学思塾  ー学びて思わざれば則ち罔し、思いて学ばざれば則ち殆しー (「論語」為政より)

 

教育の歴史




<1>受験の歴史


 受験競争の高まりで、普段の勉強も評価するよう1966年に国は高校入試で内申書重視を打ち出します。しかし、内申書の成績を左右する定期考査は範囲が狭く小手先が通じるので、一夜漬けの定期考査対策をする中学生が増えました。
 実力をつける学習を支援する学習雑誌や自学教材は売れなくなり、教科書対応の通信教育がシェアを拡大します。
http://timesteps.net/archives/2476587.html
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1056474375
 ベテランの先生が本質を教える個人塾も減り、試験対策をデータ化した大手塾が生徒を集めます。今では個人塾は補習塾がほとんどです。一斉授業についていけない生徒を対象とするアルバイト講師を使った個別指導塾も増加しています。
 落ちこぼれは減りましたが、いい学習をする生徒も減りました。
http://www.cml-office.org/lec-support/info-for-freshman/info3.html
http://www.segmirai.jp/essay_library/zu.gif
 内申書重視に続き、受験競争緩和や学校間の格差是正のため1970年代からは公立高校で学区制が導入されます。落ちこぼれ生の受け皿的役割が多かった私立高校は、内申書も学区制も関係ないため逆に優秀な生徒を集めだします。学習指導要領改定のたびに学習内容が削減された公立中学校に満足できない上位層は、中高一貫教育の私立校に競って行くようになります。

  偏差値教育はよくないとの理由で1992年には公立中学校で業者テストが廃止されます。学校は生徒の実力を把握できなくなり、定期考査対策の小手先勉強増加、進路指導の空洞化、通塾率の増加、私立高校の台頭という結果を招きました。

https://blog.goo.ne.jp/andante-dandanto/e/34b67642e239166e9a669807fd649147
https://keiyo-gakusha.net/学力について~「学力」ってなんだろう???~/
 中学受験では小学内容に出題が限定されるので、徐々に大手塾は入試問題をパターン化して生徒に詰め込むようになります。大手塾でついていけない生徒が補習塾や個別指導塾や家庭教師を利用するようになります。少子化による売り上げ減少を避けるために、大手塾は今では補習層や低学年や幼児教育にも手を広げています。

 1990年代以降、大学受験は多様化しています。一般入試以外に推薦やAO入試の定員が増やされ、私立大では一般入試も複数回受験できます。推薦・AO入試は内申書が重視されるので定期考査対策が重要となり、高校生でも小手先の定期考査対策をする生徒が増えています。複数回の入試問題作成は大変なので、大学独自の個性的な出題が減ってワンパターンな典型問題の出題が増え、問題作成を外注する大学も増えています。結果として、頻出問題の解き方を丸暗記するだけの受験勉強をする高校生も増加しています。
http://www.asahi.com/edu/university/zennyu/TKY200707160216.html
 国は入試の多様化で多様な人材を確保しようとしていますが、逆に勉強を画一化・小手先化させています。 その結果、小中学生だけでなく高校生も典型問題暗記のごまかし勉強中心になり、それを助ける塾や映像講座もますます増加しています。
http://daigakushinbun.com/post/views/891
 2020年度からの大学入試改革では、文部科学省は一般入試においても調査書に書く内容を増やし、部活動などの課外活動をより重視する方針です。その影響で、すでに公立高校では高1・高2の間は部活動だけ頑張って高3になってから受験対策の勉強をすればよいという風潮が広がり、定期考査前以外はろくに勉強しない生徒がさらに増加しています。

 


<2>学習指導要領の歴史


https://nikkan-spa.jp/plus/1208843
(1)経験主義
 戦後の新教育では、子どもの主体的経験を通して学習するデューイの『問題解決学習』に基づく教育が重視されます。学力の低下をまねいたため「はいまわる経験主義」と批判されました。
(2)系統主義
 1958年の改訂では、知識の系統性を重視した『系統学習』に方向転換され、科学技術教育の向上も目指します。
(3)構造化論
 知識の構造化を提唱したブルーナーの『教育の過程』(1960年)では「どの教科でも、知的性格をそのまま保って、発達のどの段階の子どもにも効果的に教えることができる」とされ、日本での系統教育の普及に大きな影響を与えます。

(4)教育の現代化
 1968年の改訂では、学問や社会の急発達に学校教育を追いつかせようと、教育内容の現代化・高度化がはかられます。この教育が日本の高度成長を大きく支えましたが、内容の増加・難化にともなって「詰め込み教育」「落ちこぼれ」も社会問題化しました。
(5)第一次ゆとり教育
 1977年には、多くなりすぎた内容を厳選し学習内容が1割削減されます。私立校はほとんど削減しなかったので、公立校との学習量の差が広がりました。
(6)新学力観
 1989年には、「自己教育力」「基礎・基本」「個性」を重視する『新学力観』を打ち出し、学習内容も更に1割削減されます。「成績」だけでなく「関心・意欲・態度」も評価するようにしたため、授業の目的があやふやになり学力低下につながっています。私立校と公立校の学習量の差はますます広がりました。

