平成16年11月26日判決言渡
神戸地方裁判所 平成15年(ワ)第913号  賃金等請求事件
(口頭弁論の終結の日  平成16年10月20日)
                          判    決

  原告     中田 良治、日野 隆文、板谷 節雄
  原告     全日本港湾労働組合関西地方本部      同代表者地方執行委員長  佐野 祥和
  原告     全日本港湾労働組合関西地方神戸支部   同代表者支部執行委員長  馬越 輝光


  被告     本四海峡バス株式会社              同代表者代表取締役     川真田 常男
  被告     全日本海員組合                  同代表者組合長        井出本 榮
                           主    文
  1. 被告本四海峡バス株式会社は,原告中田良治に対し,金220万3993円及びこれに対する平成16年9月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

  2. 被告本四海峡バス株式会社は,原告日野隆文に対し,金220万4697円及びこれに対する平成16年9月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

  3. 被告本四海峡バス株式会社は,原告板谷節雄に対し,金300万0809円及びこれに対する平成16年9月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

  4. 被告本四海峡バス株式会社及び被告全日本海員組合は,連帯して,原告中田良治,原告日野隆文及び原告板谷節雄に対し,各金100万円及びこれに対する平成15年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  5. 被告本四海峡バス株式会社及び被告全日本海員組合は,連帯して,原告全日本港湾労働組合関西地方本部及び原告全日本港湾労働組合関西地方神戸支部に対し,各金30万円及びこれに対する平成15年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  6. 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

  7. 訴訟費用は,原告らに生じた費用の9分の4と被告本四海峡バス株式会社に生じた費用の3分の2を被告本四海峡バス株式会社の負担とし,原告らに生じた費用の6分の1と被告全日本海員組合に生じた費用の2分の1を被告全日本海員組合の負担とし,その余は原告らの負担とする。

  8. この判決は,第1ないし第5項に限り,仮に執行することができる。 
                 事実及び理由

第1 請求

  1. 主文第1ないし第3項と同旨

  2. 被告本四海峡バス株式会社及び同全日本海員組合は,連帯して,原告中田良治,原告日野隆文及び原告板谷節雄に対し,各金200万円及びこれに対する平成15年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  3. 被告本四海峡バス株式会社及び同全日本海員組合は,連帯して,原告全日本港湾労働組合関西地方本部及び原告全日本港湾労働組合関西地方神戸支部に対し,各金150万円及びこれに対する平成15年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,@原告中田良治,同日野隆文及び同板谷節雄の3名(以下,それぞれ「原告中田」,「原告日野」及び「原告板創といい,合わせて「原告中田ら3名」という。)が被告本四海峡バス株式会社(以下「被告会社」という。)に対し,原告中田ら3名に支払われるべき平成15年3月分から平成16年9月分の賃金と実際に支払われた賃金との差額及びこれに対する平成16年9月分の支払日の翌日である平成16年9月26日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(請求1),A原告中田ら3名が被告会社及び被告全日本海員組合(以下「被告全日海」という。)に対し,不法行為による損害賠償請求として,被告らの不当労働行為によって被った精神的損害に対する慰謝料各200万内及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年5月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め(請求2),B原告全日本港湾労働組合関西地方本部(以下「原告関西地本」という。)及び原告全日本港湾労働組合関西地方神戸支部(以下「原告神戸支部」といい,原告関西地本と合わせて「原告関西地本ら」という。)が被告会社及び被告全日海に対し,被告らが原告関西地本らの団体交渉権を認めず,団体交渉を拒絶したことを理由とする無形の損害に対する賠償として各150万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年5月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた(請求3)事案である。
 1. 争いのない事実及び末尾括弧内に掲げた証拠により認められる事実
(1) 被告会社は,一般乗合旅客自動車運送事業等を業とする会社であり,本四連絡橋(明石海峡大橋)の開通による一般旅客定期航路事業者の事業縮小に伴う対策として,新事業の展開,船員等の離職者の雇用確保を目的とし,平成7年4月14日に設立された。
 被告会社は・明石海峡大橋の開通に伴い,平成10年4月6日から,大阪・神戸―淡路―徳島間のバス路線を西日本ジェイアールバス及びJR四国と共同運行している。
 営業開始時の従業員は83名であり,そのうち,運転士,整備管理者(事務兼務を含む。)は合計58名で,うち52名が船員等の本四連絡橋関係離職者である。これらの者は・約半年に及ぶ事前の訓練を終えた後,営業開始直前の平成10年4月1日,被告会社に採用された。

(2) 原告中田ら3名はいずれも元船員であり,平成10年4月1日,被告会社に雇用され・原告中田は運転士として・原告日野及び同板谷は運転士兼指導員,後に主席運転士として勤務していた。

(3) 全日本港湾労働組合(以下「全港湾」という。)は,港湾産業及びこれに関連する事業の労働者で組織する全国組織の労働組合である(甲2)。
 原告関西地本は,全港湾の関西地方における下部組織であり,原告神戸支部は,原告関西地本の下部組織で,神戸地方を統括する支部組織である(甲2)。

(4) 被告全目海は,住所地に本部を置く,海上労働者を主体とする全国組織の労働組合である(丙1)。

(5) 被告会社と被告全日海との関係
ア 被告全日海は,離職船員の職場確保のために,被告会社の設立当初から被告会社に協力してきた(甲1,丙2ないし4,9,33)。
 被告全日海は,被告会社との間で,ユニオン・ショップ協定(以下「本件協定」という。)を蹄結している。すなわち,被告会社と被告全日海との間で,平成10年6月26日付けで締結された平成10年度労働協約書の4条(ユニオンショップ制)には,「会社の所属運転士及び整備士(以下運転士等という)は,すべて組合の組合員でなければならない。」(1項),「会社に新しく採用される組合員でない運転士等は,採用後おそくとも1カ月以内に加入手続きをとるものとする。」(2項),「会社は組合に加入しない者,・または組合員の資格を失った者を引き続き運転士等と
 して雇用しない。」(3項)と定められている(乙3)。

イ 被告全日海は,平成11年秋ころ,被告会社の発行済み株式総数の約10パーセントを取得して第3位の株主となったが,平成12年3月31日には,被告会社の発行済み株式総数の54.93パーセントを保有する筆頭株主となった(甲1)。

ウ 被告会社は・平成12年4月9日,被告全目海が所有し,被告全日海の関西地方本部が置かれている神戸市中央区・・・・・・・・・所在の海員ビル内に本社機能を移転した(甲1)。

エ 被告会社は・平成12年4月27日開催の馴寺株主総会において,被告全日海関西地方支部支部長代行であったTN(以下「TN」という。 ),被告全日海の元中央執行委員で被告会社の支配人に就任していたID(以下「ID」という。)及び被告全目海の元中央執行委員で被告会社の副支配人に就任していたIU(以下「IU」という。)を,いずれも被告会社の取締役に選任し,その後の取締役会において,TNが代表取締役専務に,IDが総務担当常務取綿役に,IUが労務担当常務取締役にそれぞれ選出され,それぞれ就任した(甲1)。
(6) 原告中田らの解雇
ア 被告会社においては,原告中田らを含む運転士及び整備管理者58名全員が被告全日海に所属していたが,58名全員は,平成11年7月30日付けで被告全日海に脱会届を提出するとともに,同日付けで全港湾に加入する手続を取った(甲1,2,丙22)。

