Tranthwaite Hall
旅の日程
2000.9.16-22
出発まで

ケンダル

ウィンダミア

カーライル

セトル・カーライルライン

スキプトン

ロウ・スキブデン・ファームハウス

ボルトンアビー

マンチェスター科学産業博物館

おまけ

旅のIndex
































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ロンドン・ユーストン駅からグラスゴー行きのバージンエキスプレスに乗り4時間あまり、 オクスンホルム・レイクディストリクト駅でウインダミア行きに乗り換えると、 5分もせずにケンダル駅に着いた。
雨が降っていた。大きなパックを背負って歩くのもしんどいし、 Eメールで予約を取ったB&B”Tranthwaite Hall”に行く事にした。
とは言ってもどうやって行けばいいのやら。 出発前、"Tranthwaite Hall"のMrs.Swindlehurstに"How Will I get your Farm house?”と、 メールで問い合わせてみたのだが、 「ケンダルから4マイルのところにあります。」というなんともそっけないお返事。 バスで来いとも、歩いて来いとも書いてなかった。 4マイルというから約6.4km。荷物を背負って歩くにはちょっと遠い。
ツーリストインフォメーションで尋ねると、バスはないとのこと。 インフォメーションの優しいおばさまはタクシーを呼んでくれた。 アンダーバロウのTrnathwaite Hallまでは6ポンド(約1000円)。 タクシーと言っても、ロンドンを走っているレトロで格式高いタクシーとは違って、 ドライバーの自前の車にメーターと無線を取り付けて走っている庶民的なタクシーだ。 ドライバーも白髪の気のいいおじいちゃんから、 タンクトップから刺青の入ったマッチョな腕を出した一見恐そうなお兄さんまで、 個性豊かである。

Tranthwaite Hall目的の農家に到着し、 "Stay on a Farm" の紹介文にあった"美しいオークの扉"を開けて出迎えてくれたのは、 私のイメージどおりのイギリスのお母さん。 上品で暖かい笑顔、ショートカットの彼女は働き者の農家のお母ちゃんという感じだ。 「歩いてくるのが大変じゃないかって心配してたの。」とMrs.Swindlehurst。 「タクシーで来ました。」と言うと、「それは良かった。」と、彼女は笑った。
未だ時間が早かったので、農場の近辺を散歩してみる事にした。 霧雨か降っていたので景色は遠くまで見渡せない。 村のパブを覗いてみると、 まだ3時ごろだったが7人ほどの客がビールを飲んでいた。
室内その日のお客は私一人だった。 二階の一番奥にあるバス・トイレ付きの大きな部屋に泊めてもらった。 ダブルベッドとシングルベッドが一つずつ、 アンティークなクローゼットと鏡台があり、 小さなテーブルにはティーセットが用意されていた。

放牧場 窓も2つあって、一つの窓からは放牧場が見える。 "Stay back!"という大きな声が聞こえたので、その窓から覗いてみると、 ご主人が犬と一緒に羊を追っていた。
牧羊犬 そう言えば、散歩から帰ってきた時、外に置いてあった車の中を覗いたら、 白黒の犬がいて、私を見て唸っていた。あいつは牧羊犬だったんだ。 でも、様子をじっと見ていると、この犬は羊を追うのが超へたくそ。 結局はご主人が羊を隣の牧区に移していた。 それでも犬は自分の仕事だという自覚は持っているらしく、 移動し終えた羊の後ろでやかましく吠えながら走り回っていた。 このちょっと間抜けな牧羊犬とも翌日にはお友達になった。

