新作&『萌黄の鳥』抜粋 み〜つけた! 詩のある風景 ≪私の好きな歌人≫ 『萌黄の鳥』 本編
 『萌黄の鳥』 評 『鍵束揺らし』 HOME


新作&『萌黄の鳥』抜粋


09´作品






朽葉色の町(新作)

ぺンシルベニア大通りゆくバラクオバマ背後に神を従え

朽葉色の落ち葉蹴り上げ走り去る集団というはさみし生き物

白き杖がアスファルト打つ音響けり銀鮭が川遡る刻

雪片の舞い散い来る朝のニュ-ヨーク人は人(ひと)魚は魚しか孕めない

派遣労働者切る側と雇う側ジギルとハイドの違いもあらず





08´作品




拒絶からはじまる (08´)

拒絶からはじまる会話ヘリオトロープの花言葉未だ知らず

少しずつ疲労たまりてある朝に積み上げらるる舗道の落ち葉

背表紙が語りかけくる図書館の窓枠に絶えることなし冬の雨

うすずみ色の古木の桜くれないの新芽を持ちて乾く舗道に

不法投棄の監視カメラに映りいて雑木の林飛び立てずいる








鍵束揺らし (新作)


葦原を風の吹き抜く道のあり青年かすかに鍵束ゆらし

湖の岸に小舟一艘隠し持つ青年の鍵ひとつあたらし

パソコンの機能壊れし昼窓を無音に飛び交うキチキチバッタ

南燭の木に百の言葉産み付けてもりあおがえるの百の言葉

深追いは禁物真昼漆喰の壁のひび割れに入りゆく蜥蜴

水深のさだかならざる湖の面を打ちてとびゆく小石のゆくえ







灰色の鳥(07´新作)

アラスカ行き未明の列車に灰色の鳥のかたちの甥を見ませんか

ちりちりと乾きて転がる小クワガタ自然淘汰の始まる八月

純白のクインエリザベス朱色の混じりバラ園の日差し翳り来

未婚率三割とういう未来図描きおりえごの花散る窓辺に

  「死ぬほど退屈です」歌壇の真ん中でつぶやきもらすヘリオトロープ

   花言葉大方知らず勝手に生え勝手に枯れゆく庭の草花

   スローダウンの生き方を模索する温水プールに背遊ばせながら




             bP

「薔薇のロード」(新作)


 高速道ひた走り来たる映画館ダ・ヴィンチコードの謎解きはじまる

 ポッコーン匂う映画館のゲート潜るシルバー割引チケット2枚

 『最後の晩餐』修復の後現わるる主の臨席のマグダラのマリア

 右半身男左半身女とうモナリザに問うてみたし生きるということ
             
  「薔薇のロード」子午線の別名と知る市民図書館人影まばら






マヨルカの冬
 (新作)

土の鍋にふつふつと形崩しゆく冬の波音させて鱶鰭

癌に病む老犬に寄りそい籠る家やさしくなれる冬の短い夜

玩具箱壊すように革命に消されし修道院の廃墟に夏蔦

この村からも自殺者の出でし人も子も犬も従う葬儀の列に

マヨルカの冬のショパンの憂いのごと壁伝い来る雨音激し






萌黄の鳥抜粋


佐々木則子



              bQ
1・2
撮影 日下部朋子


扉ひらき

いちにんを描き終わりて油絵の臭を消すと茶房に来たり

伊勢丹の美術館「駅」にユトリロの一生分のビデオが回る

夕べ遅く石榴の実が割れマンハッタン超高層ビルテロに消さるる

描きたき男のひとりアフガンの地に潜むオサマ・ビンラディン

冬物のセーター捜し靴さがし時の間に過ぎし人を捜せり

沸点をもたぬ男の横顔を夜の茶房のガラスが写す

エスカレーターに迫り上がりくる男の視線をマネキン黙殺せり

その母にに抱かれ眠るみどり児の七人の敵も育ちているか

バジリコの新芽いっきにに生えそろい君への反論考うる夜

木枯らしの夜に帰り来し メドゥサガ言葉払うごと髪解かす


象形文字

迷彩色の紳士用シャツを干し上げしベランダ越しに冬野は乾く

ペガサスが光失う真昼刻吟のスプーンセットを磨く

萌黄色の鳥迷いくるベランダを翔び立たんとす我の利き足

ハングルの文字の満たる住所録 洞窟の中の象形の文字

冬の夜の山羊座の星を共有すケビン・コスナーと日本の私

トルストイ全集売る古書店があからさまとなる裸木の下

窓際のアルペンブルーの鉢植えがこの朝欲す水とドビュッー

モカコーヒー七杯分の代金を卓上に置く昼暗き茶房

代替に失いしもの夜毎木の階をきします家族の「足音」

不定愁訴上昇線をたどりたる真夏の眠りにハッカー許す

深海魚になりそこねたる藍の魚パッチワークに組み込まれゆく

主と従の関係あいまいな雄猫と籐椅子の傷を共有している

大方は山羊座の運勢もちて待つ免許切り替え日の螺旋の階に

鴉よけのグッズ売る店を足早に去りたり捕獲の追手を避けて

青銅の脚長椅子より飛び立ちし鳥の消えたる灰色の空