平成14年12月26日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成13年(行ウ)第39号 不法労働行為救済却下命令取消請求事件

平成14年6月7日口頭弁論終結

              判      決  
  原告                        全日本港湾労働組合関西地方神戸支部
                                  代表者 支部執行委員長 馬越 輝光


  被告                        兵庫県地方労働委員会
                                  代表者 会長 安藤 猪平次

  被告補助参加人                 全日本海員組合
                                  代表者 組合長 井出本 榮
                             本四海峡バス株式会社
                                  代表者 代表取締役 川真田 常男



              
主      文    
  1.  被告が兵庫県地労委平成12年(不)第15号事件について平成13年8月21日日付で発した命令のうち、主文4項を取り消す。                                        
  2.  原告のその余の請求を棄却する。
                               
  3.  訴訟費用は、被告補助参加人本四海峡バス株式会社の参加によって生じた費用については原告の、被告補助参加人全日本海員組合の参加によって生じた費用については同補助参加人の各負担とし、その余の訴訟費用についてはこれを2分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告が兵庫県地労委平成12年8(不)第15号事件について平成13年8月21日日付で発した命令(以下「本件命令」という。)のうち、主文1項の括弧書き部分及び同2ないし4項を取り消す。

第2 事実の概要

本件は、原告が、被告補助参加人本四海峡バス株式会社(以下「補助参加人会社」という。)及び被告補助参加人全日本海員組合(以下「補助参加人組合」という。)を被申立人として被告に対してなした不当労働行為救済申立事件〔兵庫県地労委平成12年(不)第15号事件。以下「本件救済申立事件」という。〕につき、被告が平成13年8月21日日付で発した本件命令のうち、原告の申立てを却下ないし棄却した部分の取消を求めた事案である。

 1 前提事実(末尾に証拠の標目の記載のない事実は当事者間に争いがない。)