ミルキングパーラー もう一つの窓からはミルキングパーラーが見える。 酪農を生業としているこの農場では、朝は7時前から、夕方は5時ごろから搾乳が始まる。
5月から9月の間は昼夜放牧(1日中放牧していると言う意味)しているので、 搾乳する時だけ、ミルキングパーラーの待機場に牛を集めて搾乳をする。 と言っても、時間には牛の方が待機場の前で待っているという状態なので、 わざわざ集める必要はない。
ミルキングパーラーは6頭ダブルのヘリンボーンスタイル。 といっても酪農関係以外の方には分かり難いでしょうが、 パーラー内は暗くて写真が撮れなかったので、 12頭いっぺんに搾乳できる搾乳場というふうに理解して下さい。
面白いなと思ったのは、6頭ダブルなのに、ユニットが6基しかないこと。 片側を搾ってる間に片側を入れ替えるというやりかただ。 日本の酪農家で同じ6頭ダブルのパーラーを使っているところでは、 両側いっぺんに搾れるように12基のユニットが備わっている。 でも、実際にはこの農場と同じように、片側を搾っている間に片側を入れ替えているところが多く、 ユニットは6基でも十分回転するわけだ。 ミルカーの設備費を安くあげる賢いやり方である。
真空ポンプの音が消え、どうやら搾乳も終わったらしいので2,3質問をしようと思い親父さんの姿を探すと、 バルククーラー(搾った牛乳を冷蔵しておくタンク)の横で何かの紙を見ていた。
「1日にどれくらいの乳を搾ってるんですか?」と尋ねると、 「これを見てくれ。」と言って、親父さんが見ていた紙を差し出した。 それは集乳伝票(牛乳を集めに来る車が置いて行く、牛乳の受け取り伝票)で、 2240と書かれている。 「単位はリットル?」ときくと、「そうだ。」と言う。 それまでに奥さんから、搾乳牛は60頭と聞いていたが、 60頭の乳量としては多すぎるので、もう一度搾乳頭数を確認したが、 やはり60頭だった。
私は思わず「うっそー!」と日本語で言ってしまったが、 そのニュアンスは伝わったらしく、 そんな私のリアクションを見て、親父さんは満足そうに笑っていた。
ここで、解説しておくと、その日の1頭あたりの平均乳量は37kg。 これは驚異的な数字だ。日本では、 穀類の栄養価の高い飼料を牛がもう要らないと言うまで食わせたって、 かなり高泌乳の牛群をもつ農家でも平均30kg。 それなのに、1日中草ばっかり食わせて、搾乳時にちょろっと濃厚飼料をやるだけで、 37kgも乳が出るなんて信じ難い事なのである。
質問を変えて、1乳期の乳量を聞いてみた。
「いい牛は10000kg出るけど、7000kgの牛もいる。 うちの平均は305日乳量で7600kgだね。」
なあんだ、それなら納得できる。草主体の酪農ならそれくらいが妥当な線だ。 どうやらこの3ヶ月ほどの間に分娩がかたまって、最盛期の牛が多いってことらしい。 それで彼は、収入伝票をしげしげと見ては御満悦というところだったわけだ。
こう書くと、この牧場では誰にでも搾乳を見せてくれるように思うだろうが、 到着した日の翌朝、朝食を出してくれた奥さんに、 搾乳しているところを見せて欲しいというと、 明らかに迷惑そうな顔で、「もう終わるから。」とやんわりと断られてしまった。 日本から来た変な姉ちゃんが(私も姉ちゃんという歳でもないが、 奥さんが私の事を他人に言うのに”Japanese girl”と表現していたので、 彼女はそう思っていたと思う)搾乳しているところにズカズカと入って来て邪魔をするんじゃないかと 心配するのは当然だ。
その後、タクシーを呼んでもらって外に出ると、奥さんは追い込み柵に牛を入れていた。 「その牛はどうかしたの?」と尋ねると、 種付けをするのに獣医を待っているという。 ということは暇そうなので、牛の頭数とか、 放牧場に出ないで家の横の草地に残ってる牛は病気なのかとか質問をしていたら、 「あなたは牧場で働いてるの?」と聞いてきた。 「私は獣医です。」と言うと、「あなた獣医なの?」と彼女。 私が牛の事をあれこれうるさく質問するわけがやっと分かったという感じだ。 きっと彼女は私の事を変な日本人だと思ってたんだろう。
