本文へジャンプ放送大学大学院絵本への取り組み日記
絵本研究所(更新12年5月13日)


以下、歴代受賞作品を臆面もなく、批評します。作者の方が見る可能性はゼロに近いからいいかな。自分用の覚え書きです。
・童話編では、こんなオチでいいの、オチなしじゃんがいっぱいあって、安心しました。
・絵本編では、雑さと、自由さの兼ね合いが難しく、僕にはどうしても辛口評価をつけざるを得ない作品が多かったです。
・応募するなら先ずはレベルを知らないと思った結果だったんですが、自分の審美眼の方がよっぽど厳しいのがよく分かりました。これだと何も書けなくなります。(苦笑)
◆A「ニッサン童話と絵本グランプリ」歴代絵本大賞◆
(出版社は、すべて BL出版 *注:大賞受賞時と題名が換えられている場合がある。)

受賞回  題   名  作 者 名  ストーリー展開型
感   想
 1  ワニくんのおおきなあし  みやざき
 ひろかず
解決型 K
無論、文句など付けられません。爽やかな絵柄、白を基調として、イマジネーションを喚起するストーリー展開。さすがです。
 2  ふたをとったらびんのなか  大西ひろみ 事件
遭遇型
話に破綻なく、最後のサーカスの音楽が…のオチも見事。絵柄のエッチングも魅力的。体験感もあり、これなら僕も描いてみたい。
3   あまのじゃく 青井芳美  図鑑型 A 絵柄・絵肌ともに魅力的。プロ的な完成度の高さがある。が、何度も読みたくなる話ではない。体験共有感に乏しいためだろう。
 4  たんぽぽ  立野恵子 事件型 へぇーと爽やかに感じる絵柄。まるで一編の詩を読んだ後の様。奇を衒わず淡々と述べているけど、視点構成を固定してたんぽぽの雨に繋げている方法は秀逸。
 5 サンタクロースのさいごのプレゼント   鈴木純子 解決型 A 盛りだくさんの内容をスムーズのまとめている。妖精と芋虫の悲しさがあっさり過ぎるので、やや感情移入しにくいかな。 B
 6  いねむりのすきな月  石崎正次 解決型 絵柄はとてもマチエールや色遣いが綺麗で、ヨーロッパ風。ストーリーも発想が独特で叙事的。何度も見返したくなる。
 7  サンタクロースのすてきな道具の絵本  奥井ゆみ子 図鑑型 これもプロのイラストレーターの方の作品。サンタについて考えた図鑑的なもので、特に話がある訳でではない。だが、空想力を充分刺激する。このパターンもいい。 B
 8  ゆめにうかぶしま  光 太 反復型 K 最初の望みが叶うパターンは王道だが、絵柄で魅せる。オチはそれだけかよと突っ込みたくなる。 C
 9  うみからのてがみ  まつかわ
 まきこ
事件
遭遇型
K 失礼ながら評者の下地と上塗りの対比が素晴らしいの評には賛同できない。もっと良いものが美術界には多くある。また人物を造形せず未熟な話の展開では読み手が感情移入しづらく絵本としては大きな欠陥。子どもだまし。
 10  まじょだ!  スエリ・ピニヨ 事件型 色彩とタッチの乱舞。コセコセ構成やら話の展開やらを考えるのが馬鹿に思える作品。非論理的な飛躍ある話がピッタリ来ている。
 11  平原の家から  たかの 
 あつこ
予定型 K ひっかきのマチエールと抽象的で同時混合な色彩のみで魅せるもの。話そのものは全くの予定調和で幼児童話的で未熟な自己完結型。主人公が生きてなく共感不可。 E
 12  ないしょなんだけどね  スオミ セツコ 体験型 話も未熟。絵も雑すぎる。これが無欲で描く強いメッセージとは到底言えない。大胆さと雑なのは紙一重とは言うものの、これは未完成ではないのか。
 13  またふたりで  小林治子 反復型 絵に魅力がある。1枚1場面なのに一つ一つの体験に納得させられる。夢オチなんだが、設定が気にならないファンタジー性がある。 A
 14  リリ はらだ
 ゆうこ 
体験型
体験型の極地。黒犬リリとの触れあいを淡々と描く。言葉を話さないリリの微妙な感情を、デザイン的なタッチ、少ない色数で表現。輪郭線を縁取る淡い色が見事。
 15  この街の夜  上田英津子 叙事詩型 デザイン性、空想性ともに第一級品。ほとんどプロのレベルじゃないかな。語り口は叙事詩的で、特に決まった主人公はないのが、似合っている。 特A
 16  夜風魚の夜 朝倉知子  叙事詩型 絵に広がりがある。作品世界の構築がしっかりと成されていて、見えていない物語を感じさせる。こうありたいものだ。
 17  ゆきおとこのバカンス 白鳥洋一  事件
遭遇型
K 確かに絵に勢いはある。だが、なんか甘い感じがする。もっと煮詰めて欲しい。物語性はさらに?レベル。ええんか、こんなんで!
