ナブタ・プラヤの石器を観る |
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ナブタ・プラヤ |
まず最初に石器制作の発展の歴史を通観しておきます 下の表は、内村直之著「人類がたどってきた道」p.179 から作表したものですが、この流れの中でナブタ・プラヤの石器はどの辺にあるのか? ナブタ・プラヤは約11,000年前に人が住み始めていますから、2万年以降の「細石器の文化」なのでしょうか? とにかく、出土した石器群を観てみましょう。 |
石 器 の 歴 史 | J.G.D.クラーク (Clark)による5つの石器技術様式(Mode) | |||||||
石 器 時 代 | 文 化 | 年 代 | 特 徴 | 使用した種 | 文化発祥の地 | Grahame Clarkの 「Mode」(参考) |
門脇誠二による解説(「アフリカの中期・後期石器時代の編年と 初期ホモ・サピエンスの文化変化に関する予備的考察」から) |
下の第5図、第6図 の番号 |
下部旧石器時代 & 前期石器時代(ESA) |
オルドワン文化 (オルドバイ文化) |
250万年前~150万年前 | チョッパー | ホモ・ハビリスなど | 東アフリカ・タンザニア ・オルドヴァイ |
Mode 1 (第1様式) |
単純な剥片剥離にもとづき、チョッパーなどの礫器が製作される。 |
(a) |
アシューリアン文化 (アシュール文化) |
150万年前~50万年前 | ハンドアックス | ホモ・エルガスター ホモ・エレクトス |
フランス・サン=アシュール遺跡 | Mode 2 (第2様式) |
大型の剥片や石核を素材にしてハンドアックスやクリーヴァー などの両面加工石器が特徴的に作られる技術である。 |
(b) | |
中部旧石器時代 & 中期石器時代(MSA) |
ムステリアン文化 (ムスティエ文化) |
30万年前~ | ルヴァロワ技法 石刃 |
ネアンデルタール人 | フランス・ムステリエ洞窟 | Mode 3 (第3様式) |
両面加工石器に代わり、ルヴァロワなどの調整石核から剥離された 一定の形態規格を有する剥片を用いて道具が製作される。 |
(c) |
上部旧石器時代 & 後期石器時代(LSA) |
オーリニャシアン文化 (オーリニャック文化) |
4万年前~ | 石刃 | ホモ・サピエンス | 西ヨーロッパ/西アジア | Mode 4 (第4様式) |
上の様式と同様に剥片石器技術であるが、特にプリズム状石核から 剥離した縦長の剥片(石刃)を規格的素材として利用し、さまざま な専門的道具が作出される。 |
(d) |
細石器の文化 | 2万年前~ | 細石器(マイクロリス) | ホモ・サピエンス | ヨーロッパ/アフリカ/西アジア | Mode 5 (第5様式) |
小型の剥片や石刃(細石刃)を素材として細石器を製作し、それを 組み合わせ道具の一部として使用する技術体系である。 |
(e) |
参考図:石器の進歩 (「pinsdaddy.com」から) |
チョッパーから細石器まで | |||||||||
チョッパー | ハンドアックス | ルヴァロワ技法 | (参考:ルヴァロワ技法・3形態) | 石刃 | 細石器 | ||||
ポイント フレーク ブレード ←写真は「道具 の進化 の見 方,考 え方」から |
※横棒は1cmです 「JIJI.COM」から |
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ナブタ・プラヤで出土した石器群は? ナブタ・プラヤに人類が住み始めた年代から推測すると、「細石器の時代」なのではと推測されるのですが、実際に出土した石器群を観てみましょう。初期新石器時代の二遺跡 「E-91-3」 と 「E-75-9」 および、後期新石器時代の遺跡 「E-75-8」 から出土した石器群です。やはり 「細石器」 が多いですが、旧石器時代にネアンデルタール人やホモ・サピエンスが作り出した、ルヴァロワ技法の 「エンドスクレーパー」 や 「石刃」 など、5cm以上の石器も出土しています。ナブタ・プラヤの民も 「石刃技法」 を究めていたことが分かります。 |
第1図:初期新石器時代の石器類 「E-91-3」から | 第2図:初期新石器時代の石器類 「E-75-9」から | 第3図:中期・後期新石器時代の石器類 「E-75-8」から |
a :三角石器 b, e :弓形の石器(segments) c, d ,f~j, m : 峰付き石刃 k, l, p, q :エンド・スクレーパー n :截断面 のある石刃 o, r, s :石核 「Holocene settlement of the Egyptian SaharaⅠ」p.76から |
