(2)先哲の考え方
「(1)『こころ』と心理学の起源」で記述したように、古代ギリシアの人々は「プシュケー(こころ)」が生命の原因と考えていた。
ゆえに古代ギリシア人に「『こころ』とは何か?」を、問うと言うことは、「生命現象とは何か?」を問うことと同じである。
このことを踏まえておこう。
1)アリストテレス*の心の考え方
*(BC.382-322:現マケドニア)…プラトンの弟子。アレキサンダー大王の家庭教師。
アリストテレスは、「こころ」を機能的に捉え、「こころ」の能力には階層性があると考えた。
■ アリストテレスによる心の階層
心の階層 |
生物の種類 |
特 徴 |
理性的な心 |
人 間 |
・思考できる |
感受性を持った心 |
動物以上 |
・苦楽に対して反応し欲求がある
・眼前に無いものを欲求して運動が起こる |
栄養の機能を持ったこころ |
植物以上 |
・成長、同化、生殖ができる |
2)イブン・シナ*の心の考え方
*(アヴィセンナとも980-1037:バクダット現イラク)…イスラム教圈で哲学、医学、自然科学、論理学など22冊の著書を残す。
イブン・シナは、アリストテレスの影響を受け、アリストテレスの心の考え方に「~を知る能力」を加えた。
■ イブン・シナの心の能力
心の能力 |
|
神を知る能力 |
|
理性的な能力 |
思考、実践 |
感性的な能力 |
欲求…快を求め、苦を避ける
内部感覚…想起、記憶、評価、創造性想像、心象的想像、保持的想像、共通感覚
外部感覚…視聴蝕味嗅 生殖、生長、栄養 |
植物的な能力 |
生殖、生長、栄養 |
3)聖トマス・アキナスの心の考え方
*(1225-1274:イタリア)…大著『神学大全』を完成させ、キリスト教の伝統的哲学スコラ哲学とアリストテレスの思想を統合。
聖トマス・アキナスの業績は、神学と矛盾しない形で、生命現象の全体像を示そうとしたことである。
■ 聖トマス・アキナスの心の図式 (Leahey, 1980)
心の成分 |
能 力 |
機 能 |
理性的魂 |
認識 |
普遍的なものについての認識 |
能動的知性…普遍的なものの抽象
受動的知性…普遍的なものの具体化 |
知的欲求 |
普遍的な善を求める |
運動的・欲求的 能力 |
感性的欲求 |
快を求める欲求…感覚された対象への接近と回避 感性的魂
怒りっぽい欲求…目標達成を妨害するものへの抵抗 |
感性的魂 |
内的感覚 |
想像…なくなった対象をとらえる
記憶…対象の心象を保持
共通感覚…特殊感覚の統合 |
外的感覚 |
視覚
聴覚
蝕覚
味覚
嗅覚 |
植物的魂 |
栄養 |
身体の維持 |
成長 |
身体の適当な大きさを求める |
生殖 |
身体の再生産 |
古代ギリシアのアリストテレスから中世の聖トマス・アキナスまで代表的な哲学者が「こころ」をどのように考えていたかを見てきた。
いずれの哲人も、「生きているもの」(=生命現象)が示す能力について考えを巡らせていることが分かるだろう。
(3)科学的思考の台頭:イタリア・ルネサンス期(14世紀〜16世紀) → (天文学と物理学が発展)