学思塾  ー学びて思わざれば則ち罔し、思いて学ばざれば則ち殆しー (「論語」為政より)

 

教育の現状




<1>日本の現在の教育理論


ー専門家の意見ー
①訓練主義的教育
 岸本裕史・陰山英男『百ます計算』:反復訓練で基礎学力向上
 和田秀樹『数学は暗記だ』:暗記数学
 佐藤亮子『佐藤ママ』:東大理Ⅲへ合格させる教育法

②従来型一斉授業教育
 向山洋一『教育技術法則化運動(TOSS)』:教育技術を共有化
 有田和正『授業づくり』:子どもが夢中になる授業
 久保斎『一斉授業の復権』:教師が統制する一斉授業
③経験主義的教育
 佐藤学・佐伯胖『学び』:「学び」を核とした教育
 西川純『学び合い』:子ども達自身で学ぶ
 西林克彦『わかるのしくみ』:わかるとはどういうことか
 奈須正裕『カリキュラム論』:意欲を育てる教育
 髙木展郎『変わる学力、変える授業』:主体的な学習
 市川伸一『認知カウンセリング』:認知心理学を教育実践に応用
 尾木直樹『尾木ママ』:教育相談

④実用主義的教育
 吉田研作『新しい英語教育』:英語早期教育推進
 松本茂『英語ディベート』:英語を英語のまま理解する
 堀田龍也『プログラミング教育』:プログラミング教育
の実践法

⑤ICT教育

 清水康敬・堀田龍也『ICT教育』:ICTを活用した教育

⑥エビデンスによる教育

 惣脇宏・豊浩子『教育研究とエビデンス』:エビデンスを活用する教育社会学

 中室牧子『学力の経済学』:エビデンスに基づく教育経済学

⑦系統主義的教育

 系統教育を維持・発展させる教育法を研究している教育学者は残念ながら現在はほとんど見当たりません。

⑧学力低下分析

 藤澤伸介『ごまかし勉強』:正解至上主義的学習の問題点を分析
 苅谷剛彦『学力格差』:最近の経験主義的教育改革を批判
 大津由紀雄『英語学習7つの誤解』:早期英語教育・英会話重視を批判

⑨現場での現実的教育
 小宮山博仁『算数勉強法』:算数の具体的勉強法
 高濱正伸『花まる学習会』:メシが食える大人に育てる方法
 宮本哲也『強育論』:教えない算数指導
 糸山泰造『絶対学力』:視考力こそ学力
 親野智可等『楽勉力』:楽しい家庭教育

⑩子育て理論

 佐々木 正美『子どもへのまなざし』:児童精神科医からみた子育て論

 明橋大二『子育てハッピーアドバイス』:子育てアドバイス

 菅原裕子『子どもの心のコーチング』:コーチングによる子育て


ー各意見の影響ー
①訓練主義的教育
 
テスト対策や知識暗記・反復訓練を重視する考えです。今までの受験制度に適応した現実的な考えで、多くの学習塾などで行われています。「子どもを勉強に向かわせる」ということにおいては効果的ですが、「柔軟な思考力や発想力がつかない」「「自発性・能動性が失われる」など様々な問題があります。
②従来型一斉授業教育
 
教師が生徒をうまく統制・誘導して授業をする一斉授業中心の教育です。日本の教育水準の向上に長らく貢献してきましたが、「つかみ」「発問」「板書」「ノート指導」「調べもの学習」などによって子どもの自主性を上手く引き出す理想的な一斉授業をする教師は減ってきています。自然体験や生活体験が減り、一般常識もないまま学習塾で先取り学習していることの多い現在の子どもたちにはバランスの取れた良い授業が行いにくくなっています。

https://www.manabinoba.com/tsurezure/11847.html
③経験主義的教育
 
知識重視型教育を否定し、子ども自身の関心や体験を重視する考えです。確かに、このタイプの学者の教育・学習に対する知見はすばらしいものであり、従来の教育に対する批判や目指すべき教育目標は的を得ています。しかし、提案されている新しい教育法は、机上の空論に基づいていて子どもの学力を育てることなど不可能な内容です。導入が進められている経験主義的教育法では子どもが学習内容を頭の中で構造化できなくなってしまうので、子どもたちの学力を崩壊させています。
④実用主義的教育
 
「会話中心の英語教育」「プログラミング教育」などの実用的内容を推進する考えです。地道な基礎練習をとばして野球の試合をいきなりやっても野球が上達しないのと同じように、子どもに実用的な教育をいきなりやっても上手くいくはずもありません。実用主義的教育は、基礎から積み上げていく系統学習を壊しています。
⑤ICT教育
 情報通信技術(ICT)を教育に活用する方法です。安易にパソコン・タブレットや映像を用いた教育を導入することが生徒達の地道に教材を読んだりノートを取るといった基本的学習能力を低下させています。

