日本食文化の醤油を知る -筆名:村岡 祥次-



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第2章 醤油の原材料




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 第2章 醤油の原材料


醤油の原材料

■醤油の原材料は 「大豆・小麦・塩」 そして 「水・麹菌」です。


醤油の原材料は大豆と小麦、それに塩です。この他の原料は水と麹菌(こうじきん)だけです。
大豆にはたんぱく質が豊富に含まれており、畑の肉と呼ばれるほど栄養があります。このたんぱく質は、麹菌によって分解され、醤油がつくられていく過程で酵母、乳酸菌などの微生物の作用を受けて、醤油特有のうま味や色の成分に変化します。
一方、小麦はでん粉を多く含み、主に、醤油の香りをつくり出す原料として使われます。 塩(食塩水)は麹菌などを緩やかにはたらかせる大切な役割をします。
醤油の原料の水は、諸味(もろみ)の発酵や旨味成分の一部を成すとともに、熟成にも影響を与えます。
醤油は、もともと発酵等の製造過程を経ることにより、アルコール分を1から2%含むものになります。原材料表示にアルコールが記載されている醤油がありますが、これは醤油に生育してくる産膜性酵母(いわゆる醤油のカビ)の防止が目的です。このため、保存料などの添加物を使わないで雑菌を防ぐためにアルコールを添加しています。



■大豆
    蒸された大豆

丸大豆または脂肪加工大豆を使用します。
大豆はタンパク質や多量の油脂が含まれており、丸大豆を使用すると醸造の過程で醤油として搾った後でも油脂が上部に浮かぶので、最近は油脂を除去した脱脂加工大豆が主に使われています。
一般には、脱脂加工大豆で作られた醤油は、「香りの立つキレのある風味」、「強いうま味」を特長とし、丸大豆を用いて造られた醤油は「まろやかさ」、「重厚な風味」、「深いうま味」が特長であるといえます。
丸大豆醤油の場合のように、大豆の油分があると熟成の過程で油が「脂肪酸」と「グリセリン」に分解されます。グリセリンは、甘味をもった油で溶けやすい性質も持ち、これが長い熟成の間に醤油の中に溶け込んでいくために、コクのあるまろやかな味に仕上がります。
大豆の成分は一般的に水分12%位、粗たんぱく質35~40%、粗脂肪15~20%、その他となっています。その中のたんぱく質は約20種類ものアミノ酸から成り、味に関する最も大切なアミノ酸はグルタミン酸、アスパラギン酸といいます。

■小麦
   炒熬割砕の小麦

小麦には、たんぱく質と糖質が含まれており、小麦の炒り方一つで香りやあまみが左右されます。
日本の醤油の特色は、炒った小麦を加えることによって複雑な味わいと香ばしさが生まれます。醤油の製造の過程で、小麦を炒り砕く(炒熬割砕)のは、酵素の作用を受けやすくすることと、砕かれた小麦は混ぜ合わせる大豆の表面を覆って水分の調節や雑菌の繁殖を防ぐ役目を担います。
小麦の成分は炭水化物が82~83%位、粗たんぱく質12%位、粗脂肪2.5%位、その他となっています。

■食塩
塩は仕込みの段階で水に溶かして加えられ、塩味のもととなります。食塩水は単に塩味のもとになるだけでなく、もろみを雑菌による腐敗から守り、しょうゆ造りには欠かせない耐塩性や好塩性の麹菌・乳酸菌・酵母などの有用な微生物の活動を助ける重要な役割があります。

■水
水も、醤油造りには欠かせない大切なものです。食塩を溶かした「仕込み水」は、発酵させた麹菌と混ぜ合わせて、諸味(もろみ)となります。

■麹菌(こうじきん)
   麹菌を混ぜ合せる

種麹は醤油の麹菌を培養したもので、醤油用のコウジカビ(Aspergillus sojae)が使われます。種麹に使用されるカビ(すなわち麹製造に使用されるカビ)を総称して麹菌と呼びます。
麹菌はジアスターゼ、プロテアーゼ、リパーゼなどの分解酵素があり、でんぷん、タンパク質、油脂などの加水分解を行います。また、麹菌は30種以上もの香りの成分を造り出す効果もあり、みそ、清酒、焼酎、みりん、米酢等醸造製品には必ず使われています。

