刑法刑訴一覧

Miranda v. Arizona  黙秘権の告知:ミランダ警告

犯人を逮捕する時には黙秘権と弁護人依頼権を告知しなければならない

ミランダ 対 アリゾナ
Miranda v. Arizona

384 U.S. 436 (1966)
Supreme Court of the United States
合衆国最高裁判所


 合衆国憲法修正第5条は、「どの刑事事件においてもどの人も自分自身にとって不利益な証人となることを強制されないものとする(nor shall any person be compelled in any criminal case to be a witness against himself)」、つまり自分に不利益な供述を強制されないと規定し、いわゆる「黙秘権」を保障している。黙秘権は、自分自身に罪を負わせること(self-incrimination)を拒否する権利として「自己負罪拒否特権」とも呼ばれる。また、修正第6条は、「被告人は、自らの防御のために弁護人の援助を受ける権利を享受するものとする(the accused shall enjoy the right …to have an assistance of counsel for his defense)」と規定し、弁護人依頼権を保障している。この事件の主人公であるアーネスト・ミランダ(Earnesto Miranda)は、強姦罪で起訴され第1審で有罪判決を受けたが、警察の取調べにおいて黙秘権や弁護人依頼権があることを告げられておらず、これらの権利が侵害されたとして合衆国最高裁まで争った。


≪Par.1≫
[1] On March 13, 1963, petitioner, Ernesto Miranda, was arrested at his home and taken in custody to a Phoenix police station. [2] He was there identified by the complaining witness. [3] The police then took him to "Interrogation Room No. 2" of the detective bureau. [4] There he was questioned by two police officers. [5] The officers admitted at trial that Miranda was not advised that he had a right to have an attorney present. [6] Two hours later, the officers emerged from the interrogation room with a written confession signed by Miranda. [7] At the top of the statement was a typed paragraph stating that the confession was made voluntarily, without threats or promises of immunity and "with full knowledge of my legal rights, understanding any statement I make may be used against me."

[第1~4文]
 [1] On March 13, 1963, petitioner, Ernesto Miranda, was arrested at his
 home and taken in custody to a Phoenix police station. [2] He was there
 identified by the complaining witness. [3] The police then took him to
  "Interrogation Room No. 2" of the detective bureau. [4] There he was
  questioned by two police officers.

〈語句〉
● petitioner 名)(合衆国最高裁判所への)上訴人
  petition 名)(合衆国最高裁判所への)上訴請求書

・arrested 形)逮捕された   arrest 他)~を逮捕する
・custody 名)身柄の拘束  
・identified 形)(犯人であると)特定(確認)された
 identify A with B AとBが同一であるとみなす
・complaining 形)告訴している   complain 自)1.苦情を言う 2.告訴する
● witness 名)証人 
  complaining witness 「告訴している証人」=被害者

・interrogation 名)尋問、取調べ 
・detective 名)1.刑事 2.探偵  
・bureau 名)(官庁などの)部局
・question 名)1.質問、2.疑問、3. 取り調べ

      他)~に質問する、尋問する、取り調べる
・police officer 名)警察官
 

〈文法〉
● 第1文のtaken in custodyは、take~into custody 「~の身柄を拘束する」の

 受動態と紛らわしいが、take A to B 「AをBに連れて行く」の受動態と、

 in custody 「身柄を拘束された状態で」という表現が一緒になった形である。


〈訳〉
 1963年3月13日、上訴人のアーネスト・ミランダは、自宅で逮捕

 され、身柄を拘束されてフェニックスの警察署に連行された。そこで彼

 は告訴証人によって犯人であると特定された。その後、警察は彼を刑事

 局の「第2取調室」に連れて行った。そこで彼は2人の警察官によって

 取り調べを受けた。


[第5,6文]
 [5] The officers admitted at trial that Miranda was not advised that he had
  a right to have an attorney present. [6] Two hours later, the officers
  emerged from the interrogation room with a written confession signed by
  Miranda.

〈語句〉
・officer = police officer 警察官
・trial 名)事実審理、公判(裁判官、検察官、弁護人、証人などが陪審員の前

    で行ういわゆる「裁判」)」
・advise 他)~に忠告する、助言する
・right 名)権利
・attorney =lawyer 名)弁護士
・present 形)居合わせている、立ち会っている
・emerge 自)現れる
・written 形)書かれた
・confession 名)告白、自白
 written confession (書かれた自白)自白調書
・signed 形)署名(サイン)された

 
〈文法〉
[第5文]
● 基本構造:第3文型
   officers admitted{ that …}
     S     V     O 「警察官は{……}ということを認めた。」

文型の多重構造
 基本構造の目的語の{that……}の中にさらに[that…]が入っている二重構
  { that Miranda was not advised [that he…present] }.
 {「ミランダは[that…]ということを助言されていなかった」ということ }

● advise A that….「Aに…と助言する」→(受動態)A is advised that…

● have~present は、使役動詞のhaveと同様に「~に立ち会ってもらう」
  訳す。

  例)I had my watch repaired. 「私は腕時計を修理してもらった。」


〈訳〉
 その警察官達は、ミランダが弁護士に立ち会ってもらう権利があると

 言されなかったことを事実審理で認めた。2時間後、彼らは、ミランダ

 が名した自白調書をもって取調室から出た。



[第7文]
  At the top of the statement was a typed paragraph stating that the
  confession was made voluntarily, without threats or promises of immunity
  and "with full knowledge of my legal rights, understanding any statement
  I make may be used against me."

