2.柱の穴の民俗について教えてください。

Q.柱穴の民俗について教えてください
A.柱は木材でできていますが、木材には節というものが存在します。それは、その木が生きていた時代に枝の生えていたあとなのですが、古くなるとその部分が抜け落ちてしまうことがあります。そのようにしてできた穴がいわゆる節穴です。たまたま中が空洞になっていたりすると、それが異界への通路として意識されることがありました。平安時代の『今昔物語集』巻二十七には次のような話が語られています。母屋の柱に大きな節穴があいていたのですが、夜中になると、そこから小さい手が出てきて、手招きすることが毎夜のように続くのです。怖くなった主人は、そこに仏の絵像や経典をかけてみましたが、一向におさまる気配を見せません。二、三夜ごとにその手は穴から出てきて手招きをするのです。そこである人が、試みに征矢(殺傷能力のある矢)を突っ込んでみました。すると不思議なことにその矢があるあいだは、あの気味の悪い手は出なくなったのです。そこでその人は、矢の柄をとって鏃(矢の先の部分、ヤジリ)の部分を深く穴にさしこんでみました。するとそれから以後あの手招きはなくなったのです。この話は、節穴と異界の関係が示されているのみならず、柱が単に家を支えるものではなく“見えない世界”と関連して捉えられていることをもわれわれに教えてくれています。また矢は、古来悪霊を払う儀礼には多く使われてきました。たとえば現在でも節分行事では、矢で四方と真ん中(これは陰陽道の考えに基づいています)を射るという儀礼が行われています。仏や経典に効果がなく、こうした民俗的な道具によって悪霊が退治されるという話の展開は民俗を考えるものにとってはとても興味深いことのように思えます。