カット(Cut)
ダイヤモンドの輝きは原石をカットすることで生まれます。原石そのものだとただのガラスのようにしか見えません。
カットしてジュエリーに使用可能なルース(裸石)にするのですが、その良し悪しで美しい輝きを放つかどうかに大きな影響を与えます。
その中でもラウンドブリリアントカットは、カッターで数学者でもある人たちが光学的理論で最高の輝きを得られるように考え出された
カットになります。
まず、カットの名前ですが、通常はシェイプとスタイルの組み合わせで成り立ちます。
シェイプ⇒石を真上から見たときの形(ラウンド-円、オーバル-楕円、スクウェア-正方形、レクタンギュラー-長方形 など)
スタイル⇒カットの方法(ブリリアント-中心から放射状にファセット(カット面)を配列。ステップ-沿って平行にファセットを配列など)
ダイヤモンドで一番人気があり、一般的なのがラウンドブリリアントです。
歩留まりが約50%と悪いですが、美しい輝きを活かす事が可能となるカットです。
GIA基準では
・標準的なラウンドブリリアントカット(円形で58面(又はキューレットがない57面)カットをされたダイヤモンド。婚約指輪などで親しまれています。)
・D〜Z カラー
・FL〜I3 クラリティ
・0.18ct以上
の石に対しカットグレーディングがなされます。
ダイヤモンドのカット面(ファセット)には名前が付けられており、面の大きさ、面と面の角度、対称性、研磨状態が検査されます。
ファセット各部の名称
上から見た図 |
側面から見た図 |
各部の名称 |
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テーブル |
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スター
ファセット |
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ベゼル
ファセット |
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アッパーガードル
ファセット |
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ガードル |
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ローワーガードル
ファセット |
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パビリオンメイン |
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プロポーション検査項目(反射光による輝きに影響)
・クラウン角度 ・パビリオン角度
・クラウン高さ ・パビリオン深さ
・テーブル径 ・
スターファセット長さ ・
ローワーハーフ長さ
・キューレットサイズ ・
ガードルの厚み(全体の深さから%と共に測定)
・平均ガードル直径
・
スターファセットの長さ(テーブルエッジからガードルエッジに対する%)
・
ローワーハーフ長さ%(キューレット中心からテーブルエッジまでの水平距離に対して
2つのパビリオンメインが接する点(ローワーガードルファセットの先端)から最短ガードルエッジまでの距離8箇所の平均)
・ガードルの厚み
フィニッシュ検査項目(表面光沢や全体の美観に影響)
・ポリッシュ(研磨の質や正確さ) ・シンメトリー(ファセットの形や対称性)
・ペインティングとディギングアウト(ガードルのベゼルファセットとの接線部又は
ガードルのアッパーガードルファセットとの接線部分を厚くする。
通常はどちらも同じ厚みだがどちらかを大きくする事で歩留まりを良くする
(重量を増加する)
事が可能。厚くしすぎるとフェースアップの外観に影響を与える。) |
光は内側で2回から多いときは100回以上も反射を繰り返し、人間の目に届くと分析がなされています。又、テーブルサイズ、クラウン角度
パビリオン角度を変化させるだけでも2万通りの組合わせが発生します。ガードルやキューレットの考えると更に複雑になります。
放たれる輝きにおいてプロポーションとフィニッシュのどちらがより影響力が大きいかはプロポーションになります。
一般的な傾向として
・テーブルの大きさ=大きいと光のリターンは増える(ブライトネス増加)が、ファイアは減ります。
・クラウンが厚い(クラウン角度がきつい)=光が反射しにくくなりますが、ファイアは増えます。
・クラウンが薄い(クラウン角度が緩やか)=多くの光のリターンがあるが、ファイアは減ります。
・パビリオンが深い=パビリオン側へ光が抜け、輝きが少なくなる。特に深いと石の中心が暗く鈍く見える(ダークセンター、ネイルヘッド)場合もある。
・パビリオンが浅い=ガードル方向へ抜ける光が増え、輝きが少なくなる。あまりに浅いと中心が目玉(フィッシュアイ)のように見える場合もある。
理想とされるカット |
バランスが良いカット |
パビリオンが深いカット |
パビリオンが浅いカット |
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入射した光が内部で反射しテーブルやクラウンから多く放たれ見る人の目に美しい輝きが感じられる。
テーブルは主として眩い白い光クラウンからはダイヤモンドの高い分散効果で虹色のファイアが見えます。
| 左と同様に、入射した光が内部で反射し効率よくテーブルや
テーブルやクラウンを通して戻ってくる。
見る人の目に美しい輝きが感じられる。 |
パビリオンが深すぎると入射した光は
内部で反射せずに、外に抜けてしまう量が増えてしまいます。特にクラウンから放たれる光が減り、暗く感じる石になってしまいます。 |