 18  ミミヨッポ ひろい
 のりこ 
事件
遭遇型
K うさぎの冒険。特にオチはないが納得させられるのは、途中の共有体験が成されるからだろう。 B
 19  しろしろのさんぽ 中新井純子  事件型 K マチエールで魅せるもの。でも、変に子どもに媚びた雑さを感じる。話が思いつきっぽく見えるからかな。
 20  かかしごん なりた
 さとこ 
反復型 K 絵柄はほんと魅力的。相似形の反復はデザイン的に美しい。ストーリー展開に難もつけれるが、それさえ少し工夫すれば完璧。 A
 21  しろいみち 丸岡慎一  事件
遭遇型
魅力的な絵柄はちょっと奈良美智風で現代美術的。評者の言うように主人公があっさりしすぎて共感しにくい。白線を引くという「動的」設定が話を展開させている気がする。 B
22 ハルとカミナリ 千葉三奈子 事件
遭遇型
A 絵柄はマチエールがほんとメルヘン的できれい。でも、ストーリーは夢オチも含めて今一つ物足りない。 C
23 スイカぼうず 富田真矢 反復型 いわゆる下手ウマな絵。この絵の雑駁さを大胆と好意的に取るのは、やはり間違いだと思う。話の展開として、海・山・空の主が次々と気合いでひっくり返るのは、大技な分、なかなか勇気のいることである。だが、それも怖いもの知らずなだけでは、と思わせるのは、絵が雑すぎるからだ。
◇B「ニッサン童話と絵本グランプリ」歴代童話大賞◇
(出版社は第6回以降はすべてBL出版。第2回はひさかたチャイルド。*注:大賞受賞時と題名が換えられている場合がある。未刊行作品もあり。)


回 
題  名 作 者 名  ストーリー展開型
感  想
 1 チラカスぞう 新倉智子 未刊行
 2 まさかのさかな 尾崎美紀 事件
解決型
話の展開が場面割りにリンクしているように感じられた。他の受賞者には一切見られない感覚。見事!でも、話は安直すぎる展開で少し唐突な気がする。新味も欠ける。
へらなかった石けん 中島博男 未刊行
 4 月夜のバス 神田千砂 未刊行
 5 ぞうのかんづめ 張山秀一 未刊行
 6 ともこちゃんの たんじょうび 吉村健二 体験型 A なるほど、なるほどと読んでしまう。それはこちらが主人公にしっかり共感できた証拠。オチは特にないけど、人物造形は見事です。
 7 ワニとごうとう 藤本たか子 体験型 大阪弁が愉快な話。文句なしにユーモアが溢れて面白い。理屈でないワニくんの嘆き・感情表現が共感を呼びます。絵が無くても充分でしょう。オチもいい。
 8 ライオンの考えごと 増本 勲 反復型 絵が雑っぽいからなんとも言いにくいが、話そのものは先が途中までは読めないで、上手く構築されている。知的体験型とすべき。
 9 春のかんむり 門林真由美 事件
解決型
K 童話編だから無関係だが、水彩風の絵が素敵。話は先が見えない展開で、最後の謎解きが上手くオチになっているのは見事。 A
 10 かあさんのひみつ 立花あさこ 事件型 K 母親に焦点と謎を当てつつ、父、私と話をずらしていき、つなげたオチの決め方が上手い。 B
 11 モンジュイックのふくろう さえぐさ ひろこ 解決型 確かに選者の評にあるように共感と、胸キュンなオチがあって、上手い!。童話とはかくあるべきですね。