  (1)当事者等

ア 原告は、港湾関係労働者及びトラック運送関係労働者を中心に組織する労働組合で、港湾関係労働者及びトラック運送関係労働者を中心に組織する、産業別単一労働組合である全日本港湾労働組合(以下「全港湾」という。)の地方組織で在る全港湾関西地方本部傘下の支部である(弁論の全趣旨)
イ 補助参加人会社は、一般乗合旅客自動車運送事業等を業とする株式会社であり、本四連絡橋(明石海峡大橋)開通による一般旅客定期航路事業者の事業縮小に伴う対策として、新事業の展開、船員等の雇用確保を目的として、平成7年4月14日に設立された(丙1、2、35、弁論の全趣旨)
ウ 補助参加人組合は、海上労働者を中心とする全国組織の労働組合である。
  (2)補助参加人会社と補助参加人組合との関係
ア 補助参加人組合簸、離職船員の職場確保のためにその設立当初から補助参加人会社に協力してきた。また、補助参加人組合簸、補助参加人会社とも間でユニオン・ショップ協定を締結している(丙1,2,35,36、弁論の全趣旨)。
イ 補助参加人組合は、平成11年秋ころ、補助参加人会社の発行済み株式総数の約10パーセントを取得して第3位の株主となったが、さらに平成12年3月31日には、補助参加人会社の発行済み株式総数の54・93パーセントを保有する筆頭株主となった。
ウ 補助参加人会社は、平成12年4月9日、補助参加人組合が所有し、穂所参加人組合の関西地方支部が置かれている神戸市中央区・・・・・・・・に所在の「海員ビル」内に本社機能を移転した。
エ 補助参加人会社は、平成12年4月27日開催の臨時株主総会において、補助参加人組合関西地方支部支部長代行であったTN(以下「TN」という。)、補助参加人組合の元中央執行委員で補助参加人会社の支配人に就任していたID(以下「ID」という。)及び同じく補助参加人組合の元中央執行委員で副支配人に就任していたIU(以下「IU」という。)を、いずれも取締役に選任し、その後の取締役会において、TNは代表取締役専務に、IDは総務担当常務取締役に、IUは労務担当常務取締役にそれぞれ選出され、就任した。
 (3)本件救済申立事件の申立てに至る経過
ア 補助参加人会社においては、平成11年7月30日までは運転士及び整備管理者58人全員が補助参加人組合に所属していたが、同日、上記58名全員が、補助参加人組合に脱退届を提出するとともに原告に加入し、同年8月9日には、原告内に本四海峡バス分会(以下「分会」という。)を結成し、分会長中田良治、副分会長日野隆、分会書記長板谷節雄(以下「中田ら3名」という。)を選出した。
 ところが、補助参加人会社は、同日、補助参加人組合から中田ら3名を除名処分とした旨の通知を受け、併せて、ユニオン・ショップ協定に基づいて解雇するよう要請を受けたとして、中田ら3名に対し、解雇の意思表示をした。
イ 原告は、同日以降、補助参加人会社に対して団体交渉の開催を求めたが、補助参加人会社は、これに対し何ら応答しなかった。そこで、原告は、平成11年9月20日、被告に対し、補助参加人会社を被申立人として、原告が同年8月9日付けで申し入れた組合活動についての協定事項、緊急要求及び解雇撤回要求を議題とする団体交渉応諾及び誓約文の掲示(ポスト・ノーティス)を求める救済命令の申立てを行った(兵庫県地労委平成11年(不)第5号事件。以下「5号事件」という。
ウ さらに、原告は、補助参加人会社が分会副会長古川雅昇(以下「古川」という。)及び分会員近藤則明(以下「近藤」という。)に対し平成12年4月以降に行った本社出頭命令や個別面談、同年5月に行った各2回にわたる出勤停止処分が、いずれも支配介入及び不利益取扱いに該当するとして、同年5月29日、被告に対し、補助参加人会社を被申立人として、支配介入及び不利益取扱いの禁止、古川及び近藤に対する出勤停止処分の撤回などを求める救済申立てを行った(兵庫県地労委平成12年(不)第6号事件。以下「6号事件」という。)(甲3の1・2,4,5の1・2,48)
 また、補助参加人会社は、同年6月2日、古川に対し、同月5日付で徳島営業所から洲本営業所への転勤を命じたので、原告は、同月5日、6号事件の救済申立てに上記転勤命令の撤回と原状回復措置を追加した。
エ 被告は、平成12年6月20日、補助参加人会社に対し、平成11年8月9日付で原告が補助参加人会社に対し申し入れた、組合活動についての協定事項、労働条件についての緊急要求事項、中田ら3名の解雇の撤回を議題とする団体交渉の応諾を命じる救済命令(以下「5号事件命令」という。)を発した。
