2024(令和6)年4月1日施行の改正不動産登記法により、相続登記が義務化されました。
2024年4月1日より相続登記が義務化されました。
根拠条文は、次の通りです。
【不動産登記法第76条の2】
相続(遺言を含む。)により不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
2 前項前段の規定による登記がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記をしなければならない。
3 前二項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、当該各項の規定による登記がされた場合には、適用しない。
→ 相続人は、相続開始後3年以内に相続登記をしなければなりません。
改正のポイントは3つです
(1)2024年4月1日から義務化となり、過去の相続も義務化の対象となります。
(2)2027年3月末までは猶予期間があります。
(3)罰則規定*があります。
*正当な理由なく、この期間内に登記を申請しなかった場合、法務局から一定の期間内に申請をすべき旨の催告があり、この催告に応じなければ、10万円以下の過料が科せられます(不動産登記法第164条)。
相続登記が義務化された背景(私見を交えて)
(1)登記する義務の前提知識
これまで登記の世界で義務と定められていたのは、建物の表題登記(建物の形状・構造・面積等の客観的な情報を記した登記簿の最上部に記載される分野:表題部)でした。建物を新築すれば、この義務を定めた不動産登記法第47条によって法務局に届け出る必要がありますが、実際には登記されていないことも多々あります。
表題部の登記を義務としたのは、建物を新築したことを所有者が登記申請をすることにより、固定資産の課税対象となる建物の存在を国が把握する必要があるためだと考えられます。しかし表題部の登記を申請せずとも、市区町村は建物が新築されたことを航空写真等により速やかに把握してしまうので、表題部の登記が無くても許されているのが実情です。
一方で、これまで表題部と対をなす権利部は義務とされていませんでした。これは「不動産に関する物権の得喪及び変更は不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従い登記しなければ、第三者に対抗することができない」と民法177条に規定されていることに由来します。
簡単にいうと「第三者に不動産の権利を主張するには登記しなければならない」という法律の既定のもとに、不動産の権利を有する者は自発的に登記をするだろうと国は考えていた節があるのです。
(2)義務にしてこなかったことによる弊害
しかし、この考えが思わぬ落とし穴だったのです。相続が発生しても、他人の権利(例えば銀行の融資を担保するための抵当権)を確保する必要もなく、第三者にも権利の主張をする機会がほぼない田舎の土地や建物は、相続の登記をしなくても、現状は変わりません。また固定資産税の観点においても、相続登記がなされていなくても、市区町村は所有者の死亡を知るや否や戸籍を調査し、相続人の代表に対し納税通知を発送します。
こうなると、わざわざ費用を掛けて相続登記をする必要はないなと、登記申請が放置されてしまったのも理解できます。その結果、何代にもわたって相続登記が放置されたり、相続人がいないまま所有者が死亡したりして、所有者が不明の不動産が増加することになりました。国土交通省調査によると、九州全土の面積を上回る日本国土の約24%が所有者不明土地と推定されています。
(3)義務化への動き
そして国としては、所有者不明土地の発生の大きな要因が相続登記未了であると位置づけ、相続登記を義務化することに舵をきりました。これには登記の専門家である司法書士の業界内でも、様々な意見が飛び交いました。反対意見としては、私的自治(自分で権利を確保するには自分で動くこと)の原則を守るべしという考え方、そもそも相続した時点で民法上は権利を取得しているという考え方、安易に共有関係でも相続登記を認める仕組みは良くないという考え方がありました。それでも国が踏み切ったのは、日本の法律では所有権が非常に強く規定されているため、所有者不明の状態では公共事業・災害復旧等に支障を来すというやむを得ない事情があったのだろうと思われます。
相続登記はした方がいいか?
