行われ、「徳島〜関空路線」(以下「新路線」という。)の開設を機に、必要に応じて人員の配置転換を行う旨の確認がなされた。
 このころ、海員組合のオルグから、全港湾神戸支部の組合員に、海員組合への復帰の説得と「全港湾神戸支部の組合員は新路線の乗せない」、「全港湾神戸支部にいると配置転換になる」旨話がされていた。

 (2)

 平成12年1月19日、全港湾神戸支部は、上記海員組合のオルグ活動に会社が関与しているか確認するため、本社での交渉に赴いたところ、井出は、関西空港リムジンバス運営委員会の協議において、新路線の運行は海員組合所属の運転士のみで行ってほしい旨の発言があったとして、「全港湾神戸支部の組合員は新路線に乗務させない」と発言した。
 また、同年2月4日には、KS常務取締役やIDら会社幹部が徳島営業所に赴き、同営業所の運転士等を集め、「会社は海員組合しか認めない」、「海員組合の組合員でなければ新路線には乗務させない」、「新路線は徳島営業所の持ち行路であり、乗務できない人がいると勤務交番が組めないので転勤が必要である」と説明した。
 これらの会社の発言を受けて、全港湾神戸支部は、関西空港リムジンバス運営協議会に、新路線の運行から全港湾神戸支部の組合員を排除する旨の発言に有無について照会するとともに、近畿運輸局に会社の組合員に対する乗務差別について是正指導を求めたところ、会社は、同協議会から苦情の申出があったことと、新路線運行に係る近畿運輸局からの免許交付にも影響がでかねないことを危惧したことから、同月9日、本社での折衝において、全港湾神戸支部に上記発言と説明を撤回するとともに陳謝した。

 4 会社の新体制発足と海員組合のかかわり

 (1)

 海員組合は、平成11年秋、会社の発行済株式総数の約10パーセントを取得し、第3位の株主となっていたが、さらに株式の譲渡を受け、平成12年3月31日、その約55パーセントを取得して筆頭株主となった。これを受けて、会社は、同年4月1日、今後の会社の安定と発展に寄与すべく海員組合が会社の筆頭株主になったという趣旨を従業員に通知した。 

 (2)

 平成12年4月9日、会社は、海員組合が筆頭株主になったのを機に、円滑な業務の遂行と経費の削減等を図り、経営効率の向上に努めるとして、本社機能を海員組合関西地方支部のある海員組合所有ビルへ移転した。なお、登記簿上の本社の所在地は、肩書地のままである。

 (3)

 平成12年4月27日、会社の派遣要請を受けて、海員組合関西地方支部長代行であったTN(以下「TN」という。)は、会社の臨時株主総会において代表取締専務に就任した。
 また、IDは総務担当の常務取締役、IUは労務担当の常務取締役にそれぞれ就任した。

 (4)

 平成12年4月28日、会社は、上記役員交代を報告する文書に、「海員組合の発言は代表取締役である社長の発言と同様と肝に銘じ対応をお願いします」と記載し、代表取締役社長名で全従業員に配布した。

 (5)

 平成12年5月9日以降6月下旬ころにかけて、TNは、全従業員に本社会議室において一人当たり約1時間ないし2時間半かけて個別面談を行った。
 その内容は、前年度の決算状況がよくないことや会社が海員組合以外の労働組合の存在を認めないことを説明するとともに、全港湾神戸支部の組合員に対しては全港湾神戸支部で活動を続ける理由を尋ねるものであった。

 5 会社の新体制発足後の労関係

 (1)

 平成12年4月6日、全港湾神戸支部組合員である古川及び近藤らは、海員組合関西地方支部の幹部と面談し、全港湾神戸支部を脱退する意思を表明した。 

 (2) 

