浅井整骨院 併設 あさいはり治療所  〒581-0084 八尾市植松町6-4-8 TEL072-922-3367

(9)記憶研究


     9.1) エビングハウスとその時代的背景
 エビングハウス(Hermann Ebbinghaus;1850-1909)の生まれた1850年は、心理学の歴史らみると、英国を中心として17世紀のロックやバークリーに始まり、ヒューム、ハートリーミル親子、ベインに至る経験主義哲学と、その基盤の上に立って構築された連合主義心理学ようやく進化論の影響を受けて意識主義的な傾向を脱却しようとしていた時代であり、一方ドイツではカントの理性主義の流れをくむヘルバルトが表象の動きに数学を適用して表象力を立てた時期(1824)であった。
 そしてフェヒナーやヘルムホルツのような物理学者が心理学の問題領域に自然科学の方法適用して実質的な研究成果をあげ始めていた時代であり、とくにフェヒナーは「精神物理学(1860)を確立して物理学的方法で心が研究できることを明らかにした時代であった。
           
 このような実験科学としての心理学がようやく可能となりつつあった時代に、これらの英経験主義やフェヒナーの精神物理学に影響されてエビングハウスは記憶についての独創的な究を初めて行い、その後の心理学の発展に重要な貢献をした。
           
     9.2)エビングハウスの記憶研究の方法
無意味綴り*を数項目集めた系列リストを完全に暗唱し、一定時間の経過後にそれを再び暗するという課題
           
           無意味綴りは子音―母音一子音から成る1音節。母音は11個、子音は19個。
           
@それらのカードを混ぜ合わせて、その中からいくつかをランダムに抽出して系列のリスト 作成した。
Aそれをメトロノームかストップウオッチに合わせて、毎分150のテンポ(無意味綴り1個 たり0.4秒になる)で3項目または4項目ごとにアクセントをつけて声に出して読み上げ カードを見なくても誤りなく言えるまで反復し、完全に暗唱できるまでの回数と時間とを 録した。
B1つの系列リストを完全に暗唱できると、15秒おいて、また、同し条件をもつ別の系列 ストの暗唱を行った。
            たとえば第1実験では16項目の長さの系列リストを次々と全部で168も暗唱している。
使用した無意味綴りは2688個(反復を除いて)、全部で3.8時間かかった。こうして系列とては短いもので10項目、長いもので36項目まで7種類、暗唱に要した時間は短いもので第1実験の2.3時間、長いものは第10実験の245.2時間となっている。
           
     9.3)エビングハウスの記憶研究の特徴
1.初めの暗唱(あるいは学習)に必要な試行回数と、一定時間の経過後に行った再学習で同じ  基準に到達するのに必要な試行回数との差に基づいて学習の節約率を計算し、それを忘却              の指標とした。
           
 まず第1の学習節約法は、原学習の所用時間Lと再学習の所用時間WLとの差Δを原学の所用時間Lで割ったQ%で表している。
           
             (L−WL)100
           Q=                                 L
           
この節約率を用いて記憶の忘却過程を表現できると考えて、図に表したのが、有名なエビンハウスの忘却曲線である
※これをエビングハウス自身は忘却曲線とは名付けていないが、「連合の衰退」がみられるしているところなど、やはり連合主義心理学の流れの中にあることがうかがえる。
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           2.その指標によって記憶してから時間が経過するほど忘却が起こることを明らかにした
           3.記憶材料として無意味綴りを発明して用いた。
           4.個々の項目ではなく、項目の集まりである系列を記憶目標の単位とした。
5.いろいろな長さの系列を記憶するときに、長いものほど記憶か困難であることを明らかに              した。
6.元の系列を再学習したときに、そのままの形ではなく、組替え系列を作成し、いわゆる遠              隔連合が形成されていることを初めて明らかにした。
7.疲労が記憶に及ぼす影響を初めて明らかにし、午前10-11時のはうが午後6−8時の成績              よりもよいことを明らかにした。
           8.休憩をいれた分散試行と集中試行とを初めて比較した。
           9.系列の初頭効果と新近性効果を発見した。
           10.記憶範囲を初めて測定したこと。
           11.過剰学習の効果を初めて実証したこと。
           
 このように再学習によって記憶を測定できると思ったことは、記憶に対する考え方が、そまでの意識心理学にとらわれず、むしろヘルバルトの表象力学に影響されて、記憶したことその後で意識にのぼらなくても、何らがの影響を記憶した人の行動や活動に及ぼしているのあれば、記憶は残っているという考えに立っている。
 エビングハウスのこのような記憶の考え方は、同時代のウィリアム・ジェームズが記憶を「去に経験したという意識を伴う事象や事実の知識」といった意識主義的な考え方としばしば比されている。最近、潜在記憶(implicit memory)と顕在記憶(explicit memory)の区別が唱されている。顕在記憶とは再生や再認によって測定されるような記憶である。学習節約法よってエビングハウスが測定した記憶は今日の潜在記憶の研究の走りとなっている。今日で潜在記憶は再学習法以外に、単語完成法、語彙判断、単語同定、あるいは一般にプライミンと呼ばれているパラダイムで測定されている。学習の転移に含められているパラダイムでも在記憶が測定されていると考えてよい。

 (10)ゲシュタルト心理学