eoさんの旅ノート  ワイルドフラワーの旅
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6日目 9月18日
 今日も快晴。今日の予定のリバー・クルーズは午前10時半出発なので、朝食をテラスでゆっくりと取る。冷凍キッシュ残り半分と残りのメロン。
 荷物をまとめて車に積み、宿をチェックアウト。
 クルーズ船は2,30人乗りくらいで、昨日のサンセット・クルーズと同じく満席。始めに、どの国から来たかだけの自己紹介をする。半分ほどがオーストラリアかニュージーランド、あとは欧米で、アジア圏は日本からの私たち2人だけ。

 穏やかな川下りだ。そのむこうに海がある砂洲を左に見て、右にカルバリの町を見る。カルバリの町はすぐに終わり、砂地に疎らに生える潅木が、次第に、潅木の森となり、背後にある丘陵へとなだらかに続く。
 そのむこうに海があるはずの砂洲は、川辺の岩場あたりからすでに潅木があり、底辺に潅木の森をもつ小高い砂の丘となっている。川辺の岩場あたり、潅木の間にカンガルーが見え隠れしたりする。

 漂っているような小さなボートとすれ違う。ボートの舳先に跨るように座る男性が、足を川の水に濡らしながら本を読んでいる。小さな日除けの下にいる女性がのんびりとこちらを見ている。貸しボートで川遊びを楽しんでいるのだろう。

 川をせき止めるかのように横たわる大きな中州がある。明るい陽光に砂地が白く光り、ペリカンや小さな水鳥たち数十羽が遊んでいる。こういう光景を見るのも川下りの醍醐味の一つだ。

 正午頃、平たい岩場のそばでクルーズ船は停船。このクルーズはランチ付きである。コーヒーとハンバーガー。ジュージューと焼きたてのソーセージを目の前でパンに挿んでくれる。美味しい。船の座席で食べる人、岩場にすわって食べる人、さまざまだ。陽射しが強いので、私たちは船の座席で。バナナ・ムースのデザートもあった。船の外で食べていた人たちはデザートがあることを知って、貰うためにあたふたと船に戻る。

風景 風景  

この付近の花々  

 ランチの後、ガイドを先頭に丘の上に向かう。

 丘といってもこのあたりはちょっとした山くらいの高さがある。 砂地の間にごろごろとした岩が重なっており、みな息を切らしながら進む。山歩きというより山登りといった感じだ。
 観光案内所でこのクルーズを予約した際、係りの人が「しっかりした靴を履いて」と念を押すように言ったのを、クルーズになぜしっかりした靴を?と思ったが、このことだったのか。

風景  
 登るにつれ、このあたりの景観の全容が段々と姿を見せてくる。

 カルバリ国立公園となっている美しい丘陵の、地平線のように真っ直ぐに続く稜線から潅木の森が緑色の絨毯のように拡がりながら下りてきて、それを縫うように川 Murchison Riverがゆったりと蛇行し、このあたりで一気に川幅を広げている。
 薄緑色の川、白い砂地、潅木の森の濃い緑、そして美しい丘陵の真っ直ぐに続く稜線。
 頂上からは、海 インド洋と川 Murchison Riverとが見渡せる。海は濃い青。

 川の景観から海に目を移すと、海の色は吸い込まれそうな青。海から川の景観に目を移すと、川の景観はおぼろげで優しい。優しく見えるのは、白っぽい地の色、薄緑色の水、丘陵の濃い緑などの色彩がやわらかく調和しているせいか。

 ここから見る川の景観は素晴らしい。これほど美しい川の景観は世界でもあまり無いのではないか、と思えるほどだ。

 ガイドブックでは、カルバリの代表的な見所としては峡谷など自然の造形の美があげられている。 Hawks Head, Z-Bend, The Loop, Natures Window などがそれだ。
 一般に、峡谷の代表格として知られるのは、ご存じ、かのアメリカのグランドキャニオンだが、グランドキャニオンにおける 自然の造形の美と比べて考えると、ここHawks Head等における自然の造形の美には少し異質のものがある。 グランドキャニオンを満たしている色は白っぽく乾いた茶褐色であり、 峡谷の底を流れるコロラド川は土色で、緑の植物を育てることなくそそり立つ岩盤を削る。 自然の力の強さ、大きさ、凄まじさといったものをグランドキャニオンは私たちに誇示して見せるようだ。 一方Hawks Headの峡谷は、丘陵の緑に溶け込んだ水の流れの美しさ、 その自然の優しさといったものを私たちに見せてくれる。
 Natures Windowについては、同じくアメリカのアーチーズ国立公園には自然が岩盤をくりぬいて作り上げた"窓"natures windowのまさに集大成がある。ただし、アーチーズ国立公園の"窓"を通して見えるものは、乾ききった茶褐色で無機質な自然の造形だけだが、カルバリのNatures Windowの"窓"を通して見えるものは、緑の丘陵、ゆるやかに蛇行する川、白い砂などの優しく美しい景観だ。

 しかし、ガイドブックでカルバリの魅力としてトップに挙げられるのは大抵Hawks Headなどの"峡谷美"なので、ここで意地悪く敢えて文句を付ければ、峡谷などの自然の造形としては、それ等は世界的にみると必ずしも一級品というわけではない。アメリカのグランドキャニオンを実際に知っている人であればHawks Head, Z-Bend,The Loopの峡谷に驚くことはない。アーチーズ国立公園を知っている人であれば、カルバリのNatures Windowは、アーチーズ国立公園に多数あるうちの、それも小規模なものの1つに過ぎないことがわかる。

