さて、次はクラリティーについてご紹介していきます。グレードの説明は4Cのページで致しましたが、もう少し詳しい部分をAGLの資料を抜粋しご紹介いたします。クラリティーは一言で言えばどれだけ内部や外部の不純物やキズが少ないかを体系的に分けて、検査し総合的に判断した上でグレードを示したものですがVSグレード以上の場合はルーペではなく、顕微鏡で検査をしないと難しい部分があります。
特徴が少ない石になればなるほど僅かな特徴も見逃してはいけませんし、又発見が困難にもなります。
実際には内包物の種類まで特定する必要もありますので、
数十倍まで拡大可能な宝石用顕微鏡も使用されます。
カメラと同じで拡大率を上げるに従い、レンズの焦点距離が短くなり検査も困難になります。
あらゆる向きと角度から検査しますが、時には1つの内包物が多面鏡のように数多くに見えるように映り込んだり
特定の向きや角度からしか発見できない特徴が存在する事もあります。
何度も石を回転させたりしながら表裏の両面から検査しますので、非常な熟練が必要になるのです。
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VS1 |
VS2 |
SI1 |
SI2 |
I1 |
I2 |
I3 |
それではクラリティーの検査規定や内包物には形状や状態により名称がありますので、そのあたりをご紹介いたします。(AGL2007年の資料より抜粋)
1つ1つの要素を個別に把握した上で、特徴の影響力を総合的に考慮しグレーディングをする事が重要になります。
※印は資料の補足として記載しました。又フローレスは特徴が皆無といってもよいグレードですが
特徴に除外される項目がありますのでご紹介しております。
1. クラリティー グレーディング
クラリティーとは、ダイヤモンドのクラリティー特徴の相対的な少なさのことを言う。
クラリティー特徴はインクルージョンとブレミッシュに分類される。※
※ インクルージョン-内的特徴、ブレミッシュ-外的特徴
2. クラリティー グレーディングの要素
クラリティー グレーディングの際、クラリティーを決定するための5つの要素(サイズ、数、位置、性質、及び色またはレリーフ)を個別に分析するのではなく、クラリティー特徴の影響力を要素全体に渡り考慮してグレードを決定する。
以下の特徴が観察されても、フローレス(FL)のカテゴリーからはずされない。
・フェイスアップ観察で認められないエキストラ ファセット。※1
・ガードル幅内に限定されたナチュラル。ただし、伸長し過ぎてガードル輪郭の丸みを損なってはならない。※2
・反射性がなく、白色や他の色を帯びていない内部グレイニング。ただし透明度を阻害していないこと。※3
・フェイスアップで認められない、ガードル幅内に限定されたレーザー刻印。
※1 エキストラファセット
標準外の余分なファセット。本来58面のラウンドブリリアントよりカット面が多くなってしまう。
カッターは出来るだけこういったものは作らないようにしますが、僅かなファセットの修正時や軽微なブレミッシュを取り除くために
研磨した結果、仕方なく出来上がった面です。品質が向上すると見込んだ上で作るファセットのため、頻繁にあるものではありません。
FLともなると、あったとしても10倍程度の拡大では発見はまず難しく、クラウン側以外に存在することになります。
通常はカットグレードに反映されるもので、直接クラウンから見える場合はブレミッシュ扱いとされます。
※2 ナチュラル
ダイヤモンドの原石が研磨せずに残された部分。カットすることによりダイヤモンドは輝きますが
その際カッターは原石の形状からどのように効率よく(歩留まりを良くする)カットしていくかを考えます。
微細ですが未研磨の部分を残したまま良いプロポーション のルースに仕上げる事ができたという事はカッターの腕が良い証拠にもなります。
美観を損ねては意味がありませんし、原石の外側が残るわけですから、必然的にガードルに残される事が多くなります。
※3 グレイニング
結晶の成長線の一種。表面から内部に見えるが結晶にひずみが起きたりした場合は光の反射で白やピンクの線に見えることがあります。
・インターナリー フローレス(IF)がFLと異なるのは、軽度の再研磨で除去できる特徴(軽度の表面グレイニングは例外である)があることである。
以下は特徴の説明と鑑別機関がクラリティー特徴の個々の説明とそれを記録しておく(プロッティングと言います)時に使われる記号になります。
