生物群集・・・生物間の相互作用
ニッチ :棲み分け、競争排除、食い分け
遷移 :一次遷移、二次遷移
食物連鎖(食物網)
生物群集とは、一定区域に生息する、生物種をまとめて考えたものです。
そこには、生物間や環境との複雑な相互作用があります。
相互作用には、食物連鎖等があります。
尚、捕食者と被食者の増減関係をモデル化した、ロトカ=ヴォルテラの方程式というものもあります。
生物群集は、不変ではなく、非周期的に変化しています(遷移)。
多種共存を説明する説には、ニッチ分化説や、非平衡共存説があります(理系総合のための生命科学P.239-)。
ある区域には、動物、植物、菌類等、極めて多様な生物が含まれます。
一定区域に生息する、生物種をまとめて考えたものを、生物群集といいます。
群集がどのような種から構成されているかは、群集の重要な特徴であり、種組成といいます。
生物の生活を考えた場合、
植物群落が、他の生物にも影響が大きいので、まず植物群落の類型から、環境を考えることが多いようです。
群集を構成する生物種間には、競争、捕食・被食(食う・食われる)、寄生、共生等、様々な関係があります。
植物の場合、光と水という共通の資源を求めるので、競争関係にある、とされます。
捕食・被食の関係を取り出すと、群集の中に一列の鎖状関係(食物連鎖)がみられます。
一般に、食う側の方が、食われる側よりも大きいです。
群集内での役回りを、生態的地位といいます。
生態的地位がほぼ等しいものをまとめて、生産者、数段階の消費者、分解者に分けると、
これらの間を、様々な物質循環と、エネルギーの流れがあります。
生産者、各段階の消費者の間では、
エネルギーの流れが一方的で、段階が上がるとエネルギー消費が大きくなります。
そのため、食物連鎖の上になるほど個体数が少なくなり、ピラミッド型になります(生態ピラミッド)。
安定した群集では、種組成が長期にわたって変わらない、と考えられます。
一方、変化し続ける群集もあります。
急激な変化を受けた立地では、生物群集は時間とともに大きく変化します。
群集の変化には、一定の型があり、これを遷移といいます。
ニッチ(生態的地位)
ニッチとは、1つの種が利用する、まとまった範囲の環境要因のことです。
生物群集に含まれる生物が、適応した特有の資源利用パターンによる役回りを、生態的地位といいます。
地球上の様々な場所に、生物が生息できる環境があり、食物連鎖や、エネルギーの流れがあります。
気候や地域が異なれば、生態系を構成する、個々の生物種は異なりますが、同じような図式を描くことができます。
同じようなニッチを占める2種が、少し場所をずらすことで共存する場合があります。
活動範囲を分けることで2種が共存することを、棲み分けといいます。
非競争的棲み分けだけではなく、
明示的な競争・競争排除・棲み分けがありえる中で、生物のニッチ分化を考察したのが、棲み分け理論(今西)です。
自然科学の立場からは、2種が競争関係にあるとみなし、
それぞれの種には、最適環境や様々な耐性に差がある事から、説明を行うようです。
棲み分け現象には、
最初から競争・非競争的な種間関係両方がありえる、
競争関係から進化的に様々なバリエーションが派生した、等の見方があります。
共存している2種は、環境に対する要求に何らかの差を持っていると考えられます。
同じ資源(餌や営巣のための場所等)を必要とする生物同士は、
1つの場所に長期間にわたって共存することはできないとされます。
1つのニッチを、複数の種が共有できないため、
その環境に、より適応した種が生存し、環境への適応という点で劣る種は排除されていきます。
この過程または現象を、競争排除といい、
競争排除が起こるメカニズムのことを、競争排除則(ガウゼの法則)といいます。
帰化生物が進入した場合等でみられます。
競争の結果、餌の食い分けや棲み分けが起こって両者の共存(ニッチ分化)が可能になることもあります。
また、共通の餌を、昼と夜で食い分けることによって、共存を実現するという、
時間的なニッチで、棲み分けを行うものもあります。
よく似た餌を求めながら、食物選択や採食法の差のある種が共存することを、食い分けといいます。
ただし、空間を区分して使う棲み分け、別の食物を選ぶ食い分けと、
時間を区分する棲み分けや、異なる採食法を使う食い分けは、
全く異なる意味を持ちます。
前者は、資源そのものを区分し、使い分けるため、それがうまく行けば、その後は競争が生じません。
しかし、後者の場合、求める資源は全く同じであるため、違った理由によると考えられます。
