Farmer Giles of Ham
 
 この本は、ハム村の農夫ジャイルズ(正式な名前は、エイギディウス・アヘノバルブス・ユリウス・アグリコラ・デ・ハンモ)のお話です。そのころはまだ犬たちが村人の言葉を話せる時代でした。ジャイルズの飼い犬ガームもそうでした。

 物語はこのガームが主人に内緒で夜の散歩に出かけていたときに、主人の農場を荒らす巨人に出会うところから始まります。この巨人を偶然やっつけたジャイルズは村の英雄になり、王様からお褒めのお言葉と王宮の武器庫に眠っていた長剣をもらいました。王様は地方の農民にくれてやるにはもってこいだと思ったのですが、実はそれこそ カウディモルダクス剣(噛尾刀・こうびとう)だったのです。この剣は偉大な竜退治の名人ベロマリウスの持っていた剣で、竜の尾を噛むものの名のとおり、竜たちには非常に恐れられていました。

 
そんな時、例の巨人からこの国の話を聞いた竜がいました。名を黄金竜といい、古い竜王の血を引いた、大金持ちで、好奇心が強く、貪欲で、なかなかずる賢い竜でした。この竜がジャイルズの住む国にきて国中を荒らし始めたのです。国中でこの竜に立ち向かう騎士は一人としていません。そして竜は次第にジャイルズの住む村に近づいてきます。村人たちの期待は、おのずとジャイルズに・・・・・

 
物語に出てくる登場人物はみんな個性ゆたかです。

・いつも「大へん、大へん、大へん」が口癖のガーム。
・なんとかジャイルズに恥を掻かそうとする粉屋。
・名前のない例の巨人は、とびぬけて大きく、ずばぬけてばかで、近眼で耳が遠いのでジャイルズの住む国に迷い込んでしまった。 (火に掛けたままのなべがこげつくのをしきりと心配し、必死でうちに帰る道を探しています。)
・意地の悪い王様は、怒ったときに「天のいなずま」だとか「一万の雷」と叫ぶ。
といった具合です。

 
テンポのはやい短い物語にもかかわらず、それぞれ性格がくっきりと描きだされています。このお話の面白いところはジャイルズは決して勇敢な英雄ではないところではないでしょうか?いつもかみさんにガミガミ言われているし、腹が立ったらガームに物を投げつけたりします。全くの正義の味方ではないのです。巨人をやっつけたのも仕方なしに出かけ偶然やっつけちゃったっみたいなもんです。そんなジャイルズのまわりの人たちもみんな少なからず、見栄とか欲深さとか嫉妬とかずる賢さなんかを持っています。それは読者である私たちにも当てはまり、思わず苦笑いなんてしてしまいます。だからこそ面白いんでしょうね。そうしてユーモアたっぷりのお話を読み終わった後にはちょっとお尻にむずがゆい思いを残すでしょう。
 
 

【書籍情報】
農夫ジャイルズの冒険(Farmer Giles of Ham) トールキン小品集に収録
評論社 J・R・R・トールキン著、吉田新一訳 1975年3月20日初版
ISBN 4-566-02110-6 340ページ(内15〜104ページ) 188×128mm
挿絵 ポーリン・ダイアナ・ベインズ

Copyright © 2001 Tolkien's World All Right Reserved.