⑥エビデンスによる教育
 
科学的根拠に基づく教育法です。データの中の数字を重視するので、教育現場で先生達が子どもの様子をみながら工夫して作り上げる教育を壊しています。

⑦系統主義的教育
 
基礎から順に学ぶことで知識を構造化し高度な内容まで到達することを目指す教育です。日本は世界最高水準の系統教育を行ってきましたが、系統教育が当たり前になりすぎて、その重要性が忘れられてきています。子どもたちが実感を保ちながら知識を構造化するブルーナーの目指した真の系統教育を維持・発展させる教育法を研究している教育学者は残念ながら現在はほとんど見当たりません。

⑧学力低下分析
 
訓練主義や経験主義の教育による弊害を分析・批判しています。しかし残念ながら、教育現場にはますます訓練主義が広がり、国は経験主義的教育を推し進めています。

⑨現場での現実的教育
 
塾や家庭でより良い教育を実践するための方法です。塾は学力低下の元凶ですが、子どもの学力を向上させている塾も一部にはあります。

⑩子育て理論
 
子育てをする保護者向けの理論です。発達心理学者の推奨する育児法の多くはすばらしい内容ですが、情報に振り回されて完璧な育児を目指すことは逆効果になります。

 

ーまとめ―

 現在、教育学には教育心理学・教育社会学・教育行政学・教育哲学・教育経済学・教育工学・教科教育学・家庭教育学などの多くの分野があります。

https://ja.wikipedia.org/wiki/教育学
 教育には「方法や目的で何を重視するか」によって無数の考え方があり、各専門家がそれぞれの狭い立場で様々な意見をもっています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/教育関係人物一覧#教育学者・研究者
 しかし、子どもたちへの実際の教育は一面的な観点で判断するべきものではありません。教育の専門家は「教育の全体像」も「現実的な教育法」もわかってはいないので、教育専門家の意見に従っても上手くいくことがほぼないのは当然なのです。
https://ameblo.jp/hierophany/entry-11936254342.html
https://ameblo.jp/hierophany/entry-11936706484.html
 また、教育のほとんどすべての責任と結果を学校教育だけに求める考え方が、教育現場をより混乱させています。
https://kotoyumin.com/education-75

 具体から抽象へと順に積み上げて学んでいく『系統教育』は、文化的な家庭環境・社会環境における実生活の中で具体的事象を学び、学校で小中高と少しずつ抽象を学ぶことで成り立ってきました。しかし、最近は生活における具体的体験・能動的体験が足りないために結果として抽象もわからなくなる子どもが増加し、それが学力を低下させています。また、学習塾などが行ってきた反復訓練主義・正解至上主義的な教育法が家庭・学校・通信教育にも広がってきて、学力を大きく低下させています。

 さらに、「学校教育により多くの具体的学習を盛り込み、生徒の主体的学習も増やすべきだ」という経験主義的な教育学者や、「実用的な英会話や技能を学校で教えるべきだ」という企業経営者や、「ICTを活用した教育を推進すべきだ」という教育工学者や、「統計データに基づく科学的根拠のある教育にするべきだ」という教育社会学者・教育経済学者などの各専門家の意見に短絡的に従う文部科学省の改革方針が『現場の先生達の創意工夫による授業に支えられてきた系統教育』を壊し、学力の崩壊を加速させています。

 保育所・幼稚園・学童保育・児童図書館の充実や、子育て支援・良質な遊び場の確保・食育・スマホ規制・タブレット学習規制などによって“学校以前”の子ども達をとりまく環境を整えた上で、学校教育は『系統教育』を守ることこそ大切なことではないでしょうか。
http://niji.sakura.ne.jp/sblo_files/nijino/image/16507932_1799087403688091_1975542899864060254_n.jpg
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-8d-f7/ariarioac/folder/1044525/34/40612834/img_0?1261833690
https://gigazine.net/news/20150520-smartphone-ban-improve-student-performance/


<2>英語早期教育


 
最近、幼児期から英語を勉強することが流行っています。しかし。多様な実体験を積みながら日本語力を伸ばすべき幼少期に英語を勉強すると、言語能力・思考力・知識の発達が妨げられます。
 子どもにとって英語は実体験と関係ないので、「アップル」「ハンド」と教えても「アリモデ」「ヘイザ」と意味不明な言葉を教えることと何ら変わりません。小さい子どもだと簡単な英文を丸暗記して話しているだけでも頭が良くみえますが、無意味な暗記をさせているだけです。英語は後からでも学べますが、その時に育たなかった能力を後で取り返すことは困難であり取り返しがつかないのです。
http://kosodatematome.blog.jp/archives/2415349.html
http://anothernewsstation.com/2017/11/04/youjiki-eigokyouikufuyou/