ある環境条件下での生物群集の、非周期的な変化です。
特に、植物群集の遷移が有名です。
ほとんどすべての生物種は、互いに直接または間接に関係を持っています。
帰化生物のような、なじみのない侵入者の出現や、
大型捕食動物のような、影響の大きい種の欠損が起こると、
群集が大きくバランスを崩す場合があります。
植物群落を中心とした遷移(植生遷移)
植物が土地で生育することによる、環境形成作用が主な原因となり、
時とともに場所の環境が変化して行く現象を、植生遷移といいます。
陸上で進行する植生遷移を、乾性遷移、
水圏で進行する植生遷移を、湿性遷移、ともいいます。
一般的に、遷移の初期段階では、木本は土地に侵入しにくいですが、
窒素固定能力の木本(オオバヤシャブシ等)は、貧栄養地でも育成可能であるため、
遷移の初期段階から侵入してくることもあります。
遷移の進むスピードは、構成種や生物群の成長速度、気候や土壌等様々な条件に左右されるため、
非周期的な進行である事が多いです。
基質に全く生物を含まない所から始まる遷移ですが、現在の地球ではまれです。
岩盤のくぼみや裂け目等に形成された土壌の有無が、一次遷移と二次遷移の最大の違いです。
土壌のない所は保水力がないため、植物は生育できません。
そのため、土壌の形成が、最初の大きな変化です。
次に、コケ類や地衣類の胞子が、
風雨によって運ばれ、岩のくぼみ等に生育します。
やがて、風や雨によって岩の表面は風化して砂れきが生じ、
また、苔や地衣類の生育による有機物の蓄積により、少しずつ土壌が成熟されます。
土壌には、土壌動物や土壌微生物も出現します。
土壌が蓄積すれば、草本が侵入することができるようになります。
当初は一年性草本が中心になりますが、
年を追って多年性草本が増加し、次第に背の高い草原となります。
草の根は苔より深くまで侵入し、砂れきと土壌の層は厚くなります。
土壌中には、ミミズ等大型の土壌動物も姿を見せ、
陸上には、昆虫や鳥も侵入します。
やがて、木本の侵入が始まります。
最初に低木林が形成されます。
シラカンバやマツ等の陽樹が優勢の、陽樹林が形成されます。
尚、この段階でも、陰樹の侵入も起こりますが、
陽樹には最大光合成量が高いものが多く、比較的成長も早いために、陽樹が優勢となりやすいです。
陽樹が成長してくると、
その下は、次第に日陰になるので、草原の植物は衰退し、
代わりに日陰であっても成長可能な植物が侵入します。
樹木は草本よりも深く根を下ろし、土壌層は更に厚くなります。
土壌にも陸上にも、動物相はさらに豊富になります。
森林ができると、その内部は湿度が高く、林床の照度は低くなります。
こうなると、陽樹の苗木が生育しにくくなります。
その代わり、暗い林床でも成長できる種類の樹木(陰樹)が出てきます。
陰樹が成長し、
森林を構成する樹木になると、しばらくは陽樹と陰樹が交じった森林になりますが、
陽樹は追加されにくいため、次第に陰樹林となります。
陰樹林内でも陰樹は生育できるので、見かけ上はこの形の森林がこれより変わることはなくなります。
この状態を極相(クライマックス)といいます。
土壌層は豊かになり、地上には森林性の草本が次第に生えるようになります。
極相林になれば、
その後は外見上の大きな変化は少ないですが、部分的には常に変化が起こっています。
原生林と呼ばれるのは、何百年も森林であったような森です。
まず土壌がすでに存在すること、
そして基質である土壌に若干の生物、
例えば土壌中の種子(埋土種子集団)・地下茎・土壌動物等を含む場所から始まる遷移です。
現場に植生はなくとも、
土壌があり、
土壌中に種子や動植物の死骸等の有機物がある等、草本が生育する条件は整っています。
したがって、すぐに草本が侵入し、そこから遷移が始まります。
数年で多年生草本が繁茂し、
すぐに陽樹の侵入も始まります。
その後、ほぼ一次遷移と同じ経過をたどります。
生物群集内での捕食・被食(食う・食われる)の関係でみられる、一列の鎖状関係です。
現実には、複数種を食べる動物は珍しくなく、
また、複数種に食べられることもあり得ます。
そのため、捕食・被食の関係が入り乱れた、複雑な網目になります(食物網)。
食物網では、古典的食物連鎖(生態ピラミッド)と異なり、連鎖の段階は錯綜し、段階数も非常に数が多くなります。
そのため、現在の群集生態学では、食物網としての概念の方が、現実的なものとされます。
生物の栄養供給の形は、捕食・被食の関係以外にも、様々なものがあります。