イ 上記58名は・原告神戸支部内に本四海峡バス分会を結成し,原告中田が原告神戸支部の本四海峡バス分会分会長,原告日野が同副分会長,原告板谷が同書記長にそれぞれ選出された(甲1,2)。

ウ 被告全日海は,同年8月6日付けで原告中田ら3名を除名処分とし,同日,被告会社に対し,本件協定に基づいて原告中田ら3名を解雇するよう要請した(丙22,24,25,27,29ないし31)。

エ 被告会社は・これを受けて・同年8月9日付けで,原告中田ら3名を解雇した(以下「本件解雇」という。)(甲1,2)。
(7) 訴訟の提起及び結果等
ア 原告中田ら3名は・被告会社を被告として,原告中田ら3名が被告会社に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,本件解雇後の未払賃金等の支払を求める訴えを神戸地方裁判所に提起した(平成12年(ワ)第505号労働契約上の地位確認等請求事件)。また,原告関西地本らは・被告会社を被告として,団体交渉を求め得る地位にあることの確認を求めるとともに,団体交渉を拒否したことによる損害賠償の支払を求める訴えを同裁判所に提起した(同年(ワ)第925号団体交渉を求める地位確認請求事件)。被告全日海は,上記505号事件において,被告会社に補助参加した。
 神戸地方裁判所は,上記両事件を併合して審理した上,平成13年10月1日,原告中田ら3名の訴えについて,被告会社に対して労働契約上の権利を有する地位にあることを確認し,被告会社に対し,本件解雇前3か月間の平均賃金を賃金月額とする,本件解雇の日から判決確定の日までの賃金と平成12年冬季分までの一時金及び慰謝料の支払を認めるとともに,原告関西地本らが被告会社に対し,それぞれ団体交渉を求め得る地位にあることを確認し,原告神戸支部の損害賠償請求の一部を認める判決をした(以下「前訴判決」という。甲2)。

イ これに対し,被告会社は,大阪高等裁判所に控訴したが(平成13年(ネ)第3600号労働契約上の地位確認等,団体交渉を求める地位確認請求控訴事件),同裁判所は,平成14年7月30日,控訴をいずれも棄却する判決をした(甲3)。

ウ 被告会社は,さらに・最高裁判所に上告及び上告受理の申立てをしたが(平成14年(オ)第1698号,同年(受)第1727号),同裁判所は,平成15年2月27日,上告棄却及び上告不受理の決定をした(以下「前訴最高裁決定」という。甲4)。上記最高裁決定は,同年3月1日・原告中田ら3名にそれぞれ送達された(甲36,37,弁論の全趣旨)。

エ その後,原告中田ら3名は,被告会社に対し,平成12年4月分から平成15年1月分における本件解雇時の貸金とその後の賃金増額分との差額,本件解雇時の賃金を基準とした平成12年夏季一時金及び冬期一時金とその後の賃金増額による各一時金との差額,並びに未請求の平成13年,平成14年の各夏季一時金及び冬季一時金の支払を求める訴えを神戸地方裁判所に提起し(平成14年(ワ)第2221号賃金等請求事件),同裁判所は,平成15年7月10日,原告中田ら3名の請求を全部認容する判決をした(甲13)。
(8) 被告会社の原告中田ら3名に対する賃金の支給
ア 被告会社は,原告中田ら3名に対し,平成15年3月25日,同年3月分賃金として以下の金員を支払った。なお,被告会社払その際,同年2月分賃金支払の際に支払われた諸手当部分について,同月28日の1日分が過払いであるとして,1日分相当額を差し引いて支払った(甲8の1ないし3)。

 原告中田に対し
基本給           18万3190円
勤務地手当            5496円
扶養手当           1万9000円
技能手当             6000円
(合計)           21万3686円
差引分             −4135円
総支給額          20万9551円
 原告日野に対し  
基本給            18万8680円
勤務地手当             5660円
扶養手当            1万9000円
技能手当              6000円
事務兼務手当           4000円
(合計)            22万3340円
差引分              −4136円
総支給額           21万9204円
 原告板谷に対し 
基本給            20万3520円
勤務地手当             6106円
扶養手当            1万5000円
技能手当              6000円
事務兼務手当           4000円
(合計)            23万4626円
差引分              −5630円
総支給額           22万8996円
イ 被告会社は,平成15年7月25日,平成12年ないし平成14年の各4月に実施された基本給等の増額を原告中田ら3名にも適用することとし,原告中田ら3名に対し,平成15年3月支給分として,以下の金額を追加して支払った(甲32の1ないし3)。
        原告中田    2万4977円
        原告日野    3万5427円
        原告板谷    4万7240円

ウ 被告会社は・原告中田ら3名に対し・平成15年4月分から平成16年3月分の賃金として,以下の金額を支払った(甲39の1,2,争いのない事実)。
        原告中田    24万3896円
        原告日野    26万4031円(平成15年4月から同年8月)
                  26万3031円(同年9月から平成16年3月)
        原告板谷    28万4956円

エ 被告会社は,原告中田ら3名に対し,平成16年4月分から同年9月分の賃金として,以下の金額を支払った(甲41の1ないし3)。
        原告中田    24万8304円
        原告日野    26万7038円
        原告板谷    28万8097円
 2. 争点
(1) 原告中田ら3名の被告会社に対する差額賃金請求権の有無及びその金額
(2) 原告中田ら3名の被告会社及び被告全日海に対する慰謝料請求権の有無及びその金額
(3) 原告関西地本らの被告会社及び被告全日海に対する,無形の損害についての賠償請求権の有無及びその金額
 3. 争点についての当事者の主張
(1) 原告中田ら3名の被告会社に対する差額貸金請求権の有無及びその額
(原告らの主張)
ア 被告会社は・本件協定に基づいて原告中田ら3名を解雇したが,この点に関し,前訴判決は,本件協定のうち,他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者である被告会社の解雇義務を定める部分は民法90条の規定により無効というべきであり,本件解雇は,本件協定に基づく解雇義務が生じていないのになされたものであり,他に本件解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り,解雇権の濫用として無効であると判示した。そして,控訴審判決もこの判決を正当とし,前訴最高裁決定により同判決は確定している。したがって・原告中田ら3名が被告
会社に対して労働契約上の権利を有する地位にあることは明らかである。

イ 平成15年3月分の賃金
(ア)  前訴判決は,被告会社に対し,本件解雇以降の賃金の支払を命じたが,裁判所が支払を命じた原告中田ら3名に対する月額賃金は,以下の金額であり,これは解雇前3か月間の各原告らの平均賃金である。
        原告中田     32万9468円
        原告日野     33万9159円
        原告板谷     39万5267円