(7)ゆとり重視
 1998年には、「完全週5日制」「総合的な学習の創設」などが行われ、学習内容も更に3割削減されます。評価方法も「相対評価」から「絶対評価」に変更されます。学力低下が大きく問題化し『ゆとり教育』は大きな批判を受けました。
(8)脱ゆとり教育
 2008年には、「ゆとり」か「詰め込み」かではなく「生きる力」をはぐくむ教育を目指し、減り続けてきた授業時間は約30年ぶりに増加します。学習量の増加によって、学力の回復がみられました。
(9)アクティブ・ラーニング
 2017年には、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」が導入され、「小学校での英語の教科化」や「プログラミング教育の充実」も行われます。基礎から順に積み上げる系統教育を減らし、生徒自身の興味に従った学習をしたり、実用的なことをやったりする方針なので、新しい教育を受けた子ども達は何を勉強しているのかもわからないような混迷状態にすでに陥っています。脱ゆとり教育によって回復傾向にあった学力は、今度は低下どころか崩壊寸前になっています。

 


<3>教育理論の歴史


https://web.archive.org/web/20210126091420/http://www002.upp.so-net.ne.jp/nari/lab/education/learning.html
 ヘルバルト『四段階教授法』:科学的な教育学を樹立
 ライン『五段階教授法』:実践的教授カリキュラム
 シュタイナー『シュタイナー教育』:教育芸術の実践
 デューイ『問題解決学習』:子ども中心の経験主義
 モンテッソーリ『モンテッソーリ教育』:感覚教育と自発性を重視
 スキナー『プログラム学習』:行動主義心理学を応用したスモールステップによる学習

 ブルーナー『発見学習』:知識を構造として学習し、学習者自ら概念や法則を発見する
 ブルーム『完全習得学習』:完全な習得を目指して学習・評価を工夫
 オースベル『有意味受容学習』:学習を容易にする先行抽象情報を与える

 ハインペル『範例学習』:基礎的・本質的事例を精選して学習
 フィリップス『バズ学習』:小グループで討議学習
 『オープンスクール』:学習集団をオープン化
 ケッペル『ティーム・ティーチング』:複数の教師で協同授業

 トニー・ブザン『マインドマップ』:思考を可視化

 G.ポリアの『いかにして問題をとくか』:未知の問題の解決方法
 遠山啓『水道方式』:筆算を基本とする算数
 板倉聖宣『仮説実験授業』:仮説を立てて実験

 松原元一『数学的見方考え方』:子どもは算数・数学をどのように考えるか

 波多野誼余夫・稲垣佳世子『知力の発達』:乳幼児はどのように学ぶか

 

 ヘルバルトやラインの系統学習、デューイの問題解決学習・経験主義、その二つを統合したブルーナーの発見学習・系統主義を中心に学校教育は成立しました。日本では、経験主義教育(問題解決型学習)と系統主義教育(知識重視型学習)という二つの教育法の間を振り子のように行ったり来たりしています。

http://labhobby.net/education/empiricism-systematism



<4>幼児教育研究の歴史


①ソニー創業者の井深大「幼稚園では遅すぎる―人生は三歳までにつくられる!」は大ベストセラーになりましたが、後に著者自身が間違いを認め「幼児に本当に必要なのは知的教育ではなく愛情だ」と述べています。
https://ameblo.jp/zoukeiasobi/entry-12149113581.html
②自制心が成功につながるというウォルター・ミシェルの「マシュマロ実験」が世界的に有名になりましたが、その後の多くの研究では自制心ではなく社会的・経済的環境が影響していることが判明しています。
https://www.arupakano.com/entry-marshmallow-test
③ノーベル経済学賞のヘックマン「幼児教育の経済学」は幼児期の「非認知能力」(感情や心の働きに関連する能力)を重視しています。幼児期の重要性は間違いありませんが、ヘックマン氏が研究の根拠にしているのは1960年代・1970年代のアメリカの貧困層家庭への教育です。経済的に恵まれず将来犯罪者になる可能性も極めて高い地域に住むアフリカ系アメリカ人家庭の幼児に適切な教育をほどこすと、将来の生活保護受給率や逮捕者率が下がり収入も高くなるから、貧困層への教育投資は幼児期に行うのが最も効果的だといった内容です。
 劣悪な環境にある幼児には「話しかける」「規則正しい生活をさせる」などの少しの働きかけでも大きな効果を発揮するのは当然のことであって、日本の一般家庭にあてはまる内容ではありません。最近よく「非認知能力を育てる方法」というのをみかけますが、そのほとんどが特に根拠のない内容です。幼児教室の宣伝にもよく「幼児期に非認知能力を育てる重要性」が使われていますが、専門用語を使うことで何となく説得力をもたせたいのでしょう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59275?page=3


<5>データの推移


①通塾率
https://berd.benesse.jp/berd/data/dataclip/clip0006/img/graph3_1.gif
②学習塾
https://yts.jp/wam/wp-content/themes/wam/img/contents_03.png
③メディア接触時間
https://news.yahoo.co.jp/byline/fuwaraizo/20170628-00072512/
④読書冊数
http://www.garbagenews.net/archives/2255769.html
⑤運動時間
http://ghw.pfizer.co.jp/smartp/grow/exercise.html
⑥就寝時刻
http://ghw.pfizer.co.jp/grow/sleep.html
⑦授業時間
http://www.nichinoken.co.jp/opinion/images/keynote/02/ph03.jpg



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