日本の伝統調味料「醤油の豆知識」

醤油の原材料

■醤油の原材料

「大豆・小麦・塩」 そして 「水・麹菌」

大豆、小麦、塩


醤油の原材料は大豆と小麦、それに塩です。この他の原料は水と麹菌(こうじきん)だけです。
大豆にはたんぱく質が豊富に含まれており、畑の肉と呼ばれるほど栄養があります。このたんぱく質は、麹菌によって分解され、醤油がつくられていく過程で酵母、乳酸菌などの微生物の作用を受けて、醤油特有のうま味や色の成分に変化します。
一方、小麦はでん粉を多く含み、主に、醤油の香りをつくり出す原料として使われます。 塩(食塩水)は麹菌などを緩やかにはたらかせる大切な役割をします。醤油の原料の水は、諸味(もろみ)の発酵や旨味成分の一部を成すとともに、熟成にも影響を与えます。

醤油は、もともと発酵等の製造過程を経ることにより、アルコール分を1から2%含むものになります。原材料表示にアルコールが記載されている醤油がありますが、これは醤油に生育してくる産膜性酵母(いわゆる醤油のカビ)の防止が目的です。このため、保存料などの添加物を使わないで雑菌を防ぐためにアルコールを添加しています。


■大豆
“蒸された大豆”


丸大豆または脂肪加工大豆を使用します。
大豆はタンパク質や多量の油脂が含まれており、丸大豆を使用すると醸造の過程で醤油として搾った後でも油脂が上部に浮かぶので、最近は油脂を除去した脱脂加工大豆が主に使われています。

一般には、脱脂加工大豆で作られた醤油は、「香りの立つキレのある風味」、「強いうま味」を特長とし、丸大豆を用いて造られた醤油は「まろやかさ」、「重厚な風味」、「深いうま味」が特長であるといえます。
丸大豆醤油の場合のように、大豆の油分があると熟成の過程で油が「脂肪酸」と「グリセリン」に分解されます。グリセリンは、甘味をもった油で溶けやすい性質も持ち、これが長い熟成の間に醤油の中に溶け込んでいくために、コクのあるまろやかな味に仕上がります。
大豆の成分は一般的に水分12%位、粗たんぱく質35~40%、粗脂肪15~20%、その他となっています。その中のたんぱく質は約20種類ものアミノ酸から成り、味に関する最も大切なアミノ酸はグルタミン酸、アスパラギン酸といいます。


■小麦
“炒熬割砕の小麦”


小麦には、たんぱく質と糖質が含まれており、小麦の炒り方一つで香りやあまみが左右されます。日本の醤油の特色は、炒った小麦を加えることによって複雑な味わいと香ばしさが生まれます。
醤油の製造の過程で、小麦を炒り砕く(炒熬割砕)のは、酵素の作用を受けやすくすることと、砕かれた小麦は混ぜ合わせる大豆の表面を覆って水分の調節や雑菌の繁殖を防ぐ役目を担います。
小麦の成分は炭水化物が82~83%位、粗たんぱく質12%位、粗脂肪2.5%位、その他となっています。


■食塩
食塩水は単に塩味のもとになるだけでなく、もろみを雑菌による腐敗から守り、しょうゆ造りには欠かせない耐塩性や好塩性の麹菌・乳酸菌・酵母などの有用な微生物の活動を助ける重要な役割があります。


■麹菌(こうじきん)
“麹菌を混ぜ合せる”


種麹は醤油の麹菌を培養したもので、醤油用のコウジカビ(Aspergillus sojae)が使われます。種麹に使用されるカビ(すなわち麹製造に使用されるカビ)を総称して麹菌と呼びます。麹菌はジアスターゼ、プロテアーゼ、リパーゼなどの分解酵素があり、でんぷん、タンパク質、油脂などの加水分解を行います。
また、麹菌は30種以上もの香りの成分を造り出す効果もあり、みそ、清酒、焼酎、みりん、米酢等醸造製品には必ず使われています。