(イ) しかしながら,原告中田ら3名が解雇された平成11年8月9日以降,平成12年4月分(賃金支給日は毎月25日)から被告会社における賃金規定が改定され,原告らが支給を受けるべき賃金額は増額した。また,平成13年4月,平成14年4月にも同様に賃金額が増額された。その結果,被告会社が平成15年3月分として原告中田ら3名に支払うべき賃金のうち,本給,勤続給,勤務地手当,事務兼務手当は別表「賃金差額」記載のとおりとなり,これに基づいて平成15年3月分として原告中田ら3名に支払われるべき賃金を算定すると,以下のとおりとなる。
        原告中田     35万4445円
        原告日野     37万4586円
        原告板谷     44万2507円
(ウ) 前記1(8)ア,イのとおり,被告会社は,原告中田ら3名に対し,平成15年3月25日及び同年7月25日に賃金を一部支払った。その結果,平成15年3月分として原告中田ら3名に支払われるべき貸金と,既払額との差額は以下のとおりとなり,原告中田ら3名は被告会社に対し,同額の支払を請求することができる。
        原告中田     11万9917円
        原告日野     11万9955円
        原告板谷     16万3271円
ウ 平成15年4月分から平成16年3月分の賃金
(ア) 被告会社は・平成15年4月分以降の各賃金の支払においても,同年3月分と同様の対応をしており,同年4月分から平成15年3月分の各賃金について,賃金の未払が生じたところ,被告会社は,平成15年4月1日をもって賃金規定を改定したため,原告中田ら3名の本給等について,以下のとおり増額された。
本給 勤続給 勤務地手当 合 計
原告中田 3680円 1400円 153円 5233円
原告日野 3710円 1400円 154円 5264円
原告板谷 2570円 1400円 120円 4090円

(イ) 原告板谷について,平成15年4月1日に第2子が就職し,同原告の扶養をはずれることになり,被告会社の賃金規定に従うと,原告板谷に対して支給される扶養手当は,平成15年3月分では月額1万5000円であったところ,同年4月分以降は月額1万4000円に減額となった。
 また,原告日野についても,平成15年9月に父親が死亡し,被告会社の賃金規定に従うと,同原告に対して支給される扶養手当は,平成15年8月分の賃金では月額19000円であったところ,同年9月分以降は月額1万8000円に減額となった。

(ウ) 原告中田ら3名について・支払われるべき賃金は,前記イ(イ)の平成15年3月分として支払われるべき賃金額に,上記(ア)の増額分を加え,さらに上記(イ)における扶養手当の減額分を差し引くことにより,以下のとおりとなる。
        原告中田     35万9678円
        原告日野     37万9850円(平成15年4月から同年8月)
                   37万8850円(同年9月から平成16年3月)
        原告板谷     44万2597円
(エ) 前記1(8)りのとおり・被告会社は,原告中田ら3名に対し,賃金を一部支払った。その結果,平成15年4月分から平成16年3月分について,原告中田ら3名が支払を請求する賃金は以下のとおりである。
        原告中田  
                支払われるべき賃金     35万9678円
                実際に支払われた賃金    24万3896円
                請求する賃金月額       11万5782円
                上記期間の請求総額    138万9384円

        原告日野(平成15年4月から同年8月)
                支払われるべき賃金      37万9850円
                実際に支払われた賃金     26万4031円
                請求する賃金月額        11万5819円
                上記期間の請求総額      57万9095円
              (平成15年9月から平成16年3月)
                支払われるべき賃金      37万8850円
                実際に支払われた賃金     26万3031円
                請求する賃金月額        11万5819円
                上記期間の請求総額      81万0733円

                合計請求総額          138万9828円

       原告板谷
                支払われるべき賃金      44万2597円
                実際に支払われた賃金     28万4956円
                請求する賃金月額        15万7641円
                上記期間の請求総額     189万1692円

エ 平成16年4月分から同年9月支給分の賃金
 被告会社は,平成16年4月1日をもって賃金の改定を実施し(甲40),原告中田ら3名に対してもこれによる賃金増額を適用した(甲41の1ないし3)。
 その結果・平成16年4月分から同年9月分までの支払われるべき賃金額は増額となるが・実際に支払われた賃金月額についても同額の増額がなされたため,これらの差額である請求する賃金月額は,平成16年3月分までの賃金と同じであり,同期間の請求総額は以下のとおりとなる。
           原告中田   69万4692円
           原告日野   69万4914円
           原告板谷   94万5846円

オ 原告中田ら3名の請求
 以上アないしエによれば,原告中田ら3名は,被告会社に対し,未払賃金として,以下のとおりの金額の支払請求権を有する。
           原告中田  220万3993円
           原告日野  220万4697円
           原告板谷  300万0809円

力 被告会社の主張に対する反論
 被告会社は,原告中田ら3名には平均貸金を請求する法的根拠及び超過勤務手当等の諸手当を当然に請求する法的根拠はなく,被告会社は原告中田ら3名との労働契約に基づき,支給すべき貸金を適正に支給している旨主張する。
 しかし・被告会社は,前訴の最高裁決定によって原告中田ら3名の労働契約上の地位が確定した平成15年2月28日以降も,被告会社の一方的事情によって原告中田ら3名の就労を拒んでおり,このような使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合,民法536条2項により,労働者は休業中の賃金を全額請求できることは明らかである。したがって,被告会社が意図的に就労させない以上,原告中田ら3名は,現実に就労した期間中原告中田ら3名に対して現実に支払われた賃金額を基準にすることは当然である。

(被告会社の主張)
 原告中田ら3名の請求する未払賃金額の内訳となる個々の手当の単価等の金額は認める。しかし,原告中田ら3名は,本件解雇前の平成11年5月から同年7月に支給された賃金の平均額を元に被告会社が現実に支給した賃金との差額を請求しているが,これを請求し得る法的根拠はない。
ア 被告会社は・前訴判決の控訴審判決後,原告中田らについて労働契約を認め,原告中田ら3名に対し,労働契約に従って,基本給,勤務地手当,扶養手当及び技能手当を支払っているほか,原告日野及び同板谷に対しては事務兼務手当を支払っており,支給すべき賃金(以下「基準内賃金」という。)を適正に支給している。よって,被告会社が原告中田ら3名に対して支払うべき未払賃金はない。

イ 被告会社は,上記控訴審判決後,原告中田ら3名に対し,通勤手当,B単価貸金(超過勤務手当に該当する。),C単価賃金(夜間勤務手当に該当する。),D単価賃金(祝日勤務手当に該当し,祝日等に勤務した場合に割増賃金を支給する。),E単価賃金,乗務員手当A,B(乗務距離数に応じて支給する。),職務手当(首席及び首席補佐運転士が出勤した場合に支給する。),日当(出勤した場合に支給する。),宿泊手当(宿泊時に支給する。),調整給,その他の手当(以下「基準外賃金」という。)は支給していない。しかし,これらの手当は,いずれも運転士業務に従事して初めて発生し,就労実績に応じて支払われるべきものであり,就労実績のない原告中田ら3名が被告会社に対し,当然に請求し得る法的根拠はない。なお,調整給とは,前月支給分からの調整分であり,毎月不可避的に生じるものではなく・原告中田ら3名については,調整の必要がなかったので支給していないだけであり,これについても,被告会社は支給する義務を負わない。

