マンチェスターの「桜花」

帰国前日はロンドンに戻り、定番の観光をする予定だったが、 気が変わってふとマンチェスターに行ってみたくなった。
産業革命発祥の地マンチェスターには世界一の産業博物館がある。
名古屋にあるトヨタの博物館に行ったことのある人は、あそこの展示物をイメージしてもらうといいだろう。 古い駅舎を利用して古い機械を展示しているだけでなく、実際に動かして見せてくれる。
航空機を展示している建物もあって、本物の古い飛行機がでーんと置かれている。 中でも一番大きな飛行機は二次大戦中に使われていたイギリスの軍用輸送機で、 一階からは大きすぎてその全容が見えないほどだ。階段を上がり回廊からその輸送機を眺めていたら、 輸送機の横に対極的な超小型機が置かれていた。
桜花 翼に日の丸が描かれている。と言うことは日本の飛行機。 目を凝らせて解説の書かれたボードを読んでみた。
"YOKOSUKA OHKA"そう書かれていた。「オーカ」...「桜花」これがあの桜花なのか。 まさかイギリスのマンチェスターで桜花を見るとは思わなかった。
桜花は1944年に開発が始まり、敗戦間近に完成した究極の特攻機だ。
一人乗りの小さな機体の前の部分には爆弾が、 後ろの部分には3機のロケットエンジンが搭載されている。
ロケットエンジンは飛行するのではなく、輸送機から飛び出すためにあり、 勿論着陸するための機能は備わっていない。 飛び出して、目標物に向かって突っ込むだけの、飛行機とはとても言えない代物である。 つまりこれは空飛ぶ棺桶というわけだ。
英語で書かれた解説では、"suicide aeroplane(自殺飛行機)"と表現されていた。
旅の終わりに、ふらりと立ち寄った町で、日本の辛く悲しい歴史の遺物に出会うとは。
マンチェスターで一人感慨に浸ってしまった。
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