ミニ豆知識「麹菌」について(2015,身近で活躍する有用微生物「醤油と味噌の微生物」より一部引用)
明冶時代中頃までは、良好な麹を一部残しておき、それを新しい原料に混ぜて麹を作る方法が一般的であり、これを友麹と呼んでいた。その後、明治時代末期頃より、友麹の代わりに麹から分離して、より純粋化した麹菌が種麹として使用されるようになりこれか現在まで続いている。醤油醸造に用いられている麹菌は、Aspergillus と A. sojaeである。麹菌以外の黒麹菌や他の Aspergillus 属での醤油醸造の検討が行われたが、黒麹置はクエン酸を多量に生成するため、ポン酢醤油のような風味の醤油となり、結局は上述の2種類の麹菌が、醤油醸造に最も適した徹であると考えられる。


醤油の副原料と添加物

醤油の副原料、添加物
○アミノ酸液
植物性たんぱく質の加水分解物です。具体的には、大豆や小麦グルテン、とうもろこしタンパク質を使用します。それは天然の原料に、乾燥、粉砕、抽出、分解、加熱、酵素処理、中和など、化学合成反応以外の手段(加水分解)で作られた「天然添加物」です。旨みの補強を目的としています。
加水分解とは…化合物に水が作用して起こる分解反応・有機化合物ではエステルや蛋白質が水と反応して酸とアルコールやアミノ酸などができる反応です。

○うまみ調味料
醤油の深い旨味を作り出すためにグルタミン酸、イノシン酸、グァニル酸などを混ぜ合わせることにより味の相乗効果がつくりだされます。
イノシン酸、グアニル酸、グルタミン酸などとカタカナで表記されると、化学合成されたかのような感じがしますが、実はこれらは天然の食材に含まれている旨み成分です。例えば、イノシン酸は鰹節(かつおぶし)に、グアニル酸は椎茸(しいたけ)に、そしてグルタミン酸は、だし昆布に含まれています。

○甘味料
醤油に甘みを付けたいときや淡口醤油の味を整えるために、甘草(カンゾウ)、ステビアなどが使われます。このカンゾウ・ステビアはそれぞれ植物から作られた天然甘味料です。
(甘草は、中近東、中国、ソ連の草原や河川流域の砂質粘土地に野生または栽培されるマメ科に属する多年生植物である。ステビア甘味料は、南米原産の菊科の多年生植物 Stevia Rebaudiana BERTONI の葉中に含まれる甘味成分を基にした甘味料の総称である。)

○アルコール
醤油の品質維持のためにアルコールを添加をしています。本醸造醤油の多くは1~3%程度のアルコールを含んでいます。
醤油の表面に白い膜の白カビ(産膜酵母ともよばれる)が、できるのを抑える目的です。塩分控えめにした低塩の醤油などで、醤油本体で十分な殺菌力がない場合にもアルコールを加えます。
(醤油の原料は麹菌によって糖に分解され、酵母によってアルコールとなりますが、この醸造中に作られるアルコールは醤油に含まれている成分です)


醤油の原料とアレルギー

■醤油原料とアレルギー
大豆や小麦が主原料ですが、醤油が原因でアレルギーが起きたという話はほとんど聞きません。その理由はなぜでしょう?
発酵食品である醤油は、約6ヵ月から数年もの長い期間熟成するうちに、原料である大豆と小麦が麹菌の酵素で分解されてしまうので、きわめてアレルギーを起こしにくい食品といえます。


※アレルゲンとはアレルギーを起こす物質です。アレルゲンに対する感受性には個人差があります。


<日本小児アレルギー学会誌>
「Vol. 21 (2007) , No. 1 pp.96-101」古林 万木夫1), 田辺 創一2), 谷内 昇一郎3)
1) ヒガシマル醤油株式会社・研究所、 2) 広島大学・大学院生物圏科学研究科、 3) 関西医科大学・小児科

■醤油醸造における小麦アレルゲンの分解機構
醤油は日本を代表する発酵調味料の一つであるが、これまで醤油中の小麦アレルゲンの残存性について全く研究が行われていなかった。
そこで我々は、醤油醸造工程中の小麦アレルゲンの分解機構を調べるために、小麦アレルギー患者の血清を用いた3種類の免疫学的検査手法により醸造中の小麦アレルゲンを測定した。
その結果、製麹中に麹(こうじ)菌が生産する酵素により小麦アレルゲンは分解を受け、さらに諸味(もろみ)中でも経時的に分解されて、生揚(きあげ)や火入れ醤油では小麦アレルゲンは完全に消失していることが明らかとなった。また、10種類の市販醤油(淡口,濃口,再仕込み,白)から小麦アレルゲンは検出されなかった。