 平成12年4月14日正午過ぎころ、古川は、TNに、全港湾神戸支部脱退の意思表明を近藤と共に撤回する旨電話で伝えた。
 同日午後7時30分ころ、会社は、古川に本社へ出頭を命じた(以下「本件出頭命令」という。)。古川は、同時刻に洲本営業所において開催されていた分会集会に、本件出頭命令について電話で報告した。これを受けて、分会は、古川が本社に出頭している間、本社の前で待機して同人を励ます旨決定した。
 古川が本社へ向うため高速バスの学園都市駅で下車したところ、待ち受けていた会社のID及びIU、会社からの要請によって同行したTNら海員組合役員、古川を追って到着した全港湾神戸支部の関係者らの間で、本社出頭命令の当否及び海員組合役員の同行について口論となった。なお、古川自身は、この口論に加わることはなかった。
 その後、関係者らは本社へ移動し、改めて会社は古川に事情聴取を行い、同人の全港湾神戸支部への所属意思を確認した。

 (3)

 平成12年4月17日、全港湾神戸支部は、会社に、本件出頭命令は、同人の全港湾神戸支部への所属意思を確認するためだけになされた不当労働行為であると抗議するとともに、本件出頭命令についての釈明及び全港湾神戸支部の組合員に対する脱退工作についての謝罪を求める団体交渉の開催を申し入れた。

 (4)

 平成12年4月18日、近藤は、午後1時35分新神戸発徳島行きのバスをシートベルトを着用することなく運転した(以下「本件シートベルト不着用運転という。)。この事実を乗客から通報された徳島陸運支局は、同月21日、WD徳島営業所副所長に、会社の運行管理、安全運行に十分注意するよう指導した。

 (5)

 平成12年5月12日、会社は、古川に、本件出頭命令の目的である事情聴取等を同人が妨害したことが就業規則第3条1項「運転士等は会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規定等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」に違反するなどとして7日間(同月15日から同月21日まで)の出勤停止処分とすることを、同じく近藤に、本件シートベルト不着用運転が就業規則第3条1項に違反するなどとして4日間(同月15日から同月18日まで)の出勤停止処分とすること(以下これら処分を「5.12懲戒処分」という。)をそれぞれ決定、通知した。
 なお、就業規則第97条(懲戒の種類)第3号には「出勤停止 7日以内の期間を定めて出勤を停止し、将来を戒める。」と定められている。

 (6)

 平成12年5月15日午後、全港湾神戸支部は、5.12懲戒処分は懲戒権の濫用であるとして、古川及び近藤も参加して海員組合所有ビル前の公道上で1時間程度抗議行動を行った。

 (7)

 平成12年5月22日、会社は、古川及び近藤が出勤停止処分期間中にもかかわらず、全港湾神戸支部の抗議行動に参加したことが就業規則第21条に定める会社施設内等における集会禁止違反及び同22条に定める勤務時間中等の組合活動禁止違反であるとして、それぞれ3日間(同月24日から同月26日)の出勤停止処分(以下「5.22懲戒処分」という。)を決定し、通知した。
 なお、5.12懲戒処分及び5.22懲戒処分(以下「本件各懲戒処分」という。)は、平成7年の会社設立以来、初めて行われた懲戒処分であった。

 (8)

 平成12年5月29日、全港湾神戸支部は、本件各懲戒処分、前記3(2)の新路線の乗務差別発言、4(5)の個別面談、本件出頭命令並びに全港湾神戸支部に組合事務所及び組合掲示板を貸与しなかったことが、それぞれ不当労働行為であるとして本件各懲戒処分の撤回、全港湾神戸支部の運営に対する支配介入の禁止等を求めて兵庫地労委に救済を申し立てた(兵庫地労委平成12年(不)第6号事件)。

 (9)

 平成12年6月2日、会社は、古川に同月5日付けで徳島営業所から洲本営業所への転勤を命じた(以下「本件転勤命令」という。)。
 同月5日、全港湾神戸支部は、兵庫県地労委平成12年(不)第6号事件の請求する救済内容に本件転勤命令の撤回及び原状回復を追加し、古川は、会社に本件転勤命令について異議を申し立てた。
 なお、古川は、関係船会社の元船員であり、離職前の平成9年6月に大型二種運転免許を取得し、平成10年4月1日付けで運転士として採用され徳島営業所に配置された。