ウ 原告らは,被告会社の責めに帰すべき事由によって就労が不能になった旨主張する。しかし,原告中田ら3名には就労請求権がないのであり,就労請求権がない以上,被告会社にその受領義務はない。被告会社は,受領義務を負わない以上,原告らの就労を受領しないという不作為が違法となることはないのであり,上記被告会社の責めに帰すべき事由はない。被告会社は,基本給と手当等雇用契約に基づいて支払うべき賃金は支払っており,不当な受領拒絶ともいえない。
 同じ賃金請求といっても・雇用契約から直接認められる基本給と,就労により付加的に発生し認められる諸手当とやは,支払を求める要件事実においても自ずから差異がある。原告らは,これらを混同して論じており,不当である。

エ 原告らは,被告会社の行為が不当労働行為に当たると主張する。しかし,原告中田ら3名には就労請求権がなく,被告会社がこれを受領していないことは違法ではないから,被告会社の行為は不当労働行為とはならない。

オ 加えて,被告会社において,本件解雇当時と現在では,運転士の乗務時間や残業時間に顕著な差異があり(ちなみに,原告中田及び原告日野が勤務していた洲本営業所では残業は行われていない。),稼働実績により支給する時間外手当等も大きく減少している。例えば,時間外労働について,@本件解雇当時の稼働実績とA平成16年6月ないし8月の原告中田ら3名が所属していた各営業所の各担当職務による時間外労働時間(単位は10進法による時分)を比較すると,以下のとおりとなる。
      原告中田 @10.50   A4.83
      原告日野 @12.41   A1.50
      原告板谷 @28.50   A9.75
 したがって・仮に原告らの主張に沿った考え方によっても,時間外労働等の稼働実績は,本件解雇当時のそれと比較すると減少しており,この意味でも,原告らの賃金請求には理由がない。

カ なお,被告会社,現在・特に原告らが勤務していた洲本及び大磯営業所においては・運行便数の減少の結果,運転手の過剰が顕著となっており,会社の経営上・原告中田ら3名を運転手として勤務させる業務上の必要性もない。よって・原告中田ら3名に対し,就労に及ばないとする業務命令は,雇用者側の裁量権の範囲を逸脱するものではない。

(2) 原告中田ら3名の被告会社及び被告全日海に対する慰謝料請求権の有無及びその金額
(原告らの主張)
ア 被告会社及び被告全日海は,原告中田ら3名が全港湾の組合員であり,しかも原告神戸支部の本四海峡バス分会の分会長,副分会長及び書記長という組織の要職にあることから,平成11年8月,被告全日海は,原告中田ら3名を除名処分とし,これをもって被告会社に対して解雇を迫り,被告会社は解雇によって原告中田ら3名を職場から排除した。しかも,原告中田ら3名は,前訴判決ないし前訴最高裁決定において,被告会社に対して労働契約上の権利を有する地位にあることが確定したにもかかわらず,被告会社は,前訴最高裁決定後も,原告中田ら3名に対し,「出勤に及ばず」と指示する一方,勤務していないことを理由に毎月の賃金を大幅に減額するなどして,原告中田ら3名に対して不利益取扱いによって差別している。これは,他への見せしめとすることを意図したものにほかならない。
 また,被告会社の上記行為は,原告中田ら3名を職場に戻さないことをもって,原告神戸支部の分会組織を動揺させるとともに,その弱体化と壊滅を意図した悪質な不当労働行為である。

イ 被告らは,判例上就労請求権は認められていない旨主張する。しかし,仮に本件が就労請求権の問題であるとしても,特別の明確な法的根拠(労働組合法(以下「労組法」という。)27条の現職復帰命令)が存する場合や,就労拒否が法律の禁止する不利益取扱い(労基法3条や労組法7条等)に該当する場合には,例外的に就労請求権が認められるべきである。また・本件においては,原告中田ら3名に就労につき特別の合理的利益が認められる場合というべきである。

ウ 前記のとおり・被告全日海は,平成12年3月31日,被告会社の株式の約55パーセントを所有して筆頭株主となり,同年4月初め,被告会社は本社事務所を被告全日海が所有する海員ビルに移転し,また,同月27日開催の被告会社の臨時株主総会において,被告全日海関西地方支部支部長代行であったTNらが被告会社の取締役に選任され,その後の取締役会において,TNが代表取締役専務に,IDが総務担当常務取締役に,IUが労務担当常務取締役にそれぞれ就任し,被告全日海は,被告会社の経営における主導権を把握した。
 被告会社における被告全日海の使用者性を巡っては,神戸地方裁判所に係属した平成13年(行ウ)第39号不当労働行為救済却下命令取消請求事件において争われ,同裁判所は,平成14年12月26日,被告全日海は,雇用主ではないが,被告会社に対する実質的な影響力及び支配力にかんがみると,労働組合法7条の使用者に当たると解するのが相当との判断をしている。なお,同訴訟の控訴審である大阪高等裁判所も,平成15年12月24日に控訴棄却の判決をし,原審の判断を支持している(同裁判所(行コ)第11号事件)。
 したがって・被告会社の原告中田ら3名に対する処遇及び被告会社の団体交渉拒否について,被告全日海の関与は明らかである。
 被告会社及び被告全日海の上記行為は,労組法7条において禁止された不当労働行為であると同時に,原告中田ら3名に対して精神的打撃を加えることを目的とした違法,不当なものである。

エ 原告中田ら3名は,被告会社における業務から排除されてから,既に長期間が経過している。原告中田ら3名は,いずれも高速路線バスの運転士であり,その技量は,業務から離れる時間の経過とともに加速度的に低下するのは必然であり,業務復帰はますます困難となっている。原告中田ら3名は,前訴最高裁決定に従って被告会社に就労を求めているにもかかわらず,被告会社らは,これを不当に拒否し,就労を不可能にしている。これは,原告中田ら3名に対する人格権,労働者としての基本的な権利を侵害するもので,これによって被った精神的苦痛は甚大であり,これに対する慰謝料は少なくとも200万円を下らない。
(被告会社の主張)
ア 前記のとおり,被告会社は,前訴判決に対する控訴審判決後,原告中田ら3名に対し,労働契約上の地位を認め,労働契約に従って,基本給,勤務地手当,扶養手当,技能手当,事務兼務手当(原告日野及び板谷に対して)を支払っており,何ら差別的待遇は取っていない。
イ 労働契約等に特別の定めがあるときを除き,労働者は使用者に対して就労請求権を有しないというのは確立した判例であるところ,被告会社と原告中田ら3名との間の労働契約において,労働者に就労請求権を認める特別の規定はないし,原告中田ら3名をバス運転手として業務以外の職種には一切就かせないとの趣旨の職種制限の合意も定められていないから,原告中田ら3名には,バス運転手として勤務させることを求める就労請求権は認められない。したがって,原告中田ら3名がバス運転手として勤務していないとしても,そのことをもって被告会社に違法行為があるということはできない。