 補助参加人会社は、同月30日、上記命令を踏まえ、原告の要求書を受け取り、団体交渉開催に向けての折衝を行ったが、同折衝において、補助参加人会社は、従前どおり、原告との間に労使関係を認めて団体交渉を行うことはできないとの姿勢を崩さなかった。
 そこで、原告は、同日、補助参加人会社の原告に対する支配介入問題、古川及び近藤に対する懲戒処分問題の解決、上記5号事件命令の履行などを求め、同年7月15日午前0時以降争議解決に至るまでの間、争議行為を行うことを決定した。(甲9の1・2)。
 補助参加人会社は、上記5号事件命令を不服として、同年7月4日、中央労働委員会に再審査の申立て(中労委平成12年(不再)第40号事件。以下「40号事件」という。)を行った。
オ 原告と補助参加人会社は、補助参加人会社の原告に対する支配介入問題、古川及び近藤に対する懲戒処分問題の解決、5号事件命令の履行問題の解決に向け、折衝を数回にわたり行ったが、折衝は決裂し、同月20日、原告はストライキを実施した。
カ 原告は、平成12年7月31日、補助参加人会社及び補助参加人組合に対し、同年4月14日の古川に対する不法労働行為(支配介入)の謝罪、同年5月12日付及び同月22日付の古川及び近藤に対する各懲戒処分の撤回、個別面談における不法労働行為(支配介入)の謝罪、同年6月5日付古川に対する転勤命令、5号事件命令の受け入れの6項目を議題とする団体交渉(以下「本件団体交渉」という。)の開催を求めた。(甲11)。
 これに対し、補助参加人組合は、同年8月4日、団体交渉の主催者ではないと回答して本件団体交渉の申し入れを拒否した(甲12)。
 一方、補助参加人会社は、同月10日、原告と折衝を行い、上記5号事件命令を履行すいる旨回答した。しかし、補助参加人会社は、同月29日、5号事件命令の受け入れに関し、原告に対し、補助参加人組合との間でユニオン・ショップ協定を締結しており、補助参加人会社従業員の中に原告組合員がいると認識していない旨、原告との間に労使関係はないので、折衝は行うが、協定の締結は拒否する旨を書面で回答した(甲15)。さらに、補助参加人会社は、同書面の中で、古川に対する懲戒処分及び転勤問題は、地労委命令の対象交渉事項ではなく、現在係争中であること、古川の転勤の問題は、転勤にかかる費用負担や社宅提供などを社内規定に設けたことにより解決済みであること、近藤に対する懲戒処分は、同人がシートベルトを着用せず運転業務に従事したことを法令違反として監督官庁から指摘を受け、処分せざるを得なかったものであることなどを回答した(甲15)。
キ 中央労働委員会は、平成12年9月25日、補助参加人会社に対し、5号事件命令の履行勧告を行った(甲24)。これに対し、補助参加人会社は、同年10月2日、中央労働委員会の最終決定が出るまでという条件付きで、原告との団体交渉に応じる旨回答し、同月6日、補助参加人会社従業員に原告組合員はいないという従前の姿勢を転換し、原告組合員らしき者がいるとの認識に改め、原告との間で、5号事件命令の履行及び36協定の締結についての折衝を行った。しかし、その後の同月12日、補助参加人会社は、原告との間に労使関係を認め、5号事件命令の履行をすること及び36協定について協定書を交わすことは、補助参加人組合との協議の結果、できない旨を原告に回答してきた。
 (4)本件救済申立事件
 原告は、平成12年10月13日、被告に対し、補助参加人会社及び補助参加人組合を被申立人として、次の内容の救済命令を求める申立てをした(本件救済申立事件)
ア 補助参加人会社及び補助参加人組合が、原告の平成12年7月31日付の団体交渉申し入れに対し誠意をもって応じること。
イ 補助参加人会社及び補助参加人組合が、原告に対し、団体交渉拒否についての謝罪・誓約文を交付すること。
ウ 補助参加人会社及び補助参加人組合の団体交渉拒否についての謝罪・誓約文の掲示(ポスト・ノーティス)をすること。
 (5)本件命令
 被告は、本件救済申立事件につき、平成13年8月21日付で別紙命令主文に記載のとおりの本件命令を発し、同命令主文1項括弧書き及び同2項において、原告が補助参加人会社に対し求めた本件団体交渉応諾の申立てのうち、5号事件命令の受入れに関する団体交渉応諾の申立てを却下し、同3項において、原告が補助参加人会社に対し求めた謝罪・誓約文の手交及びポスト・ノーティスの申立てを棄却し、同4項において、原告が補助参加人組合に対し求めた本件団体交渉応諾、謝罪・誓約文の手交及びポスト・ノーティスの申立てを却下した。
 原告は、同月28日、被告から本件命令の交付を受けた。

