平成15年12月24日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成15年(行コ)第11号 不当労働行為救済却下命令取消請求控訴事件(原審・神戸地方裁判所平成13年(行ウ)第39号)

当審口頭弁論終結日 平成15年7月23日

控 訴 人                                 兵庫県地方労働委員会
同代表者会長                               安 藤  猪 平 次
控訴人補助参加人                            全日本海員組合
同代表者組合長                              井 出 本  榮
控訴人補助参加人                            本四海峡バス株式会社
同代表者代表取締役                           川 真 田  常 男
被 控 訴 人                       全日本港湾労働組合関西地方神戸支部
同代表者支部執行委員長                        馬 越  輝 光

主        文

  1. 本件控訴を棄却する。
  2. 控訴費用は,控訴人と被控訴人に生じた費用は控訴人の負担とし,補助参加人らに生じた費用は補助参加人らの負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 当事者の求めた裁判

 1 控訴の趣旨

 (1)原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。

 (2)被控訴人の請求を棄却する。

 (3)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

 2 控訴の趣旨に対する答弁

   主文同旨

第2 事案の概要

  1. 事案の概要は,次のとおり補正し,次項以下を加えるほかは,原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」欄記載(原判決2頁21行目から15頁1行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決2頁末行の「求めた事案である。」を「求めたところ,原審は,本件命令のうち,原判決別紙主文4項(補助参加人組合に対する申立てを却下した部分,以下「本件命令主文4項」という。)を取り消し,その余の被控訴人の請求を棄却した。そこで,補助参加人らが,本件命令主文4項を取り消したのは不当であるとして控訴した事案である。したがって,当審における審判の対象は,本件命令主文4項を取り消した部分(後記争点2)の当否のみである。」
(2) 同3頁8行目の「本四」を「本州四国」と改める。
(3) 同6頁16行目の「地労委命令」の次に「(5号事件命令)」を,同17行目の「現在係争中」の次に「(6号事件)」を,同22行目の「中央労働委員会は,」の次に「40号事件について,」をそれぞれ加える。
(4) 同7頁11行目の「団体交渉」の次に「(本件団体交渉)」を加える。
(5) 同9頁3行目の「労組法」を「労働組合法(以下「労組法」という。)」と改める。
  1. 当審における控訴人の主張