 (10)

 平成12年6月20日、兵庫地労委は、会社に平成11年8月9日付けで申入れがあった下記3項目を議題とする団体交渉の応諾を命じる一部救済命令を発した(以下「5号事件命令」という。)。
          ア 組合活動についての協定事項に関して
          イ 労働条件についての緊急要求事項に関して
          ウ 中田ら3名に対する解雇の撤回について
 しかし、会社は、これを不服として、平成12年7月4日、当委員会に再審査を申し立てたが(中労委平成12年(不再)第40号事件)、当委員会は、平成14年1月9日、その申立てを棄却した。

 (11)

 平成12年6月30日、会社は、全港湾神戸支部から5号事件命令の受入れを議題として申入れのあった団体交渉開催に向けて折衝を行った。しかし、全港湾神戸支部との間に労使関係を認めて団体交渉を行うことはできないとした会社の姿勢に変化がみられなかったことから、同日、全港湾神戸支部は、支配介入問題や本件各懲戒処分問題の解決、5号事件命令の履行等を求め、同年7月15日午前0時以降問題解決に至るまでの間、争議行為を行うことを決定した。

 (12)

 その後、全港湾神戸支部と会社との折衝が数回行われた。会社は、平成12年7月18日、非公開を条件に交渉メモを提出したが、それには全港湾神戸支部の名誉ある撤退に向けて折衝を行う旨記載があったことから、当該折衝は決裂し、同月20日、全港湾神戸支部はストライキを実施した。

 (13)

 平成12年7月31日、全港湾神戸支部は、会社及び海員組合に下記6項目(以下「本件団体交渉申入れ事項」という。)を議題とする団体交渉の開催を申し入れた。
  ア 同年4月14日の古川に対する不当労働行為(支配介入)の謝罪について
  イ 5.12懲戒処分の撤回について
  ウ 5.22懲戒処分の撤回について
  エ 個別面談における不当労働行為(支配介入)の謝罪について
  オ 同年6月5日付け古川に対する洲本営業所転勤に関して
  カ 5号事件命令の受入れについて

 (14)

 これに対し、海員組合は、平成12年8月4日、「団体交渉の主権者ではありません」と回答して団体交渉に応じなかった。一方、会社は、同月10日及び同月24日の折衝を経た同月29日、「全港湾神戸支部に、海員組合との間でユニオン・ショップ協定を締結しており、会社従業員の中に全港湾神戸支部の組合員がいると認識していない。したがって、全港湾神戸支部との間に労使関係がないので、折衝は行うが、協定書の作成は拒否する」旨の回答を書面で行った。

 (15)

 会社は、上記回答書面の追記の中で、本件団体交渉申入れ事項についての考え方を下記のとおり表明した。
ア 古川に対する懲戒処分及び転勤問題は、5号事件命令の対象交渉事項ではなく、また現在係争中でもある。
イ 古川に対する転勤の問題は、転勤にかかる費用負担や社宅提供などを社内規定に設けたことにより解決している。
ウ 近藤に対する懲戒処分は、シートベルトを着用せず運転業務に従事した法令違反として監督官庁から指摘を受け処分せざるを得なかった。

 (16)

 その後、平成12年9月8日にも5号事件命令の履行について折衝が行われたが、全港湾神戸支部との間に労使関係を認めて団体交渉を行うことはできないとの会社の従前の姿勢に変化はなかったことから、当該折衝は決裂した。

 (17)

 会社は、59号事件初審審問継続中であった平成12年9月14日、同年度上半期に全港湾組合員でない運転士が起こした路線外を無許可で運行中乗用車に接触した事故等を含む交通事故13件について、一括していずれも会社の就業規則上の懲戒処分には当たらない訓告と決定した。

 (18)