ウ また,原告中田ら3名は,本社総務部に配属されており,会社の経営上及び業務上の判断から・当面は出勤及ばずとして自宅待機を命じている。賃金については,労働契約上の地位に基づいて支給されるべき金額が支給されており,また,就労請求権はないのであるから,現在の身分が経済的不利益を生じさせるものではない。

エ よって,いずれにしても原告中田ら3名の被告会社に対する慰謝料請求には理由がない。
(被告全日海の主張)
ア 労働者が使用者に対して原則として就労請求権を有しないことはほぼ確定した判例であり,例外的に,労働契約等に特別の定めがある場合,又は業務の性質上,労働者が労務の提供について特別の合理的利益を有する場合に就労請求権を認める判例があるにすぎない。そして,本件においては,被告会社と原告中田ら3名との間の労働契約に特別な定めもなく,原告らがその労務の提供に関し特別の合理的利益も有しないから,例外的に就労請求権を認める判例に従っても,原告中田ら3名が被告会社に対して就労請求権を有しないことは明らかである。
 この点,原告中田ら3名は,高速路線バスの運転士であり,その技量低下は業務から離れる時間の経過と共に加速度的に著しくなる旨主張し,上記労務の提供に関する特別の合理的利益を主張する趣旨と解される。しかし,現在の自動車社会の状況から考えると,業務から離れていたとしても,その技量が低下するとは考えられないし,運転技術の維持等は,判例の予定する「特別の合理的利益」には含まれないというべきである。

イ そもそも就労の問題は,労働者と使用者との間における契約上の義務履行の問題であるが,被告全日海は,被告会社の経営者ではなく,被告会社従業員らの労働条件の決定権や労働者に対する指揮命令権を有するものでもない。
 労働組合である被告全日海が原告中田ら3名との関係において使用者性を有し,団体交渉の相手方となり得るかは極めて困難な問題であり,兵庫県地方労働委員会では使用者性は否定されている。その後の地労委命令に関する行政訴訟において,第1審,控訴審は,使用者性を認めたものの,現在,上告中であり・第1審,控訴審の判断は,「その者が労働契約の一方当事者でなかったとしても,これに準ずる地位にある者,又は雇用主と同一視することができる程度に労働関係上の諸利益に関し,現実的かつ具体的な支配決定ができる者」との最高裁判例の判断基準を大きく逸脱したもので,破棄される可能性が大きい。
 @被告全目海は,被告会社に対し,資産,財産面からする支配力は全くないこと,A被告会社における労働者の労働条件は,被告全日海と被告会社との交渉の上で決定されるもので,被告全日海は団体交渉の使用者側として労働条件を決定する立場にもなければ,その権限も一切有しないこと,B被告会社の営業,人事,経理等経営に関しては,すべて被告会社が独自の判断と負担で行っており,被告全日海が経営に関して何らかの指図を行う余地はないこと,C被告全日海は,被告会社の設立後,労働条件等労働関係上の諸利益に関し,被告会社と対立する立場を保ち,一定の成果を得てきており,現実の労務管理の面においても,実質的に被告会社を管理又は支配しているという事実は存在しないことを総合すると,被告全日海は,使用者に当たらないことは明らかであり,原告らの請求は失当である。

ウ 以上によれば,被告全日海が原告中田ら3名に慰謝料の支払義務を負わないことは明らかである。
〈3)原告関西地本らの被告会社及び被告全日海に対する,無形の損害についての賠償請求権の有無及びその金額
 (原告らの主張)
ア 原告関西地本らは,平成15年3月6日,全港湾としての「2003年度賃金引き上げ」についての統一要求を関係各企業に示し,被告会社にも同書面を送付した。これと併せて,原告神戸支部は,同月14日付けで,「全港湾本四海峡バス分会」の分会要求も書面で被告会社に交付し,同要求書を被告全日海にも交付した。さらに,原告関西地本らは,被告会社及び被告全日海に対し,同日付けで,同月20日の原告神戸支部との団体交渉及び同月25日の全港湾関西地方統一集団交渉への出席を申し入れた。しかし,被告らは,これを全く無視し,団体交渉の場にも出席していない。
 被告会社は,前訴最高裁決定によって,原告関西地本らの団体交渉を求め得る地位が確定された後も,原告神戸支部らとの交渉の場の設定には応じるものの,団体交渉の申入れに対しては,「全港湾とは現在労使関係が確立されていない。」などとの理由から団体交渉を拒否している。

イ また,被告全日海は,前記のとおり,被告会社に不当な支配介入を続けている。

ウ 労働組合にとって,団体交渉権は最も重要な存立基盤であり,このような労働組合としての基本的権利を否定された上,所属組合員について不利益取扱いを受け,支配介入を受けたことによって,原告関西地本らは,計り知れない無形の損害を被った。よって,原告関西地本らは,それぞれ被告会社及び被告全日海に対して損害賠償を請求することができ,その賠償額は,各150万円を下らない。
(被告会社の主張)
ア 被告会社設立の経緯や被告会社の特殊性に鑑みると,本件の解釈,適用にユニオン・ショップ協定に関する一般理論を適用することはできない。

イ 原告神戸支部は,前訴において,前訴の控訴審判決が確定する以前の事情について慰謝料請求をしており,これを本件訴訟で主張,斟酌することは許されない。

ウ 被告会社は,従業員め採用に関して,平成9年8月7日に応募資格を被告全日海の組合員,若しくは被告全日海が認めた者とするとの確認書(乙1)を被告全日海との間で締結し,現在でも,これに基づいて従業員の募集及び採用を実施している。被告会社は,平成10年3月26日に労使関係確立のため,追加協定(乙20)として協定を締結した。また,同年6月26日には,上記確認書を大前提に,さらに追加として協約(乙3)を締結した。すなわち・被告会社は,その性質上,被告全日海の協力が不可欠な会社であり,被告全日海とクローズド・ショップ協定を締結しているという事情を大前提に,使用者として最大限の努力をし,ぎりぎりの交渉を行ってきたもので,これらの交渉は,既に団体交渉を行っていると認められるべきである。
 すなわち,被告会社は,平成15年1月16日付けで原告神戸支部から交渉に応じるようにとの申入れを受け,紛争の解決に向け,同日から同年3月14日までの間に,合計34回にわたって交渉を行ってきた。これまでの交渉経過から,双方の主張に大きな隔たりがあることは明白であり,また,被告全日海と全港湾との労々問題にも発展していることから,被告会社としては,被告全日海と全港湾との中央段階における労々間の交渉を最優先させ,大筋合意を見た時点で必要に応じ,現地での具体的要求事項に対する交渉へ推移すればと判断し,原告神戸支部に対し,中央段階における交渉によって解決を図ることを重ねて要請してきた。
 また,被告会社は,前訴の控訴審判決が確定した後の,平成15年3月15日以降も,同月17日から同年6月27日までの間に,合計10回にわたって原告関西地本らと交渉を行っており,同原告らの交渉権を侵害するような対応は取っていない。
 よって,原告関西地本らの請求は失当である。
(被告全目海の主張)
 前記のとおり・被告全日海は原告中田ら3名の使用者ではないから,団体交渉の当事者とならないことは明らかであり,原告らの請求は失当である。
第3 争点に対する判断
 1 前提事実
前記事実及び証拠(甲2・5・6,17の1,2,甲20,34,36,37・44・乙8,9・11,弁論の全趣旨)並びに記録上明らかな事実によれば,以下の事実が認められる。

