(6)精神物理学
6.1) フェヒナーと精神物理学
フェヒナー(1801-1887:ドイツ)…『精神物理学原論』(1860)、精神物理学の提唱者。物理学者 精神物理学は、精神界と物理界との対応を目指してフェヒナーが提唱した。
『精神物理学原論』の発刊をもって、実験心理学の発足と考える心理学者もいる。
6.1.1) フェヒナーの法則
・明るさの例 電球1個→2個→4個→8個→16個 2の自乗倍づつ増やす
物理的照度は2の自乗倍づつ等比級数的に増加する。
しかし人が感じる明るさ(明るさの感覚)は2のn倍づつ等差級数的な増加である。
つまり、感覚の大きさをγ、感覚の増加量をdγ、刺激強度β、刺激強度の増加量dβとする dγ=(Kdβ)/β Kは比例定数 ……… @
@の両辺を積分 γ=K logβ+C Cは積分定数 ……… A
Aより、「感覚の大きさは刺激強度の対数に比例して増大する」ことが導かれた。
ここで、感覚が生じるか生じないかの境の強度である『刺激閾を』b、その時の感覚の大きを0(ゼロ)とすると、A式は
0=K logb+C ……… B
Bより、 C=−K logb ……… C
CをAに代入して γ=K(logβ−logb)=Klog(β/b) ……… D
ここでb単位としてβを測り、その値をRとすれば、D式は
γ=K logR ……… E
式A、または式Eを『フェヒナーの法則』と呼ぶ。
6.1.2) 精神物理学
フェヒナーいわく、精神物理学とは「身体と精神との関係に関する精密理論」であり、さらに 「物理学と同様に、経験と経験的事実の数学的結合にも基づかねばならない」と考えた。
フェヒナーの研究対象…精神世界に属する「感覚」、物理的世界に属する「刺激」との関係
精神物理学外的精神医学…身体の外側の世界と精神活動の関係を取り扱う
内的精神医学…身体の内的過程=生理過程と精神活動を取り扱う
6.2) 精神物理学の歴史的背景
6.2.1) 閾の概念
・弁別閾…人が感覚によって区別できる最小の差。わずかな物理的差で違いを区別できるとき、 「感度」が鋭いといい、差が大きくなければ区別できないとき、「感度」が鈍いという
・刺激閾…初めて感じられる最小の刺激強度。
6.2.2) ウェバーの法則
ウェバー(1795-1878:ドイツ)…生理学者。実験的方法によって感覚の弁別閾に関して法則発見
儻/W=一定(ウェーバー比) ただし儻…弁別閾、W…標準の重さ
人の弁別閾は、感覚によっても、人によっても異なるが、同一人物の同一感覚ではほぼ一になるという法則。
6.2.3) 物質的幸運と精神的幸運
@ベルヌーイ(1700-1782:スイス)…物理学者、数学者
「物の価値は、物の値段だけでは決められない。それから得られる利益はそれを得る人の態に依存する。100ダカットの利得は、金持ちより貧乏人にとってはるかに重要なものである」
Aラプラス(1749-1827:フランス)
「ある物質的利得から得られる精神的幸運の増分dy は、すでに所有している物質的幸運と、その増加分dx の比に比例する」と定式化し、「精神的幸運は物質的幸運の対数に比例る」という関数関係を数学的に導いている。
→物理的刺激と感覚の関係に関するフェヒナーの法則と全く同じ関数関係である。
6.3) 精神物理学の影響
フェヒナーの目的は、精神界と物質界の数量的対応の解明というスケールの大きいものでった。しかし、別の言葉で言えば、やや漠然としたものであった。
フェヒナーが行った弁別域の実験的研究は、きわめて手堅い、物理学者としての彼の経歴よく反映していた。
フェヒナーは、ウェバーを含めた先人たちが行った研究成果を収集するととともに、自身弁別閾測定の実験を行って、いくつかの測定法を考案している。これらの方法は現在でも精物理学測定法として用いられている。
精神物理学測定法は、実験心理学の創始者ヴントよりはやく提唱されていたにも関わらずヴントの内観法より客観性に富んだ科学的方法であった。
精神物理学測定法は弁別行動に基づいたものなので、言語報告を必要としない。そのため言語を習得する以前の幼児や動物にも適用できる。
精神物理学は、心理学における数量的研究の道を拓いた。エビングハウスはフェヒナーの『神物理学原論』に啓発され、感覚より複雑と考えられた記憶の問題にも数量的方法を適用し記憶の実験的数量的研究の基礎を築いた。
(7)反応時間研究