 平成12年9月25日、当委員会が、上記(10)の平成12年(不再)第40号事件の審査に当たり、会社に対し5号事件命令の履行勧告を行ったところ、同年10月2日、会社は、当委員会で最終決定が出るまでは全港湾神戸支部が団体交渉を求め得る仮の地位にあることを認め、同月6日、「従業員に全港湾神戸支部組合員はいない」との従前の認識を「全港湾神戸支部組合員らしき者がいる」に改め、全港湾神戸支部と5号事件命令の履行及び時間外労働に関する労使協定(以下36協定」という。)締結に関する折衝を行った。しかし、同月12日、会社は、全港湾神戸支部との間に労使関係を認め、5号事件命令の履行及び36協定締結について協定書を交わすことは、海員組合との協議の結果やはりできないとの結論である旨回答した。

 (19)

 平成12年10月13日、全港湾神戸支部は、上記(13)の同年7月31日付けで申し入れた団体交渉の応諾、誓約文の手交及び掲示を求めて、兵庫地労に救済を申し立てた(兵庫県地労委平成12年(不)第15号事件)。

 (20)

 平成12年11月2日、会社と全港湾神戸支部とは、関西国際空港における運転士の食事問題などについて折衝を行い、その後も59号事件初審審問終結時に至るまで5回程度の折衝を行っている。しかし、これらの議題は、36協定締結、運行路の再編成、事務兼務運転士の手当支給、安全対策及び春闘要求に関する問題等であって、本件団体交渉申入れ事項は、折衝の対象とはなっていない上、会社は、全港湾神戸支部と協定書を交わすことを拒否している。

 6 本件各懲戒処分及び本件転勤命令の賃金等への影響

 (1) 本件各懲戒処分及び本件転勤命令の賃金への影響
 本件各懲戒処分はいずれも平成12年5月中の一定期間を対象として行われたものであるが、基本給等からなる基準内賃金には影響はなかったものの、走行距離に応じて支払われる乗務員手当、割増賃金、日当、宿泊手当等からなり、その月分を翌月に支給される基準外賃金(通勤手当を除く。以下「乗務員手当等」という。)は、乗務を拒否されたことにより減少した。
 また、本件転勤命令は、古川に徳島営業所から洲本営業所へ転勤を命じたものであるが、転勤後の同年7月分以降、同人の乗務員手当等は従前に比べ半分以下に減少している。これは、徳島営業所では、超過勤務手当、夜勤手当及び祝日等勤務手当として割増賃金が支給されていたが、洲本営業所では、全港湾神戸支部組合員が従業員の過半数を占めていることから、前記5(18)のとおり、会社が全港湾神戸支部との36協定の締結を拒否しているため、時間外労働がなく割増賃金が支給されないことが大きく影響している。
 (2) 本件転勤命令の賃金以外への影響
 上記(1)のほか、古川は徳島県海部郡牟岐町にある自宅と洲本営業所が122キロメートルも離れているため、転勤当初は同営業所近くに単身赴任することになり、その後は、自宅から通勤しているものの、遠隔地通勤の連続を回避するために洲本営業所宿舎に宿泊することもある。
 本件転勤命令に当たり、会社は、海員組合との協定に基づいて古川に社宅を用意したり、移転費用、帰省費用、通勤手当等を支給している。
 また、古川は徳島営業所の従業員25名のうち全港湾神戸支部に加入している3名のうちの一人であり、しかも副分会長であったことから、本件転勤命令により同営業所における全港湾神戸支部の中心人物を欠くこととなった。

 7 関連する裁判の経過

 44号事件の初審命令について、全港湾神戸支部はこれを不服として、同命令の取消訴訟を神戸地方裁判所に提起したが、平成14年12月26日、同地裁は、海員組合について、「雇用主ではないが、会社に対する実質的な影響力及び支配力にかんがみると、労組法7条の「使用者」に当たると解するのが相当であって、兵庫地労委がその使用者性を認めず、海員組合に対する各救済申立てを却下したのは、労組法7条の解釈を誤ったものであり、違法である。」として主文第4項を取り消し、その余の請求を棄却するとした判決を言渡した。
 同事件被告兵庫地労委及び補助参加人海員組合は、これを不服として控訴し、現在、大阪高等裁判所に係属中である。