(1) 前訴最高裁決定は,平成15年3月1日,原告中田ら3名に送達された。原告関西地本,原告神戸支部及び同本四海峡バス分会は,同月3日,被告会社に対し,原告中田ら3名について本件解雇を取り消し,早急に現職復帰させるためのプログラムをっくること,双方合意の上で労働協約を締結すること等に関して,団体交渉に応じるよう申し入れた。これに対し,被告会社のTK常務取締役(以下「TK常務」という。)は,株主とも協議の上,同月14日に回答するとともに,それまでの間の原告中田ら3名の処遇については明日連絡する旨述べた(甲5,36,37,44,乙8,11)。

(2) TK常務は,同月4日,原告神戸支部に対し,原告中田ら3名は同月14日までの間,有給の自宅待機とする旨連絡した。その一方,被告全日海関西支部長は,同日付け本四海峡バス版組Newsにおいて,前訴最高裁決定にもかかわらず,これまでの既定方針を堅持する旨報じた。この既定方針とは,「原告中田ら3名を決して職場に戻さない。」,「被告会社において全港湾との棲み分けはあり得ない。」といった内容であった(甲6,34,37,乙8,11)。

(3) 同月14日,被告会社と原告神戸支部らとの間で折衝が行われた。その場で,被告会社のTK常務は,原告中田ら3名について,最高裁の決定に従って社員としての身分は認めるが,出勤には及ばない,給与については,現状に即した賃金を支払う,すなわち,勤務に就いたことによって生じる手当部分は支払わない旨口頭で通告した(甲17の1,甲20,36,37,44,乙8,11)。

(4) 同月15日ころ・被告会社作成の同月12日付け通知が原告中田ら3名に送付された。同通知は,同年2月27日付け決定により,解雇に伴う賃金支払が確定したから・仮処分の仮払いは本払い(確定払い)とする,同月28日分の差額は3月分給与で清算するという内容であった(甲7の1ないし3,甲37)。
 原告関西地本の後藤次長ら,原告中田ら3名など全港湾関係者は,同月17日・被告会社の本社事務所を訪れ,被告会社のTK常務らに対し,原告中田ら3名の同年2月27日から同月14日までの待機中の賃金が要求と違うと質すとともに,全港湾の組織を認めることが交渉の前提であり,組織として認めない交渉は交渉とは認めないと申し入れた。これに対し,被告会社は,上記賃金は,会社都合による自宅待機として基準内賃金を支払っている,原告中田ら3名の所属はとりあえず本社総務部扱いと考えているなどと説明するとともに,被告会社には,全港湾の組織を認める,認めないという権限はない,今日時点では被告会社と全港湾との間には労使関係が確立していないと述べた(甲37,乙9,11)。

(5) 同月20日,被告会社のTK常務は,原告中田ら3名に対し,同原告らは本社総務部に配属する旨正式に通知した(乙9,11)。
 他方,同日,被告全日海が徳島で開催した職場集会において,被告全日海の執行部員は,前訴最高裁決定について説明した上,「3名の地位は認めるが,仕事はさせない。」,「最高裁は「仕事をさせろ」とは言っていない。」,「海員組合の方針は変わらず,事態はこれまでと何ら変わらない。」などと表明した(甲37)。

(6) 被告会社は,同月25日の賃金支払日に,原告中田に対して21万3686円,原告日野に対して22万3340円,原告板谷に対して23万4626円を支払った。これは,基本給,勤務地手当,扶養手当,技能手当及び首席手当(原告日野及び原告板谷について)のみを支払ったもので,通勤手当,超過勤務手当に該当するB単価賃金,夜間勤務手当に該当するC単価賃金,祝日手当に該当するD単価賃金,乗務距離数に応じて支給する乗務員手当,首席及び首席補佐運転士が出勤した場合に支給する職務手当,宿泊時に支給する宿泊手当その他・出勤に応じて支払われるいわゆる基準外賃金は1円も支払われなかった。(甲8の1ないし3,甲17の1,甲37,乙9,弁論の全趣旨)。
 前訴判決は・本件解雇前3か月の平均貸金を月額賃金として支払うよう命じた−が,その金額は・原告中田につき月額32万9468円,原告日野につき月額33万9159円・原告板谷につき39万5267円であったが,上記3月25日の支給額は,それぞれその64・9%(原告中田),65.9
%(原告日野)・59・0%(原告板谷)にすぎないものであった(甲2,17の1)。
 同日,原告中田ら3名は,被告会社のTK常務に対し,本件解雇を取り消すよう求めるとともに,自宅待機の措置の就業規則上の根拠と,上記賃金として平成11年度の基準内賃金を支払っセことの就業規則上の根拠を問い質した。これに対し,TK常務らは,解雇問題は判決の主文どおり対処している,業務をさせるか否かは会社の経営及び業務上の必要性から会社が決めるもので,会社は当面は出勤に及ばずとした,賃金は労働契約上の賃金を支払ったと回答した、(乙9,11)。

(7) 原告関西地本らは,同月27日,被告会社に対し,原告中田ら3名の処遇等について団体交渉の開催を申し入れ,同年4月4日,被告会社との間で折衝が持たれた。被告会社のTK常務は,全港湾からの申入れに基づき交渉に臨んでおり,団体交渉であると述べたが,他方,全港湾との労使関係はいまだ確立していないと主張した。また,原告関西地本らが労働協約案を示して協約の締結を求めたところ,TK常務は,「こういうことは中央レベルで話すことで,この場で協議することは拒否する。」と述べ,さらに,原告関西地本らに対し・被告全日海から通告がない限り,被告会社としては全港湾を認知できない・団体交渉に応じるのは,裁判所や労働委員会から団交しろと言われるからであるなどと応答した(甲17の1,乙9,11)。

(8) 原告中田ら3名をはじめとする本訴原告は,同年4月16日,本件訴訟を提起した(記録上明らかな事実)。

(9) 原告関西地本らは,同月21日,労働協約を締結し,労使関係を確立するための労働協約案を添付して,被告会社に改めて団体交渉の開催を申し入れたところ・被告会社もこれに応じ,同年5月7日に折衝が持たれた。しかし,TK常務は,全港湾とは労使関係がない,この労使関係の問題は被告全日海と全港湾との中央レベルの交渉で話し合うべきもので,被告会社は被告全日海に一任している旨の回答を繰り返した(甲17の1,乙9,11)。