仮に、単純に相続登記をした方がいいか?と聞かれれば、私はYESと答えます。
そう答える理由は、放置すればするほど相続登記の手続きが複雑化し、時間と費用がかかることになるからです。相続の手続きは放置すればするほど、相続人が増えていきます。時として、普段やり取りのない甥姪、配偶者の兄弟姉妹、その子ら等と話し合う必要が出てきます。さらに、その相続人に認知症の人がいれば後見を申し立てる必要も出てきます。手続きに協力をしてくれない相続人がいれば、遺産分割協議の調停など裁判所を利用することを検討しなければなりません。放置していて良い側面はあまりありません。
また通常、不動産を売りに出すには相続登記を済ませておく必要があります。急に売りたくなっても相続登記をしていないことで機会を逃すこともあります。
本人申請をするのはいいのですが…法務局で怒らないでください
相続登記の義務化も関係していると思いますが、昨今では本人が書類を作って法務局に申請する本人申請が増加しているようです。権利部の登記は、本人申請を原則とし、代理できるのは司法書士(又は弁護士)と定められているので、本人が手続きをすることは何の問題もありません。
しかし次のようなことが法務局で起きているようです。
・法務局で職員に理不尽に怒る。
・適切な申請書が出されていない。
・不備だらけの申請書を提出し、法務局の業務を遅滞させる。
・修正(補正)を求める法務局職員に横柄な態度をとる。
私は、こういった事象が生じているのは登記制度に関する知識の無さが関係していると思います。学校でも登記制度は教えてくれませんし、住民票を出す感覚で法務局に行くと当然に起こりうることかなと思います。ここでは学校では教えてくれない、法務局や登記制度に関する基本的なことを記しておくので、参考にしてください。
(1)法務局は審査機関であって、手取り足取り教える機関ではありません。
法務局は申請された内容を精査し、審査する機関です。審査すべき内容を書類提出者に指導し、それを審査機関が審査するのは、卵が先か鶏が先か、みたいな話です。相談窓口は、あくまでも限度のあるサービスです。不動産の所有権といった重要な財産権が絡むことですので、簡単にはいかないと考えて頂いた方がよろしいかと思います。
(2)法務局職員には踏み込めない領域がある。
法務局の窓口相談で、「もっと詳しく遺産分割協議書の書き方を教えろ!」と怒鳴っている方がいました。おそらく自分が有利になる方法を聞き出そうとしていたのでしょう。しかし法務局としても、遺産分割協議書の一般的な書き方は伝えられても、個別具体的な利害関係が衝突するような内容には首を突っ込むことができません。特に相続で争っている雰囲気がある相談者には注意を払うでしょう。法務局職員はあくまでも中立公平な立場で相談に応じていることを忘れないでください。
(3)登記申請書作成には、それなりの法的知識がいる。
相続登記義務化までするくらいなのだから、国は申請手続きを簡単にすべきだという意見があるようです。至極もっともなご意見かと思います。しかし登記制度は緻密に作り上げられたシステムであり、その厳格なルールと民間の法律行為のハイブリッドで動いているところがあります。それなりに深い法的知識が必要なのは間違いありません。
また法律のスペシャリストである弁護士の先生が登記申請をすることは稀で、司法書士に任せることがほとんどです。このことからも、登記制度が弁護士の知識とは別の専門性を持っていることは明らかです。
一言一句不備のない申請書と添付書面を用意するのは、難易度の高い作業です。
自分で頑張るか司法書士に任せるかの選択は…?
私は司法書士を生業としているので、司法書士を選んでいただきたいと素直に思っています。ただしお客様自身が手続きを行うことも素晴らしいことだとも思っています。
司法書士に頼むメリットは、手続きの煩雑さから解放され、時間の節約、適切な処理が期待できることです。デメリットは司法書士に対する報酬がかかることです。ですが、世の中のどんな仕事であれ対価性は伴うものです。
ご自身で挑戦したけれど難しかった、とても時間がかかりそうだ、話したくない相手がいる、このような場合は司法書士を頼って頂いて、お客様の貴重な時間をご自身のためにより有益に使って頂きたいなと思います。
2024年7月4日
司法書士杉井俊哉