 2 争点及び当事者の主張

 本件の争点は、被告が、@補助参加人会社に対する5号事件命令の受け入れについての団体交渉応諾の申立てを却下したことが違法か、A補助参加人組合に対する本件団体交渉応諾、謝罪・誓約文の手交及びポスト・ノーティスの各申立てを却下したことが違法か、B補助参加人会社に対する謝罪・誓約文の手交及びポスト・ノーティスの各申立てを棄却したことが違法か、である。
 (1)
争点1(被告が、補助参加人会社に対する5号事件命令の受け入れについての団体交渉応諾の申立てを却下したことが違法か。)
ア 原告の主張
 被告は、5号事件において団体交渉応諾義務を認めた以上、その義務の履行を求める団体交渉の請求は、同一の請求となり、再度の申立てにあたるとして却下したが、これは被救済利益の判断を見誤ったものであり、違法である。
 すなわち、補助参加人会社は、5号事件命令が出された後も団体交渉拒否を明言し、中労委の履行勧告がなされてもなお、「従業員に全港湾らしき者がいる。」との曖昧な態度をとり続けて原告を団体交渉の相手方として認めず、協定書の作成については拒否するとの立場を取ってきた。しかも、補助参加人会社は、多数回にわたり原告との誠実な団体交渉を行ってきたのであるから、5号事件命令の受入れについての申し入れは既に履行済であると主張してきたのであって、以上のような補助参加人会社の行為は、まさに新たな不当労働行為をもって5号事件命令の履行を拒否したものに他ならない。
 このような補助参加人会社の不当労働行為に対して、原告には、補助参加人会社の主張する誠実な団体交渉が5号事件命令における団体交渉とは到底いえないことを労使間で確認し、また補助参加人会社が原告組合の存在を認めること、そしてそれを前提にして労使間において団体交渉により問題解決を図ることを確認する必要があるのであるから、非救済利益が存在する。
 以上により、5号事件命令の受け入れについて、補助参加人会社がした団体交渉拒否に対する不当労働行為救済申立てを、不当労働行為の事実及び被救済利益が存在するにもかかわらず、被告が却下したのは、労組法7条2号及び同法27条4項に違反するものである、ひいては憲法28条に違反する。
イ 被告の認否及び反論
補助参加人会社に対し5号事件命令の受け入れを議題とする団体交渉の応諾を求めることは、5号事件命令にかかる団体交渉の応諾を求めることと同一に帰するものである。すなわち、5号事件命令の履行要求に対する補助参加人会社の対応は、5号事件命令の不履行状態が続いているのであって、新たな不当労働行為ではない。
 (2)
争点2(被告が、補助参加人組合に対する本件団体交渉応諾、謝罪・誓約文の手交及びポスト・ノーティスの各申立てを却下したことが違法か。)
ア 原告の主張
 不当労働行為制度における使用者とは、雇用契約の有無にかかわらず、労働者の人事その他の労働条件等労働関係上の諸利益に対し、支配力を現実かつ具体的に有するものも含まれると解すべきである。
 そして、本件における以下の各事情によれば、補助参加人組合は上記「使用者」ということができるし、補助参加人会社が原告との団体交渉に応じることを拒否する対応は専ら補助参加人組合の意向によるものであることが明らかであって、本件団体交渉拒否の不当労働行為について補助参加人組合が使用者性を有することは明らかである。したがって、被告が、補助参加人組合の使用者性を認めず、原告の補助参加人組合に対する申立てを却下したのは、労組法7条2号及び同法27条4項に違反するものであり、ひいては憲法28条に違反する。
(ア)補助参加人会社の設立の経緯と設立後の補助参加人組合と補助参加人会社の意志の一致
 補助参加人組合は、補助参加人会社設立後、補助参加人会社内の唯一の組合として存在していたものであり、それゆえ、補助参加人組合と補助参加人会社との結びつきは強く、原告が補助参加人会社内に分会を結成するや、すばやくその排除に向けた対応を、補助参加人会社に取らせた。すなわち、補助参加人組合簸、原告の分会が結成されたわずか数ヵ月後の平成11年秋には、すでに補助参加人会社の発行済み株式の10パーセントを取得するに至り、併せて補助参加人組合の元中央執行委員であったID及びIUを補助参加人会社の労務担当社員として送り込み、以降、両名が原告との対応に当たることとなった。平成12年1月11日に開催された補助参加人組合と補助参加人会社との労使協議では、補助参加人組合が補助参加人会社に対し、原告を認めるならば補助参加人会社解散をも辞さないことを迫り、その方針を確認し合う関係にあった。
(イ)補助参加人組合が補助参加人会社の発行済み株式総数の過半数を有する筆頭株主であること
 前提事実のとおり、補助参加人組合は、平成12年3月31日時点で、補助参加人会社の発行済株式の54.93パーセントを有する筆頭株主となった。しかも、補助参加人会社は、これを全従業員に周知させ、また、「海員組合(補助参加人組合)の発言は、代表取締役である社長の発言と同様と肝に銘じ対応をお願いします。」と記載した文書を配布するなどし、補助参加人組合と補助参加人会社が一体となって経営に当たることを表明した。
(ウ) 補助参加人会社が本社事務所を補助参加人組合所有の海員ビルに移転したこと
 前提事実のとおり、補助参加人会社は、平成12年4月9日、補助参加人組合所有にかかる海員ビルに本社機能を移し、同月10日付で、全従業員に対し、これを通知した。また、補助参加人組合簸、海員ビル玄関にガードマンを配置し、原告組合員の立ち入りを排除した。
(エ) 補助参加人組合の元役員らが補助参加人会社の役員に就任したこと
 前提事実のとおり、平成12年4月27日の臨時株主総会において、補助参加人組合関西地方支部支部長代行であったTNが代表取締役専務に、補助参加人組合の元中央執行委員のID及びIUが、総務担当常務取締役、労務担当常務取締役にそれぞれ就任し、補助参加人会社は、これを同月28日付で全従業員に通知した。このように、代表権を有する役員をも含む役員人事により、補助参加人会社は、補助参加人組合側から経営陣を迎え、補助参加人組合の意向を受けて経営にあたることを内外にあからさまにした。
(オ)  補助参加人組合の補助参加人会社支配の現実