(10) 原告神戸支部は,同年6月17日,被告会社に対し,団体交渉の開催を申し入れ,同月27日に折衝の場が持たれたが,TK常務は,5月7日と同様の主張を繰り返した(甲17の2)。

(11) 被告全日海は,平成15年11月に開催された第64回定期全国大会において,本四海峡バスの問題について,井出本組合長,片岡副組合長らから,和解に向けた協議を行っているが,問題の発端である3人の復帰は認めない,全港湾は認めない,金銭解決はしないとの3点が基本である,団結を阻害するようなことは組織として許されない,非常に厳しいが粘り強く和解交渉を続けるなどの説明がなされた(甲34,弁論の全趣旨)。

(12) 被告会社の代表取締役の1人であるTNは,兵庫県地方労働委員会における審問において・中央での交渉で結論が出なければ,現地でも結論が出せない旨証言している(甲44,弁論の全趣旨)。

(13) 被告会社作成の平成16年4月1日付け社員名簿において,原告中田ら3名は本社の総務部付とされており,当面,自宅待機という扱いになっている(甲44)。
 2.争点(1)(原告中田ら3名の被告会社に対する差額賃金請求権の有無及びその額)について
(1) 前訴判決において,原告中田ら3名は被告会社に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに,被告会社は原告中田ら3名に対し,本件解雇前3か月間の平均賃金を賃金月額とする,本件解雇の日から判決確定の日までの賃金・平成12年冬季分までの一時金及び慰謝料の支払を命じる判決がなされたこと,被告会社の控訴を棄却する旨の控訴審判決を経て・平成15年2月27日,前訴最高裁決定がなされたこと,同年3月25日,被告会社は,同年3月分貸金として,原告中田に対し20万9551円,原告日野に対し21万9204円,原告板谷に対し22万8996円をそれぞれ支払ったこと・被告会社は,同年7月25日,平成12年ないし平成14年の各4月に実施された基本給等の増額を原告中田ら3名にも適用し,平成15年3月分として,原告中田に対し2万4977円,原告日野に対し3万5427円,原告板谷に対し4万7240円をそれぞれ支払ったこと,また,被告会社は,原告中田に対し,平成15年4月分から平成16年3月分までの賃金として月額24万3896円,同年4月分から同年9月分までの賃金として月額24万8304円を,原告日野に対し,平成15年4月分から同年8月分までの賃金として月額26万4031円,同年9月分から平成16年3月分までの賃金として月額26万3031円,同年4月分から同年9月分までの賃金として月額26万7038円を,原告板谷に対し,平成15年4月分から平成16年3月分までの賃金として月額28万4956円,同年4月分から同年9月分までの賃金として月額28万8097円をそれぞれ支払ったことは,前記第2「事案の概要」1のとおりである。
 また,被告会社が前訴最高裁決定の後も,原告中田ら3名を,平成15年3月14日までの間,有給の自宅待機処分とし,同月15日以降は本社総務部に配属し・自宅待機を命じていること,上記原告中田ら3名に対して支払った賃金額は,基本給・勤務地手当,扶養手当,技能手当及び首席手当(いわゆる基準内賃金)であるが,被告会社は,これを勤務実態にしたがったものであると説明していることは前記1において認定したとおりである。

(2) ところで,労務の遂行が不能となったが,これが使用者の責めに帰すべき事由によることが認められる場合,労働者は,労務の遂行が不能となったことによって支払を受けられなかった部分の賃金の支払を請求できるというべきである。本件においては・原告中田ら3名は,前訴最高裁決定により,前訴判決が確定し,被告会社に対し労働契約上の権利を有することが確認され,本件解雇前の地位に復帰すべきところ,被告会社はことさら原告中田ら3名を就労させず,その結果,原告中田ら3名は,就労したことを前提とする通勤手当,超過勤務手当等(いわゆる基準外賃金)の支払を受けられないのであるから,使用者である被告会社の責めに帰すべき事由により労務の遂行が不能になったものとして,労務を提供した場合と同等の賃金の支払を請求することができるというべきである。
 この点,被告会社は,通勤手当,超過勤務手当等の基準外賃金は,いずれも運転士業務に従事して初めて発生し,就労実績に応じて支払われるべき手当であるところ,原告中田ら3名らは就労実績がないから,これらを請求し得る法的根拠がないと主張する。しかし,前記認定によれば,原告中田ら3名は,被告全日海を脱会し,原告神戸支部内に本四海峡バス分会を結成した上,同分会の分会長等に選出されたが,被告会社は,これを許さない被告全日海からの解雇要請に基づいて,原告中田ら3名を本件解雇に処したこと,前訴最高裁決定後も,被告全日海は,原告中田ら3名を職場に復帰させないとの方針を変更せず,被告会社は,被告全日海の方針に従って,原告中田ら3名らを前記のとおり自宅待機処分としていること,原告中田ら3名に支払われる賃金は,運転士業務に就労した場合と比べて相当低額であることが認められる。そして,証拠(甲36ないし38)によれば,その結果,原告中田ら3名の生活は困窮していることが認められる一方,証拠(甲28の1ないし7,甲29の1,2,甲30,31の各1ないし7)によれば,被告会社の大阪支所及び徳島,洲本,大磯の各営業所においては,多数回の休日出勤が命じられ,また,要員不足のため他の営業所から助勤が派遣されるなどしており,余剰人員が生じているとは認められない。これらを総合すると,被告会社が原告中田ら3名に自宅待機処分としていることには合理的な理由はなく,むしろ,本四海峡バス分会を結成し,原告神戸支部の分会としての活動を行うことを嫌悪し,分会の弱体化を図るためになされた,原告神戸支部に対する不当労働行為に当たるというべきである。すなわち,被告会社の自宅待機処分は不当なものであるから,これを前提とする被告会社の上記主張は到底採用することができない。

(3) そこで,原告中田ら3名らに支払われるべき賃金額を算定するに,証拠(甲2,乙4,5の各1ない3,乙6)によれば,本件解雇前3か月の平均賃金額は,原告中田につき月額32万9468円,原告日野につき月額33万9159円,原告板谷につき39万5267円であることが認められる。そして,上記金額につき,平成12年ないし平成14年4月分からの被告会社における賃金規定の改定に従って本給,勤続給,勤務地手当及び事務兼務手当(以下「本給等」という。)をそれぞれ増額し,上記月額賃金に加算すると,計算上,平成15年3月分の賃金は,原告中田が35万4445円,原告日野が37万4586円,原告板谷が44万2507円となること,同様に,平成15年4月分からの賃金規定の改定に従って本給等を増額加算すると,計算上,同月分以降の賃金は,原告中田が35万9678円,原告日野が37万9850円(ただし,同年9月分からは扶養手当の減額に伴い37万8850円),原告板谷が44万2597円となること,さらに,平成16年4月分からの賃金規定の改定に従って本給等を増額加算すると,計算上,同月分以降の賃金は,原告中田が37万4086円,原告日野が38万2857円,原告板谷が44万5738円となることは当事者間に争いがない。
 なお,被告会社は,本件解雇当時と現在でも運転士の乗務時間や残業時間に顕著な差異があり,稼働実績により支給する時間外手当等も大きく減少している旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。よって,本件解雇前3か月の平均賃金によるほかない。
 以上のとおり,本件解雇前3か月の平均賃金に,その後の被告会社における賃金規定の改定に従って本給等を加算し,ここから,前記(1)の被告会社の既払賃金額を控除すると,原告中田ら3名に対する未払賃金額は以下のとおりと認められる。

