Smith of Wootton Major
 
  このお話はトールキンの「妖精物語」のひとつと言えると思います。「Smith of Wootton Major」は「ウートン大村のかじや」になるんでしょうか?

 
ウートン大村では24年にいちど二十四年祭と言うお祭りがあります。このお祭りには24人の子供が招待されます。そして村の料理番頭はこの日の為に大きなケーキを作るのが習慣でした。代々このお祭りの時に料理番頭だった者達は、その名誉の為に趣向を凝らし腕を振るうのでした。料理番頭になることすら名誉と言えたのです。

 
ところが、当時の料理番頭が急に「休みをもらう」と言って旅に出てしまいました。そして数か月後に戻った料理番頭は、一人の弟子を連れて帰ったのです。アルフという男の子でした。はじめは驚いた村人達も次第になれたころ、料理番頭は「皆には、わしがまた休みをとった、と伝えておいておくれ。だが今度はもうここへは帰ってこない、とな。」とアルフに言い残し出ていってしまいます。次の料理番頭はアルフにと思っていたのですが村人たちはまだ若すぎるといってノークスという男を料理番頭にします。ノークスも一流とはいかないまでも、まあまあの腕を持っていましたし一生懸命にやりましたので順調にいきました。アルフが弟子を続けていたからかも知れません。

 
そして二十四年祭の年がやってきました。ノークスは心配になりました。どんな大ケーキがみんなを満足させられるのか?ノークスは子供たちを喜ばせるため、砂糖ごろもをかけ(弟子が砂糖ごろもをかけるのが得意だったのです)ケーキのてっぺんに妖精の人形を乗せることにしました。子供を喜ばせるには甘いものと妖精しか思いつかなかったのです。ケーキのなかに小物を入れるのも決まりごとでした。ケーキを配ったときにそれが出てきたら幸運の証なのです。24の小物と、たまたま見つけた前の料理番頭が残していった箱から出てきた星の形をした物をケーキの中に入れました。それこそ妖精の星だとは考えもしなかったでしょう。

 
この妖精の星を得たのは、後にかじやになる男の子でした。でも気づかずに飲み込んでしまいます。男の子はケーキに付いている妖精の人形を見て本当の妖精に会いたいと願ったのです。妖精の女王はその願いを聞き、妖精の国に入ることのできるその星を男の子に与えたのです。

 
お話は、大人になり、かじやを継いだ男の子が妖精の国に行っていろんな体験をするというふうに続きます。またアルフが実は妖精の国の王だったことも分かります。そして最後には、この幸運の星を次の子に渡すことを決めるのです。

 
お話のなかに出てくる人は印象的です。ノークスは喜んでもらうために妖精を選びましたが、自分は妖精や妖精の国のことなんて最後の最後まで全然信じていない人です。そして今度妖精の星を与えられるのはそんなノークスのひ孫の男の子なのです。純粋に妖精に会いたいと願ったかじやは、妖精の女王から幸運を授けられます。それからアルフの師匠だった先の料理番頭はどこに行ったのでしょう?彼の名はライダーといい、実はかじやの母方の祖父なのでした。

 
妖精の銀の星、妖精の国の小さな百合の花、かじやを助けてくれた樺の木など不思議がいっぱいのお話です。そして妖精を信じる人も信じない人も、知っていようと知らずとに関わらず妖精に願いを叶えてもらっているのです。(あのノークスさえもね)
 
 

【書籍情報】
星をのんだ かじや(Smith of Wootton Major) トールキン小品集に収録
評論社 J・R・R・トールキン著、猪熊葉子訳 1975年3月20日初版
ISBN 4-566-02110-6 340ページ(内105〜166ページ) 188×128mm
挿絵 ポーリン・ダイアナ・ベインズ

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