 補助参加人組合の支配による労務管理の結果、補助参加人会社においては、合理的な経営判断とほど遠い不合理な人事配置を行った。すなわち、バス路線(業務量)が微増であるのに、運行要員たる運転士を、平成11年7月時点の58名から平成12年12月までに20名も増員した。この増員の理由は、平成11年8月9日に原告組合員である中田ら3名を解雇した穴埋めの必要があったこと、原告との36協定の締結を拒否したために平成12月4月以降、洲本営業所の運転士25名に対し超過勤務を命じられない状態となったこと、さらに、新たに採用した運転士20名全員を補助参加人組合員とすることにより、補助参加人会社従業員中に補助参加人組合の勢力拡大を図ったことにあった。
(カ) 補助参加人会社の団体交渉拒否において示された補助参加人組合の労務関係についての支配力の実態
 補助参加人会社は、平成12月6月末以降10月中旬に至る間、原告との団体交渉受諾を巡って事務折衝を継続してきたが、この折衝においてIUは、補助参加人会社と原告との労使関係正常化の障害は、唯一、筆頭株主である補助参加人組合の基本姿勢にあることを幾度となく表明し、補助参加人組合の方針の下では補助参加人会社は主体的な判断ができない状態にあり、補助参加人会社には問題解決の当事者能力がないことを表明した。
イ 被告の認否及び反論
 補助参加人組合が補助参加人会社の従業員の労働時間や賃金等の労働条件を決定し、日常の業務運営上の指揮命令についても現実的かつ具体的に従業員を支配していると認めるに足りる疎明はなかったものであるから、補助参加人組合を使用者と認めることはできない。
ウ 補助参加人組合の主張
(ア) 補助参加人組合と補助参加人会社の関係
 補助参加人会社は、明石海峡大橋開通により、フェリー・旅客船の船員が多数離職を余儀なくされることに伴い、これら離職船員(全員が補助参加人組合の組合員)の職場確保のために設立された特殊目的会社である。また、補助参加人会社は、補助参加人組合がその組合員の雇用確保を求め、長期間にわたり、全国的に展開した運動の成果というべき特別措置法に基づいて設立されたのであり、設立後の運送事業免許取得や人材の教育そのものにも補助参加人組合は直接関与している。すなわち、補助参加人会社は、補助参加人組合の組合員の雇用確保を主たる目的として存在している。補助参加人会社と補助参加人組合との間に締結されたユニオン・ショップは、通常のユニオン・ショップではなく、補助参加人会社における全雇用を離職船員である補助参加人組合の組合員に充てることを目的としている。
(イ)  団体交渉における補助参加人組合の被当事者性
 不当労働行為や団体交渉における「使用者」は、労働関係上の諸利益に対し支配力を現実かつ具体的に有する者に限定され、単に資本参加だけでなく、直接的、具体的な労働管理や賃金決定権の存在、施設面をその判断基準としなければならない。
 本件では、補助参加人組合との補助参加人会社間には、資本参加と役員派遣の事実はあるが、補助参加人組合は、補助参加人会社従業員の日常の労働における指揮命令権限、労働時間及び賃金等の労働条件の決定権限及び実態を有せず、また、補助参加人会社に対する具体的施設面及び資金面における影響力も全く有していない。
 たしかに、補助参加人組合は補助参加人会社の筆頭株主であるが、これは、原告による旧株主への執拗な攻撃により、旧株主の一部が、補助参加人組合に株式譲渡をもちかけた ためであり、経営権取得のために譲渡をうけたわけではない。
 補助参加人会社が本社機能を補助参加人組合の海員ビルに移転したことは事実であるが、これは、離職船員の職場確保のために設立した会社であるため、便宜を図ったに過ぎない。本社事務所と使用者性とは無関係である。
 補助参加人組合の元役員らが補助参加人会社の役員に就任した事実については、たしかに、TN、ID、IUは以前に補助参加人組合の支部長等であったが、これを退職し、又は辞して補助参加人会社に役員として就任したものであり、就任後は補助参加人組合とは無関係である。これら人事は、他に適任者がなかったために、やむを得ず補助参加人組合から紹介をしたにすぎない。補助参加人組合は、ユニオン・ショップ協定の遵守を除き、補助参加人会社の人事、経営、財務その他いかなる経営事項に対しても一切口出ししたことはない。
(ウ) 以上のとおり、補助参加人組合は、補助参加人会社の設立や目的及びその存続に強く関与しているため、通常の組合と会社以上の関係を補助参加人会社に対して有しているが、それはあくまで離職船員の職場確保という目的の範囲内のことであり、補助参加人組合そのものが補助参加人会社を経営するわけではないし、ましてや労働者との関係において労働条件を決定し、管理する権限を有しているものではない。労働条件を直接・具体的に協議し、決定するのは補助参加人会社であるから、補助参加人組合は、団 体交渉の当事者とはなり得ず、被告のなした命令には何ら誤りはない。
 (3) 
争点3(被告が、原告の補助参加人会社に対する謝罪・誓約文の手交及びポスト・ノーティスの各申立てを棄却したことが違法か。
ア 原告の主張
  被告は、原告が救済方法として求めた謝罪・誓約文の手交及びポスト・ノーティスを排斥したが、本件不当労働行為の経緯からみて、もっとも妥当な救済方法である謝罪・誓約文の交付およびポスト・ノーティスを排斥したのは違法である。
 すなわち、本件において、補助参加人会社は、5号事件命令を受け、さらには中労委の履行勧告を受けたにもかかわらず、原告の組合としての存在自体を否認し、団体交渉拒否を続けてきたものであって、単なる不誠実団交とは悪質さの程度が異なるものであるから、その救済には、団体交渉応諾を命ずるのみでは足りず、補助参加人会社の陳謝と団体交渉拒否を繰り返さない旨の誓約並びにポスト・ノーティスが必要不可欠である。にもかかわらず、被告は、団体交渉を命ずる程度で相当であるとして謝罪・誓約文の交付およびポスト・ノーティスを排斥したものであり、救済方法を誤った点において、本件命令は労組法27条4項、憲法28条に違反する。
イ 被告の認否及び反論
 補助参加人会社が本件の一連の不当労働行為に至った経緯や背景等諸般の事情を総合勘案すると、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るための救済方法としては、別紙命令主文の程度が相当であると判断し、補助参加人会社に対する謝罪・誓約文の交付およびポスト・ノーティスの申立てを棄却したのであり、被告に認めら得た裁量権の範囲を逸脱していない。