a : 台形の石器 b, d, j, y : 穴開け器 c, h, q : 三角石器 e, g : 截断面のある片 f, k, l, n, o, r : 弓形 の石器(segments) i, m, p : 峰付き石刃 s: ノッチ片 t, u, w : ビュラン(彫刻刀、刻器、彫器) v : 鋸歯状石器 x : エンド・スクレーパー 「Holocene settlement of the Egyptian SaharaⅠ」p.106から |
![]() a、j :穴あけ器 b : 尖頭器 c、d、e : 三日月状石器 f、o : 抉入石器、ノッチ g、i、k : 鋸歯状石器 h : ノッチ片 l、u : ジスコイド石核 m : アテール型(柄付き)尖頭器 n : その他 p、t : 端削器、 エンド・スクレーパー q: ビュラン(彫刻刀、刻器、彫器) r、s : 連続加工石器 「Holocene settlement of the Egyptian SaharaⅠ」p.406から |
石器の発達段階図および石器の呼称 ナブタ・プラヤの石器の発達状況は、概略を把握できたのですが、理解しにくいのが、石器の呼称です。第4図は冒頭の表を上下逆にして、対応する石器類のイラストを表示したものといえますが、石器の呼称はなかなか定番というものが無いので、第5図や第7~10図なども、ご参照ください。第5図はフランソワ・ボルドによるもので、冒頭の表に比較的忠実に対比しています。第6図は神経生理学の権威である、ジョン・C・エックルスが 「脳の進化」 という専門書に、それを簡略化して取り上げているので、参考までに添えました。第7図・第8図は2014年に発掘された、アルメニアの「ノルゲギ遺跡1」からの出土品です。この発掘は、ルヴァロワ技法がアフリカ発ではなかったという、衝撃的な結論を導く発見となりました(後述)。 |
第4図 リチャード・G・クライン著「5万年前に人類に何が起きたか?」から | 第5図 Francois Bordes著「The Old Stone Age」から | 第6図 Eccles, J. C.著「Evolution of the Brain:Creationof the Self」から |
※「剥片」=「フレーク」、「抉入」=「ノッチ」、「削器」=「スクレーパー」、「ナイフ」=「石刃」、「ビュラン」=「burin(仏語)」=「のみ状の石器」です。 ※アフリカとヨーロッパの「石器時代」と「文化」の年代が併記されていますが、大雑把な括りとお考えください。文化の年代は、上の「石器の歴史」の表の方が正確です。 ※石器の縮尺比率は正しくありません。 ※念のためですが、第4図、第5図は、いずれも年代の古い方が下になっていますが、第6図は逆です。 参考:アフリカの石器時代区分(「人類がたどってきた道」から) ![]() |
石器の発達段階 (a)2個のチョッパー、ハンドアックス(100万年以上前、ホモ・ハビリスによる) (b)薄く削いだハンド・アックス、スクレーパー(削器)、石刃、尖頭器(100万年~40万年前、 ホモ・エレクトスによる、アシュリアン型) (c)スクレーパー、尖頭器、鋭利な刃の石器。周囲を削り取るのではなく、剥片を剥しとる技法 「ルヴァロワ技法」を用いたもの(10万年~5万年前、ネアンデルタール人による、ムステリアン型) (d)丁寧に削られ、薄く剥がされた石器(22,000年~15,000年前、クロマニヨン人らによる) (e)さらに最近のもの。(フランス・ソリュートレ文化:22,000年~17,000年前) 参考:原文 |
「石器 (a)ホモ・ハビリスによる100万年以上前の斧と握斧。 (b)100万年から40万年前のホモ・エレクトスによる薄く削いだ握斧、削り器、石刃、尖頭器で アシュレアン型にぞくする。 (c)5万年前から10万年前のネアンデルタール人による手製の削り器、尖頭器、剥片の道具で、 ムステリアン型のもの。(Bordes,1968)」 ※以上は神経生理学者である ジョン・C・エックルス著・伊藤正男訳の「脳の進化」の、「第6章 視覚運動機能の進化:芸術邸創造性」(p.142) に記されたものです。写真は原典である 「Evolution of the Brain:Creationof the Self」 からです。エックルスは、脳の進化の研究に際して、 積極的に他の分野の研究を取り入れています。各石器類の正しい表現は、第5図の注記をご覧 下さい。 ※出典は (Bordes,1968)とありますが、左の第5図の出典と同じもので、写真も何点か省略されてい ます。上下は逆ですが(a)~ (c)も対応していますので、参考にしてください。 |