醤油の品質マーク

■醤油の品質マーク
<JAS制度について>
日本農林規格等に関する法律(JAS法)に基づくJAS制度は、食品・農林水産品やこれらの取扱い等の方法などについての規格(JAS)を国が制定するとともに、JASを満たすことを証するマーク(JASマーク)を,当該食品に表示できる制度です。

<JAS認定工場>
「JAS認定工場」は所定の技術的水準を満たしており、自工場で製造した醤油を自ら格付けし、JASマークを付けて出荷することが認められています。


■有機農産物を主な原料とする醤油には「有機JASマーク」
有機JASマークは、有機農産物や有機農産物加工食品の日本農林規格に基づいて、生産または製造された有機食品につけられます。有機大豆・有機小麦を使用した醤油も、原料および製造工程(収穫・輸送・保管時等一切の非有機原料の未混入)を厳しく管理したうえで第三者機関による認証を得て、有機JASマークを表示しています。

「有機農産物」とは何か。
禁止農薬や化学肥料、遺伝子組換え技術などを使用せず、種まき、または植え付けの前2年(多年草は3年)以上、有機的管理を行った水田や畑で生産されたものが「有機農産物」です。そんな有機農産物を95%以上使用して、薬剤や有機ではない原材料や製品などが混ざらないように製造したものが「有機加工食品」です。
(2020年7月16日からは、有機の農産物食品と同様に、新たに「有機畜産物」の牛肉、卵など、その加工食品のハム、チーズ、ミルクチョコレートなどにも、 JAS認証と有機JASマークが必要になります。)

有機JASマークは、農薬や化学肥料などの化学物質に頼らないで、自然界の力で生産された食品を表しており、農産物、加工食品、飼料及び畜産物に付けられています。しかし、有機JASマークが付いているので無農薬生産物というのは間違っています。有機JAS規格では一部の農薬の使用が認められおり、有機農産物JAS規格では、天然物や天然物由来の一部の農薬に限り、使用することが許されています。

有機農産物を主な原料とする醤油には「有機JASマーク」
国産有機JASマークをつけるには原料も製造工場も有機JAS認証を得ることが必要です。有機JASマークが付いた醤油は、有機栽培の大豆・小麦を原料としてつくられた醤油です。
食の安全性が注目される現代。「有機」と名のつく商品が氾濫したため、2001年から農林水産省では新たに「有機JASマーク」を設けました。これは原材料である大豆や小麦も有機農産物のモノを使用し、厳しい基準をクリアした商品だけにつけられる表示マークです。
「有機栽培大豆は3年間化学物質を使用しない土壌を造り、この土壌で化学肥料や農薬を一切使用せず、収穫後も非有機大豆との混入を厳密に排除して入手した原料としての大豆を使用します。」


■JASの品質標準マークと醤油の等級
○醤油の等級(品質基準)には、特級、上級、標準の3段階があります。
○「特選」や「超特選」とは、「特級」のなかでも、うま味成分の窒素分またはエキス分がより多く含まれている醤油です。


「品質うま味もわかるJASマーク」

(財)日本醤油技術センターが厳しくチェックした、信頼できる工場で製造された醤油には「JASマーク」がついています。 JASの認定工場でつくられ、JAS規格に合格した醤油はJASマークをつけることができますが、非認定工場の製品にはJASマークはつけられません。したがって、醤油にはJASマークのついているものとついていないものとがあります。ただし、認定工場の製品にはJASマークをつけるか、つけないかは任意とされています。
また、品質の信頼性と同時に表示されているのは、うま味成分の多さなどで分類された「等級」です。これはうま味成分の素であるグルタミン酸やアミノ酸の含有量を数字で表す「窒素量」と、色の度合い、エキス分(無塩可溶性固形分)などを検査し、専門家による「官能検査」を合わせ、総合的に判断したもので、JAS規格により「特級」「上級」「標準」の3段階に分類されます。そのうち特級だけに「特選」「超特選」という表示を使うことができます。

<特選・超特選の用語について>
特級より窒素分が10%以上多い醤油(こいくちでは窒素分1.65%以上のもの)には「特選」という表示ができます。さらに,こいくち・たまり・さいしこみ醤油では、特級のなかで窒素分が特級規格より20%以上高いものに関しては「超特選」という表示が許されます。