〈語句〉
・statement 名)1.声明、陳述 2.供述
・typed 形)タイプされた
・paragraph 名)段落、パラグラフ
・state that… …と述べる
・confession 名)告白、自白
・voluntarily 副)自発的に
・threat 名)脅迫
・promise 名)約束 他)~を約束する
・immunity 名)免責、免除
・full 形)1.いっぱいの、2.完全な
・knowledge 名)1.知識、2.情報
・legal 形)1.法律の、法的な、2.合法的な
・right 名)権利
・against 前)~に不利に


〈文法〉
● 基本構造:第1文型
   was paragraph
     V    S    「パラグラフがあった。」

● be-動詞には「存在する」という意味がある。
  パラグラフがあった場所を示す表現、 At the top of the statement「供述調書

  の一番上に」が文頭にあり、また主語が長すぎて文頭に置けば文の構造が分から

  なくなるので、S+V(第1文型)が倒置されV+Sとなっている。
   倒置文は、次の2つの手続きで作る。
    強調する語句を文頭にもっていく。
    ② 残りの文章を疑問文の語順にする。 

 

● paragraph ←{stating[ that… against me ]}
   stating は、paragaraphを修飾する現在分詞の形容詞的用法
   「…と述べているパラグラフ
     …の部分が長くて読みづらいので、いったん区切って

    「そこには…と書かていた」と訳す

voluntarily, without…, with full…, understanding…は、すべて"confession

 was made"にかかっており、自白がなされた態様を説明している。

              ↙ voluntarily

              ↙ without threats....

  confession was made

              ↖ with full knowledge....

              ↖ understanding any


  any statement [which] I make

   stametment の後に関係代名詞が省略されていることは、makeの後に

   目的語がないことから分かる。

  understaning [that] any statement~may be used...

 



〈訳〉
 その供述調書の一番上には、タイプされたパラグラフがあり、そこには自

 白が自発的に、脅迫や免責の約束なしに、「自らの法的権利に関する完全

 な知識もち、自分が行ういかなる供述も自分に不利益に利用されうること

 を理解して」なされたと書かれていた。




≪Par.2≫
 We deal with the admissibility of statements obtained from an individual
 who is subjected to custodial police interrogation and the necessity for
  procedures which assure that the individual is accorded his privilege under
 the Fifth Amendment to the Constitution not to be compelled to incriminate
 himself.

〈語句〉
・deal with ~を取り扱う、~に取り組む
● admissibility 名)(証拠としての)許容性 
  admit は「入ること(入学、入場など)を認める」という意味である。
  admit ~into evidence 「~を証拠に入れることを認める」

・statement 名)1.声明、陳述 2.供述
・obtained 形)得られた
● be subjected to ~を受けさせられている、~に服している
  subject A to B 「AにBを受けさせる、AをBに服させる」

・custodial 形)身柄を拘束された状態での
・interrogation 名)尋問、取調べ 
・necessity 名)必要(性)
・procedure 名)手続き
・assure 他)~を確実にする、保証する(←sure

accord A B 他)AにBを与える。
  ここでは、A is accorded B 「AはBを与えられている」という受動態の形

  で使われている。

・privilege 名)特権
● Fifth Amendment to the Constitution 「憲法の修正第5条」
 この場合のtoには憲法に付加されているという含意がある。

・compel 他)強制的に~させる
incriminate 他)~に罪を負わせる(←crime 名)犯罪)
 self-incrimination 名)自己負罪(自分に罪を負わせるような発言をする

            こと。) 


〈文法〉
● 基本構造:
  We deal with the admissibility~and the necessity….
  「われわれは、証拠許容性と必要性を取り扱う。」

● obtained from…police interrogationは、statementsを説明する形容詞句

 である。
 obtained は、次の2つの点から過去分詞の形容詞的用法であることが分かる:
  ① ~deal with the admissibility でもはや文型が完成しているので、andなど

   の接詞なしに動詞は来ない。
  ② obtainは、「~を得る」という他動詞であり、目的語をとる動詞であるが
   直後に目的語(何を得るのか)がなくfromが来ている
 
● 二重構造:
  statements ←{ obtained from an individual ←[ who is~interrogation] }
    「~取調べに服している個人から得られる供述」

● necessity は、deal with と繋がっており、admissibilityと並列している。
           ↗ admissibility
       deal with
          ↘ necessity

  このつながりは次の2点から分かる:
    ① admissibilityで話が完結できる (文構成上欠けているものがない)。
    ② necessity~は、whoの関係代名詞節のみで終わっており、基本構造

     の動詞が後ろになく、who~で説明された名詞(necessity)で終始して

     いる。

interrogation and the necessity が並列されており、necessity がdeal withで

  はなくis subjected toにつながっていると解釈すると「取調べと手続きの必要

  性に服している」という意味不明な内容になる。
   necessityがdeal with につながっているのか、それとも subjected to につな

  がっているのか、は語彙や文法の知識のみでは決定できない「文法判断の

  限界である。このうな場合、結局、どちらが筋の通ったストーリーに

  なるかによって確定する。

● procedures以下は二重構造
   procedure ←{ which assure [that the individual is…himself ] }
   「{[…]を保証する}手続き」

