増幅器と濾波器(フィルター)

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  未熟な左手が作った第2種MEの計測原理に関するノートです。
誤りがございましたら、ご連絡下さい。


生体計測機器の構成
電極又は変換器 : 生体信号の取入れ    増幅器 : 弱い生体信号の増幅    演算器 : 入力信号の処理
表示装置・記録計 : 信号の表示と記録    発信器・受信器 : データの伝送



増幅器

  増幅器とは、生体信号などの微弱な信号を検知できる程度まで大きくする装置のことです。
増幅器には、トランジスタFET(電界効果型トランジスタ)が用いられます。

利得(増幅度)

  入力に対する出力に比を増幅度または利得(ゲイン)といいます。

≪単位と記号≫

  利得(増幅度)は、倍率を表すため単位はなしか" 倍 "、記号は" A "で表されます。
しかし、増幅度の値は、数倍のものから106倍を超える広範囲の値を扱うため常用対数(log)を用いた" dB(デシベル) "単位で表らわすことが一般的で、記号は" G "で表されます。
常用対数とは


≪電力利得≫

  入力信号電力をPi、出力信号電力をP0とすると電力利得(増幅度)Apは、下記式で表されます。
  電力利得
電力の利得をデシベル[dB]という単位で表す場合、常用対数の10倍したもので表されます。
  電力利得


≪電圧・電流利得≫

  入力信号電圧をVi、入力信号電流をIi、出力信号電圧をV0、出力信号電流をI0とすると電圧利得(増幅度)A、電流利得(増幅度)Aiは、下記式で表されます。
  電圧・電流利得
電圧・電流の利得をデシベル[dB]という単位で表す場合、常用対数の20倍したもので表されます。
  電圧・電流利得
※デシベル単位で利得を表す場合、電力だけ常用対数の10倍で表されるので注意してください。


≪生体計測機器と増幅器の増幅度≫

心電図脳波筋電図眼振図
増幅度60 [dB]120 [dB]120 [dB]120 [dB]

入力インピーダンス

  信号源のインピーダンス(電極・接触インピーダンス)が非常に大きいため、入力インピーダンスの大きな増幅器が必要となります。

≪入力インピーダンスを大きくする理由≫

下記図は、生体に電極を装着した時の等価回路です。

入力インピーダンス

  電極・接触インピーダンス(Zs)と入力インピーダンス(Zi)は直列に接続されているので、生体起電力(E)は両インピーダンスの大きさに比例して分圧されます。
直列回路内での電圧
そのため、増幅器の入力電圧(V)は、次式のように表されます。
  入力インピーダンス
(1) Zi≪Zsの場合(入力インピーダンスが小さい場合)

  上記の式の分母が非常に大きくなり、増幅器入力電圧(V)は0に近づくため増幅器に入る電圧(信号)は小さくなります。又、電圧(信号)が小さくなるだけでなく、周波数にも影響され波形自体にも歪みが生じてきます。

(2) Zi≫Zsの場合(入力インピーダンスが大きい場合)

  上記の式の分母の Zs+Zi≒Zi と考えられるため、Ziの分母分子が消え増幅器入力電圧(V)≒生体起電力(E)となり、生体起電力がそのまま増幅器の入力電圧(信号)となります。

このように、生体内部信号を体表電極を用いて正確に取り出すには、入力インピーダンスの大きな増幅器を用いなければなりません。


≪生体計測機器と増幅器の入力インピーダンス≫

心電図脳波筋電図
入力
インピーダンス
2 [MΩ]以上5 [MΩ]以上20 [MΩ]以上

S/N比

  増幅器には、生体信号(S;Signal)にともなって、雑音(N;Noize)も入力されます。増幅器には、生体信号と雑音を見分ける能力がないためともに増幅されてしまいます。もし、雑音が大きければ信号は雑音にうもれてしまうことになります。そのため、信号中に含まれる雑音がどの程度あるのかを表す指標が必要となります。

≪雑音の種類≫

@ 内部雑音

  増幅器内部から発生する雑音で抵抗体、真空管およびトランジスタから生じる雑音です。

A 外部雑音

  外部から混入される雑音で主なものに商用交流や電気機器から静電誘導及び電磁誘導によって発生するものや漏れ電流によって発生するもなどのがあります。
雑音対策上、静電誘導と電磁誘導による商用交流雑音(ハム)をいかに排除するかが重要となります。


