日本を代表する辞典の一つである『広辞苑』(第5版、岩波書店)をひもといてみましょう。この辞典は、国語辞典と百科事典の両方の要素を兼ね備えた辞書として、多くの人々に長く親しまれてきました。その「宗教」という項目には以下のように書かれています。解説の都合上、一部を省略して示すこととします。
神または何らかの超越的絶対者、或は卑俗なものから分離され禁忌された神聖なものに関
する信仰・行事。また、それらの連関的体系。帰依者は精神的共同社会(教団)を営む。(中略)、多くは教祖・教典・教義・典礼などを何らかの形で持つ。
この解説では、①「神または何らかの超越的絶対者」、もしくは②「卑俗なものから分離され禁忌された神聖なもの」といった2つのことがらに対する“信仰と行事”、もしくはその連関的体系が宗教であると言わています。連関的体系とは、お互いに関係しあって、それらが一つのシステムとなっているという意味です。①については、文字通り人間を超えたものということですから、あらためて説明する必要はありませんね。②については少々説明がいるかもしれません。ここでいう「卑俗なもの」というのは「俗っぽいもの」ということです。また「禁忌」というのは、いわゆる「タブー」ともいわれるもので、通例「~してはいけない」という言葉で表されることがらとなります。たとえば、この場所には入ってはいけない、とかこの石に足をかけてはいけない、などのようにです。卑俗なもの、すなわち俗っぽいものは、この禁忌を持つことでまわりから区別されて特別なものとなります。たとえば、教室の座席の一番前に赤い服を着た小さな女の子が座ったとしましょう。不思議なことにその女の子は、一部の人にしか見えませんでした。だがその子を見た学生はその後とてもよいことが連続して起こりました。やがて同じような経験をした人が幾人も出るようになり、キャンパス内でその子の噂が広まりました。するとだんだんと誰もその席には座らないようになっていきました。なんとなく座ってはならないような気になったのですね。そしてやがて、より明確に、その席には“座ってはいけない”というルールができあがります。これが禁忌です。こうしてただの座席が他と区別されて神聖なものとなるわけです。解説の②の部分は、そのようなことを言っているのです。