第3 争点に対する判断

1 争点1(被告が、補助参加人会社に多雨する5号事件命令の受け入れについての団体交渉応諾申立てを却下したことが違法か。)

 原告は、5号事件命令以降の補助参加人会社の団体交渉拒否の態度が新たな不当労働行為にあたるから申立ての利益があると主張し、これに対し、被告は、5号事件命令の受け入れを議題とする団体交渉の応諾を求めることは、5号事件命令にかかる団体交渉の応諾を求めることと同一に帰するものであり、かつ、5号事件命令の履行要求に対する補助参加人会社の対応は、5号事件命令の不履行状態の継続であり、新たな不当労働行為ではないと主張する。
 そこで、検討するに、前記前提事実、証拠(乙3〜5、丁1〜3)及び弁論の全趣旨によれば、補助参加人会社は、平成12年6月20日に5号事件命令を受けて以降は、原告からの要求書等も受領し、原告との間で折衝を行う等、まったく交渉を拒否していたわけではないが、一方では、5号事件命令を不服として、中央労働委員会に再審査の申立て(40号事件)を行うとともに、補助参加人会社従業員に原告組合員が存在することを認めず、したがって、折衝は行うが、組合活動についての協定は締結できないとの立場を堅持し、実質的には団体交渉に応じない状態が継続し、中央労働委員会による5号事件命令の履行勧告によってもその改善がなされなかったことが認められるところ、このような状態が継続することはもとより望ましいものではない。
 しかし、被告が主張するとおり、5号事件命令の受け入れを議題とする団体交渉の応諾を求めることは、結局のところ、5号事件命令にかかる団体交渉の応諾を求めることと同一に帰するものと解されるから、上記補助参加人会社の対応は、5号事件命令の不履行状態を継続させているものにほかならず、これが、原告の主張するような別途新たな不法労働行為であるとは認められない。
 そうすると、被告が、補助参加人会社に対する5号事件命令の受け入れについての団体交渉応諾申立てを却下したのは相当であって、これが違法であるとの原告主張は理由がない。

