Q.疱瘡について教えてください。
A.疱瘡とは今日で言うところの「天然痘」にあたります。疱瘡は種痘の技術が開発されるまでは、死亡率の高い最も怖れられた病気の一つでした。ただし、一度罹れば免疫が生じその後は安心して生活することができました。多くは幼い内に罹病しましたので、子供にとっては最大の試練となり「子供の厄」などと呼ばれていたようです。民俗学的に興味深いのは、この疱瘡をできるだけ軽くすませることを期待して行われていた呪術的な行為です。たとえば、江戸時代には疱瘡の神を祭ることが盛んに行われていましたし、疱瘡にかかった人の見舞いとして赤い玩具や着物あるいは「ほうそう絵」と呼ばれる赤一色の絵本などを送ることがありました。赤は魔よけの色でもあり、また疱瘡にかかったときにできる発疹の色が赤ければ赤いほど症状が軽いとされたことによります。高野山の麓にある慈尊院というお寺に伝わる中橋家文書には次のような記録が見えます。すなわち延享三年(一七四六)十月十六日条に「しふた村蟻通シ明神ノコマ犬江参詣申候事、是ハほうそうをかるふ仕候キ様ニとの祈願也」とあります。しふた村の蟻通し明神のコマ犬に疱瘡が軽くすむように祈願を行っていますが、これについて『紀伊続風土記』伊都郡の東志富田村に見える蟻通明神社の記事には、「瑞離の内に自然石を雛みて高麗狗(こまいぬ)とするあり。高さ五尺許なり。小児両足の間をくゞれは庖瘡かろしといふ」とあり、これによって、蟻通明神への祈願とは、具体的には、小児が自然石でできたコマ犬の足の下をくぐるという行為であったことがわかります。また延享四年(一七四七)四月三十日条には「疱瘡之癢有撫勝利寺より杜鵑之羽ヲ借用仕候事」とあって、杜鵑すなわちホトトギスの羽で患部をなでると効果があるとも信じられていたことがわかります。