のしてんてん

デッサンによる心の力学

(始めと終わりに)

画面に描かれた形はそこで使命を終えるのではない。その形は生み出されたとたん、画面上で様々な力関係を結び、見るものの心に何かを主張しはじめる。
確固とした力、浮遊する動き、画面の外に向おうとする流れ、心と連動する動きと力関係が画面の上で確かに存在するのである。
本書はこの力の基本的な関係を心の力学としてまとめたものである。
心・・・としたのはデッサンそのものが心の作用であり、そこに表れる力関係も心の作用に他ならないからである。

画面上で結び合う様々な力関係

結局のところ、心の力学は、形に対するその人の感じ方に由来する。

これは経験や、智識によって培われた心が創り上げる世界であり、心の力学が物理による力学に類似するのもそこに理由があるのであろう。

一方では、物理学では考えられないような力関係も存在している。

非科学的な感覚の世界もまた心の大きな部分を占めているのである。

そんな心の力学が表現できれば有り難いと思う。

また当然の事であるが、この力学は心が生み出すイメージを土台としている。

つまりここに記述した内容は科学的な普遍性など微塵もないということを先に述べておきたい。

心とは個々の人々の中で閉ざされており、その感じ方は千差万別である。

すなわちここで述べる力関係とまったく逆の力関係を認める心のあり方は当然存在するだろう。

(またそうあるのが人間本来の姿である)

したがって、ここで述べる力学は、科学的な普遍性のようなものを心に押しつけるものではなく、この力学を指標にして、のしてんてん(自分だけの心)がつくり出している、あなた自身の力学に触れて頂くためのものなのである。

このことはデッサンを学ぶにあたって、自分の心を観察するためのよい機会となるはずであろう。

このことでいくらかでも自己との対話が深まるならば幸いである。

無論、デッサンにおける心の力学は、これ以上のもっと多方面から取り上げることができる。

例えば具体的な形に対する力学、線による運動の力学、面の構成による力学、あるいは錯視の問題など、心がつくり上げている世界は広く複雑に折り重なっている。

これらの問題はいずれまた、機会があれば取り上げてみたい。

     最後に、 「点は瞑想する」 というカンディンスキーの言葉で締めとしたい


                                         2003年7月20日  北籔 和夫
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