(1) 補助参加人組合と補助参加人会社は,「運転士および整備管理責任者として採用募集する応募者は,全て本四連絡橋供用開始に伴い離職を余儀なくされる組合の組合員または組合が認めた者でなければならない。」とすることを協定しているが,これは,クローズド・ショップ類似の従業員の採用に係る労使間協定であって,個々の従業員の採用についての決定権限を補助参加人組合に与えたものではないから,そのことをもって,補助参加人組合が労務管理の面から実質的に補助参加人会社を支配していると推認することはできない。
(2) 補助参加人会社が古川に対し本社へ出頭を命じた際,TNが同行したのは,補助参加人組合関西支部支部長代行として,自己の属する組合と対立する被控訴人の行動を牽制する目的で,補助参加人会社とは別途現地へ出向き(甲41),組合活動の一環として行動したのであって,TNが補助参加人会社に同行し,補助参加人会社のために行動したものとみることはできないから,これをもって,補助参加人組合と補助参加人会社が一体となって,補助参加人組合への復帰に応じない被控訴人組合員に対して補助参加人組合への復帰工作を行い,これに応じない者に対して不利益取扱いを行ったということはできない。
(3) TNが補助参加人会社の取締役に就任したのは平成12年4月27日であり,同人の同月6日の時点での補助参加人会社は補助参加人組合の完全な管理下に置かれた会社である等の発言は,補助参加人組合関西支部支部長代行としてのものであるから,同日の同人の発言に基づき,補助参加人組合が補助参加人会社を支配,管理していたと推認することはできない。
(4) 5号事件命令の交付以降の補助参加人会社と被控訴人との折衝の中で,IUが,「補助参加人組合の方針はあくまで争うという立場であり,この下で補助参加人会社は主体的な判断ができない状態である,補助参加人会社には問題を解決する当事者能力がない,団体交渉を行うとしても,補助参加人組合の方針の枠内でやるしかなく,極めて狭義のものとなる」等の発言をしたのは,組合間対立から派生する諸問題は,組合間で解決されない限り,補助参加人会社が単独で解決できる問題ではないことを,やや大げさな表現で説明したものであるから,これをもって,全ての面において補助参加人会社にまったく主体性がないことを告白した趣旨であると解することはできない。
(5) 実質的な管理又は支配関係という抽象的な概念による基準で,使用者性を認めることができるとすれば,使用者の範囲は際限なく広がり,雇用関係はもとより使用関係のない者についてまで,これを使用者の範囲に含めることになり,労組法7条が「使用者」という文言を用いていることと矛盾する。
(6) 被控訴人と補助参加人組合との組合間の対立の中で,補助参加人組合が補助参加人会社に圧力をかけて被控訴人との組合間闘争を有利に展開しようとした諸事実をもって,補助参加人組合が直接的に補助参加人会社の従業員の採用や具体的な労働条件を決定していたと推認することはできない。
  3. 当審における補助参加人組合の主張
(1) 次の点からすれば,補助参加人組合は,補助参加人会社に対する実質的な影響力及び支配力を有するものとはいえず,使用者にあたらない。
ア 補助参加人組合は,補助参加人会社の設立に関与したが,それは組合員の職場確保のためであり,そのことと労組法上の使用者の問題とはまったく無関係である。
イ IDとIUが補助参加人会社に就職した際,同人らは補助参加人組合の執行部員ではなく,年金生活者であったものであり,補助参加人組合は,補助参加人会社の求めに応じて同人らを紹介したものであって,補助参加人会社の労務管理を掌握するために送り込んだものではない。
ウ 補助参加人組合が補助参加人会社の株式を取得したのは,補助参加人組合が望んだことではなく,旧株主の求めに応じて取得したにすぎない。