麹菌は、プロテアーゼというたんぱく質分解酵素や、アミラーゼ(でんぷん分解酵素)といった酵素を大量に生成し、その酵素によって大豆と小麦が分解されます。
〇大豆の主成分であるたんぱく質が、麹菌の酵素(プロテアーゼ)により分解され、醤油の旨味成分であるアミノ酸を生み出します。
〇小麦の主成分は澱粉(でんぷん)。これが麹菌の酵素(アミラーゼ)によってブドウ糖に変わり、独特の甘味になります。



ミニ豆知識「麹菌」について(2015,身近で活躍する有用微生物「醤油と味噌の微生物」より一部引用)
明冶時代中頃までは、良好な麹を一部残しておき、それを新しい原料に混ぜて麹を作る方法が一般的であり、これを友麹と呼んでいた。その後、明治時代末期頃より、友麹の代わりに麹から分離して、より純粋化した麹菌が種麹として使用されるようになりこれか現在まで続いている。
醤油醸造に用いられている麹菌は、Aspergillus と A. sojaeである。麹菌以外の黒麹菌や他の Aspergillus 属での醤油醸造の検討が行われたが、黒麹置はクエン酸を多量に生成するため、ポン酢醤油のような風味の醤油となり、結局は上述の2種類の麹菌が、醤油醸造に最も適した徹であると考えられる。



醤油の副原料、食品添加物

本来、醤油は添加物を加える必要の少ないものですが、酵母の一種である白カビの発生を防ぐ目的で、 アルコールや保存料を加えることがあります。また、地方によっては地域性の特長や嗜好によって、甘い醤油が好まれるために甘味料が加えられたり、 その他には製品の色度補正のためにカラメル色素が加えられることもあります。
これらの添加物を使用した場合には、 原材料の表示欄に必ず表示しなければなりません。この表示がないものは、添加物を使用していない醤油です。食品添加物を使っているしょうゆ等はラベルの原材料名の欄に原材料名、食品添加物名の順で使用量の多いものから表示します。
アミノ酸液
植物性たんぱく質の加水分解物です。具体的には、大豆や小麦グルテン、とうもろこしタンパク質を使用します。それは天然の原料に、乾燥、粉砕、抽出、分解、加熱、酵素処理、中和など、化学合成反応以外の手段(加水分解)で作られた「天然添加物」です。旨みの補強を目的としています。
加水分解とは…化合物に水が作用して起こる分解反応・有機化合物ではエステルや蛋白質が水と反応して酸とアルコールやアミノ酸などができる反応です。

うまみ調味料
醤油の深い旨味を作り出すためにグルタミン酸、イノシン酸、グァニル酸などを混ぜ合わせることにより味の相乗効果がつくりだされます。
イノシン酸、グアニル酸、グルタミン酸などとカタカナで表記されると、化学合成されたかのような感じがしますが、実はこれらは天然の食材に含まれている旨み成分です。例えば、イノシン酸は鰹節(かつおぶし)に、グアニル酸は椎茸(しいたけ)に、そしてグルタミン酸は、だし昆布に含まれています。