第3 判断

 1 本件各懲戒処分について

 (1) 会社の主張

ア 古川に対する5.12懲戒処分
 本件出頭命令によって古川に事情聴取等を行ったことは、同人自身も違法なものとも考えていなかったにも関わらず、全港湾神戸支部関係者と同僚運転手を集め、会社役員を取り囲ませて暴言をはかせるなどの脅迫的な行為により騒乱状態を作り出し、事情聴取等を行うことを困難としたことから懲戒処分を行ったものであり、不当労働行為ではない。
イ 近藤に対する5.12懲戒処分
 本件シートベルト不着用運転は、法令に違反する行為であり、懲戒に該当する行為であることは明らかである上、監督官庁からの厳正な対応を求められたこともあり、近藤を有給扱いの出勤停止処分として自宅謹慎させたことは、過度に重い処分とはいえない。
ウ 5.22懲戒処分
 古川及び近藤が、本社前で組合活動を行った平成12年5月15日午後1時ころは、同人らは、事実上の自宅謹慎処分として自宅待機義務のある有給扱いの出勤停止処分中であることから、この処分中の勤務時間は日勤と同じであり職務専念義務を有することが明らかである上、もとより同人らからは休暇届も出されていないことから休暇中でもなかったのであり、5.12懲戒処分の有無にかかわらず、古川及び近藤が無断で自宅を離れ、本社前で組合活動を行ったことは、職務専念義務に反する行為であり懲戒事由に該当する。

 (2) 当委員会の判断

 ア 古川に対する5.12懲戒処分
 古川に対する5.12懲戒処分は、本件出頭命令における事情聴取等を妨害したことを理由とするものであるが、第2の5(2)認定のとおり、古川は、会社の命令に従って出頭していること、自らは口論に加わっていないことに加え、全港湾神戸支部の組合員は、古川から連絡はあったものの、同人の依頼によってではなく、分会集会において古川を励ますために本社に赴く旨決定し行動していることから、古川が企図して騒乱状態を作りだしたものとは認められない。その後、本社において行われた古川に対する事情聴取は、混乱もなく行われていることが窺われることから、会社の業務が妨害されたとまではいえない。
 また、会社は、後記第3の3(2)ア(イ)判断のとおり、本件出頭命令は事情聴取以外にも乗務行動の疑義についての事実確認を目的としていたと主張するが、古川のどのような乗務行動が問題であるか、どのような理由で本社における事情聴取の際に併せて行わなかったのかについての疎明がないことから、この点について会社の主張は採用できない。 これらのことから、古川が騒乱状態を作り本件出頭命令の目的を妨害したとする会社の主張は採用できず、古川に対する5.12懲戒処分に相当性があったということができない。
 イ 近藤に対する5.12懲戒処分
 近藤に対する5.12懲戒処分は、本件シートベルト不着用運転を理由とするものであるが、第2の5(17)認定のとおり、平成12年度上期に全港湾神戸支部の組合員ではない運転士が起こした交通事故について、一括していずれも懲戒処分ではない訓告とした措置と比較すると、例え法令違反であるとして監督官庁からの指摘があったとはいえ、約1か月後に4日間の出勤停止処分としたことは、同人にのみ性急かつ重い処分を行ったものと認められる。
 このことから、過度に重い処分でないとする会社の主張は採用できず、近藤に対する5.12懲戒処分に相当性があったとはいうことができない。
 ウ 5.22懲戒処分
 会社は、出勤停止処分期間中の従業員は自宅待機する義務があるにも関わらず、これに反して勤務時間中に会社の施設内で組合活動を行ったことは職務専念義務違反に該当すると主張するが、就業規則上も本件賞罰委員会懲戒決定通知書にも自宅待機を命じる旨の文言はなく、他に会社が古川及び近藤に出勤停止処分期間中自宅待機を指示したことを認めるに足りる疎明もない。さらに、会社設立以降同人らの処分以前に出勤停止処分を受けた者がいないことから、社内に出勤停止処分が事実上の自宅謹慎処分であるとの理解があったとも考え難く、出勤停止処分に自宅待機義務があるとする会社の主張は採用できない。
 また、上記ア及びイのとおり、5.12懲戒処分自体が相当性を欠いている上、懲戒処分の理由とされた組合活動は、本社前の公道上で約1時間行われた抗議行動であることと、会社の業務遂行に具体的な支障が生じたとの疎明もないことから判断して、古川及び近藤が抗議行動に参加したことを懲戒の対象とすることは妥当とはいえない。
 なお、第2の6(1)認定のとおり、同人らは乗務を拒否されたことによって乗務員手当等が減少しており、経済的な面から見ても不利益な処分であることは明らかである。
 以上のとおり、本件各懲戒処分はいずれもその処分の相当性を欠いていること、いったんは全港湾神戸支部を脱退する意思を表明した古川及び近藤が、最終的に全港湾神戸支部に留まる旨表明してから間もないころに行われたものであること、しかも、古川及び近藤が同時に懲戒処分に付されたことを併せ考えるならば、本件懲戒処分は、古川及び近藤が一度は全港湾神戸支部を脱退する意思を表明しながら、その意思表示を撤回して全港湾神戸支部に留まったことに対する報復としてなされた不利益取扱いであるとともに、全港湾神戸支部の影響力を排除する目的で実行された支配介入であって、いずれも労働組合法第7条1号及び第3号に該当する不当労働行為であるとした初審判決は相当である。

