2002年12月26日、神戸地方裁判所第4民事部は、本四海峡バス不当労働行為事件についての兵庫地労委命令(2001年8月21日付)の取消しを求める行政訴訟(原告:全港湾神戸支部、被告:兵庫県地方労働委員会)について、判決を言い渡しました。
1.判決の要旨
この行政訴訟の争点は3点にわたりますが、なかでも最も重大な争点は、この会社において全日海の「使用者性」が認められるか否か、ひいては、全港湾の分会が結成されて以降、会社が一貫して団体交渉を拒否してきた経過に関し、全日本海員組合はこの不当労働行為の当事者であるか否かという点にありました。同判決は、その「判断」において、全日本海員組合は「会社設立の経緯においても、人的、物的、資本的関係においても、さらには、現実の労務管理の面においても、実質的に会社を管理又は支配しているものと認められ」「雇用主ではないが、補助参加人会社(本四海峡バス)に対する実質的な影響力及び支配力にかんがみると、労組法7条の『使用者』にあたると解するのが相当」との明確な判断を下した上で、その主文において、2001年8月21日付兵庫地労委命令のうち「主文4項(被申立人全日本海員組合に対する申し立てを却下する)を取り消す」と判示しました。
2.行政訴訟の経過 兵庫地労委命令(2001年8月21日付)
上記の「主文4項を取り消す」ということの意味について、補足説明します。
- 全港湾神戸支部は、本四海峡バス株式会社による団体交渉拒否について、不当労働行為として兵庫地労委に「救済」を申し立てました(2000年10月13日、平成12年(不)第15号事件)。3度目の不当労働行為救済申立てでした。
全港湾側が求めた「救済の内容」第1項は以下のとおりです。
- 被申立人本四海峡バス株式会社および全日本海員組合は、申立人組合及び同組合本四海峡バス分会が2000年7月31日付で申し入れた「団体交渉開催の申し入れ」について、誠意を持って団体交渉に応じなければならない。
つまり、今回の救済申立てにおいては、会社に加え、全日海に対しても団体交渉当事者として団交受諾の命令を求めました。この時点で、すでに全日海による会社管理・支配体制が確立していたからです。
- ところが、この事件についての兵庫地労委命令は、会社に対しては団交応諾を命じましたが、上記の点については以下のとおり却下しました(2001年8月21日付)。
[主 文]
- 申立人の被申立人全日本海員組合に対する申し立てを却下する。
兵庫地労委の命令は、その「理由」において「海員組合が単に会社の筆頭株主としてだけでなく、会社の経営面に対してかなりの影響力を有していることは否定できない」としながら、他方で「海員組合が会社従業員の労働時間や賃金等の労働条件を決定し、日常の業務運営上の指揮命令についても現実的かつ具体的に従業員を支配していると認めるに足りる疎明はない」として、全日海の「使用者性」を否定しました。
- これに対して、全港湾神戸支部は、兵庫地労委命令の上記の部分などの取り消しを求めて、神戸地裁に対して行政訴訟を提起しました。
この訴訟について今回の判決が言い渡されたもので、その主文1項は次のとおりです。
[主文]
- 被告(兵庫地労委)が兵庫県地労委平成12年(不)第15号事件について2001年8月21日付で発した命令のうち、主文4項を取り消す。
3.全日海の「使用者性」の判断は明快
今回の判決における「争点に対する判断」は極めて明快です。
神戸地裁は、詳細な事実認定にもとづいて、全日海の「使用者性」について以下の点を指摘しました。
- 全日海は、会社の設立や運送事業免許取得に協力するなど、会社設立当初から会社と密接な関係にある点
- 会社の労務管理を掌握するために、全日海の元役員であった井出および井上を会社に送り込んだこと
- 平成12年には、会社の過半数の株式を所有して筆頭株主となったこと
- 同株式に基づいて、全日海関西地方支部長代行であった坪根を代表取締役専務に就任させ、上記井出および井上を常務取締役に就任させたこと
- 従業員の採用という労務管理上の重要事項について、会社に対して諾否の自由を有していること
- 全港湾の組合員に対して、会社と一体となって全日海への復帰工作を行い、応じない者に対しては会社が不利益取扱いを行ったこと
- 全日海が所有するビル内に会社の本社事務所が存すること
- 全日海から派遣された井上や坪根らが、全日海による会社の管理または支配を容認する趣旨の発言を繰り返していること
- 会社じたいも同趣旨の文書を配布していること
これらに基づいて、神戸地裁判決は、「補助参加人組合(全日海)は、会社設立の経緯においても、人的、物的、資本的関係においても、さらには、現実の労務管理の面においても、実質的に会社を管理又は支配しているものと認められ、かつ、それがため、原告(全港湾)からの本件団体交渉の申し入れに関しても補助参加人会社(本四海峡バス)独自では十分な対応ができないでいる」「そうすると、補助参加人組合(全日海)は、雇用主ではないが、補助参加人会社(本四海峡バス)に対する実質的な影響力及び支配力にかんがみると、労組法7条の『使用者』にあたると解するのが相当」との明快な判断を下し、「被告(兵庫地労委)が、その使用者性を認めず、補助参加人組合(全日海)に対する各救済申立を却下したのは、労組法7条の解釈を誤ったものであり、違法である」と判示しました。
4.神戸地裁判決は画期的 神戸地裁判決(2002年12月26日付)
兵庫地労委によると、同地労委の命令が行政訴訟によって覆ったのは40年ぶりとのことです。また、本件のように、労働組合が会社を管理・支配しているとしてその労働組合の「使用者性」が認定された初の判例であるようで、まさに画期的な判決です。
この判決は、現行の労働組合法の下では、労働組合というのは保護される存在であって、その使用者性が認定されるなど一般的にはあり得ないことであるとしても、労働組合がここまでやれば「使用者」と見なされ、不当労働行為の当事者とされるという警告に他なりません。
また、今回の判決は、本四海峡バス事件の異様さを浮き彫りにするとともに、全日本海員組合がこの争議の元凶であり、争議解決のカギを握っているとの司法判断が下されたことを示しています。
5.大阪高裁判決も原審を全面支持 大阪高裁判決(2003年12月24日付)
控訴審判決は、控訴人等(兵庫地労委、海員組合、本四海峡バス(株))の主張をすべて斥けたうえで、原審神戸地裁判決を全面的に支持した判決を下しました。
さらに、企業と労働組合の関係について
「54.93%を保有する筆頭株主となってからは、対立的立場にあるということはできない」と指弾し、本四海峡バス株式会社における海員組合の労働組合性を否定した内容となっています。