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絵本および童話(2007年11月3日更新)

ここでは、我が身の非才さを顧みず、ズバズバ本音トークで作品を斬っていきます。
もし作者がご覧になられたら、許しておくれでないか!これも修行と思っておくれ。


◆A「森三郎童話賞」

(出版は、刈谷市。全国の図書館に寄贈される。 *注:大賞受賞時と題名が換えられている場合がある。)

受賞回  題   名  作 者 名  ストーリー展開型
感   想
 1 きつねのおまもり 大谷千晴 事件
遭遇型
K
小さなおまもり狐が登場して出だしはおおと思わせるファンタジーなんですが、肝心のストーリーが生活童話の域を出ておらず凡庸。ハラハラさせる訳でもない善人ばかりの予定調和なな人物群といい、分かっちゃないなぁと思わざるを得ません。ある意味、反面教師的な作品。


◆B「ミツバチの童話と絵本コンクール」

(出版は、ポプラ社。山田養蜂主催。最優秀賞のみ出版。該当作無しの年もある。
 *注:受賞時と題名が換えられている場合がある。)


受賞回  題   名  作 者 名  ストーリー展開型
感   想
 1 事件
遭遇型
K
おじいさんとぼくのハチミツ 多加山悠哉 生活型 少年タブが入院した祖父との交流で、その生と死を体験する話。お祖父さんがの口元に残したハチミツを蜂が舐めに来るなんて、ちょっと思いつきにくい小技設定がポイント。テーマが死という重いものを正面から扱っているだけに、ほぼ病室ばかりの描写なのに、読ませる強さがある。
最後はたき落とされた蜂の死と、その針の痛みという展開も上手いと思うが、ラスト3行のタブが冷蔵庫のハチミツを云々の描写は全くトンチンカンだ。ここでの書きようを少し変えれば感動的なのに、もったいない。
ミツバチ、ともだち 今井恭子 生活
体験型
少女菜々とその両親たち養蜂一家を描いた作品。親しかった知り合いのおばあさんが死んだ部屋で、迷子のミツバチを見つけるというのが唯一の盛り上がるドラマと言えるが、いかんせんそれでは強さが読む側には感じ取れない。作者の独りよがり、童話はかわいく描くという固定観念から脱却していない。「死」と書けば、悲しさも体験できるとでもいうような「ことばの説明力」だけに頼った安易な姿勢や鈍さを感じる。
はちみつのタネ 尾山理津子 事件
反復型
お母さんの作ったはちみつクーヘンを食べようとするミツルの元へ、ねずみ、のらねこ、くまが「はちみつのタネ」を持って訪れる3拍子パターンの構造を持つ話。この賞の他の受賞作が生活童話なのに、これだけ傾向が童話的で違う。
 ただ人物造形まで悪い意味でメルヘン調で操り人形的。自分の言葉で語り得ていない。一番の悪い点は人物に葛藤やドラマだないことか。だから作り物めいた予定調和な印象になってしまうのだろう。
蜂飼いのマヤとマントが原 鞠阿野純子 体験型 だからどうなの、と尋ねたくなる予定調和なストーリー。なぜそうなのかというと、何の事件も葛藤もなくドラマツルギーが圧倒的に不足しているからだ。そもそもこの作者は、そんなドラマを想定も予測もしていなそうだ。その鈍さに苛つきを覚えてしまう。これでは活字にして読んだ者の時間が無駄だ。



◆C「小川未明童話賞」

(出版は、NTT出版。 *注:大賞受賞時と題名が換えられている場合がある。)
受賞回  題   名  作 者 名  ストーリー展開型
感   想
 1 おじいさんのすべり台 浜 祥子 生活
体験型
K
老いた者の育ちゆく者への愛の贈り物の物語と、解説で三木卓が書いているけど、確かにこの作品のしっかりとおじいさんの死と向き合う姿勢は、誤魔化しではない強さを感じて納得できる。ただプロの作品なら、後一歩、鮮やかな切り口があると思う惜しさがあるけれど。
ウミガメ ケン太の冒険 山下 勇 体験型 A ウミガメが夕陽をきれいだと思うシーンなどは、あまりに童話的甘さがあって、ちょっと引いてしまった。幼年童話ではないから、語り手が客観的に描写する形だったらいいのに。しかし、海の様子やカメの成長の細やかな描写は惹き付ける魅力があって読ませる。 B
さかなのきもち 高見ゆかり 事件
解決型
A 人をサカナにする薬。そして逆に人魚姫ばりにサカナで人間になったものがいた…までの発想の奇抜さは買うが、ちょっと蛮勇過ぎないか。じゃ、魚を食べる人間をサカナたちはどう思ってるの。という根本的な疑問が湧いてきてしまうから。そのご都合主義的発想は甘いと言わざるを得ない。いっそ、ありふれてるけど、人魚姫パターンの方がまだ抵抗感がない。 C
体験型
おけちゅう ミキオ・E 生活
体験型
正直、どう評価していいか、分からない。解説者のいう高い文学性が僕にはまるで感じられなかった。なぜなら、もっと優れた作品を知ってるからな。そして、未明に通じるファンタジー性のかけらもない。いいのか、こんなのに大賞なんて!



◆D「ちゅうでん児童文学賞」

(出版は、BL出版。 *注:大賞受賞時と題名が換えられている場合がある。)
受賞回  題   名  作 者 名  ストーリー展開型
感   想
 1
ニコルの塔 小森香折 事件
解決型
レメディオス・バロの絵に触発されて書いたという話なんだけど、確かに見事に彼の持つ怪しげな不透明感と奥深い物語性を作品化している。素晴らしい作品密度だと思う。生涯、一作でもこんな作品を書きたいものだ。『五月の力』から3年後の作とのことだけど、それぐらい掛ければできるのかな。 超A
キス 安藤由希 体験
成長型
人物造形が素晴らしい。ここまで来ると、もう児童文学というより立派な大人向け文学と変わらない。全編、自分の言葉で若者の感性で書かれている、ただある種、詩的だ。まるで村上春樹の主人公が語る挿話のようでもあり、現代詩の散文詩のような語り口。一種の寓話でありながら、言葉の強さ、潔さがある。その意味では児童文学的だな。
みどパン協走曲 黒田六彦 体験
成長型
みどパンというあだ名の寺の息子、小学6年生の瞬平太が主人公。彼が事故で失明した拓斗と、ランニングを併走する練習を日々行う中での様々なエピソードを描く。童話的な甘さはなく、かといって大人の小説では書きにくい泥臭いけどヒューマンな視点が常にあって正に児童文学というべきもの。しかし、それが課題図書的で読むのがしんどい。評価しづらい。名作なんだろうが、「遊び」が足りないな、自分的には。

以下◆E「福島正実SF童話賞」他へ続く(2008年3月4日更新)