<3>プリント授業の増加、板書の減少・質低下


 最近、プリント中心で行う学校の授業が増加しています。先生の板書も減少し、板書の質も低下しています。生徒が授業中にノートを取らず、先生の話を聞きながらプリントを眺めているだけだったり、プリントに線を引くだけだったりします。
 確かにノートを取らずにプリントを見ながら先生の話を聞けば、その場はよく理解できます。しかしその方法では、生徒自身の理解力・思考力・記述力などの学習能力は向上しません。理解した内容も、長期的には頭に残らないでしょう。
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/6760902.html
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-11-13



<4>ごまかし勉強の増加


 成績保証する塾が増えています。塾が成績を保証してくれるなら、生徒は自分で授業を頑張って理解して地道に実力をつける勉強をしなくなるでしょう。
http://mbp-chiba.com/aquras/column/6064/
 定期試験の過去問を配布する塾が増えているようです。当然、生徒は地道に学力をつける勉強をしなくなるでしょう。
http://usjuku.jugem.jp/?eid=1562

http://www.segmirai.jp/essay_library/essay001.html
 試験対策などで丸暗記勉強をする生徒も増加しています。
https://livedoor.blogimg.jp/takagishisatoru/imgs/f/c/fc6a7f5b.jpg
https://benesse.jp/kyouiku/201801/img/KJ_20180111_06.jpg
 「テスト対策で点さえ取れればいい」という『ごまかし勉強』では学力がつきません。学力をつけるには『正統的な勉強』をすることです。
http://www.shin-ei-kai.com/archives/essay_data/『ごまかし勉強』

 


<5>学力の二極化


 近年、学力が二極化しています。
http://surala.jp/school/case/pass_01.html
 全国学力調査では山の頂点がほぼ右よりですが、この分布は問題が易し過ぎるときにあらわれるので、このような分布は学力を正しく表していません。内容が難しい数学Bでは学力の二極化がみられます。

https://berd.benesse.jp/berd/data/dataclip/clip0013/index3.html
 小中の定期考査の問題は努力すればできるように易しめに作られることが多いので、成績は本当の学力を表しません。
http://mita-gakuin.com/blog-105272/
 内容が難しくなる高校では二極化が成績に出てきますが、実際は小中の時点で既に隠れた学力に大きな差がついているのです。
https://www.gakken.co.jp/kyouikusouken/topics/topics_school/070502.html



<6>成績重視

 最近、ゆとり教育の反動からか成績を気にする保護者や生徒が増加しています。
https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/c/454/img_0c01dbb8e3c5363a453082173ad739e023806.gif
https://tk.ismcdn.jp/mwimgs/9/9/1040/img_9949c2662b25f42a63c3860b5d8bdd44150526.jpg
 学習時間が増えるのはいいことですが、過度の成績重視は小手先の勉強を誘発します。実際、通塾の低年齢化などによって真の学力は低下していると思われます。


<7>不登校

 「不登校」または「不登校傾向」にある小中学生が増加しています。
https://toyokeizai.net/articles/-/283737
 「遊び場の減少」「テレビの見過ぎ」「スマホの利用」「ゲームのやりすぎ」「夜更かし」「無理な先取り学習」「通塾率の上昇」「過度の成績重視」「過度のほめる教育」「朝食を抜く」「一人で食事」「栄養の偏り」など、不登校が増える原因はたくさん考えられます。


<8>反転授業


 「教室で講義を受け、家庭で演習する」従来型授業を反転させ「家庭で映像講義を受け、教室で演習・討論する」のが反転授業です。
http://benesse.jp/kyouiku/201609/20160902-1.html
 反対意見もあります。
https://www.facebook.com/otsuka.edu.page/posts/871559192917998
 個別指導塾の「学校で講義を受け、塾で演習する」という方法は結果的に『反転授業』とよく似ています。たいていの個別指導塾には上位生があまり通っていないことを考えると、反転授業の効果には疑問が残ります。
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/t/tarsuk/20120229/20120229165019.jpg



<9>スマホ解禁

 文部科学省が小中学校でスマートフォン禁止を見直し、持ち込み容認を検討しているようです。
 スマホの悪影響を知っている保護者は子どもにスマホを持たせないように頑張っているでしょうが、そんな家庭の子どもも周りの友達が学校に持ってきているのを見れば今まで以上に欲しくなってしまうでしょう。
https://onokuri.or.jp/news/1851/



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