エ 補助参加人組合は,ID及びIUを補助参加人会社の常務取縮役に就任させたことはない。
オ 補助参加人組合は,補助参加人会社の従業員採用に際し,補助参加人会社に対し,その諾否を決める自由を有しておらず,採用された従業員はユニオン・ショップ協定により補助参加人組合の組合員となるべきことを求めているだけである。
カ 補助参加人組合が以前は補助参加人組合員であった被控訴人組合員に対し補助参加人組合への復帰を働きかけたのは,労働組合としての正当な組合活動であって,補助参加人会社と一体となって行ったものではない。
キ 補助参加人組合は,補助参加人会社のした不利益取扱いの事実を知らない。
ク 補助参加人会社が本社を補助参加人組合の「海員ビル」に移転したのは,被控訴人が補助参加人会社の旧本社に平成11年10月12日から同年11月26日まで連日多人数で押しかけ騒乱状態を作り出すなどの執拗な業務妨害を行ったため,会社継続のためやむを得ず移転せざるを得なくなったものである。
ケ 5号事件命令の交付以降の補助参加人会社と被控訴人との折衝の中で,IUが,「補助参加人組合の方針はあくまで争うという立場であり,この下で補助参加人会社は主体的な判断ができない状態である,補助参加人会社には問題を解決する当事者能力がない,団体交渉を行うとしても,補助参加人組合の方針の枠内でやるしかなく,極めて狭義のものとなる」等の発言をしたのは,組合間対立から派生する諸問題は,組合間で解決されない限り,補助参加人会社が単独で解決できる問題ではないことを,やや大げさな表現で説明したものであるから,これをもって,全ての面において補助参加人会社にまったく主体性がないことを告白した趣旨であると解することはできないし,TNが,平成12年4月6日,補助参加人組合のSK関西地方支部長,補助参加人会社の徳島営業所長,古川及び近藤他被控訴人組合員らとの会合において,「補助参加人会社は補助参加人組合の完全な管理下に置かれた会社である,補助参加人組合が名実ともに管理しないと補助参加人会社を守れない,(平成12年)3月15日以降補助参加人会社側の経営者から経営権を委ねますと,そういう意向を受けた」等の発言をしたのは,TNが補助参加人会社の取締役に就任したのが平成12年4月27日であり,同月6日の時点では,補助参加人組合関西地方支部長代行の地位にあったことに照らせば,上記発言は,補助参加人組合執行部員としての発言であるから,補助参加人組合が補助参加人会社を支配,管理していたことにはならない。
(2) 労組法7条にいう使用者の概念については,労働契約の一方当事者である雇用主であるか否かを中心的な基準とする「労働契約基準説」によるべきであり,労働契約の存在にはこだわらず専ら労働関係上の諸利益に対し実質的な影響力ないし支配力を及ぼすか否かによって決定する「支配力説」によるべきでなく,仮にそうでないとしても次の点からすれば,補助参加人組合は,現実の労務管理の面においても実質的に補助参加人会社を管理又は支配しているということはできない。
ア 補助参加人組合は,補助参加人会社に対し現在の仮本社である事務所を賃貸している以外,資産・財産面からする支配力はない。
イ 補助参加人会社における労働者の賃金や労働時間,有給休暇,退職金等の労働条件は,補助参加人会社と補助参加人組合の交渉により決定されており,補助参加人組合にその決定権限はない。
ウ 補助参加人会社の営業,人事,経理,その他の経営に関しては,全て補助参加人会社が独自の判断と負担で行っているものであって,補助参加人組合は,補助参加人会社の経営に何ら関与していない。
エ 補助参加人組合は,補助参加人会社設立後,補助参加人会社と対立的立場を保ち,労働者の権利を確保し,その労働条件改善のために労働者の立場に立った活動と交渉を補助参加人会社と行い,現実にその成果を得てきている。

