この裁判は、兵庫県地労委の救済命令(2001年8月21日付)において、海員組合に対する申立を却下した部分の取消しを求めた行政命令取消訴訟の控訴審判決です。
【行政命令取消訴訟】
全港湾神戸支部は、本四海峡バス(株)による団体交渉拒否について、不当労働行為として2000年10月13日に兵庫県地労委に3度目の「救済」を申し立てました。救済内容の第1項は次のとおりです。
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被申立人本四海峡バス株式会社および全日本海員組合は、申立人組合及び同組合本四海峡バス分会が2000年7月31日付で申し入れた「団体交渉開催の申し入れ」について、誠意を持って団体交渉に応じなければならない。 | ![]() |
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これは、発行株式の55%を所有する筆頭株主である海員組合が、事実上、会社を管理・支配しているとして、会社に加え海員組合に対しても団交受諾の命令を求めたものでした。ところが兵庫県地労委は、会社に対しては団交応諾命令を下しましたが、海員組合に対しては「海員組合が単に会社の筆頭株主としてだけではなく、会社の経営面に対してかなりの影響力を有していることは否定できない」としながらも、「海員組合が会社従業員の労働時間や賃金等の労働条件を決定し、日常の業務運営上の指揮命令についても現実的かつ具体的に従業員を支配していると認めるに足りる疎明はない」として、海員組合の「使用者性」を否定し、海員組合に対する申し立てを却下しました。
全港湾神戸支部は、この命令の却下部分について取消しを求め2001年11月22日、神戸地裁に行政命令取消訴訟を起こしました。この行政訴訟の最大の争点は、本四海峡バス(株)において海員組合の「使用者性」が認められるか否か、ひいては、全港湾の分会が結成されて以降、会社が一貫して団体交渉を拒否してきた経過に関し、海員組合はこの不当労働行為の当事者であるか否かという点にありました。
同判決(詳細:かけはし24号)は、その「判断」において、全日本海員組合は「会社設立の経緯においても、人的、物的、資本的関係においても、さらには、現実の労務管理の面においても、実質的に会社を管理又は支配しているものと認められ」「雇用主ではないが、補助参加人会社(本四海峡バス)に対する実質的な影響力及び支配力にかんがみると、労組法7条の『使用者』にあたると解するのが相当」との明確な判断を下した上で、その主文において、2001年8月21日付兵庫県地労委命令のうち「主文4項『被申立人全日本海員組合に対する申し立てを却下する』を取り消す」と判示しました。
兵庫県地労委と海員組合及び会社側は、この神戸地裁判決を不服として大阪高裁へ控訴しました。2003年12月26日大阪高裁は、兵庫県地労委や海員組合及び会社の主張をすべて斥け、さらに、会社と労働組合という関係について、海員組合が「54.93%を保有する筆頭株主となってからは、対立的立場にあるということはできない」とし、「原判決(神戸地裁判決)は相当であり、本件控訴は理由がないから主文のとおり判決する」と、神戸地裁判決を全面的に支持する判決を言い渡しました。
この大阪高裁判決は、最高裁へ上告しても不当解雇・団交地位確認、不当懲戒処分事件などと同様に、上告不受理の棄却を待つだけであろうことは明らかであり、事実上の確定判決です。数多くある御用労組との闘いなど、労働運動の歴史において、労働組合が企業の「使用者」の認定を受け、不当労働行為の当事者となった事例は初めてです。現行の労働組合法の下では、労働組合というのは保護される存在であって、その使用者性が認定されるなど一般的にはあり得ないことであるとしても、ここまでやれば「使用者」と見なされ、不当労働行為の当事者とされるという警告に他なりません。
また、今回の判決は、本四海峡バス事件の異様さを浮き彫りにするとともに、全日本海員組合がこの争議の元凶であり、争議解決のカギを握っているとの司法判断が下されたことを示しています。全日本海員組合は、正義と労働組合としての社会的責務において英断が迫られています。
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主 文 T. 中労委平成13年(不再)第59号事件に係る初審命令主文第4項を次のとおり改める。
U. その余の再審査申立を棄却する。 |
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平成 年 月 日 全日本港湾労働組合関西地方神戸支部 支部執行委員長 馬 越 輝 光 殿 本四海峡バス株式会社 代表取締役社長 川 真 田 常 男 当社が、洲本営業所において、全日本海員組合に対し組合事務所を貸与していた期間、貴組合から申し入れのあった組合事務所の貸与を拒否したことは、中央労働委員会によって、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。今後このような行為を繰り返さないようにいたします。 |
2003年9月17日付で中央労働委員会は、会社側の再審査申立を全面的に棄却する上記命令を下した。
この事件は、会社に対する第2の団体交渉拒否と、「筆頭株主である海員組合は使用者にあたり団体交渉の拒否は不当である」として、会社と海員組合に対する団交応諾命令などを求め兵庫地労委へ申し立てた事件と、会社が2000年5月に近藤・古川両運転士に科した2度におよぶ懲戒処分(出勤停止)及び古川運転士への転勤命令(徳島〜洲本)、さらに全港湾への組合事務所の貸与拒否、新路線乗務差別、個人面談など、一連の会社行為が全港湾神戸支部への支配介入にあたる不当労働行為であるとして、兵庫地労委に救済を求めた二つの事件である。会社側は、この両事件の兵庫地労委命令において、海員組合に対する申立てを除き、全港湾側の主張を全面的に認めた救済命令を不服として、中労委に再審査の申し立てをおこなっていました。その両方が併合審理となっていた事件の命令である。
中央労働委員会判断
1.近藤・古川両運転士への各懲戒処分について
本件各懲戒処分はいずれもその処分の相当性を欠いていること、いったんは全港湾神戸支部を脱退する意思を表明した古川及び近藤が、最終的に全港湾神戸支部に留まる旨表明してから間もないころに行われたものであること、しかも、古川及び近藤が同時に懲戒処分に付されたことを併せ考えるならば、本件懲戒処分は、古川及び近藤が一度は全港湾神戸支部を脱退する意思を表明しながら、その意思表示を撤回して全港湾神戸支部に留まったことに対する報復としてなされた不利益取扱いであるとともに、全港湾神戸支部の影響力を排除する目的で実行された支配介入であって、いずれも労働組合法第7条1号及び第3号に該当する不当労働行為であるとした初審判決は相当である。