えらく物々しいタイトルで書き始めましたが、社会的な内容ではありません。きわめて個人的な内容です。あらかじめ。
欧米ではタバコが高いということは、日本でもよく知られるところでしょう。しかし、同じ米国のなかでも、ここニューヨーク市は異常といってもいいほど、タバコが高いのです。なんせ、一般的なタバコが20本入り1箱で約12ドル(円高なのに1,000円程度)もします。ニューヨーク市の川向こうのニュージャージー州ならば、同じものが8ドルくらいで買えて、電車で90分くらいのペンシルバニア州ならば、6ドル程度です。以下は、ニュージャージー州の国道沿いにある万屋さん。ペンシルバニア州の目の前に位置する地域なので、たとえニュージャージー州であっても、タバコの価格はペンシルバニア州なみに安いのです。「タバコを安く手に入れたきゃ、ここまで買いにおいで〜」ってな感じですねぇ。
(2012年2月18日撮影)
かつ、ニューヨーク市を中心としたメトロポリタン通勤圏は、そうでなくても物価が高いうえに、物を買うたびに間接税が倍に上乗せされて、何かと物入りの地域。おまけに、公共の場での喫煙も他の州より厳しく禁じられているので、喫煙者にとってはひどい生活環境であってもおかしくないはず。
では、ニューヨーカーは喫煙率が低いのでしょうか? 結論をいえば、答えは「NO」です。ニューヨーク市保健局によると、2002年に21.5%だった成人喫煙率が、2008年には15.8%になったといいますが、これは諸外国と比べてまだ高い水準です。だいたい、2008年の日本の喫煙率だって、全国平均で21.8%(厚生労働省国民健康栄養調査)。そんなに劇的には違わないでしょう。かつ、私が上でキッパリ「NO」という理由は、「普段は吸わないけど、ときどき吸う」という人があまりに多いこと。そういう人たちは、しかし立派な喫煙者といえるほど、頻繁に吸っているものです。
ニューヨークの街を歩いていると、歩きタバコの率があまりに多いことに驚かされます。正直、喫煙者のひとりとしては、「こりゃあ、いいわい」と思っていたワタクシ。人ごみや子どもの横を通る時はさすがに気を付けていますし、吐き出した煙が誰かの顔を直撃するようなことはないように注意していますが、ちょっと人通りから離れた場所で路上喫煙なんて、あたりまえの日々です。ただ、これがまた新たな問題を生むのです。
「すみません。タバコ、一本もらえませんか?」――こう呼び止められることの、なんと多いこと! ひどい日には、1日で10人以上に話しかけられます。おじさんのこともあれば、若い女性のこともあります。そうです。これこそが、喫煙者統計の穴なのです。統計上は「吸っていない」となっている人でも、「(高いから)自分では買わない」という人がたいへん多いようなのです。代わりに、誰ふりかまわず「もらいタバコ」という輩が、この街にはとてつもなく多いみたいです。
こういう輩に対応するのは、いちいち大変です。いくら仁川国際空港で1箱わずか2ドルで仕入れたタバコであっても、「おっしゃー、もってきな! 喫煙者みな兄弟!」とばかりに、気前よく全員にあげていては、毎日いったい何箱のタバコを消費することになるか。仕方がないので、私は「ゴメン、これしかもって出なかったんで」とか、「俺も人から1本もらったんだよね」なんて嘘をついて、丁重にお断りするようになりました。
しかし、それだけでは淋しい。社会には分かち合いの心がなくちゃ。ましてや、喫煙者として抑圧されている者どうしなんだから、助け合いは必要なのです。そんななか、他の喫煙者たちはどうしているのでしょうか? ひとつの答えが、これ。喫煙者の知り合いから聞いた話なのですが、彼は自分と同じ黒人にしかあげないのだそうです。しかも、バカ高いタバコ税を払うのが負担に感じるくらいの、20代の黒人に限定して、タバコを分けてあげるのだとか。そうやって、タバコを常備している喫煙者が、別々にバラバラの援助対象を設定していれば、世の喫煙者たちはアバウトながら全員うまくいくはず。彼はそう力説していました。これが正しいかはともかく、私も彼に従うことにしました。私が設定した援助対象は、東アジア系のおじさんたち。
ええ、はっきりいって、人種差別です! でも、これはそれほど悪い人種差別でもないと、私は思うのです!
はてさて、こう決めたまではよかったものの、今日ちょっと困ったことも。いつも同じ場所で同じ時間に路上喫煙をしていたら、けっきょく自分がタバコを分けてあげる相手は毎日同じであることに、ふと気づいたのです。今日気になったのは、50歳くらいの、華北系チャイニーズないしコリアンのおじさん。ブルー・ワーカー丸出しの格好に、すこし疲れた表情。それなのに、とても品のある英語。そのギャップから、一発で顔を覚えてしまいました。この人、なぜだか、いっつも会ってしまうんですよねぇ。私がフィールドノートを付け終えて一服しに外へ出る夕方の時間に、一日の労働を終えてこの前を通るからなのでしょうか。いつも私は「Sure」といって、自分のタバコをあげます。でも、「これから毎日、俺から1本ずつもらう気?」と、内心モヤモヤしてもいます。
とりあえず、今度彼がエクスキューズしてきたら、先にタバコを取り出して「これでしょ?」っていってみようと思います。「この時間に毎日お仕事が終わるんですね。ちょっとお話しても……?」って、喫煙仲間にしてしまおう、と。喫煙者でよかったと思うことは、喫煙者どうしすぐにお友達になれることなのですから。