  4. 当審における補助参加人会社の主張

(1) 次の点からすれば,補助参加人組合は,雇用主である補助参加人会社と同一視し得る程度に労働者の労働関係上の諸利益に直接の影響力ないし支配力を有するものとはいえず,使用者にあたらない。
ア 被控訴人が補助参加人組合に団体交渉を求めている事項は次のとおりであり,いずれも雇用主である補助参加人会社のみが決定できる事項である。
(ア) 平成12年4月14日の被控訴人の副分会長古川に対する不当労働行為(支配介入)に対する謝罪について
(イ) 平成12年5月12日付け古川及び近藤に対する懲戒処分の撤回について
(ウ)  平成12年5月22日付け古川及び近藤に対する懲戒処分の撤回について
(エ)  「個別面談」における不当労働行為(支配介入)に対する謝罪について
(オ)   平成12年6月5日付け古川に対する洲本営業所配転に関して
(カ)  5号事件命令の受け入れについて
イ   補助参加人組合は,補助参加人会社の発行済み株式の54.93パーセントを保有する筆頭株主であり,補助参加人会社は,補助参加人組合出身者を役員としているが,これは,補助参加人組合の組合員の雇用先の確保という目的で設立された補助参加人会社の性格上,補助参加人組合の方針としてとられた措置であって,補助参加人組合と補助参加人会社が一体であるということを意味するものではない。
ウ  TN及びIUの発言は,本件紛争の本質が,労使間の紛争ではなく,ユニオン・ショップ協定(実質はクローズド・ショップ協定)に関する補助参加人組合と被控訴人という労働組合間の紛争であり,補助参加人組合と被控訴人間において,補助参加人会社の従業員の帰属問題が解決しない限り,根本的な解決が困難なこと,補助参加人組合と被控訴人との中央本部において,協議が進められているため,信義上,その協議の進行を無視する対応をとることはできないこと,すなわち,労働組合間の紛争解決の話に関し,雇用主である補助参加人会社が対処できないことを説明したにすぎず,補助参加人会社の従業員の雇用条件等労務問題に関して,補助参加人会社が補助参加人組合に全面的に委任したことはない。
(2)次の点からすれば,補助参加人会社の行為は,不当労働行為に該当しない。
ア 控訴人は,平成12年7月31日付け「団体交渉開催の申し入れ」との書面に記載された事項について団体交渉に応じなければならないと命令したが,上記事項のうちには,6号事件において,補助参加人会社が争っている事項もあり,二重提訴であって違法であり,救済の必要性もない。
イ 補助参加人会社が平成12年4月14日に古川から事情聴取したのは,次の事情によるものである。
(ア)  補助参加人会社は,平成12年2月,古川の申し入れにより懇談をした際,同人の発言から,同人は補助参加人組合の組合員であるとの認識をもった。
(イ) 補助参加人組合は,平成12年4月,古川の申し入れにより懇談をした際,同人の発言から,同人を含めた補助参加人会社徳島営業所に勤務する従業員が補助参加人組合に復帰する旨の意思を確認し,復帰時期と表明については,補助参加人組合に一任された。
(ウ) 補助参加人会社は,その後,古川が上記発言を反故にするような言動をしている旨の連絡を得たので,平成12年4月14日午後7時すぎころ,古川から事情を聴取し,事実確認を行うため,古川に本社への出頭を求めた。

