5.蛇と金物の関係について教えてください。

蛇は洋の東西と問わず、文化的に重要な動物であることはあらためて言うまでもないことでしょう。ある民俗研究者は、蛇を「動物としての蛇」と「文化としての蛇」に大別し、民俗学が考えなければならないのは、後者の方であると述べています。「文化としての蛇」とは、我々が「動物としての蛇」に対して心の中で抱くある種のイメージ(これは形のあるものとして認識されるものではなく、ある種の感覚のようなものです)に基づいて、そこに人間の想像力が働らくことで形象化された蛇を指しています。古代から近世までの説話や随筆などに描かれる蛇を見てみますと、排除される蛇・予兆する蛇・復讐する蛇・報恩する蛇・祖先としての蛇・護る蛇・救われる蛇・水神あるいは大地の神としての蛇・福の神としての蛇・レイプする蛇・文化英雄としての蛇などさまざまなタイプの機能を読み取ることができます。「文化としての蛇」は、そう簡単に読み解ける存在ではないといえます。ところで、金物は蛇にとっては、毒であると信じられていました。金物の毒が蛇の身体を蝕むというわけです。昔話の中に、毎夜女の元にかよってくる男性の正体を知るために、ある日その女は、早朝帰っていく男の着物の裾に糸のついた針を付けます。糸をたどっていくとある洞穴に行き着きますが、そこには大きな蛇が住んでいました。母親と思われる蛇は、息子と思われる蛇に「禁を破って人間の女の元に行くから針を付けられて命を落とすのだ」と言ったところ、息子は「すでに自分の子供を宿しているから死んでも良いのだ」と言ったという話があります。金物である針の毒によって蛇は死ぬと言うわけですね。また女をレイプしようとし蛇が女の胸元に刺してある針があるために襲えなかったという話もあります。ただし刀などで蛇を斬れば、その刀も駄目になると言われていました。金属は蛇にとって毒なのですが、蛇の体液は金属にとっても毒だと信じられていたわけです。