ノルゲギ遺跡(Nor Geghi 1)発見の意義 石器時代の石器製作技法は、これまで一般的に考えられていたようにアフリカ大陸で発達しただけではなく、ユーラシア大陸でも独立して、革新的な石器が編み出されていたとする研究結果が、2014年9月25日、米科学誌 「サイエンス」 に掲載されました。アドラー(D. S. Adler)らの研究者たちが、ノルゲギ遺跡(アルメニア)の発掘現場で、火山物質を分析した結果、石器が埋もれていた地層の正確な年代は、335000~325000年前頃と特定されました。しかもこの地層は、ハンドアックスとルヴァロワ技術による石器の両方を含んでいたのです。これによって、「この特徴的な技術革新が、他の地域の人類とは無関係に生じたことを示す証拠が初めて得られた」 と結論付けられたのです。「AFPBB News」から |
第7図 「Popular Archaeology」から | 第8図 「Sciencythoughts」から。拡大図は「Sapientia naturalem」から | 第1図(再掲載):初期新石器時代の石器類 「E-91-3」から |
ノルゲギ遺跡(Nor Geghi 1)に見られる石器技術の多様性(AFPBB News) A:ハンドアックスとその剥片 B、C:ルヴァロワ技法による石核と剥片 D:石核と石刃 注:A:左の本体はハンドアックスで、剥片は成形、再研削の際の不要物 B~D:逆に右の剥片と石刃の作成が目的で、そのままかまたは手を加えて 使用される (Credit: Daniel S. Adler) |
ノルゲギ遺跡出土の黒曜石の石器 ルヴァロワ技法: (1, 2) 石核; (3, 11, 13,14, 15及び 17) 剥片; (4) 底部に手が加えられた 尖頭器; (5~ 8) 石刃; (9,10) preferential cores. その他: (12) scraper with Quina retouch; (16)ハンドアックス Adler他 (2014) |
a :三角石器 b, e :弓形の石器(segments) c, d ,f~j, m : 峰付き石刃 k, l, p, q :エンド・スクレーパー n :截断面 のある石刃 o, r, s :石核 「Holocene settlement of the Egyptian SaharaⅠ」p.76から |
英語の呼称と日本語訳 第9図は第4図の原典です。第10図はエジプトの先王朝時代の石器類です。第11図の枠には 「世界考古学事典」 の表を掲げておきました。石器類の正式な呼称というのは、色々使われていて、一貫性が乏しいのですが、これも参考になさってください。第12図は西秋良宏編 「Paleoasia」 記載の 「一覧表」 ですが、日本でまとめられたものとしては、唯一ではないかと思われます。ただし、これもあくまで一例であって、英語からの直訳的翻訳なども見られますから、この分野では絶対的な 「邦訳」 は未だ無いと思われます。 |
第9図 Klein, R. G.著「The Dawn of Human Culture」から | 第10図 「what-when-how」から | 第11図 |
※日本語訳は上の第4図をご覧下さい。 |
Predynastic stone tools (a) notch; (b) truncation knife; (c) micro-end-scraper (on bladelet of heat-treated flint); (d) microdrill; (e) transverse arrowhead; (f) burin; (g) perforator(=穴開け器); (h) sickle blade; (i) end-scraper on flake; (j) concave-base projectile point; (k) blade knife; (l) end-scraper on blade; (m) truncation with backing retouch |
※出典サイトが消滅しました。 「世界考古学事典」から (参考:「ウィキペディア:石器」) (参考:イニザン,M.L.他著「石器研究入門」p.130~) |
第12図-1:9種類の石器とその製法の略図 | 第12図-2:9種類の石器の名称 |
※第12図は「Paleoasia」p.27~30から |
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邦訳 |
石器の製造法を紹介するヴィデオ(熊谷市立江南文化財センター 制作) 実際にこうして石器を作っているところを見ると、とても理解しやすくなります。是非ご覧下さい。 |
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