 12 テムテムとなまえのないウサギ 坂本のこ 事件型 面白い!変に子どもに媚びず優しさの押し売りになっていない。辛口ウサギに現実社会を反映させつつも、テムテム独自の生き方への賛美も行っている。
 13 ば、い、お、り、ん 横田明子 事件
解決型
K 祖父のために急遽、帰国するバイオリニストの青年。彼が病気の祖父に演奏する話。新しさ無し。絵に納得させられるが、だらだらした展開で絵本的な場面転換の抑揚無し。
 14 ポレポレ 西村まり子 体験
解決型
K ピーターの話すスワヒリ語やケニア文化が受け入れられる様子をさらりと描く。ピッタリな絵柄に納得させられるが、メインストーリーは迷子の子を捜し見つける単純なもの。
 15 ぼくも できたよ! 松浦信子 体験
解決型
K 逆上がりを成功させる少年と、不思議なトカゲの生活童話。個性的な色遣いに魅了されるが、展開は月並みで新鮮さ無し。囁くトカゲの設定もファンタジーとしては未構築。
 16 くつが鳴る 手島洋美 体験型 K 足の不自由な女の子が10メートル以上歩くのに挑戦する話。評者の言うように、こうした非ファンタジーも立派な感動を呼ぶ。でも、反面、これはふつうに書くのが難しい。 C
 17 さようなら、ピー太 西村 文 事件
解決型
K 一応、飼っていた雄鶏を田舎の園にこっそり預けるという事件解決型。予定調和的な体験型とすべきかな。オチはオーソドックス過ぎて利かない。
 18 (か)ってなんだ? おの やすこ 体験型 K これも設定がベタでありきたりに感じるのは、こちらの心が汚れているせいか。絵が素敵で爽やかなので、そのベタさが消えている。恥ずかしくて書けないなぁ、この展開は。
 19 ネコひげ アンテナ 屋島みどり
(最優秀賞)
事件
解決型
K 評者の言うようにこの作品単独に留まらない作品世界が感じられる。ストーリー的に破綻無く、ヒゲ=アンテナという【絵本のタネ】が見て取れる佳品。 A
 20 はいけい たべちゃうぞ 福島サトル
(最優秀賞)
事件
解決型
狼とぶたの童話的な予定調和な作品と思わせて、裏をかく意図的な作品。知らず知らず童話に対してステレオタイプな思いこみが自分の中にあることを気づかされる。好い! A
 21 ぼくのスケッチブック 山下奈美 事件
反復型
K 絵の中のものが動くというベタな展開だが、恥ずかしげな感じはない。子どもの共感できる視点があるからか。オチオチもややべた過ぎて、ついていけない気がする。
22 水色の足ひれ 佐藤まどか 体験型 K 話自体はさわやかな展開。でも、オーソドックスで新味なし。オチは見え見えすぎないか。
23 ホタルの川 大槻 瞳 体験型 仲良しの直樹とけんかした慎悟。直樹が冬にホタルを見たと言ったからだが、実はそれが夜光石だとラストで分かり仲直りする。だからどうしたの、と問いたくなる陳腐な展開。
24 春になったらあけてください 増井邦恵 謎かけ
反復型
T
懸賞ママの登場から話が始まる。反復を基本とした予定調和な結果。でも、結局、話らしい話になってない。本当に子どもが読んで面白いと思うか、疑問。頭でっかちな大人の教育臭さがプンプン。 E
25 鉄のキリンの海わたり あさば みゆき 事件
解決型
T 近年のニッサン絵本と童話のグランプリでは、もっともマシな話。オチもよくイメージできて素晴らしい。大人も子どもも楽しめる作品じゃないかな。海を見たら鉄のキリンを探してしまいそうだ。 A