 2 本件転勤命令について

 (1) 会社の主張

 会社における人事異動は、@引き続き発生する離職船員の職場の確保のため、運転士としての技量、経験を考慮して均衡のとれた人事配置、A多くの運転士に行路事情に習熟させること、B営業所人員の効率的配置を目的とするものである。
 本件転勤命令は、平成12年には淡路花博の開催による大磯及び洲本営業所の運転士の増強と、洲本営業所の所長業務の一部の補助を担ってもらいたいことから、徳島営業所におけるベテラン運転士の中から人望と年齢を考慮して古川を選んだものである。また、古川自身、かねてから転勤を希望しており、辞令を交付した際も転勤を拒否せず、速やかに転勤をし、会社に対して転勤に伴う費用の請求も行っている。
 さらに転勤に当たっては、借り上げ社宅を用意するなどの処置をしており、古川に経済的な不利益は生じていない。

 (2) 当委員会の判断

 会社は、運転士としての技量、経験を考慮して人事異動を行っており、本件転勤命令は、技量その他が優秀であるベテラン運転士として古川を選んだものと主張するが、一方で、後記第3の3(2)ア(イ)判断のとおり、古川の乗務行動に疑義があったとも主張しており、会社の古川の技量に対する主張には一貫性がない。その上、営業開始から2年という期間では、他の従業員と比べ古川にのみ特段の経験があるとも考え難いことから、会社の主張は採用できない。なお、59号事件初審審問において、TNは、所長業務の一部の補助としての業務に関する尋問に「よく理解できません」旨証言していることからしても、古川を同業務に従事させているものとは思われず、この点からも会社の主張は採用できない。
 さらに、多くの運転士に行路事情に習熟させること、営業所人員の効率的配置を目的として人事異動を行っていると会社は主張するが、古川が、どのような具体的理由に基づいて選ばれたのかについての疎明も不十分である。
 また、会社は、古川がかねてから転勤を希望しており、転勤を拒否したことはないとも主張するが、転勤を希望していた旨の疎明がないことに加え、第2の5(9)認定のとおり、古川が転勤命令直後に会社に対して転勤命令への異議を申し立てていることからみても、この点について会社の主張は採用できない。
 以上に加えて、第2の4(3)認定のとおり、海員組合の役員であったTNが会社の代表取締役専務に就任するなど平成12年4月に会社の新体制が発足して以降、以前にも増して海員組合の会社に対する影響力が強まる中、全港湾神戸支部と会社との対立が深まっていたことが認められる。しかも、本件懲戒処分の直後、突然に本件転勤命令が発令されたものであること、本件転勤命令により古川の乗務員手当等の額が大幅に減少したこと及び自宅からの通勤を困難にしたこと並びに同人が副分会長であったことを併せ考えると、本件転勤命令は、古川が、いったんは全港湾神戸支部を脱退する意思を表明したものの、それを撤回したことに対する報復としてなされた不利益取扱いであるとともに、徳島営業所における分会活動から副分会長を排除し、もって全港湾神戸支部の影響力を減殺することを意図してなされた支配介入であって、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であるとした初審判断は相当である。