その日、ウインダミアを観光して農場に戻ると、もう夕方の搾乳が始まっていた。 パーラーの回りをうろついていると、パーラーの窓から息子さんが顔を出した。 バルククーラーの方からまわって入って来いと言う。 朝、「おはよう」と挨拶した時には、はにかんだ笑顔で挨拶を返してくれた彼だったが、 その時は朝よりぐっとフレンドリーな雰囲気である。 母ちゃんから、私が獣医だと聞いたのだろう。 薄暗いパーラーの引き戸をそっと開けると、親父さんがいた。 「入っていい?」 というと、どうぞどうぞとウェルカムムード。 しかし、仕事のお邪魔はしまいと、片隅で素早くパーラーの様子をチェックして お礼を言って外に出た。私としては結構遠慮していたのである。
私は知らなかったのだが、ピーター・メイルのエッセイが火付け役となり、 南プロヴァンスのツアーが流行った事があるらしい。 その結果、団体客が大型バスで乗り付け、 無断で庭に入り込み平気でドアを開けたりという傍若無人な振る舞い。 そんなこんなで、ピーター・メイル自身もその地にいられなくなったと本で読んだ。 私もこのページにTrathwait Hallを紹介して、 そういうご迷惑をSwindlehurstご夫妻にお掛けしてはいけないと思うので、 そんなことは言わなくてもわかっておられるでしょうが、 この農場が観光牧場ではないことをお断りしておきます。
Mrs.Swindlehurstはホームページで紹介する事を承諾してくれている。 URLアドレスを教えてくれと言われたけど、 イギリスでは日本語のテキストは表示できないと思う。
話を変えよう。
B&Bの売りはたっぷりとした朝食。 Engrish breackfastというやつだ。 朝食の時間になると、 「おはよう!朝食の用意ができたわよ。」と、 エプロン姿の奥さんが部屋まで呼びに来る。
考えてみれば、こんな風に朝起こされるのは20年ぶりじゃないだろうか。 「お母さん」と呼びたくなる。
ここではまずオレンジジュースとグレープフルーツ、シリアルが出た後、 あつあつのベークドベーコン、目玉焼き、焼きトマト。 トーストとたっぷりのコーヒーが出てきた。 バターの他に3種類のジャムが用意されていて、勿論、牛乳も飲み放題。
私が弱ってしまったのはベーコン。 ここに限らず、イギリスのベーコンはむちゃむちゃ塩がきていて、 関西人には辛いものがある。 夕方、庭で犬と遊んでいたら、 奥さんが「何か朝食の希望はない?」と聞いてくれたので、 「私、今朝ベーコンを残しちゃった。」と言うと、 「じゃあ、明日はエッグトーストにしてあげるわ。」 ということで、翌朝はベーコンなし。 目玉焼きの載ったトーストはすごく美味しかった。 ニワトリも飼っていたから産みたての卵なんだろうが、 半熟の黄身はぽってりと盛り上がって、 ナイフを入れると流れ出た黄身がトーストにしみ込む。
残念なことにMrs.Swindlehurstの写真を撮っていない。 私が出発する朝、早くにご夫妻で出掛けてしまったので、 最後はお会いできなかった。 息子さんが搾乳をしなければいけないのだが、 何故か停電になっていて真空ポンプが動かないから困っていた。 牛は待機場の前で「早く搾ってくれぇ。」と言わんばかりにモーモーないている。 息子さんに、手で搾る?と冗談で言ったら、 「しないよぅ。」と笑っていた。 いつも搾乳する時刻を2時間ほど過ぎると、 牛も諦めたのか放牧場に帰り始めてしまった。 帰国してから尋ねたら、 私が帰ってすぐに電力は復旧して無事に搾乳できたということだった。
つなぎ姿の息子さんにさよならを言って、Tranthwaite Hall を後にした。