2 争点2(被告が、補助参加人組合に対する本件団体交渉応諾、謝罪・誓約文の手交及びポスト・ノーティスの各申立てを却下したことが違法か。

(1) 一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、労組法7条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、労働者との間に労働契約関係がなくとも、労働者の人事その他労働関係上の諸利益に直接の影響力ないし支配力を及ぼし得るような地位にある者については、同条の「使用者」に含まれるものと解するのが相当である。
(2) そこで、この点につき検討するに、前記前提事実、証拠(甲11、13,23,29〜31,37,40,41,43,51、乙1,4、丙7,10,12,13の1〜3、14〜20、35、丁3)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
ア  補助参加人会社設立等に関する補助参加人組合の協力とユニオン・ショップ協定
 補助参加人組合は、離職船員の職場確保のために設立当初から補助参加人会社に協力してきたもので、補助参加人会社が運送事業免許を取得するに際しても、補助参加人組合の協力があった。また、補助参加人組合は、補助参加人会社との間でユニオン・ショップ協定を締結している。
イ  補助参加人会社の従業員採用等への補助参加人組合の関与
 補助参加人会社においては、補助参加人組合との協議の結果、その採用する従業員は、本四連絡橋による旅客船事業からの離職者のみに限定されており、かつ、補助参加人組合の組合員又は補助参加人組合が認めたもの者のみとする合意がなされており、これに基づいた採用が現在もなされている。また、補助参加人組合は、補助参加人会社の人材教育にも、その設立当初からこれに直接関与してきた。
ウ  補助参加人組合による補助参加人会社の株式取得等
補助参加人組合は、平成11年秋ころ、補助参加人会社の発行済み株式総数の54.93パーセントを保有する筆頭株主となった。そして、補助参加人会社はその後の同年4月9日、本社事務所を、補助参加人組合が所有し、補助参加人組合の関西地方支部が置かれている神戸市中央区・・・・・・・・・・・・に所在の「海員ビル」内に移転した(ただし、登記簿上の本店は移動していない。)。
エ  ID及びIUの派遣並びに同両名及びTNの取締役就任
補助参加人組合の元中央執行委員であったID及びIUは、補助参加人会社及び補助参加人組合の双方から、補助参加人会社従業員の労働条件の整備等労務管理面で助力するように請われて、平成11年11月、補助参加人会社の支配人及び副支配人にそれぞれ就任した。ID及びIUは、このときから、従業員の労働条件について、補助参加人組合との労使交渉において補助参加人組合の以降を確認し、協議した上で労務管理を行っていた。
 その後、ID及びIU両名は、補助参加人組合が補助参加人会社の筆頭株主になった直後の平成12年4月27日に開催された補助参加人会社の臨時株主総会で、取締役に選任され、IDは総務担当常務取締役に、IUは労務担当常務取締役に就任した。
 また、同臨時株主総会では、補助参加人組合関西地方支部支部長代行であったTNも取締役に選任され、補助参加人会社の代表取締役専務に就任した。
オ  補助参加人会社の原告に対する敵対的対応
 補助参加人会社は、平成12年1月11日における補助参加人組合との労使交渉の場において、会社内に原告組合の存在を認めないという補助参加人組合の方針を追認するとともに、補助参加人組合の古川及び近藤ら原告組合員に対する復帰オルグ等の組合活動について、常に、補助参加人組合と連絡を取り合い、補助参加人組合と一体となってその組合活動を支援してきた。
 そして、補助参加人会社は、補助参加人組合への復帰に応じない古川、近藤らに対しては、補助参加人組合関与の下で(古川に対する平成12年5月12日付懲戒処分を行うに至る経過において、補助参加人会社が古川に対してなした本社事務所への出頭命令に際し、当時、補助参加人組合関西地方支部支部長代行であったTNが、補助参加人会社側に同行している。)、平成12年5月12日付及び同月22日付で懲戒処分に名を借りた不利益取扱いという不当労働行為を行った。
カ  IU、TNらによる補助参加人組合の支配・管理を認める趣旨の発言等

(ア) IUの発言

 5号事件命令の交付以降の補助参加人会社と原告との折衝の中で、IUは、「補助参加人組合の方針はあくまで争うという立場であり、この下で補助参加人会社は主体的な判断ができない状態」、「補助参加人会社には問題を解決する当事者能力がない」、「団体交渉を行うとしても補助参加人組合の方針の枠内でやるしかなく、きわめて狭義のものとなる。」等、補助参加人会社は、補助参加人組合の意志に反した労務運営を行うことができない状態にあるとの趣旨の発言を繰り返した。

(イ) TNの発言

 TNは、平成12年4月6日、補助参加人組合のSK関西支部長、補助参加人会社の徳島営業所長、古川及び近藤他原告組合員らとの会合において、「補助参加人会社は補助参加人組合の完全な管理下に置かれた会社」、「補助参加人組合が名実ともに管理しないと補助参加人会社を守れない。」、「(平成12年)3月15日以降補助参加人会社側の経営者から経営権を委ねますと、そういう意向を受けた」との発言をした。