 3 全港湾神戸支部の運営に対する言動等について

 (1) 会社の主張

ア 会社の全港湾神戸支部に対する言動
(ア) 新路線に関して、海員組合の組合員以外は新路線に乗務させない旨発言をしたことは全港湾神戸支部の排除を意図したものではなく、現に徳島営業所所属の運転士が全員で乗務しており、何ら差別的な措置は行っていない。

(イ) 本件出頭命令は、古川に対する事情聴取及び事実確認を行うための業務上の必要によるものであり、支配介入を意図して行ったものではない。

(ウ) 個別面談は、会社の経営方針等を従業員個々に報告し理解を得るために行ったものであり、全港湾神戸支部の排除を意図して行ったものではない。
イ 組合事務所の貸与拒否
 会社は、労使関係のない全港湾神戸支部に組合事務所を貸与する義務はないので、これをもって会社が全港湾神戸支部の運営に支配介入したことにはならない。また、平成13年7月以降、会社は何人にも組合事務所を貸与していないのであるから、全港湾神戸支部に貸与する義務はない。

 (2) 当委員会の判断

ア 会社の全港湾神戸支部に対する言動
(ア) 会社は、新路線には徳島営業所所属の運転士が全員で乗務しており、何ら差別的な措置は行っていないと主張するが、第2の3(2)認定のとおり、平成12年1月19日には、全港湾神戸支部の組合員は新路線に乗務させないと発言したり、同年2月4日には、会社は海員組合しか認めない、海員組合の組合員でなければ新路線には乗務させない、新路線は徳島営業所の持ち行路であり、乗務できない人がいると勤務交番が組めないので転勤が必要であると説明したりしている。
 その後、関西空港リムジンバス運営協議会から苦情の申出があったことと、新路線運行に係る近畿運輸局からの免許交付にも影響がでかねないことを危惧したことから、同月9日、折衝の場において、全港湾神戸支部に上記発言と説明を撤回・陳謝している。

(イ) 会社は、本件出頭命令は、事情聴取及び事実確認を行うための業務上の必要によるものであると主張するが、第2の5(2)認定のとおり、本件出頭命令は、古川が全港湾神戸支部に留まる意思を表明したことに対して、同人の意思を確認する事情聴取を行うことを目的として行われたものと認められる上、海員組合に同行を要請したことの意味をかんがみれば、本件出頭命令は、海員組合の影響力の下、同人の全港湾神戸支部に留まりたいという意思を翻意させるために行われたものといわざるを得ない。なお、会社は、事実確認とは乗務行動の疑義を質すものであると主張するが、古川にどのような乗務行動が問題であるか、どうのような理由で本社における事情聴取の際に併せて行わなかったのかについての疎明がないことから、この点について会社の主張は採用できない。