 しかし、私の独断で言うと、ここ砂の丘の頂上から見る川の景観は文句のつけようのない世界の一級品だ。

 カナダやアラスカにも似たような景観があるように思うが、ここの川の景観をカナダやアラスカのそれとは違うものとして特徴づけているのは、川や砂地や潅木の森を包み込んでいる緑の丘陵の、その稜線の美しさと、そして、その稜線が低いために、ふつうであれば景観のバックに過ぎない空の、空の色までもが景観の一部としてしっかり納まっている、その景観の拡がりにある、と私は思う。

風景
下手な写真ですが   川の景観の一部

 丘からの下りは足元が砂地なので、一足ごとにザアーッザアーッと滑り降りるようにしてすぐに川岸に着いた。

 午後2時頃、クルーズが終了するとすぐに、今日の宿 Kalbarri Beach Resort にチェックイン。
 1泊$110。川に面した建物の2階。前の宿と同じくSelf Containedで、自炊装置一式揃っている。新しい建物のようで、装置や食器類など新しく、気分が良い。川に面した側にリビング・ダイニングと寝室とがあり、このどちらも大きなガラス窓から川の景色が正面だ。テラスもあり、2階なので見晴らしが良い。住み心地など考えても、前の宿よりこっちの方が良いんじゃないの、などと話した。
 かなり大きなホテルのようで、beach frontの1棟以外に奥の方に幾つかの棟がある。どうやら長期滞在者が多いようだ。それにしてもbeach frontの、それも2階が空いていたなんて幸運だった。
 プールがあるので水着で行ってみた。大きな25メートルプールできれいな水。周りには白いリクライニング椅子が20くらい置かれ、日光浴する水着の人々で全ての席が占領されている。奥にジャグジーがあったが、こちらも子供達に占領されている。それにしても、ホテルが単なる客寄せの手段として作ったとは思えない立派なプール設備だ。プールに浸かったが、温水ではないので水が少し冷たい。

 プールで少し遊んだ後、カルバリの海岸線のドライブに出た。
風景

 昨日のサンセット・クルーズで海側から見た海岸線を、今度は陸側から見ることになる。 クルーズで見た時にはなかなかすごい断崖だと思ったが、 イルカや鯨に気を取られていて、じっくりと海岸線を見たわけではなかった。

 Red Bluff、Eagle Gorge、Shell House、Natural Bridge など、地形の特徴をとらえた名前のついた見所が続く。この地帯一帯が激しく浸食され切り立った断崖となっている。 海から見た時は、ただ断崖が続いているぐらいにしか見えなかったが、陸側からすぐ近くで真上から見下ろすと、地形の特徴がはっきり判り、さすがに迫力がある。

 Red BluffだったかEagle Gorgeだったか。展望台に近づいてみると、若いカップルが先客として海を見ていた。
 女性の方は所在無げだったが、男性の方は展望台に寄りかかるようにして鉄枠に肘をつき、双眼鏡で一心に海を覗き見ていた。

 私たちを見て、男性が、始めは物言いたげにしていたが、やがて、「鯨がいるんだ」と言う。
 ホラあれと指差す方、青い海の1点に小さな白い煙のようなものが立つのが見える。鯨が潮を吹いているのだ。
 数分に1度くらいは白い煙が立つのが見える。広い海原の中の豆粒のような1点の白い薄っすらとした小さな煙だが、海が青いのと、今日は風が無く海が穏やかなので、そのつもりで見ているとはっきり見える。だが肉眼で見えるのは煙(潮)だけで、鯨の姿までは見えない。双眼鏡で焦点が合えば見えるだろうが、白い煙は1秒ほどで消えるので、双眼鏡で鯨の姿を追うのは大変だろう。
 きのう私たちはもっと近くで鯨を見たんですよ、などという意地の悪いことは言えなかった。
 白い煙が立つ度に、ホラあそこ、今度はホラあっちと、彼は私たちにいちいち示してくれる。展望台に寄りかかるようにして鉄枠に肘をついたまま、彼はそこから動こうとしない。
 ここは、海に突き出た展望台の鉄枠があるだけで椅子があるわけではないので、終日ここにこうしていうわけではないだろうが、彼を見ていると、まるで日がな一日ここで鯨を眺めているといった様子だ。

 何となく『八月の鯨』というアメリカ?映画を思い出した。
 海を見下ろす高台の古い家に老姉妹が住まう。 テラスから海を見ながら、訪れた老ボーイフレンドに「私たちが娘だったころ、あそこに鯨がきたことがあるのよ」などと話し、ひょっとして今も鯨が、というふうに海を眺めたりする。ある時、海の方に向いた窓が傷んだので、修復のついでに窓を大きくしましょうと妹が言うと、 「私たち、あと何年生きられると思ってるの」と姉は反対する。いろいろあって、結局、姉の方から 「窓を大きくしよう」と促す。ドラマチックな筋書きがあるわけでもなく、"鯨"は上のせりふに1回出てくるだけで、これだけのことだが、この映画には何ということもなく納得できるといったような心の安らぎを感じさせるものがある。こういう心の安らぎの正体は何なのだろうか。

 夕食は、今は宿の隣りということになったJetty Shack Seafoodからのテイクアウト。再び海老・バーベキュー・バーガー、そして battered scallop(ホタテ)、battered mussel(ムール貝)、サラダなど買い込んだ。 battered scallop、battered mussel 等は1個づつのばら売り。 昨日の昼は店は空いていたが、いま夕刻は、客が行列している。美味しい店はやはりみんな知っているようだ。

 テラスで夕陽が落ちるのを眺めながら食べる。海老・バーベキュー・バーガーはやはり美味しい。
 battered scallop のbattered というのは バターソテーしたものかと思っていたが、そうではなくて フライ調理のことらしい。 つまり battered scallop とはホタテのフライ。
 どれもが美味しい。目の前に広がる夕陽の景色もきれい。 カルバリは本当にいいところだ、と良い気分になる。

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