(ウ) 文書の配布

 補助参加人会社は、全従業員に対し、平成12年4月10日付で、「今回の株式移動、本社移転はまさに会社設立の趣旨に立ち返り名実ともにわが社が、補助参加人組合の離職組合員の皆さんの会社になったといえます。」との記載のある「本社移転について」と題する書面を配布した。また、補助参加人会社は、同月28日付で、「補助参加人組合の発言は代表取締役である社長の発言と同様と肝に銘じ対応をお願いします。」との記載のある「役員交代について」と題する書面を全従業員に配布した。
(3) 以上のとおり、補助参加人組合は、会社の設立や運送事業免許取得に協力するなど、補助参加人会社の設立当初から補助参加人会社と密接な関係にあること、補助参加人会社の労務管理を掌握するために補助参加人組合の役員であったID及びIUを補助参加人会社に送り込んだこと、平成12年には補助参加人会社の過半数の株式を取得して補助参加人会社の筆頭株主となり、かつ、同株式に基づいて、補助参加人組合関西地方支部支部長代行であったTNを代表取締役専務に就任させ、さらに、前記ID及びIUについても総務担当及び労務担当の常務取締役に就任させたこと、従業員の採用という労務管理上の重要事項について補助参加人会社に対する許否の自由を有していること、原告組合員に対して補助参加人会社と一体となって補助参加人会社への復帰工作を行い、これに応じない物に対しては補助参加人会社が不利益取扱いを行ったこと、補助参加人組合が所有するビル内に補助参加人会社の本社事務所が存することが認められる。
 これらの事実に加えて、上記認定のとおり、補助参加人組合から派遣された補助参加人会社の役員であるIUやTNらが、補助参加人組合による補助参加人会社の管理又は支配を認容する趣旨の発言を事ある毎に繰り返していることや補助参加人会社自体も同趣旨の文書を配布していることを併せ考えると、補助参加人組合は、会社設立の経緯においても、人的、物的、資本的関係においても、さらには、現実の労務管理の面においても、実質的に会社を管理又は支配しているものと認められ、かつ、それがため、原告からの本件団体交渉の申し入れに関しても補助参加人会社単独では十分な対応ができないでいるものと認められる。
 そうすると、補助参加人組合は、雇用主ではないが、補助参加人会社に対する実質的な影響力及び支配力にかんがみると、労組法7条の「使用者」にあたると解するのが相当であって、被告が、その使用者性を認めず、補助参加人組合に対する各救済申立てを却下したのは、労組法7条の解釈を誤ったものであり、違法である。

3 争点3(被告が、原告の補助参加人会社に対する謝罪・誓約文の手交及びポスト・ノーティスの各申立てを棄却したことが違法か。)

 原告は、本件不当労働行為の経緯からすれば、単なる不誠実団交とは悪質さの程度が異なるから、その救済には、団体交渉応諾を命ずるのみでは足りず、陳謝と団体交渉許否を繰り返さない旨の誓約並びにポスト・ノーティスが必要不可欠であり、被告が謝罪・誓約文の手交及びポスト・ノーティスの各申立てを棄却したのは違法であると主張する。
 そこで検討するに、確かに、補助参加人会社は、前記1で認定のとおり、5号事件命令に対する不履行の状態を継続させていたものではあるが、5号事件命令の発令後、まったく原告との交渉を拒絶していたわけではなく、原告からの要求書等も受領し、原告との間で折衝を行ったりもしていたこと等からすれば、その救済方法として、団体交渉の応諾を命ずるだけでは足りず、謝罪・誓約文の手交及びポスト・ノーティスを命ずることが必要不可欠であったとまでは、にわかには認め難い。
 そうすると、被告が、原告の補助参加人会社に対する謝罪・誓約文の手交及びポスト・ノーティスの各申立てを棄却し、これを命じなかったことにつき、裁量権の著しい濫用があったものとは認められず、原告の主張は、理由がない。

4  結論

以上の次第で、原告の請求は、被告に対し、本件命令のうち、補助参加人組合に対する団体交渉応諾申立てを却下した主文4項の取消を求める限りにおいて理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

神戸地方裁判所第4民事部

    裁判長裁判官 上 田 昭 典

    裁判官    太 田 敬 司

    裁判官    島 田  環

(別紙)

兵庫県地労委平成12年(不)第15号事件

  命 令 主 文   
1 被申立人本四海峡バス株式会社は、申立人が平成12年7月31日付けで申し入れた団体交渉事項(ただし、兵庫県地労委平成11年(不)第5号本四海峡バス不当労働行為救済申立事件にかかる平成12年6月20日付け命令の受入れに関する団体交渉事項を除く。)についての団体交渉に誠意を持って応じなければならない。
2 申立人の被申立人本四海峡バス株式会社に対する団体交渉応諾の申立てのうち、兵庫県地労委平成11年(不)第5号本四海峡バス不当労働行為救済申立事件にかかる平成12年6月20日付け命令の受入れに関する団体交渉応諾の申立てを却下する。
3 申立人の被申立人本四海峡バス株式会社に対するその余の申立てを棄却する。
4 申立人の被申立人全日本海員組合に対する申立てを却下する。

以上   

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