このお話はローヴァーという名の仔犬が老人のずぼんにがぶりと噛みついたことから始まります。
老人は魔法使いで名をアルタクセルクセスといいました。アルタクセルクセスはこの無礼な仔犬を魔法でおもちゃの犬に変えてしまい、そのまま行ってしまいます。
哀れおもちゃにされたローヴァーは、拾われて店のショーウィンドウに並べられます。そしてある日のこと、息子のためにとあるお母さんに買われて行きます。お母さんからこのおもちゃの仔犬をもらった息子は、すごく喜び、いつも側に置きました。
そんなある日のことです。少年が家の近くの浜辺に遊びに行くときに、ローヴァーを一緒に連れていってくれました。と言ってもポケットに入れられていたんですが・・。少年は遊びに夢中になっていたため、ローヴァーがポケットから落っこちたことに気付きませんでした。あとで仔犬のおもちゃがないことに気付いた少年はひどく悲しみ、お父さんやお兄ちゃんと一緒に一生懸命探しましたが、とうとう見つけることが出来ませんでした。
ローヴァーはといえば、ずっと自由になることを望んでいたので、まずは脱出成功
といったところです。(実際は自分で逃げたわけでもなんでもないんですが)そしてこの少年とお別れしたことでローヴァーの大冒険が始まるのです。
浜辺に住む魔法使いのプサマソス・プサマスィデスに出会い、ローヴァーを元のただの犬に戻すにはアルタクセルクセス本人でないと無理だという事を知ります。こうしてローヴァーはアルタクセルクセスを捜し求め、月に行って月の男や巨大な白い竜に会ったり、海の底に行き海の王や人魚姫や鯨と知り合います。そしてやっと
アルタクセルクセスに再会するのですが・・・
このお話をトールキンが書いたきっかけは、このお話の中にそのエピソードが入っているんですよ。トールキンの息子のマイケルが4歳のころ、大事にしていた犬のおもちゃを砂浜で遊んでいるときになくしてしまいました。トールキンも一緒になり探しましたが見つけることが出来ませんでした。がっかりしている息子のためにトールキンは即興で物語を考えて息子に聞かせたのが、このお話の始まりだったんです。
マイケルもなくした犬のおもちゃがこんな大冒険をするんだと思えばきっとなくした悲しみも和らいだことでしょう。あー、それにしてもトールキンはなんて素敵なパパなんでしょうね。
そしてこの本にはトールキン自筆の絵が沢山載っています。「月の風景」や「人魚王の宮殿」
などどれも幻想的で色彩豊かです。物語と合わせてぜひ見てください。
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