ウ 古川に対する平成12年5月12日付け懲戒処分については次のとおり合理性がある。

(ア) 補助参加人会社が古川に対し本社への出頭を求めた際,古川は,被控訴人や補助参加人会社の従業員に連絡し,これら多数の関係者を終結させ,騒乱状態を作り出し,補助参加人会社は,古川からの事情聴取などの業務遂行が不可能になった。
(イ) 補助参加人会社は,上記古川の業務遂行阻害行為に関し,賞罰委員会を開催し,慎重に審議したうえ,平成12年5月12日,古川に対し,7日間の出勤停止(有給)という処分を決定したものであり,この処分について,古川から苦情はなく,同人は上記処分に納得していた。
エ 近藤に対する平成12年5月12日付け懲戒処分については次のとおり合理性がある。
(ア) 近藤は,平成12年4月18日,シートベルトの着用を怠ったまま,バス運行業務を続けた。
(イ) 乗客は,近藤の上記行為につき,徳島陸運支局に連絡し,同支局から補助参加人会社に通報が入り,補助参加人会社は,近藤に上記事実を確認したところ,同人はこれを認めた。
(ウ) 補助参加人会社は,近藤の上記行為は法令に違反する行為であり,補助参加人会社の社会的信用を著しく傷つけるものであったことから,近藤と面談し,賞罰委員会を開催し,慎重に審議したうえ,平成12年5月12日,近藤に対し,3日間の出勤停止(有給)という処分を決定したものであり,この処分について,近藤から苦情はなかった。
オ 古川及び近藤に対する平成12年5月23日付け懲戒処分については次のとおり合理性がある。
(ア) 古川及び近藤は,上記出勤停止中の平成12年5月15日午後1時ころ,補助参加人会社前で,被控訴人及び加盟組合員や補助参加人会社の従業員とともに宣伝カーを用いて補助参加人会社に対する抗議行動をするなどの業務妨害行為の集団に参画した。
(イ) 古川及び近藤の上記行為は,使用者の権利・利益配慮し誠実に行動するべき誠実義務ないし企業秩序遵守義務に違反し,上記出勤停止中の行為であることに照らせば,極めて悪質な規律違反といわざるを得ない。
(ウ) 補助参加人会社は,古川及び近藤の上記行為に関し,同人らから事情を聴取し,賞罰委員会で審理し,平成12年5月23日,古川及び近藤に対し,懲戒処分をし,同人らは上記処分に納得していた。
カ 補助参加人会社が平成12年5月以降従業員に対し実施している個別面談については次のとおり合理性がある。
(ア) 補助参加人会社は,平成12年4月に新役員による新体制が発足したため,全従業員を対象に意見要望を聴取するとともに経営方針及び経営収支実績の概要を報告する必要があった。
(イ) 補助参加人会社は,個別面談に際し,クローズド・ショップ企業内での二つの労働組合の存在は会社経営の将来に大きな不安が生じると説明したものであり,補助参加人組合以外の組合の存在を認めないとの対応方針を説明したことはない。
(ウ) 補助参加人会社は,個別面談に際し,被控訴人に所属している理由を確かめたことはなく,また,休日に十分な休養を取ってもらう必要から各自の休日消化の内容について質問をしたものであり,不当労働行為の目的で調査を行ったことはない。
キ 被控訴人は,古川の洲本営業所配転に関し,被控訴人の申入れを撤回し,不当労働行為と主張していないから,上記配転に関しては団体交渉事項に含める理由も必要性もない。  
ク 補助参加人会社は,6号事件の命令が出た後,被控訴人との間で多数回にわたり団体交渉を行い,交渉事項に関し,補助参加人会社の態度(回答)を明らかにしている。