● not to be…himself がどの語句を修飾しているかは文法判断の限界」である。

 修飾している可能性があるのは、①Constitution, ② Fifth Amendment,

 ③ privilege の3つである。

  話の筋が通るのは③である。「自らに罪を負わせることを強制されない特権」


〈訳〉
 われわれが扱っているのは、個人が身柄を拘束されて行われる警察の取調

 べに服している場合にその個人から得られる供述の証拠としての許容性、

 および合衆国憲法修正第5条のもとで、個人が自己負罪を強制されない

 権をられることを保証する手続きの必要性である。



≪Par.3≫
[1] The current practice of incommunicado interrogation is at odds with one of our Nation's most cherished principles -- that the individual may not be compelled to incriminate himself. [2] Unless adequate protective devices are employed to dispel the compulsion inherent in custodial surroundings, no statement obtained from the defendant can truly be the product of his free choice.


[第1文]
 The current practice of incommunicado interrogation is at odds with one of
  our Nation's most cherished principles ―― that the individual may not be
  compelled to incriminate himself.

〈語句〉
・current 形)1.現在の、2.最新の 
・practice 名)1.練習、2.実践、3.慣行
・incommunicado 形)(外部との)連絡を断たれた、隔離された
・interrogation 名)尋問、取調べ 
・at odd with ~と調和しない、相容れない =incompatible with
・cherished 形)大事にされた、育まれた
・principle 名)「原則、原理」


〈文法〉
● practice of のof は同格「~という慣行」

● ――that… は、principle と同格。ここでは、少し間を置いた形になっているの

 で「すなわち…ということである」と訳す。

  同格節のthatは、後続に完全な文がつづくという点で、後続の文に主語や目的

  語などが欠けている関係代名詞のthat と異なる
     同格: principle[ that everyone is equal]
                     S    V   C
  関係代名詞: principle〔 that everyone knows × 〕
                     S     V

〈訳〉
 外部との連絡を断たれた取調べという現在の慣行は、もっとも大事にされ

 ていわが国の原理、すなわち、個人は自己負罪を強制されてはなない

 という原則と相容れない。



[第2文]
 Unless adequate protective devices are employed to dispel the compulsion
  inherent in custodial surroundings, no statement obtained from the
  defendant can truly be the product of his free choice.

〈語句〉
・unless = if not
・adequate 形)適切な、十分な
・protective 形)保護するための
・device 名)装置、手段
・employ 他)(人や物)を用いる
・dispel 他)~を払いのける
・compulsion 名)強制 (←compel「~を強制する」)
・inherent in ~に固有の、内在する
・custodial 形)身柄を拘束された状態での
・surroundings 名)環境、四周の状況
・statement 名)1.声明、陳述 2.供述
・obtained 形)得られた
・defendant 名)(刑事)被告人、(民事)被告(←defend 防御する) 
・product 名)1.製品、2.産物
・free 形)自由な
・choice 名)選択


〈文法〉
 to dispel は、不定詞の副詞的用法「~を払しょくするために」

● inherent~surroundings は、compulsion を修飾する形容詞句。
  compulsion ←[ inherent in custodial surroundings]

● 主節の基本構造:第2文型
   no  statement be product   
         S     V   C

● no statement ←[obtained from the defendant]  
          形)得られた
  obtained from…は、statementsを説明する形容詞句である。 本来 obtain は、
  「~ を得る」という他動詞であり、目的語をとる動詞であるが、直後に目

  的語(何を得るのか)がなく from が来ているので、形容詞であると分かる。


〈訳〉
 拘束された環境に内在する強制を一掃するために適切な保護手段が用いら

 れないかぎり、被告人から得られたいかなる供述も真に自由選択の所産で

 ありえない。


≪Par.4≫
[1] As for the procedural safeguards to be employed, unless other fully effective means are devised to inform accused persons of their right of silence and to assure a continuous opportunity to exercise it, the following measures are required. [2] Prior to any questioning, the person must be warned that he has a right to remain silent, that any statement he does make may be used as evidence against him, and that he has a right to the presence of an attorney, either retained or appointed.


[第1文]
  As for the procedural safeguards to be employed, unless other fully
  effective means are devised to inform accused persons of their right of
  silence and to assure a continuous opportunity to exercise it, the following
  measures are required.  

〈語句〉
・as for ~に関して(言うと)
・procedural 形)手続きの
・safeguard 名)安全装置、予防手段
・employ 他)(人や物)を用いる
・unless = if~not
・fully 副)完全に
・effective 形)効果的な
・means 名)手段
・devise 他)~を工夫する、考案する
・inform A of B  A(人)にBを知らせる
・accused person (告訴、告発されている人→)被告人
・right of silence 黙秘権=right to remain silent
・assure 他)~を確実にする、保証する(←sureにする)
・continuous 形)継続的な
・opportunity 名)機会
・exercise 他)(権利など)を行使する
・following 形)~の後に、以下の~
・measure 名)手段
・required 形)必要とされている
   require 他)「~を必要とする、要求する」の過去分詞


〈文法〉
● to be employed とto exercise は、不定詞の形容詞的用法でそれぞれ

 safeguardsとopportunity を修飾する。
   safeguards ←〔to be employed〕 「用いられるべき安全装置」
   opportunity ←〔to exercise it〕  「それを行使する機会」