甘味料
醤油に甘みを付けたいときや淡口醤油の味を整えるために、甘草エキス(グリチルリチン)、ステビアサイド(ステビア)などが使われます。この甘草(カンゾウ)やステビアはそれぞれ植物から作られた天然甘味料です。
(甘草は、中近東、中国、ソ連の草原や河川流域の砂質粘土地に野生または栽培されるマメ科に属する多年生植物である。ステビア甘味料は、南米原産の菊科の多年生植物 Stevia Rebaudiana BERTONI の葉中に含まれる甘味成分を基にした甘味料の総称である。)
着色料
カラメルⅠ、カラメルIII、カラメルIV のうち1種
「カラメル色素」は、カラメルⅠ、カラメルⅡ、カラメルⅢ、カラメルⅣの4種類に分けられており、 例えば、砂糖と水を熱して作るカラメルⅠ(ワン)というように、種類によって物質や性質が少しずつ異なります。 主な用途は食品の着色です。食品での需要は、飲料水が22%、醤油が16%、タレが14%、ソースが8%、お菓子が6%、その他が34%の順(2000年、農水省)になっています。
カラメルの呼び方としては、カラメルの原料である砂糖、ぶどう糖などの名称に由来して、一般に、砂糖製カラメル、ぶどう糖製カラメルなどといわれます。なお、厚生省生活衛生局食品化学課監修の「既存添加物の安全性評価に関する調査研究―平成8年度厚生科学研究報告書」では、カラメルは国際規格「JECFAにおいて安全性評価がなされた天然添加物」であり、「米国において流通が認められていることが確認された天然添加物」および「EUにおいて流通が認められていることが確認された天然添加物」であると認定されています。
JECFAは、1985年にカラメル I 、カラメル III およびカラメル IV について、2000年にカラメル II について安全性の確認を行いました。米国では、カラメルはFDA(Food and Drug Administration 食品医薬品庁)によってGRAS(Generally Recognized as Safe,一般に安全であると認められる)物質に規定されており、検定免除の着色料にリストアップされています。
カラメルを着色目的で食品に使用した場合の表示例は、一般的には「着色料(カラメル)」 または「カラメル色素」となります。
主なカラメルの規格は以下のものに記載されています。
日本 第7版食品添加物公定書
医薬品添加物規格(薬添規)
医薬部外品原料規格2006(外原規2006)
国際規格 JECFAの食品添加物規格
米国 CFR Title21. 73.85
欧州 EUの着色料指令(94/36/EC)
JECFA:Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives FAO/WHO 合同食品添加物専門家委員会
FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations 国連食糧農業機関
WHO:World Health Organization 世界保健機関
CFR:Code of Federal Regulation 連邦規則
EU:European Union 欧州連合
保存料
安息香酸 Na、パラオキシ安息香酸
保存料は、食品の腐敗や変敗の原因となる微生物の増殖を抑制し、保存性を高める添加物です。微生物を殺すことを目的とした殺菌剤とは異なります。
アルコール
しょうゆ醸造中にアルコールは生成されますが、醤油の品質維持のためにアルコールを添加をしています。本醸造醤油の多くは1~3%程度のアルコールを含んでいます。
醤油の表面に白い膜の白カビ(産膜酵母ともよばれる)が、できるのを抑える目的です。塩分控えめにした低塩の醤油などで、醤油本体で十分な殺菌力がない場合にもアルコールを加えます。
(醤油の原料は麹菌によって糖に分解され、酵母によってアルコールとなりますが、この醸造中に作られるアルコールは醤油に含まれている成分です)


醤油原料とアレルギー

大豆や小麦が主原料ですが、醤油が原因でアレルギーが起きたという話はほとんど聞きません。その理由はなぜでしょう?
発酵食品である醤油は、約6ヵ月から数年もの長い期間熟成するうちに、原料である大豆と小麦が麹菌の酵素で分解されてしまうので、きわめてアレルギーを起こしにくい食品といえます。
「食品表示基準」では、発生数、重篤度から判断して、小麦、そば、卵、乳、落花生、えび、かにの7品目を原料に含む商品は、製品にアレルゲンが残っているかどうかを問わず、必ず品目名を記載しなければならないと決まっています。また大豆、あわび、いか、牛肉、豚肉などの20品目については可能な限り表示するよう推奨しています。

※アレルゲンとはアレルギーを起こす物質です。アレルゲンに対する感受性には個人差があります。


<日本小児アレルギー学会誌>より以下抜粋
「Vol. 21 (2007) , No. 1 pp.96-101」古林 万木夫1), 田辺 創一2), 谷内 昇一郎3)
1) ヒガシマル醤油株式会社・研究所、 2) 広島大学・大学院生物圏科学研究科、 3) 関西医科大学・小児科
『醤油醸造における小麦アレルゲンの分解機構』
醤油は日本を代表する発酵調味料の一つであるが、これまで醤油中の小麦アレルゲンの残存性について全く研究が行われていなかった。そこで我々は、醤油醸造工程中の小麦アレルゲンの分解機構を調べるために、小麦アレルギー患者の血清を用いた3種類の免疫学的検査手法により醸造中の小麦アレルゲンを測定した。
その結果、製麹中に麹(こうじ)菌が生産する酵素により小麦アレルゲンは分解を受け、さらに諸味(もろみ)中でも経時的に分解されて、生揚(きあげ)や火入れ醤油では小麦アレルゲンは完全に消失していることが明らかとなった。また、10種類の市販醤油(淡口,濃口,再仕込み,白)から小麦アレルゲンは検出されなかった。




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