パビリオンが浅すぎても入射した光は、パビリオン側から外へ抜けてしまう量が増えてしまいます。特にテーブルを通して戻ってくる光が減り、輝きが少なくなります。 |
ブリリアントカットに良くあるシンメトリー特徴 |
円形のくずれ |
テーブルが水平でない |
中心のずれ |
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シンメトリーが崩れ楕円になっている。
カットのミスにより、楕円になる場合や
画像とはイメージが異なるが、原石の生地不足であるガードルが円にならずに
真っ直ぐになっている事もある。
| 水平であるガードルに対し、テーブルが水平になっていない。 |
クラウン又はパビリオンのどちらかのシンメトリーが崩れる事で
テーブルの中心とキューレットの位置が上下で見たときにずれている。
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カラーストーンなどでは当たり前のようによくあることですが、ダイヤモンドではほんの少しのずれでも厳しい判定が成されます。
ただ、機械部品とはことなり、希少な天然石ですので、歩留まりが優先されます。逆に良いとされるカットは通常歩留まりが悪くなります。
完全な真円にすることはほぼ不可能ですし、100分の1〜1000分の1mm単位では非対称になっている場合が殆どです。
プロポーションとフィニッシュの総合評価として5つのカットグレードにグレーディングなされます。
EXCELLENT
(エクセレント) |
VERY GOOD
(ベリーグッド) |
GOOD
(グッド) |
FAIR
(フェアー) |
POOR
(プアー) |
最高品質。最大のブライトネスとファイヤを放つ。ダイヤモンドに入る光のほぼすべてを反映する。
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高級。優れたブライトネスとファイアを放つ。ダイヤモンドに入る殆どの光を反射する。通常の条件下ではエクセレントと似通っており十分に美しい。
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良質。ダイヤモンドに入る大部分の光を反射し、どの方向からも平均的に美しい。上位グレードよりも価格的にも入手しやすい。素人が肉眼で見ても上位グレードとの区別は困難。
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普通。ガードルやパビリオン側から光を逃してしまい、ブライトネスとファイアがやや減少する。
但し0.75ct程度未満ならスパークル(シンチレーション要素)に関しては上位グレードとの差はわかりにくい。
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劣る。ガードルやパビリオンから多くの光が漏れてしまう。素人目にも上位グレードと比較すると輝きが劣って見えると認識できる場合が多い。
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以前はグレーディングの際には顕微鏡を用いた検査と、プロポーションスコープ、プロポーションアナライザーキットなどが使用されていましたが
現在は基本的にはコンピューターを利用し、イスラエルのサリンテクノロジー社のダイヤビジョン、オギ社のメガスコープといったスキャナーと
GIA facetwareTM Cut Estimator というアプリケーションソフトで3850万通り以上のパターンデータを利用し自動計測されます。
但し、ガードル厚やキューレットサイズ、ペインティング、ディギングアウト、ポリッシュ、シンメトリーなど目視要因も必要で、グレーディングには
専門教育を受け、経験を積む必要があります。
GIAではプロポーション要素のサイズ表記、キューレットやガードルには用語表記をし、フィニッシュ要素には特徴と評価の記載にとどめ、具体的なカットグレードは記載していませんでした。
しかし、1989年GIAの当時の学長が「経験則や業界からのインプットによる、偏見の無いサイエンスに基づいた実践的、
実用的なカットシステムの確立が、公共の利益に貢献し、業界にも好影響を与える。」と考え、カットグレードの導入への研究が始まり、2005年に導入。日本では2006年以降カットグレードが明記されるようになりました。
ダイヤモンドの理想の輝きとは何かという研究は1870年代から研究が続けられ、理想とされるデータは1920年前後から
発表され続けていますが真実としての理想のカットというものを定義する事
は不可能です。
なぜなら美しさに絶対はありえず、主観の問題でもあります。
上記でテーブルとクラウンの高さ、パビリオンの深さについての傾向を示しましたが、最近のGIAの研究では
様々なプロポーション要素の組み合わせで、一概に決められない事もわかってきました。
しかしながら、前ページであげた光の要素、特にブライトネスと虹のファイアは誰の目にも魅力的に感じる事でしょう。
それらを引き出すためにプロポーションが重要であることは確かで、現在も研究が続けられています。
カットグレード、ポリッシュ、シンメトリー全てにエクセレントのものはトリプルエクセレント(3Ex)と呼ばれます。
3Exの石は殆どが特殊なスコープで見るとテーブル側に8本の矢印、パビリオン側から見ると8つのハートが見える事が多く
「ハート&アロー」、「ハーツオンファイア」、「ハート&キューピッド」(いづれも登録商標)と呼ばれます。
万国に通ずるグレーディングとは異なりますが、認知度が高くなっています。
詳しくは後ほど触れます。
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