(ウ) 会社は、全港湾神戸支部を排除する目的をもって個別面談を行ったものではないと主張するが、第2の4(5)認定のとおり、平成12年5月9日以降6月下旬ころに実施された全従業員に対する個別面談の中で、TNが、会社は海員組合以外の労働組合の存在を認めないと説明するとともに、全港湾神戸支部の組合員に対して、全港湾神戸支部で活動を続ける理由を問い質している。
 これらの会社の言動は、全港湾神戸支部の存在を嫌悪し、その排除を図る意図の下に行われた一連の行為とみるべきであり、全港湾神戸支部の組合員に対する脱退勧奨及び支配介入であって、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であるとした初審判断は相当である。
イ 組合事務所の貸与拒否
 会社は、第2の2(6)及び(9)認定のとおり、平成12年1月から平成13年7月までの間、洲本営業所において、海員組合に組合事務所を設置・貸与していたにもかかわらず、全港湾神戸支部から申入れのあった組合事務所の貸与を拒否しており、その後も全港湾神戸支部と労使関係を認めることはできないなどとして団体交渉を拒否し続けている。これは会社が全港湾神戸支部との労使関係を一貫して否認し続けてきた態度の表れであって、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であるとした初審判断は相当である。
 しかしながら、会社は、同月以降海員組合へ組合事務所を貸与していないことなどの事情を勘案し、主文のとおり変更し、文書手交を命じることが相当であると思料する。

 4 平成12年7月31日付け団体交渉申入れについて

 (1) 会社の主張

ア 団体交渉申入れへの対応
 本件団体交渉申入れ事項のアからオまでについては、全港湾神戸支部との交渉過程の中で、処分を撤回しないなど会社の態度を何度も明確に回答しており、これらの経緯は実質的団体交渉に外ならない。したがって、全港湾神戸支部に被救済利益はなく、棄却は免れない。
イ 44号事件申立ての違法性
 本件団体交渉申入れ事項のアからオまでについては、59号事件において審査が行われているのであるから、44号事件は同一事項に対する二重の申立てとして違法であり却下を免れない。

 (2) 当委員会の判断

ア 団体交渉申入れへの対応
 会社は、第2の5(12)ないし(16)、(18)及び(20)認定のとおり、平成12年6月30日以降、多数回にわたって全港湾神戸支部との折衝を行ったことが認められるが、全港湾神戸支部に対する会社の姿勢は、「従業員に全港湾神戸支部組合員はいない」とか「従業員に全港湾神戸支部組合員らしき者がいる」との態度をとり続けて一貫して全港湾神戸支部を団体交渉の相手方として認めない上、折衝の結果、合意が成立したとしても労働協約の締結を拒否するとの立場をとっているのであるから、このような姿勢で臨んでいる折衝を団体交渉とは認めることは到底できない。
 また、折衝の内容をみても、本件団体交渉申入れ事項のアからオまでについては、同年8月29日付け書面で会社の考え方が全港湾神戸支部に対して示されているだけで、これまでの会社と全港湾神戸支部との折衝において協議がなされたと認めるに足りる格別の疎明はなく、実質的な団体交渉が行われたものと認めることもできない。
 したがって、本件団体交渉申入れ事項のアからオまでについて、誠実に団体交渉を行っているとの会社の主張は採用できない。
イ 44号事件申立ての違法性
 第2の5(8)、(9)及び(19)認定のとおり、59号事件は、本件各懲戒処分及び本件転勤命令の撤回並びに全港湾運営に対する支配介入の禁止などを求める申立てであるのに対し、44号事件は団体交渉の応諾を求める申立てであるから、各申立ては異なる事項の救済を目的としてなされた申立てであることは明白である。
 以上とおり、会社は本件団体交渉申入れ事項のアからオまでについての団体交渉を正当な理由なく拒否しているのであるから、これを労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとした初審判断は相当である。

 以上のとおりであるので、初審命令主文の一部を主文のとおり変更するほかは、本件各再審査申立てには理由がない。
 よって、労働組合法第25条及び第27条並びに労働委員会規則第55条の規定に基づき、主文のとおり命令する。

平成15年9月17日

                                                 中央労働委員会

会 長  山 口  浩 一 郎

 

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