≪S/N比≫

  生体信号の大きさ(S;Signal)と雑音の大きさ(N;Noize)の比を信号対雑音比(S/N比)と呼びます。
S/N比もデシベル[dB]単位を用いて表示されることが多く、下記式のように表せます。
  S/N比
S/N比が大きいということは、生体信号からの出力が相対的に多く、雑音が少ないことを意味します。


≪入力換算雑音≫

  増幅器の入力端子を短絡し外部雑音が入らない状態とし出力の雑音レベルを増幅度で割った値を入力換算雑音と呼びます。
雑音には内部雑音と外部雑音がありますが、外部雑音はその雑音の性質上外部環境に左右されます。そのため、S/N比は外部雑音の入らない状態にした増幅器内部のS/N比(入力換算雑音)が一般的に用いられます。


周波数特性

  増幅器には、どんな場合でもその中にCR回路が組み込まれています。そのため、入力信号の周波数が変化すれば、異なった増幅度を示すこととなります(下記図参照)。このような増幅器の周波数に関する特性を周波数特性と呼びます。

≪周波数特性の必要性≫

  増幅器の目的は、微弱な生体信号を検知できる程度まで増幅することですが、信号が一様に増幅されなければなりません。
生体信号は、単一周波数のものはまれでいろいろな周波数の正弦波交流が重ね合わさったものとなっています。そのため、信号の周波数によって異なった増幅がされると出力信号と入力信号で振幅の大小だけでなく、波形自体が異なったものとなってしまいます(周波数ひずみ)。
しかし、増幅器が一様に増幅できる周波数が広ければ広い方が良いというものではありません。周波数の幅が広がれば広がるほど、不必要な信号(雑音)が混入するからです。
そのため、取り出したい生体信号に適した周波数特性をもつ増幅器を使用する必要があるのです。


≪帯域≫

  最大利得から3dB(1/√2)低くなるまで周波数範囲を帯域と呼びます(下記図参照)。
帯域内の周波数範囲であれば、出力信号はほぼ一様に増幅され入力信号に忠実な出力信号が得られます。


≪遮断周波数≫

  最大利得より3dB(1/√2)減少する周波数を遮断周波数と呼びます。
帯域の中の低い方の周波数を低域遮断周波数(fl)、また高い方の周波数を高域遮断周波数(fh)と呼びます(下記図参照)。

周波数特性

≪生体信号の周波数範囲≫

心電図脳波筋電図眼振図
周波数範囲0.05〜100 [Hz]
(0.05〜200 [Hz])
0.5〜70 [Hz]
(0.5〜120 [Hz])
20〜5k [Hz]
(5〜10k [Hz])
0.05〜20 [Hz]
(0.05〜200 [Hz])

※文献によって生体信号の周波数範囲は異なるようです。個人的な見解は、上に書いたものが適切なような?


差動増幅器

  差動増幅器は、心電図や脳波計などの生体から発生する微小な信号電圧の増幅に使用される一般的な増幅器で、オペアンプを構成する増幅器として多用されています。
差動増幅器は、2つの同じ特性を持つ増幅器(トランジスタ)を対称的に接続し、それぞれの増幅器の入力端子に入力された2つの入力信号の差を増幅して出力する増幅器です。
2つの入力信号の差を増幅するため、差動増幅器の入力端子は、+、−の2つとなっています。

≪同相信号と逆相信号≫

  差動増幅器には、2つ信号(V1とV2)の入力がされます。下図のような2つの入力信号の違いによって、同相信号、逆相信号と呼ばれます。

同相信号と逆相信号

  差動増幅器では、−端子に入力されると反転して出力されます。
詳しくはオペアンプ(反転入力と非反転入力)参照
そのため、同相信号は、片方の入力信号が反転するため両者の信号が相殺され増幅が抑制されます。逆に、逆相信号は、片方の入力信号が反転するため、信号は増幅されます。
  同相信号を差動増幅

  逆相信号と差動増幅
  通常、生体信号は、逆相信号、生体に加わる電気的な雑音(商用交流雑音)は同相信号として入力されるため、差動増幅を用いることにより雑音を低く抑え、生体信号を増幅(S/N比の向上)することができます。


≪CMRR(同相弁別比)≫

  実際、差動増幅を用いても同相信号(雑音)は出力されます。それは、差動増幅器は2つの増幅器の増幅度と周波数特性を全く等しくすることはできないからです。しかも、その差は差動増幅器によって異なります。
そのため、逆相信号に比べて同相信号がどれだけ抑えられるかを示す差動増幅器の特性の指標としてCMRR(同相弁別比)が用いられます。
  CMRR(同相弁別比)は、逆相信号の増幅度と同相信号の増幅度の比で与えられます。デシベル[dB]単位を用いて表示されることが多く、下記式のように表せます。
  CMRR(同相弁別比)