● to inform とto assure は不定詞の副詞的用法「~するために」 

  to不定詞は、本来前置詞の toward の意味をもっているので、

   「~する方向で」「~することに向けて」という含意をもつ
    例) I am studying to pass the bar exam.
   「私は司法試験に合格することに向けて勉強している。」 
 拙稿「原型不定詞について」『英語教育 』1997年11月号(84-85頁)参照。
   

〈訳〉
 用いられるべき手続的予防手段に関して言うと、被告人に黙秘権について

 知らせるために、かつ黙秘権を行使する継続的な機会を保障するために、

 他の十全効果的な手段が考案されないかぎり、次の手段が要求される。

 





[2文目]
  Prior to any questioning, the person must be warned that he has a right to
  remain silent, that any statement he does make may be used as evidence
  against him, and that he has a right to the presence of an attorney, either
  retained or appointed.

〈語句〉
・prior to ~に先立って
・questioning 名)質問すること、尋問、取り調べ
● warn A that… Aに…ということを警告する
  →(受動態)A is warned that…「Aは…ということを警告される」

● statement 名)1.声明、陳述 2.供述
  any statement の any は「どのようなものであれ、すべての」という意味で

 ある。

・evidence 名)証拠、証言
・against 前)~に不利な、不利に
● right to 名)~を受ける権利  
  right to counsel 弁護人依頼権 
  right to a speedy trial 迅速な事実審理を受ける権利

・presence 名)1.立ち会い 2.存在
・attorney =lawyer 名)弁護士
・either A or B AかBのいずれか
・retain 他)1.~を保持する 2.~を雇っておく
・appoint 他)~を任命する、指名する


〈文法〉
● be warned that…の警告の内容は3つあり、A, B and Cの並列になっている:  
    A= that he has…silent
    B= that any statement…him
    C= that he has…appointed
 
● any statementの後に関係代名詞が省略されている。
  接続詞などがないのに S+V(he does make)が続いているので分かる。
   any  statement←〔(which) he does make〕 may be…  
        S                 v1      V2   
  関係代名詞節の中に動詞が1つある(does make)ので、2つ目の動詞

  (be)が基本構造の動詞である。

● does make のdoes は動詞(make)を強調する用法である。「実際に行う」

● either retained or appointed は過去分詞の形容詞的用法
 前のattorneyを修飾している。「雇われているにせよ、任命されるにせよ」


〈訳〉
 すなわち、取調べに先立って、被告人は、黙秘権があること、彼が実際に

 行ったかなる供述も彼に不利な証拠として使われることがあること、

 そして彼が雇っているにせよ裁判所が任命するにせよ弁護士に立ち合って

 もらう権利があることを警告されなければならない。


【解説】
〈ミランダの再審〉
  ミランダは、はじめに自供した内容を証拠から除外して再び第一審の審理に

 かけられが、犯行当時ミランダと同居していた女性が、ミランダは彼女に犯

 行を告白していたと 証言したこともあり、再び有罪とされた。 

〈ミランダ判決後の展開〉
  ミランダ判決によって、警察は被疑者を逮捕するさいに以下の警告を与える

  よになった。この警告は「ミランダ警告(Miranda warning)」と呼ばれ

  ている。
  1. You have the right to remain silent.(あなたには黙秘権がある。)
   2. Anything you say can be used against you in a court of law.
   (あなたが言うことは法廷であなたに不利な証拠として用いられることが

   ある。)
  3. You have the right to have an attorney present during questioning.
  (あなたには、取調べの間弁護士の立会ってもらう権利がある。)
  4. If you cannot afford an attorney, one will be appointed for you.
   (もし自分で弁護士に依頼する資力がなければ、公選弁護人が任命さ

    れる。)

 ミランダは、1972年に仮釈放されたが、その後も軽微な犯罪を繰り返し、

 1976年にバーでカードゲームをしている最中に喧嘩が起ってナイフで刺さ

 れて死亡した。  
  ミランダを刺した容疑者は逮捕されミランダ警告が与えられた。




2018年03月04日

McKinney v. Anderson  刑務所内の受動喫煙は「残虐で異常な刑罰」

刑務所における受動喫煙は修正第8条の「残虐で異常な刑罰」に該当し違憲

 

マッキニー 対 アンダーソン
McKinney v. Anderson

924 F.2d 1500(1991)
第9巡回区合衆国控訴裁判所
United States Court Of Appeals for the 9th Circuit
1991

 原告(控訴人)のウィリアム・マッキニー(William McKinney)は、ネバダ州のカーソン(Carson)市にある州刑務所の受刑者であった。彼は、非喫煙者であるが、同室の受刑者が1日5箱のタバコを吸うヘビー・スモーカーであった。刑務所では、監房内でタバコを吸うことは制限されていなかった。彼は、たえず環境タバコ煙(ETS)※1にさらされ、鼻血、頭痛、胸の痛み、精力減退などに悩まされていた。彼は、刑務所側に独居房に移すか、非喫煙者と同室することを繰り返し要求したが、拒否されつづけた。彼は、監房内でETSにさらされつづけることが、合衆国憲法修正第8条※2の禁止する「残酷で異常な刑罰」に該当するとして、刑務所長などを訴え、損害賠償と差し止め命令※3による救済を求めた。
  ※1環境タバコ煙(Environmental Tobacco Smoke: ETS): タバコを吸うことに

