★ スコットランドの作家たち (Shigeo Kubota) |
かくして九月初旬の二週間にわたる展覧会は予定通り始まり、 精神的にも時間的にも余裕ができたので、エジンバラの街を歩 きまわり見残していた美術館やギャラリーめぐりをした。そんな 頃、タピスリーの作家として草分け的存在であり、当校での織り の中心的な教師であるマリーン・ホッジは、私が晴れて″自由 の身”になるや否や、彼女の友人のフィオナと一緒に車で街の タピスリーに関係した所を次々と連れて行ってくれた。彼女は 金髪で大柄なディナミックな女性で、到着後、何度か顔を合わ しながらも、ゆっくりと話したりする時間がなかった。 |  久保田先生とマリーン・ホッジ |
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★ タピストリー工房 (Shigeo Kubota) |
先ず出かけたのがダプコツト・タピスリー工房で、閑静な住宅地 にあって、一見すると感じのよい住宅の様なt所を入って行くと、 そこは紛れもない織物工房であった。エジンバラ随一ともいえる この工房は、1912年創立でその後1964年に会社組織となり、 マスター・ウィーバー六名を含む20名位のウィーバーが所属して いるようだ。 訪問した時は、当時街の中心に建設中のスコット ランド博物館の為のタピスリーが完成間近で、黙々と数人のウィ ーバーが手を動かしていた。他にも様々なタピスリーが見られ、 タピストリーがこの街に根づき、世界中からの注文に応じて公共 の建築物や有名な会社に納めている事を知り、「手仕事」の健 在が嬉しかった。 |  ダプコツト タピストリースタジオ |
次に9〜10人の個人の工房へ何日かに分けて出かけたが、その内の数名 の作品が印象に残ったので、次に報告する。前述のマリーンさんは、他の ベテランの作家同様自宅に仕事場を持ち、彼女の場合は昔ながらのオモ チャの様な石づくりの家の一室に制作中のタピストリーがかかっていた。 モノトーンで幾何学的なデザインだが、冷たさは無く、むしろ彼女の人柄の 如く力強さの中にあたたかみを感じさせる作品であった。 話はすこしそれるが、私も彼女も織りを教える共通の立場があり、帰国直前 に学生の作品のスライドを見せてもらいながら、繊維以外の素材の使用に よる問題点や、かといって従来の綴織りにいつ迄も留まっていられないという ジレンマについて話し合った。彼女も私も、新しい試みは受け入れるべきだが 現代アートヘの志向が勝ちすぎると素材の必然性が損われ、作品として成り 立たないのではないかと思っている。 私にとってあくまでも「織る」という行為は重要であり、そこからかもし出され る織物ならではの、重厚な質感が大切な要素だと考える。 | 
工房で製作する
ジョー・ベーカー |
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