【コラム】司法書士って何者?

司法書士って、何をしているの?

司法書士は『登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家』です。

しかし、一口に法律事務の専門家と言っても、どのようなことができるのだろう?
司法書士が関与すると聞く登記制度とは何なのか?という疑問が先に立つと思います。
ここでは、司法書士の歴史と、司法書士がどのような仕事をしているのかをご紹介しようと思います。

バッジは、五三桐

CEO

司法書士のバッジは、五三桐です。桐紋で有名なのは、太閤・豊臣秀吉でしょうか。
よく見かける桐紋ですが、かつては菊の御紋と同様、皇室専門の家紋でした。
ところが、時代が下るにしたがって戦国大名が使用したり、皇室から有力者に下賜されるようになりました。
そして、現代では、日本政府(内閣総理大臣・内閣)、皇宮警察本部、法務省の紋章として使用されています。
司法書士は、法務省所管の国家資格者であるため、法務省の紋章である五三桐を使用しています。

産声は、1872年(明治5年)

今から約150年前、明治維新が起こり、日本は近代国家の歩みを始めます。
その一環として早期の司法制度確立が必須となり、1872年(明治5年)、太政官無号達で「司法職務定制」が定められました。
この法典では、法制度を支える「代言人・代書人・証言人」という3つの基本的職能が決まりました。
現代では、それぞれ「弁護士・司法書士・公証人」と呼ばれています。

法廷で活躍する「弁護士」 と 裁判所提出書面を作る「司法書士」

1890年(明治23年)、代言人は弁護士と名称が変更されました。
法廷で当事者の代理人として活躍する弁護士とは対照的に、裁判所提出書面を作成する代書人という形がここで基礎づけられました。

裁判所に提出する書面を間違いなく書くためには、依頼者とたくさん話をしなければなりません。
その活動の中で、代書人は、庶民に身近な法律実務家としての側面を有するようになりました。

それから、1919年(大正8年)「司法代書人法」が制定され、代書人は、司法代書人と一般代書人に分離されました。
司法代書人は、より裁判所に近い代書人としての活動を継続していきます。

そして、1935年(昭和10年)「司法書士法」が定められ、司法代書人は、司法書士となりました。

司法書士は、何故「登記」業務を行うのか?

司法書士は、裁判所提出書面作成業務の他に、登記業務を行います。
司法書士がなぜ登記業務を行うのかというと、かつて区裁判所が登記事務を取り扱っていたからです。

登記制度は、憲法や民法よりも早く制定された法律第1号「登記法」によって確立されました。
それだけ登記は国にとって重要な制度であると言えます。

そして、登記事務は、不動産登記と商業登記に大きく分けることができます。
不動産登記は「この土地や建物は自分の所有物だぞ!」「借金のかたに担保を付けたぞ!」ということを社会に周知します。
商業登記は「こんな会社を作ったよ!」「会社の役員はこんな人だよ、目的はこんなことをするよ!」ということを社会に周知します。

つまり、不動産所有者・会社経営者が世の中に知らせるべき重要な事項を国に登録する制度が、登記なのです。

登記業務は、専門的であり職人気質的な部分を多く持ちます。
多くの司法書士は、登記業務を主に行うことを選びました。
司法書士が、登記の専門家と言われるのはこのような経緯があるからです。

簡易裁判所での訴訟代理

21世紀になり、「規制社会から活力ある競争社会」に向けて、自己責任型の競争社会への変革が謳われるようになりました。
変革後の自己責任型の競争社会では、紛争が多く生じることが予想され、紛争の迅速解決のため、司法制度改革が必要になりました。

そして、2002年(平成14年)、司法制度改革の一環として、司法書士に簡易裁判所での訴訟代理権が付与されました。
(ただし、簡易裁判所での訴訟代理権が付与されるには、法務大臣が指定する研修を修了し、考査に合格する必要があります。)

訴額140万円以下という限定があるものの、司法書士はその範囲において、弁護士と同様の活動ができるようになったのです。

司法書士に簡易裁判所での訴訟代理権を付与するに当たっては、付与すべきでないとの意見があったことも事実です。

しかし、司法書士に、簡裁訴訟代理権を付与することになったのは、
(1)司法書士が全国津々浦々にいること(登記所が各地にある)
(2)代書人の時代から庶民の傍にあって、常に話を聞き、誠実に定められた職務を行ってきたという歴史
(3)弁護士も司法書士も同じく明治5年の「司法職務定制」生まれ
という事情・背景があったと考えられています。

令和、司法書士法が改正される

令和元年6月12日に改正司法書士法(法律第29号)が公布されました。
(施行日は、公布日から起算して1年6月を超えない範囲において政令で定める日:令和2年8月1日)

その改正においては、今まで司法書士の存在意義は「法律の目的」として規定されていたところ、弁護士と同じく「使命」が明記されるようになりました。

改正法第1条では「司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もって自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命する。」と規定されています。

今まで、各司法書士が法律で規定されてはいないとしても、このような使命感、気概をを持って職務に当たってきたとは思います。
しかし、それが明確になったことで、司法書士はより社会のために職務を全うする責任を負ったと言えます。

これからの司法書士像 -個人的な思い-

司法書士の使命は、「法律事務の専門家として国民の権利の擁護することにより公正な社会を実現すること」です。

同じルーツを持つ弁護士が、基本的人権の尊重を使命とすることとは異なります。
両者は法律を用いて社会貢献をする部分では似ていますが、司法書士は細やかな法律事務を行っていくことを考えると、国民・市民のより近くで寄り添うことになろうと考えます。

これからの司法書士は、登記の専門家としての業務以外に、簡易裁判所での活動、認知症などを発症された社会的弱者に対するフォロー(後見制度)など、より社会に密接した「身近な存在」としての役割を果たして行くことが社会的に要請されていると思います。

風邪を引いたときに「かかりつけ医」に診察に行くのと同じように、何か困りごとがあるときに「司法書士」に聞いてみようという感覚を皆様にお持ち頂けるよう、日々精進していきたいなと私は思っています。

2019年(令和元年)6月20日
司法書士 杉井俊哉