26 トンノの秘密のプレゼント 田中きんぎょ 事件
反復型
T これはまだマシ。『春になったら』とか『あやとユキ』の、おいおいオチどうするねんに較べたら。オチは予測できる三回パターンの王道だけど。やや、教育的すぎる点が疑問。 B
27 あやとユキ いながき ふさこ 事件
反復型
T 生活童話。でも、中途半端に夢みたいなメルヘンを間にいれる。夢オチもどきだ。なんじゃ、こりゃ、最後のラストも首をひねる。これって、お子様ランチと自己満足の独りよがりじゃない? E
【感想】
 絵本編が読了22作品中、「A(凄い!感動)ー9冊。」「Bー6冊」「C(普通)ー2冊」「Dーなし」「E(駄目)ー5冊」。
つまり、感動したもの、舌を巻いたものは41%に過ぎない。まるで駄目が22.7%という結果になる。
 童話編は読了22作品中、「A(凄い!感動)ー7冊。」「Bー4冊」「C(普通)ー2冊」「Dー1冊」「E(駄目)ー8冊」。
こちらは感動が32%で、まるで駄目は36%という結果に。
これって、メジャーな大賞の割に、散々な成績ではないか。僕の評価が生活童話に対して辛口なせいもあるのだけれど、子どもってどこかファンタジーな、非日常的な体験を本の中に求めている訳で、そう間違った評価なつもりは無い。むしろ、子どもだからと馬鹿にしてるんじゃないかとそれらの生活童話に対して思ってしまう。
きっとこれらは対象年齢を小学校低学年にしているんだと無理矢理、納得しておくことにしよう。


◆C「講談社絵本新人賞」歴代絵本大賞◆
(出版社は、すべて BL出版 *注:大賞受賞時と題名が換えられている場合がある。)

受賞回  題   名  作 者 名  ストーリー展開型
感   想
 24 むしゃむしゃ武者 藤川智子 問題
解決型
けんかの国の殿様たちを、武者が全部飲み込んで、最後はおならで出して。改心させるという奇想天外な話。ここまではじけると、少々の絵柄の失敗も許されるから、楽だよね。武者の顔の表情のデフォルメさなど絵本的見せ場もあるし。
25 いいねいいね 高畠那生 問題
反復型
ストーリーは擬人化した犬が、人間の不動産屋と各地を回って、転居先を捜すが、見つからない。やっぱり、元の自分の家がよいと確認するもの。他愛のない陳腐な独り言だ。絵柄が現代美術風で、油彩によるのっぺりとしたイラスト風の色面に筆後をタッチとして残したものだったこと。そこがソフティスケートされた新鮮な印象を審査員は持ったんだろうが、どうも今ひとつこなれてない気がする。ヘタウマ路線への甘えが感じられるな。
 27 おもちのきもち
(新人賞)
かがくいひろし 事件型 もちが足を出して逃げだし、最後は自身を食べながら、ドナツ型に固まるという絵のユーモラスさ、話の展開の奇抜さがミソ。学校の先生で50歳デビューは勇気づけられる。子どもは「食べる」が好きだから、喜ぶだろうな。目指すところではないけど、参考にしよう。
27 くうたん
(佳作)
やぎたみこ 事件
遭遇型
謎の生き物。くうたんの誕生・成長・別れ・再会を描く。ある意味、生活童話で、破綻のない心の交流だけで済む話。くうたんだけがファンタジックで後は日常生活だ。これでは、確かに「おもいのきもち」の破天荒さに負けちゃうよね。その意味で勉強になった。