第3 当裁判所の判断

  1.  当裁判所も,被控訴人の本訴請求のうち,本件命令主文4項の取消しを求める部分は,正当としてこれを認容すべきものと判断する。その理由は,次のとおり補正し,次項以下を加えるほかは,原判決「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」欄2項記載(原判決16京3行目から20頁8行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決16頁12行目の「43,」の次に「49,」を,「51,」の次に「54ないし59,」をそれぞれ加える。
(2) 同17京13行目の「11月」を「10月1日」と改める。
(3) 同18頁6行目の「本社事務所への」の次に「同年4月14日の」を加える。
(4) 同19頁7行目の次に改行のうえ次のとおり加える。
「キ 補助参加人会社等と被控訴人との紛争の司法的(準司法的)判断
(ア)  40号事件
 中央労働委員会は,40号事件について,平成14年1月9日,5号事件命令は相当であるとして,補助参加人会社の再審査申立てを棄却する旨の命令をした。
 補助参加人会社は,同年2月11日,東京地方裁判所に対し,上記棄却命令の取消しを求める訴訟を提起したが,同裁判所は,平成15年1月15日,これを棄却する旨の判決をした。
(イ)  中田ら3名の労働契約上の地位確認等請求事件
 中田ら3名は,平成12年,神戸地方裁判所に対し,補助参加人会社を被告として,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに未払賃金及び損害賠償の支払を求める訴訟を提起し,同裁判所は,平成13年10月1日,中田ら3名が労働契約上の権利を有する地位にあることを確認し,未払賃金及び損害賠償請求の一部を認める旨の判決をした。 補助参加人会社は,これを不服として,大阪高等裁判所に対し,控訴を提起したが,同裁判所は,平成14年7月30日,これを棄却する旨の判決をした。
 補助参加人会社は,さらにこれを不服として,最高等裁判所に対し,上告及び上告受理の申立てをしたが,同裁判所第一小法廷は,平成15年2月27日,上告を棄却する旨の判決をし,上告不受理の決定をした。
(ウ) 古川及び近藤の懲戒処分無効確認等請求事件
 古川及び近藤は,平成12年,神戸地方裁判所に対し,補助参加人会社を被告として,古川及び近藤に対するそれぞれ同年5月12日付及び同月22日付出勤停止処分が無効であることの確認並びに未払賃金及び損害賠償の支払を求める訴訟を提起し,同裁判所は,平成14年1月25日,古川及び近藤に対する上記出勤停止処分が無効であることを確認し,未払賃金請求の全額及び損害賠償請求の一部を認める旨の判決をした。
 補助参加人会社は,これを不服として,大阪高等裁判所に対し,控訴を提起したが,同裁判所は,平成14年9月5日,これを棄却する旨の判決をした。
 補助参加人会社は,さらにこれを不服として,最高等裁判所に対し,上告及び上告受理の申立てをしたが,同裁判所第一小法廷は,平成15年2月27日,上告を棄却する旨の判決をし,上告不受理の決定をした。」
  1. 当審における控訴人の主張について
(1) 主張(1)について
 補助参加人組合が補助参加人会社の従業員の採用についての決定権限を有していないとしても,そのことのみをもって,補助参加人組合が補助参加人会社の従業員の人事その他労働関係上の諸利益に直接の影響力ないし支配力を及ぼし得るような地位にないとういうことはできず,前記説示のとおり,補助参加人組合は,補助参加人会社の従業員採用に際し,諾否の自由を有しているなど,補助参加人会社に対する実質的な影響力及び支配力を有し,労組法7条の「使用者」にあたると解するのが相当である。
(2) 主張(2)について
 古川雅昇の陳述書(甲40)及び6号事件の第4回審問証言記録(甲41)によれば,古川は,補助参加人組合に所属すべきか,被控訴人に所属すべきか迷っていたところ,被控訴人に所属することを決断し,平成12年4月14日の昼過ぎ,この旨をTNに電話で伝えたこと,TNは,上記古川の決断を補助参加人組合員を通じて補助参加人会社に伝えたこと,古川は,同日の乗務を終了して午後7時30分ころ補助参加人会社徳島営業所に帰ると,本社へ出頭を命じる業務命令が出ており,YG同営業所長とともに同日午後8時25分発の学園都市駅行きのバスで補助参加人会社本社に向かったこと,ID及びIUとTNほか補助参加人組合員は,上記古川及びYG同営業所長の乗車するバスを迎えるため学園都市駅に行ったことが認められ,これらに照らすと,TN及び補助参加人組合は,補助参加人会社と一体となって,補助参加人組合への復帰に応じない古川に対して補助参加人組合への復帰工作を行ったというべきであり,これに応じない古川に対して,前記認定のとおり,出勤停止処分という不利益取扱いを行ったものであるから,控訴人の上記主張は理由がない。
(3) 主張(3)について
 前記前提事実及び認定事実によれば,補助参加人組合は同年3月31日には補助参加人会社の発行済み株式総数の54.93パーセントを保有する筆頭株主となっていたこと,TNは,同年4月27日に開催された補助参加人会社の臨時株主総会で,取締役に選任され,補助参加人会社の代表取縮役専務に就任したことが認められ,これらに照らせば,TNの同月6日の時点での発言が,取締役就任前のことであり,補助参加人組合関西支部長代行としてのものであるとしても,このことは,補助参加人組合が補助参加人会社を実質的に支配,管理しているとの推認を妨げる事情とはならないから,控訴人の上記主張は理由がない。
(4) 主張(4)について
 前記認定事実によれば,補助参加人会社は,平成12年1月11日における補助参加人組合との労使交渉の場において,会社内において被控訴人の存在を認めないという補助参加人組合の方針を追認したことが認められ,IUの被控訴人に対する平成12年8月29日付回答書(甲15)及びIUの証言記録(第3審)(乙5)によれば,IUは,補助参加人会社と被控訴人とは労使関係がないと認識し,協定の締結を拒否していることが認められる。これらに照らすと,IUの前記発言の趣旨を控訴人主張のように解することはできない。
(5) 主張〈5)及び〈6)について
 前記説示(原判決19頁8行目から同20頁8行目まで)のとおりであり,上記認定の具体的な事実関係を考慮すれば,補助参加人組合は,補助参加人会社に対する実質的な影響力及び支配力を有しているというべきであり,抽象的な概念による基準で使用者性を認めるものではないし,また,補助参加人組合が単に補助参加人会社に圧力をかけたというだけの事実をもって補助参加人組合が労働条件等を決定していたと推認するものではないから,控訴人の主張はいずれも理由がない。