    よって発する主流煙を吐き出した煙と、吸っていない時に燃焼を続けること

    で生じる副流煙により周囲に拡散される有害な煙である。環境たばこ煙にさら

    されることは、受動喫煙と呼ばれる。
  ※2 合衆国憲法修正第8(The Eighth Amendment to the Constitution of the

    UnitedStates)「過大な保釈金は要求されてはならず、過重な罰金は科され

    てはならない。また、残酷で異常な刑罰は科されてはならない。」

    (Excessive bail shallnot be required, norexcessive fines imposed, nor

     cruel and unusualpunishments inflicted.)
  ※3 差し止め命令による救済(injunctive relief):被告に一定の行為をなすことを

    禁じ、または、すでに生じた違法状態の排除のため一定の作為を命じる裁判所

    の命令。この事件では、原告をタバコの煙にさらされない監房に収容するよう

    に刑務所側に命じる命令。


≪Par.1≫
[1] The parties agree that two-thirds of the inmates at Carson City smoke. [2] The state does not dispute that McKinney is confined to a six-foot by eight-foot room with poor ventilation and that his roommate smokes five packs of cigarettes a day. [3] The state also admits that, other than in the infirmary and the culinary, there is no restriction on smoking in the prison.


[第1文]
 The parties agree that two-thirds of the inmates at Carson City smoke.

〈語句〉
● party 名)当事者  partyには他に、1.パーティ、2.(登山などの)一行、
     3.政党

   法律関係の文では「当事という意味で使われるとが多い。

・agree that… …ということに同意している
・two-thirds 名)3分の2 「3分の1」(one-third)が2つあるので複数形に

        なる。 two-thirds of~ 3分の2の~
・inmate 名)(刑務所の)収容者、在監者
・Carson City カーソン市 ネバダ州の州都
・smoke 自)喫煙する


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
   parties agree { that two-thirds…smoke }
     S    V     O 

     「当事者は {  } ということに同意する。」
  
● 文型の多重構造
   that節の中の文型は two-thirds smoke 第1文型。
               S     V  

   「3分の2が喫煙する」
   smoke を名詞の「煙」と読むとthat節内に動詞がなくなり、また直前の

   Cityとのつながりがつかないので動詞として使われていることが分かる。

 
〈訳〉
 当事者は、カーソン市の収容者の3分の2が喫煙することに同意している。



[第2文]
  The state does not dispute that McKinney is confined to a six-foot by
  eight-foot room with poor ventilation and that his roommate smokes five
  packs of cigarettes a day.

〈語句〉
● state 名)州 ここでは刑務所の所在するネバダ州  
  state には他に、1.国家、2、状態、3.述べる、などの意味がある。
   それぞれの 意味でよく使われる。

・dispute that… …ということに異議を唱える、争う
・is confined to~ ~に閉じ込められている
● six-foot by eight-foot  幅6フィート奥行8フィートの 
  foot は後続の名詞を修飾する形容詞として機能 単数形になる。

・poor 形)乏しい、不十分な
・ventilation 名)換気
・roommate 名)同室者
・five packs of~ 5箱の~
・cigarette 名)(紙巻き)タバコ
・a day 1日につき


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
  state does not dispute ① { that McKinney…ventilation }
   S         V   and        O   
                  ② { that his roommates…a day }


 「州は { ①  } ということと { ②  } ということに異議を唱えていない。 」

● room with poor ventilation
  (乏しい換気をともなった部屋→)「換気の乏しい部屋」


〈訳〉
 マッキニーが幅6フィート奥行8フィートの換気の悪い部屋に閉じ込めら

 れていること、彼の同室者が日に5箱のタバコを吸うということについて

 州側は争っていない。



 [第3文]
 The state also admits that, other than in the infirmary and the culinary,
  there is no restriction on smoking in the prison.

〈語句〉
・state 名)州、ネバダ州
・admit that… …ということを(事実であるとして)認める
・other than~ ~の他に、以外に
・infirmary 名)医務室
・culinary名)調理室
・restriction on ~に対する制限
・prison 名)刑務所


〈文法〉
● admit that… は、第1文のagree that…、第2文のno dispute that…と同様の意
 味であり、州が争っていない事実について記述している。


〈訳〉
 またネバダ州は、刑務所内では医務室と調理室を除いて喫煙の制限はない

 ことも認めている。




≪Par.2≫
[1] Unlike the general population, prisoners are not free to avoid or leave places where smoking is allowed. [2] Prisoners cannot simply leave their cells when their cellmates decide to light up. [3] In addition, because smoking is permitted virtually everywhere in the prison, and because it is undisputed that a clear majority of the prisoners are smokers, McKinney is almost constantly exposed to ETS at elevated levels. [4] A reasonable factfinder could conclude that the adverse health effects associated with ETS exposure would be especially severe for McKinney.


[第1文]
  Unlike the general population, prisoners are not free to avoid or leave
  places where smoking is allowed.