寄生者と宿主の関係を、
寄生者が宿主から栄養をとっているとみれば、寄生関係による食物連鎖が考えられます。
寄生者は宿主より小さいのが普通なので、段階を追うごとに小さくなります。
寄生食物連鎖は、通常の食物連鎖ほど段階が多くならないのが普通です。
腐食連鎖(デトライタス・サイクル)
特に地上の生態系では、
植物の生産物は、生きた状態では使用されず、落葉や枯木となった後で利用される率が非常に高いです。
この場合、落葉や枯木は、直接に動物に食べられるのではなく、
菌類や細菌の分解を受けたものが餌となっています。
これをスタートに、通常の食物連鎖へつながっていきます。
また、ループ状のサイクルによって、主成分であるセルロースやリグニンが分解されていく過程も重要です。
これらを腐食連鎖と呼び、
生きている植物を食べることから始まる食物連鎖、
即ち生食連鎖(グレイジング・サイクル)とともに、食物連鎖を形成しています。
腐食連鎖は、水中生態系でも、植物遺体が大量に流れ込む干潟等において、重要な役割を果たしています。
陸上と水中の生態系の関係
海鳥の糞に由来するグアノは、昔から肥料として使われてきました。
海岸の魚つき林に由来する有機物は、沿岸部の生態系を豊かにします。
これらは生物間のつながりと同時に、エネルギーや炭素、窒素、リン等の物質のつながりでもあります。
物質やエネルギーが順に受け渡される様から、連鎖と表現されます。
栄養段階
食物連鎖では、すべての生物のエネルギーは、元をたどると光合成に依存しています(深海生物等、例外もあります)。
植物の光合成量を、生産量といいます。
そして、光合成するもの、それを食うもの、更にそれを食うもの、といった段階があります。
これを栄養段階といいます。
生産者、数段階の消費者、分解者という3つで構成されます。
生産者
植物は、光合成を行い、デンプンや糖を作ります。
更に、窒素や各種ミネラルを組み合わせて、タンパク質や脂肪等を作り出します。
消費者
植物(生産者)を餌にする草食動物が第一次消費者で、
草食動物を食べる肉食動物が第二次消費者です。
以後、第三次、第四次・・・となりますが、
第三次消費者が、第一次消費者を捕食することも起こり得ますし、
雑食の動物もいるので、消費者間の捕食・被食の関係は、とても複雑です。
一般に、高次の消費者ほど、個体数が少ないです。
分解者
生物の死骸やフン等は、更に他の動物に食べられたり、細菌、菌類等の働きによって分解されたりします。
生物を構成していた有機物は、無機物と水と二酸化炭素まで分解され、
再び生産者に利用されるまで、自然の中を循環します。
捕食者と被食者の増減関係をモデル化し、その増殖速度を表現した、非線形微分方程式です。
1. dx / dt = x ( α – β y )
2. dy / dt = -y ( γ – δ x )
ここで x は被食者の個体数、 y は捕食者の個体数、t は時間を表し、
α, β, γ, δ は、正の実数のパラメーターです。
1. 式の、dx / dt = αx – βx y は、被食者の増殖速度を表します。
ここでは、被食者にとって、餌は十分あると仮定します。
右辺第一項は、被食者が自然増によって、その個体数に比例して増加することを表しています。
α は、増加に関するパラメーターです。
右辺第二項は、被食者が捕食されることによって、自身の個体数と捕食者の個体数に比例して減少することを表しています。
βは、減少に関するパラメーターです。
2. 式の、dy / dt =δx y –γyは、捕食者の増殖速度を表します。
ここでは、捕食者にとって、餌は限られた量しかないと仮定します。
右辺第一項は、捕食者が捕食によって、自身の個体数と被食者の個体数に比例して増加することを表しています。
δは、増加に関するパラメーターです。
右辺第二項は、捕食者が自然減によって、その個体数に比例して減少することを表しています。
γは、減少に関するパラメーターです。
固定点(写像によって、自分自身に写される点)は、次の二点です。
( x = 0 , y = 0 )
( x = γ / δ, y = α / β )
一つ目の固定点は、どちらの生物も存在しない状態で、意味がありません。
二つ目の固定点は、平衡状態(平衡点)を表しており、
どちらの生物も、個体数の増加速度と、減少速度が同じ状態です。
3種以上の個体群に対しても、一般化できますが、
3種の個体群の場合でさえ、カオス的運動が出現するため、長期間の予測は不可能です。