  3 当審における補助参加人組合の主張について

(1) 主張(1)について
ア 補助参加人組合が補助参加人会社の設立に関与したという点だけではなく,前記説示の点を総合考慮すれば,補助参加人組合は,補助参加人会社に対する実質的な影響力及び支配力を有しているというべきであるから,補助参加人組合の上記主張のアは理由がない。
イ 前記認定事実及び5号事件の第3回審問証言記録(甲23)によれば,IUは,補助参加人組合を退職してから2年後の平成11年10月1日に補助参加人会社の労務担当副支配人として採用されたこと,その前の同年8月9日,中田ら3名が補助参加人会社から解雇された直後,補助参加人組合の執行部員であるかのような立場で,補助参加人会社の営業所に赴き,被控訴人の組合員である補助参加人会社従業員に対し補助参加人組合への復帰工作を行ったことが認められ,これに照らせば,補助参加人組合は,補助参加人会社の労 務管理を掌握するために,もと中央執行委員であったIUを補助参加人会社の労務担当副支配人として送り込んだものと推認することができる。
ウ 補助参加人組合の平成12年4月1日付組合ニュース(甲17)によれば,補助参加人組合は,被控訴人との対抗上,補助参加人会社に勤める補助参加人組合の組合員とその家族の雇用と生活を守るために,補助参加人会社の筆頭株主となったものであることが認められるから,上記主張のりは理由がない。
エ 前記認定事実によれば,補助参加人組合は,ID及びIUを補助参加人会社の常務取締役に就任させたものと推認することができるから,上記主張のエは理由がない。
オ 補助参加人組合と補助参加人会社は,「運転士および整備管理責任者として採用募集する応募者は,全て本四連絡橋供用開始に伴い離職を余儀なくされる組合の組合員または組合が認めた者でなければならない。」とすることを確認しているから(丙14),補助参加人組合は,補助参加人会社の従業員採用に際し,実質的にみて諾否の自由を有しているものということができる。
カ 補助参加人組合が以前は補助参加人組合員であった被控訴人組合員に対し補助参加人組合への復帰を働きかけることは,労働組合としての正当な組合活動であるとしても,上記認定(2,(2))のように業務命令を発して上司とともに本社へ出頭させるなどの方法により,被控訴人組合員(古川)に対して補助参加人組合への復帰を働きかけることは,正当な組合活動の範囲を逸脱しており,補助参加人組合は補助参加人会社と一体となって行ったというべきであるか ら,上記主張カは理由がない。
キ 前記認定事実によれば,補助参加人組合は,補助参加人会社のした不利益取扱いの事実を知っているものと推認することができるから,上記主張キは理由がない。
ク 補助参加人会社が本社を補助参加人組合の「海員ビル」に移転した理由が会社継続のためやむを得ず移転せざるを得なくなったものであるとしても,前記認定,判断を左右しない。
ケ 上記2,(3),(4)のとおりであり,補助参加人組合の上記主張のケは理由がない。
(2) 主張〈2)について
ア 労組法7条にいう使用者の概念について,労働契約の一方当事者である雇用主であるか否かを中心的な基準とするとしても,前記前提事実のとおり,補助参加人組合は,補助参加人会社の発行済み株式総数の54.93パーセントを保有する筆頭株主であることに照らせば,補助参加人会社の株主総会の決議を通して,補助参加人会社に対する実質的な影響力及び支配力を行使できるから,補助参加人組合の上記主張のアは理由がない。
イ 補助参加人組合の上記主張イのとおりであるとしても,そのことのみをもって,補助参加人組合が補助参加人会社の従業員の人事その他労働関係上の諸利益に直接の影響力ないし支配力を及ぼし得るような地位にないとういうことはできず,前記説示(原判決19頁8行目から同20頁8行目まで)のとおり,補助参加人組合は,補助参加人会社に対する実質的な影響力及び支配力を有し,労組法7条の「使用者」にあたると解するのが相当である。
ウ 補助参加人会社の営業,人事,経理,その他の経営は,補助参加人会社が行っているとしても,補助参加人組合は,補助参加人会社の発行済み株式総数の54.93パーセントを保有する筆頭株主であることに照らせば,補助参加人組合は,補助参加人会社の経営に何ら関与していないということはできない。
エ 補助参加人組合の上記主張エのとおりであるとしても,平成12年3月31日に補助参加人会社の発行済み株式総数の54.93パーセントを保有する筆頭株主となってからは,対立的立場にあるということはできない。

  4 当審における補助参加人会社の主張について

(1) 主張(1)について
ア  補助参加人会社主張の(ア)ないし(カ)の事項が,いずれも補助参加人会社のみが決定できる事項であるとしても,そのことのみをもって,補助参加人組合が補助参加人会社の従業員の人事その他労働関係上の諸利益に直接の影響力ないし支配力を及ぼし得るような地位にないとういうことはできず,前記説示のとおり,補助参加人組合は,補助参加人会社に対する実質的な影響力及び支配力を有し,労組法7条の「使用者」にあたると解するのが相当であるから,補助参加人会社の上記主張のアは理由がない。
イ 補助参加人組合が補助参加人会社の発行済み株式総数の54.93パーセントを保有する筆頭株主であることに照らせば,補助参加人組合は,補助参加人会社の経営に何ら関与していないということはできず,前記説示の点を総合考慮すれば,補助参加人組合は,補助参加人会社に対する実質的な影響力及び支配力を有しているというべきであるから,上記主張のイは理由がない。
ウ 上記3,(1),ケのとおりであり,補助参加人会社の上記主張のウは理由がない。
(2) 主張(2)について
上記のとおり,当審における審判の対象は,本件命令主文4項を取り消した部分の当否,すなわち,補助参加人組合に対する本件団体交渉応諾等の申立てを却下したことの違法性の有無,具体的には,補助参加人組合が労組法7条の「使用者」にあたるか否かであり,上記主張の補助参加人会社の各行為が不当労働行為に該当するか否かは直接の争点とはなっていないから,上記主張はいずれも理由がない。

  5 結論

よって,本件命令主文4項を取り消した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,主文のとおり判決する。

 
大阪高等裁判所第11民事部

      裁判長裁判官   市 川  楓 明

      裁判官        一 谷  好 文



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