≪生体計測機器と増幅器のCMRR≫

心電図脳波筋電図眼振図
CMRR60 [dB]60 [dB]60 [dB]60 [dB]

≪差動増幅器の特徴≫

@ 増幅器に入力される外部雑音(商用交流など)を抑え、必要な信号だけを効率良く増幅できます。
  →S/N比を大幅に向上することができます。
A 電源電圧の変動の影響を受け難くなります。
B 直流増幅に適しています。
C 増幅器内部から発生する内部雑音は防ぐことができません。


負帰還増幅器

  実際の増幅器では、増幅することによって波形の歪みや雑音の発生、さらには温度の変化によって増幅波形が変化するといったことが生じます。そこでこうしたことを改善するために負帰還増幅器が用いられます。

≪帰還≫

  増幅した出力信号の一部を入力側に戻すことを帰還といいます。帰還には、出力信号が入力側の信号と同じ位相に帰還する正帰還と逆位相に帰還する負帰還があります。
正帰還は、増幅器としては不安定であるため発信器としてしか用いられませんが、負帰還増幅器は、歪みの減少や帯域を広くするなど増幅器には欠かすことはできないものです。
帰還回路


≪負帰還増幅器の特性≫

@ 利得(増幅度)が下がります。
A 利得が安定化します。
B 周波数特性が改善します。
C 非直線ひずみが軽減されます。
D 雑音が抑制します。

  負帰還増幅は、一部帰還させた信号が入力信号の逆位相に帰還されるため入力信号を少しだけ打ち消すこととなり、利得(増幅度)は減少します。
しかし、利得の安定や帯域幅の拡大、ひずみや雑音を減少するなど帰還のない増幅器に比べて種々の特性改善が得られます。
  また、利得の減少にしても増幅回路を複数直列につなぐことで利得の減少は補うことができるため、負帰還は増幅器にとって大変優れた方式として利用されています。



濾波器(フィルター)

  信号そのものに他の周波数成分(雑音)が含まれている場合や得られた波形の分析などのためにある限られた周波数帯域だけを選択的に抽出する必要があります。そのために特定の周波数成分だけを取り出したり、又は取り除く役割をする回路を濾波器又は、フィルターと呼びます。

濾波器の種類

≪高域濾波フィルター(低域遮断フィルター)≫

  呼吸などによる上下運動や体動によって低い周波数雑音が発生します。このような低い周波数雑音をカットし、高い周波数信号をそのまま通す濾波器です。
回路としては、抵抗(R)とコンデンサ(C) を直列につなぎ抵抗(R)を出力するCR 回路(微分回路)が使用されます。
微分回路

高域濾波フィルター(低域遮断フィルター)


≪低域濾波フィルター(高域遮断フィルター)≫

  緊張による筋電図などによって高い周波数雑音が発生します。このような高い周波数雑音をカットし、低い周波数信号をそのまま通す濾波器です。
回路としては、コンデンサ(C) と抵抗(R)を直列につなぎコンデンサ(C) を出力するRC 回路(積分回路)が使用されます。
積分回路

低域濾波フィルター(高域遮断フィルター)


≪帯域濾波フィルター≫

  高域濾波フィルターと低域濾波フィルターを組み合わせたものである範囲の周波数成分のみを通過させる濾波器です。

帯域濾波フィルター


≪帯域除去フィルター(ハムフィルター)≫

  ある周波数成分のみをカットする濾波器です。50Hzまたは60Hzの商用交流障害を取り除くハムフィルターが一般的に使用されます。

帯域除去フィルター

時定数 τ

  濾波器(フィルター)の遮断周波数を表す指標として時定数が用いられます。
時定数
遮断周波数fと時定数τとは、以下の関係があります。
  時定数
時定数が大きいほど遮断周波数は小さくなり、時定数が小さいほど遮断周波数は大きくなります。

≪計測機器の時定数と遮断周波数≫

心電図脳波筋電図眼振図
標準時定数3.2 [秒]0.3 [秒]0.03 [秒]3又は0.03 [秒]
低域遮断周波数0.05 [Hz]以下0.5 [Hz]5 [Hz]0.05又は5 [Hz]
高域遮断周波数200 [Hz]120 [Hz]10k [Hz]200 [Hz]

※ 通常、計測機器の時定数は低域遮断の時定数を指します。







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