世の中にネットというのが浸透したのはいつからだろうか。
 老若男女、人を選ばない、その世界のつながりを持つ空間は、やがて人々には無くてはならない存在になった。
 その進化し続けるネット空間に革命を起こしたMMORPGがある。

 『The world which a wind blows -風の吹く世界-』

 その画期的なゲームは今までのキーボード、マウスを使ったものとは違い、プレーヤーは専用の機器を使い、「意識ごと」ネットに入り込むというものであった。
 膨大な転送量が必須なこのシステムは当初無謀だとののしられていたが、開発元でありネットの全権を握る星宮グループによりそれは可能になった。
 2031年、オープンβ版から正式版へとバージョンアップし、一気にプレイヤー数は増えそれはにぎわいを増した。
 しかし増えゆくプレイヤーに比例するように、当然非常識なものも増えてゆく。
 マスター側はプレイヤーの幅を高校生以上とし、それに身分証明を加えることにした。
 さて、それではその世界を体験して頂こう。
 現実世界では体験できない、その世界を。

−ログイン−

 無機質な音が頭に響く。
 転送された場所は周りに何も無い空間。
 ふわふわ浮いているような感じで、どこか頼りない。
 右手をギュッと握ってみても感触はない。
 死んで幽体になるっていうのはこういうものなのだろうか。
 ……ブゥゥゥン
 前方からノイズの様な音がして、そこに椅子に座った女性が現れる。
 「初めまして、私このワールドの受付の担当者です。
 まずは最初に提示された身分証明のチェックをさせて頂きます。

 黒木昴・♂・16・星光高校一年 登録ID スバル

 よろしいですか?」

 「OK」
 肯定の意味のそれを言うと俺の体は光で包まれた。
 やがて夢に落ちるような全てが無になる衝動が俺を襲う。
 「Good trip!」
 最後には、そんな言葉が聞こえた。



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