〈語句〉
・unlike 前)~と違って
・general population 名)一般住民
・prisoner 名)受刑者、囚人
・be free to do~ 自由に~できる
・avoid 他)~を避ける
● leave 他)~を立ち去る
  ※ leave には「~を置き忘れる」という意味もあるが、置き忘れた物から
   「立ち去る」という意味である。

・allowed 形)許されている


〈文法〉
●     avoid ↖       
       or   places ←〔where smoking is allowed〕
      leave  ↙

  ※ 関係副詞whereの先行詞のplacesを後続部分にもどすと
      smoking  is  allowed  in places   
  後続部分に in などの場所を表す前置詞の意味を加える場合、関係代名詞
  の which ではなく、関係副詞の where が使われる。whereは、in which で

  書き換ることもできる。


〈訳〉
 一般の人々と異なり、受刑者は、喫煙が許されている場所を避けること

 も立ち去ることも自由にできない。



 [第2文]
 Prisoners cannot simply leave their cells when their cellmates decide to
 light up.

〈語句〉
・prisoner 名)受刑者、囚人
・leave 他)~を立ち去る
・cell 名)1.(刑務所の)監房、2.細胞
・cellmate名)(刑務所監房の)同房者、同室者
・light up (タバコに)火を付ける


〈文法〉
● cannot simply は、「どうしても(絶対)~できない」という否定を強調する

 表現である。「~するという単純なことすらできない」という意味である。


〈訳〉
 受刑者は、同房者がタバコに火をつけることにした時、単に監房から立ち

 去るということすらできない。



[第3文]
 In addition, because smoking is permitted virtually everywhere in the
 prison, and because it is undisputed that a clear majority of the prisoners
 are smokers, McKinney is almost constantly exposed to ETS at elevated
 levels.


〈語句〉
・in addition 加えて、その上
・smoking 名)喫煙
・permitted 形)許されている
・virtually 副)ほとんど、事実上
・everywhere 副)どこでも、いたる所で
・prison 名)刑務所
・undisputed形)議論の余地のない、争われていない
・a clear majority of~ 過半数の~
・prisoner 名)受刑者、囚人
・smoker 名)喫煙者
・constantly 副)絶えず、四六時中
・be exposed to~ ~にさらされている
・ ETS 名)環境タバコ煙(Environmental Tobacco Smoke)
・elevated 形).高められた、高い
・level 名)水準、レベル


〈文法〉
● 基本構造:第2文型
    McKinney is exposed
     S     V   C  「マッキニーは、さらされている。」
 
● 2つの because の節の後、主文 McKinney is…が続く。このような場合、
  「コンマ+S+V…」の形を探。そこが主文のはじまりである。

● 2つ目の because 節の中にit~thatの構がある。
   it is undisputed  {that a clear…smokers }
    (それは争われていない、{  } ということは→)
      「{  } ということは争われていない。」


〈訳〉
 それに加えて、喫煙は刑務所内のほとんどどこでも許されているから、

 また受刑者の過半数が喫煙者であることに争いがないから、マッキニー

 は、ほとんどつねに高レベルのESTにさらされている。



[第4文]
 A reasonable factfinder could conclude that the adverse health effects
 associated with ETS exposure would be especially severe for McKinney.


〈語句〉
・reasonable 形)合理的な、通常の判断能力を備えた
● factfinder 名)事実認定者
  証拠にもとづいて事実を認定する人。裁判官、または陪審員。
   reasonable factfinderは、「合理的な事実認定者」と訳せるが、そう訳す

  と、通常以上に「合理的である」という印象を受ける。しかし、この表現は、

  判断能力などに特段の問題のない「通常の事実認定者」という意味である

  ので、「通常の判断能力を備えた事実認定者」と訳す。

・conclude that…  …であると結論する
・adverse 形)不利な、不都合な
・health 名)健康
・effect 名)効果、影響
・associate A with B AをBと結び付ける 
・exposure 名)露出、さらされること
・especially 副)とりわけ
・severe 形)厳しい、深刻な


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
  factfinder conclude { that the adverse…McKinney }
    S      V      O 「事実認定者は { } と結論する。」

● A reasonable factfinder could….
  could は仮定法過去であり、「通常の判断能力を備えた事実認定者であれば

  ~できであろう」という仮定の意味が主語にこめられている。

● 文型の多重構造:that節内は、第2文型:
   effects←〔associated with ETS exposure〕 would be severe
    S                        V   C
  associate の後に目的語がないので、過去分詞の形容詞的用法であることが

  わかる。
    B← 〔associated with B 〕「Bと結びつけられたA」

● health effect 「健康への効果」 は、名詞の並列であるが、vegetable soupなど

 と同様に前の名詞が形容詞的な働きをしている。


〈訳〉
 通常の判断能力を備えた事実認定者であれば、ETSにさらされることと結

 びついた健康に有害な影響は、マッキニーにとってとりわけ深刻であると

 結論できるはずである。




≪Par.3≫
[1] Our prior cases demonstrate that the difference between constitutional and unconstitutional conditions of confinement can turn on the air that the prisoners breathe. [2] In Hoptowit v. Spellman (1985), we held that housing inmates in units with inadequate ventilation and airflow is unconstitutional. [3] In Spain v. Procunier (1979), we held that denying prisoners fresh air and opportunities for regular outdoor exercise violates the Eighth Amendment.


[第1文]
 Our prior cases demonstrate that the difference between constitutional and
  unconstitutional conditions of confinement can turn on the air that the
  prisoners breathe.


