Duchamp Code
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マルセル・デュシャン

 
デュシャン と 『荘子』

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石川虚舟 2011
 
デュシャン・コード
 
 

マルセル・デュシャン 《 TRÉBUCHET 》 1917
 
trébuchet 
(小鳥を捕らえる)罠;精巧な秤;城壁破壊用の投石機械
trébucher 
つまずかせる;(理性などを)衰退させる
 
有機械者、心有機事、有機事者、必有機心、
機械ある者は、必ず機事あり。
機事ある者は、必ず機心あり。
『荘子』天地篇
 
Where there are ingenius contrivances,
there are sure to be subtle doings,
and where there are subtle doings,
there are sure to be a scheming mind.
James Legge, The Texts of Taoism, Part I, p.320
 
《機械》 仕掛け、《機事》 たくらみ、《機心》 たくらむ心
 
 
『わらの犬』(サム・ペキンサー監督、ダスティ・ホフマン主演、1971)は、 泥沼化したベトナム戦争末期に制作された映画作品。 戦場には多くの罠が仕掛けられたが、その映画にも巨大な鉄製の「罠」が登場する。
 タイトルの「わらの犬」は、「しめ縄」の如く、『老子』に「神事に使用した後は 捨てられるもの」とある。ベトナム戦争に従軍する兵士のアレゴリーなのであろう。 「わらの犬」の映像はポスターに使用されたが、映画には登場しない。
 舞台は、イギリスの平和な片田舎。そこへアメリカから若い夫婦がやってくる。 夫は、争いや暴力を嫌う宇宙物理学者。彼はキリスト教は戦争を度々主導してきたと、 田舎牧師にいやみを言う。牧師は放射線は恐ろしいと反論する。 素朴なベトナムの民衆生活とアメリカの近代的な都市生活との対比のアナロジー。
 映画の冒頭で、地元出身の妻は夫へのプレゼントとして、 古い鉄製の巨大な「罠」を買う。彼女は主人の科学的理性一辺倒の生活に不満気である。 この「罠」はデュシャンの《罠》をヒントにしているのであろう。 というのは主人公と地元民の一人が、石に躓くシーンがある。
 主人公と地元民は、そのシーンから理性を見失い、 後は残虐シーンに至る。 つまり「罠」は、『荘子』の「機心」のアレゴリー。 ただ、デュシャンが訪問客を躓かせるために、その作品を床に釘付けにしたのは、 近代的理性一辺倒を衰退させようという意図だけのはずなのだが・・・。