   原告中田 平成15年3月分         11万9917円
     同年4月分から平成16年3月分  月額11万5782円
     (合計                    138万9384円)
     同年4月分から同年9月分     月額11万5782円
     (合計                    69万4692円)
     総合計                   220万3993円

   原告日野 平成15年3月分         11万9955円
     同年4月分から同年8月分     月額11万5819円
     (合計                    57万9095円)
     同年9月分から平成16年3月分  月額11万5819円
     (合計                    81万0733円)
     同年4月分から同年9月分     月額11万5819円
     (合計                    69万4914円)
     総合計                   220万4697円

   原告板谷 平成15年3月分         16万3271円
     同年4月分から平成16年3月分  月額15万7641円
     (合計                    189万1692円)
     同年4月分から同年9月分     月額15万7641円
     (合計                    94万5846円)
     総合計                   300万0809円
 3.争点(2)(原告中田ら3名の被告会社及び被告全日海に対する慰謝料請求権の有無及びその金額)について
(1) 被告会社は前訴最高裁決定の後も,原告中田ら3名を不当な理由によって就労させず,就労した場合と比べて相当低額な賃金しか支払わず,これによって原告中田ら3名らの生活は困窮したことは前記のとおりであり,、原告中田ら3名は,労働者としての基本的な権利を侵害されたというべきである。

(2) これに対し,被告会社は・原告中田ら3名は被告会社に対し,就労請求権を有しないから,運転士として勤務させていないとしても,被告会社には違法行為はないし,労働契約上の地位に基づいて支給されるべき賃金が支払われている以上,経済的不利益もなく,慰謝料請求は発生しないと主張する。しかし,前記のとおり,本件解雇及び前訴最高裁決定後も原告中田ら3名を運転士として就労させないことは,原告神戸支部に対する支配介入という不当労働行為に当たること,前訴判決において認められた原告中田ら3名の労働契約上の地位は,運転士として就労することを予定したものであり,そのことが前訴最高裁決定によって確定したことに鑑みると,本件において,被告会社と原告中田ら3名との間には,労組法27条の現職復帰命令がなされたのと類する関係が認められるというべきであるから,原告中田ら3名は被告会社に対し,運転士として就労させることを求める権利を有すると認めるのが相当である。よって,被告会社の上記主張は採用することができない。

(3) また,前記第2「事案の概要」1に掲げた事実及び前記1において認定した事実並びに証拠(甲1,42)によれば,神戸地方裁判所平成13年(行ウ)第39号事件及びその控訴審である大阪高等裁判所平成15年(行コ)第11号において,被告全日海は被告会社に対する実質的な影響力及び支配力を有すると認められていること,被告全日海は,前訴最高裁決定後も,原告中田ら3名を職場に戻さないとの方針を再三表明し,被告会社の原告中田ら3名らに対する自宅待機処分は,このような被告全日海の方針を受けてなされたものであることが認められる。これらを考慮すると,被告全日海は,原告中田ら3名を職場に戻さないとの方針の下,被告会社の上記自宅待機処分の意思決定に関与していると見るのが相当であり,原告中田ら3名に対し,被告会社と連帯して不法行為責任を負うというべきである。

(4) 前記認定の事実及びその他,本件訴訟に顕れた一切の事情を考慮し,上記2のとおり,前訴最高裁決定以降の差額賃金が支扱われることを斟酌すると,原告中田ら3名らの精神的苦痛に対する慰謝料は,各100万円が相当である。
 4.争点(3)(原告関西地本らの被告会社及び被告全日海に対する,無形の損害についての賠償請求権の有無及びその金額)について
 証拠(甲2)によれば,原告関西地本は,賃金・統一労働条件及び各地方レベルの問題について,原告神戸支部は,夏季・冬季一時金,各企業単位の問題及び各地域の問題について,それぞれ団体交渉権を有していると認められるところ,原告関西地本らは,被告会社に対し,平成15年3月3日,同月27日,同年4月21日,被告会社に対し,団体交渉に応じるよう申し入れ,被告会社は,これに対応して,同月6日,同年5月7日などに折衝の場を持ったこと,原告神戸支部は,さらに同年6月17日,被告会社に対して団体交渉の開催を申し入れ,被告会社もこれに応じて折衝の場を持ったこと,しかし,被告会社のTK常務は,全港湾とは労使関係がない,労使関係の問題は被告全日海と全港湾との中央レベルの交渉で話し合うべきである,被告会社は被告全日海に一任しているとの回答に終始したことは前記1において認定したとおりである。このような被告会社の対応は,団体交渉に誠実に応じるものとは認められない。
 もっとも,前記1で認定したとおり,被告会社の問題は,被告全日海と全港湾の中央レベルで和解に向けた協議を継続しており,証拠(乙16,21,丙35,36)によれば,平成15年4月8日,全港湾中央本部は被告全日海中央に対して,被告会社の問題について申入れを行い,同月22日には全港湾と被告全日海とは中央レベルで和解協議を進めるとの方針が決定されたこと,原告関西地本と原告神戸支部は,同年5月7日に協議を行い,原告神戸支部は,和解の交渉権限を中央本部に一任する旨決定し,原告関西地本も,同月9日に同様の決定をしたことが認められる。すなわち,原告関西地本らにおいても,同年5月上旬ころには,被告会社における問題を全港湾と被告全日海の中央レベルでの和解協議に委ねることに決定していたのであり,被告会社が団交の申入れに対して上記のように不誠実な対応をしたのは,期間にして約2か月,回数にして3回程度であることが認められる。
 したがって,上記被告会社の不誠実な対応によって,原告関西地本らが被った無形の損害に対する賠償額は,それぞれ30万円が相当である。
 また,前記1及び3で認定したところによれば,被告会社の上記対応は被告全日海の意向を受けたものと認められるから,被告全日海も被告会社と連帯して,原告関西地本らに対し,同額の損害賠償義務を負うというべきである。
5. 以上によれば,原告の本訴請求は,原告中田ら岳名の被告会社に対して差額賃金の支払を求める部分,被告会社及び被告全日海に対して各100万円の慰謝料の支払を求める部分,原告関西地本らが被告会社及び被告全日海に対して各30万円の損害賠償を求める部分についてそれぞれ理由があるから認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法64条本文,65条1項本文,61条を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

   神戸地方裁判所第6民事部
                                 裁判官      大   薮   和   男
  
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