〈語句〉
・our われわれの=合衆国最高裁の
・prior 形)(時間的に)前の、先の
● case 名)(訴訟になった)事件、ケース
  prior case 先例

・demonstrate that… …ということを実証する
・constitutional 形)1.合憲の、2.憲法の
・unconstitutional形)違憲の、憲法に反する
・condition 名)条件、状態
・confinement 名)収監、監禁
・turn on(~の上で回る→)~しだいで変わる、~に依存する
・breathe 他)~を吸う、自)呼吸する


〈文法〉
基本構造:第3文型
  cases demonstrate  { that the difference…breathe }
    S     V            O
   「ケースは、{  } ということを実証する。」

● 文型の多重構造
  that 節内の構造:第1文型
    difference turn  on  air  「違いは空気しだいである。」
     S    V    


air に関係代名詞が付いている。
    air ←〔that the prisoners breathe〕「受刑者が吸う空気」
        

〈訳〉
 合憲の収監条件と違憲の収監条件の相違は、受刑者が吸う空気しだいで変

 わりうるということをわれわれの先例が実証している。



[第2文]
 In Hoptowit v. Spellman (1985), we held that housing inmates in units

 with inadequate ventilation and airflow is unconstitutional.

〈語句〉
● Hoptowit v. Spellman判決
 換気、水道設備、照明などが不十分な施設に収容することは、「残酷で異常な

 刑罰」にあたり修正第8条に違反するとした1985年の第9巡回区連邦控訴

 裁判所の判決。

・hold that…  …であると(裁判所が判断を示す→)判示する
● house 他)~を収容する、~に住居を与える
   ※ 英単語の名詞は、その意味に対応した動詞として使われることが多い 。
   例) Mary watered  the flowers.「メアリーはその花に水をやった。」 
      Tom oiled  his bicycle.「トムは、自分の自転車に油をさした。」  

・inmate 名)収容者、在監者
・unit名)構成単位  ここでは、刑務所の区画 
・inadequate 形)不十分な、不適切な
・ventilation 名)換気
・airflow 名)空気の循環、空気量
・unconstitutional 形)違憲の


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
   we held { that housing…unconstitutional }
     S   V     O  

     「われわれは、[  ]であると判示した。」

● 文型の多重構造:
   that の内部は、第2文型
    [housing inmates…] is unconstitutional
       S        V      C 

      「 [   ] は違憲である」

   主語は目的語をとる動名詞である:housing inmates
                       v     o
       「受刑者を収容すること」

● we held that…is unconstitutional
  時制の一致では、is は主節のheld(過去)に合わせてwas にするところであ

  るが、この判決が書かれた時点でも妥当することであるので(違憲であるの

  で)現在形である。
   例えば、Yesterday she said that she wassick. という文の場合、
   was は、彼女が病気だったのが昨日のことであったからと説明できる。  
   したがって、一般的な真理などは that 節内の動詞を現在形にする。
   例)The teacher told me that the earthisround. 
  ※ 拙稿「時制の一致について」『英語教育 』(1993年11月号)

    76-77頁、参照。


〈訳〉
  1985年のホプトウィット対スペルマン事件において、われわれは、

  換気と通風の不十分な区画に在監者を収容することは違憲であると判

  示した。



[第3文]
 In Spain v. Procunier (1979), we held that denying prisoners fresh air and
 opportunities for regular outdoor exercise violates the Eighth Amendment.


〈語句〉
● Spain v. Procunier 判決
 刑務所内で暴力事件を起こすなどした受刑者を収容する特殊な刑務所において、

 原告が屋外での運動を認められていなかった事例で、屋外で運動させて新鮮な空

 気を吸わせないことは、「残酷で異常な刑罰」にあたるとした1979年の第9

 巡回区連邦控訴裁判所の判決。

・deny O1+O2  O1にO2を拒む、与えない
・prisoner 名)受刑者、囚人
・opportunity 名)機会
・regular 形)規則的な、定期的な
・outdoor 形)屋外の
・exercise 名)運動
・violate 他)~に違反する
・Eighth Amendment 名)(合衆国憲法)修正第8条


〈文法〉
第2文とまったく同一の構造をしている。
  基本構造:第3文型
   we held { that denying…Amendment }
    S    V     O  

   「われわれは、{  } であると判示した。」

  that節の内部の基本構造:
   [denying…exercise]  violates Eighth Amendment
       S        V      O 

     「[   ]は、修正第8条に違反する」

    主語は目的語をとる動名詞である。denying prisoner air
                      v      o    o
               「受刑者に空気を与えない。」

● held that の内部の動詞 violates は、第2文と同様の理由で violated になら

 ない。


〈訳〉
 1979年のスペイン対プロキュナーにおいて、われわれは、新鮮な空気

 と定期的な屋外運動の機会を受刑者に与えないことが修正第8条に違反す

 ると判示した。




≪Par.4≫ 
[1] Under Hoptowit and Spain, it is established that conditions in a prison that threaten a prisoner's health constitute cruel and unusual punishment. [2] Scientific evidence is clear that exposure to ETS can have serious adverse health consequences. [3] If housing nonsmokers and smokers in the same prison cell or allowing unrestricted smoking in other parts of the prison exposes nonsmoking inmates to a level of ETS that poses an unreasonable risk to their health, the Eighth Amendment is violated.


[第1文]
 Under Hoptowit and Spain, it is established that conditions in a prison that
 threaten a prisoner's health constitute cruel and unusual punishment.