個々の特徴を把握するために顕微鏡が用いられます。
後日、石の同定が可能になりますので、石、鑑定書のすり替え、盗難の時などに役立てられるよう各々の鑑別機関が定めた鑑定書やソーティングの
保障期間中は大切にデータが保管されます。
クラリティー特徴の要約
a) ブレミッシュ
アブレージョン(Abr) :加工済ダイヤモンドのファセットジャンクションに沿う一連の微小なニックの列;エッジが白色でぼやけた外観を呈する。
ナチュラル(N) :研磨済みダイヤモンドに残された原石表面の一部あるいは地肌
;通常ガードル上やその近辺に見られる。
ニック(Nk) :深さを感じさせないチップの特徴に似た小さな欠けで、通常ファセットジャンクション、ガードルエッジ、あるいはキューレットに発生する。
ピット(Pit) :小さな白い点のように見える表面の微小な穴。
ポリッシュ ライン(PL) :研磨により残された細かい平行する畝や溝;複数のファセットに見られるが研磨線がファセット エッジをまたぐことはない。
透明または白色に見える。
ポリッシュ マーク(PM) :過度の熱、あるいは結晶構造の不規則性が原因で滑らかな研磨が出来ないことに因る表面のもやがかかった部分のこと。
バーン マーク(BM)とかバーン ファセット(BF)とも言う。
スクラッチ(S) :ダイヤモンドの表面をよぎる濁白色の細線;見かけ上、深さがない外観。
サーフェス グレイニング(SGr):内部グレイニングに似るが、表面上のグレイニングを指す;結晶構造の不規則性に原因する。
エキストラ ファセット(EF) :ダイヤモンドの対象性を無視した、またカットスタイルに不必要なファセット;大抵、ガードル近辺に存在する。
ラフ ガードル(RG) :むらのあるざらついた粒状のガードル表面;通常ガードルエッジにニックを伴う。
リザード スキン(LS) :研磨済みダイヤモンド表面の波打つような、あるいは凸凹のある部分。
自然照射のしみ :自然界の放射線により原石表皮上に発生した緑または褐色のしみ;典型的なブレミッシュだが、石内部に及ぶときはインクルージョンとみなす。
b) インクルージョン
ブルーズ(Br) :木根性の微小フェザーを伴う表面の小さな砕けた箇所;主としてファセットジャンクションに生じる。
キャビティ(Cv) :フェザーの一部が欠けたり、表面に露出している結晶が抜けたり、研磨中に除去されて出来た不定形の開口部。
チップ(Ch) :石表面に加わった衝撃により生じた浅い開口部;主にガードルエッジやファセット エッジやキューレットに発生する。
クラウド(Cld) :細かすぎて個々に識別できないピンポイント群のことで、もやのかかった外観を呈する。
クリスタル(Xtl) :ダイヤモンドに内包された鉱物結晶。
フェザー(Ftr) :石内部の亀裂を指す業界用語でしばしば白色で羽毛状の外観を呈する。
グレイン センター(GrCnt) :結晶内のひずみが集中した部分;白色や暗色の糸状もしくはピンポイント状の外観を呈する。
インデンテット ナチュラル(IndN):研磨表面より僅かに内部に存在する原石の元々の表面あるいは地肌。
内部グレイニング(IntGr) :結晶成長の不規則性に由来する白色、色付き、あるいは反射性の直線あるいは曲線状の外観を呈する。
ノット(K) :内包されたダイヤモンド結晶が加工後に研磨表面に一部露出したもの。
ニードル(Ndl) :小さな竿状の外観の細く伸長した結晶。
ピンポイント(Pp) :小さい点状に見える微小結晶。
トゥイニング ウィスプ(W) :ダイヤモンドの成長面に形成された一連のピンポイント、クラウド、あるいは結晶;結晶内のひずみ部分や双晶面に関係する。
ベアデッド ガードル(BG) :ガードル表面から石内部に入り込んでいる微小フェザー;カッティング過程で発生。
レーザー ドリル ホール(LDH) :レーザービーム照射により表面から内部に達する小さく細い穴。
内部 レーザードリリング :レーザービーム照射により発生した表面に達するフェザーあるいは内部のレーザードリリング。
クリベージ(Clv) :原子面間の結合力の弱い箇所に沿って発生する割れ。
エッチ チャンネル :表面開口部から内部に至る腐食孔;しばしば長手の方向に垂直の条線が見られる。
以上がクラリティ特長の名称と記号になります。
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グレーディング レポート発行時の記載コメント
1. ガードル刻印
ガードル刻印のコメントを記載する。
フェイスアップで認められず、ガードル幅内に限定されたレーザー刻印は、フローレス(FL)の範囲内とする。
[コメント]
備考:ガードル刻印を認む
2. テーブル上の表示
10倍で深さが確認出来ない場合、ブレミッシュとみなし備考欄にコメントを記載する。
[コメント]
備考:テーブルに表示を認む
3. レーザー溝(Laser groove)の取り扱い
レーザー溝はポリッシュの評価項目とする。
ただし、深さが確認される場合にはクラリティー特徴とする場合がある。
ワークシートに記録を残し、コメントの記載は不要とする。
レーザー ドリルホールに関してはコメント欄に存在の旨が記載されます。
[コメント]
グレーディング レポート:レーザー ドリルホールを認む
ソーティング メモ :LDH
内部レーザー ドリリングのコメントを明記する。
[コメント]
グレーディング レポート:内部レーザー ドリリングを認む
ソーティング メモ :ILD
以上がレポートやソーティングに記載されるコメントです。
アブレージョン(Abr)、リザード スキン(LS)、ニック(Nk)、ピット(Pit)、ポリッシュ ライン(PL)、ラフ ガードル(RG)、スクラッチ(S)、ポリッシュ マーク(PM)
はクラリティだけでなく、カットのフィニッシュ検査項目であるポリッシュ評価にも影響を与えます。
4Cの1要素、カラー説明のページでダイヤモンドにもカラーコーティングがされる事があると記載しましたが、クラリティに関しても
含浸処理(鉛やオキシ塩化ガラスなど)がなされているものがあります。
フラクチャー充填処理と呼ばれグレーダーはフェザーに摘要します。
拡大検査で発見が可能で、レポートやソーティングにはコメントが記載されます。
色石(カラードストーン)とクラリティ
ダイヤモンドから少し話がそれますが、色石(ダイヤモンド以外の宝石。色がついたものが多いです。)にFLやVVSと
記載されて販売されているのをご覧になった事があるでしょうか。
ダイヤモンドのFLと色石にFLと区分されて販売されている物は全く性質が異なるものですので少し触れたいと思います。
まず、色石には世界に共通するようなクラリティ基準は存在しません。
色石の場合は品質に大きな幅があり、種ごとに内包物やキズの
特徴に傾向があったり、同じ種でも産地や色合いによっては内包物の種類が変わってくる場合があります。
ですので、
品質を決定し世界の鑑定機関が書面に発行できるほどの基準を設けのるは難しいと思われます。
(但し、CIBJO(国際貴金属宝飾品連盟。スイスに本部事務局があり国連の経済社会理事会から宝石やジュエリー関連のコンサルタント組織として
唯一
認定を受けた機関です。
)
では代表的な色石にはある程度、品質と価値に影響する要素を公開しています。)
ダイヤモンドに関しては組成が炭素のみから成るためか、世界のどこで
産出されても極端な色の違いや、クラリティの違いは比較的少なくなります。
ダイヤモンドの基準にも政治的、歴史的な背景から基準は複数存在しますが、世界基準を策定する事が可能なのでしょう。
GIAに関しては代表的な色つき透明石に関しては傾向によって3つのタイプに分類しクラリティーグレードを設けています。
(例えば、内包物が少ないアクアマリンはTypeI、少し多くなるルビーやサファイアがTypeU、内包物が多いエメラルドはTypeVになります。
鉱物の観点ではアクアマリンとエメラルドは同じ種なのですが、アクアマリンはペグマタイト中でゆっくりと成長しストレスを受けにくく
透明度が高い傾向があります。一方でエメラルドは変成作用による所が大きいため高温と高圧によるストレスを受けやすいという生成環境の違い
から産出時の傾向として内包物や傷が多い傾向にあります。)
カラードストーンでは世界的に通用する基準としてのFLやIFグレードは存在しませんので混同なさらないようにして下さいね。
海外の鑑定機関ではカラードストーンのグレーディングレポートを発行しているところもありますが、独自で基準を定めたものですし
グレード名はダイヤモンドと混同しないように、全く異なる名称を使用しているようです。
それでは次はいよいよ4Cの最後カットについてご紹介していきますね。
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