〈語句〉
・Hoptowit  Hoptowit v. Spellman判決
・Spain  Spain v. Procunier判決
・established 形)確立されている
・condition 名)条件、状態
・prison 名)刑務所
・threaten 他)~をおびやかす
・prisoner 名)受刑者、囚人
・health 名)健康
・constitute 他)~を構成する
・cruel 形)残酷な
・unusual 形)異常な
・punishment 名)刑罰

〈文法〉
● 基本構造:第2文型 it~thatの構文
   it is established { that conditions…punishment }.
    S  V     C
    (それは確立されている、{  } ということは)
   →「{  } ということは確立されている。」
 ・
● 文型の多重構造:
  ・that節の内部は、第3文型である。
   conditions constitute  punishment.
     S      V      O 

    「状態は刑罰を構成する」

  ・it~thatの構文のthat節内の主語であるconditionsにさらにthatがある。
     直後に動詞(threaten)が続いているので関係代名詞であることが

    分かる

関係代名詞の先行詞がa prisonであるとすれば、threaten ではなくthreatens

 となっているはずであるから、先行詞がconditionsであることが分かるし、また

 「受刑者の健康をおびやかす」物は何かと考えると、先行詞が「刑務所」ではな

  くその「状態」であることが分かる。
   conditions 〇 ↖
      S     〔that threaten a prisoner's health〕constitute
     prison × ↙                    V

 

    関係代名詞節の中に必ず動詞が1つある(threaten)ので、2つめの動詞
  (constitute)がit~thatのthat節内の第3文型の動詞であることが分かる。
    主語に関係代名詞が付いた場合は、2つ目の動詞を探しながら文を読む。


〈訳〉
 ホプトウィット判決とスペイン判決のもとで、受刑者の健康をおびやかす

 刑務所内の条件が残酷で異常な刑罰を構成するということが確立されてい

 る。



[第2文]
  Scientific evidence is clear that exposure to ETS can have serious adverse
  health consequences. 

〈語句〉
・scientific 形)科学的な
・evidence 名)証拠
・clear 形)明らかな
・exposure to~ ~にさらされること
・ETS 名)環境タバコ煙
・serious 形)深刻な
・adverse 形)不利な、不都合な
・health 名)健康
・consequence 名)結果、重大性


〈文法〉
● 基本構造:第2文型
  evidence is clear
    S   V  C 「証拠は明白である」

● that以下は、evidence の内容を説明する同格節「~という科学的証拠」
 thatの後に第3文型の完全な文が続いており、同格以外で説明が付かない
   evidence = { that  exposure have consequences} 
                S     V     O


〈訳〉
 ETSにさらされることが健康を害する深刻な結果をもたらしうるという科

 学的証拠は、明らかである。



[第3文]
  If housing nonsmokers and smokers in the same prison cell or allowing
  unrestricted smoking in other parts of the prison exposes nonsmoking
  inmates to a level of ETS that poses an unreasonable risk to their health,
  the Eighth Amendment is violated.

〈語句〉
・house 他)~を収容する
・nonsmoker 名)非喫煙者
・smoker 名)喫煙者
・prison 名)刑務所
・cell 名)(刑務所の)監房=prison cell
・allow 他)~を許す
・unrestricted 形)無制限の
・smoking 名)喫煙
・expose A to B  AをBにさらす
・nonsmoking 形)禁煙の、非喫煙者の
・inmate 名)収容者、在監者
・level 名)水準、レベル
・ETS 名)環境タバコ煙
・pose 他)(問題など)を引き起こす
・unreasonable 形)不合理な
・risk 名)リスク
・health 名)健康
・Eighth Amendment 名)(合衆国憲法)修正第8条
・violate 他)~に違反する


〈文法〉
● 基本構造:第2文型
   Eighth Amendment is violated
      S        V   C  「修正第8条に違反する。」
    文頭のif節が長く続くが、「コンマ+S+V」の形になっているので、

    これが主文であることが分かる。

  
● if 節内の基本構造:第3文型
   [housing...or allowing...prison]  exposes... inmates to~
           S          V     C
  主語の範囲を確定するには動詞を探す。exposes に3単現のsが付いている

  ので基本構造の動詞であることが分かる。その前までが、前置詞句などを含

  めた主語である。

  和訳の方法として、「 [ ] が在監者を~にさらす」を「 [ ] によって在監者

  が~にさらされる」と訳すと読みやすくなる。

● if 節の主語は、目的語をとる動名詞であり、2つある。
    ①housing nonsmokers  
       v     o     「非喫煙者を収容すること」
    ②allowing smoking
       v     o      「喫煙を許すこと」

● to a level of ETS 〔that poses...health〕 
   level 〇 ↖    
         〔that poses...health〕
   ETS × ↙                    

   関係代名詞の that の先行詞が level であるか ETS であるかは、語彙や文法

  の知みでは決定できない「 文法判断の限界 」である。このような場合、

  結局、ちらが筋の通ったストーリーになるかによって確定する。
   ここでは、ETSが健康にリスクをもたらすという一般論を繰り返す必要は

  なく、ETSの水準を説明していると解釈する方が論理的である。「健康に不

  合理なリスクをもたらす水準」


〈訳〉
 非喫煙者と喫煙者を同じ監房に収容することによって、あるいは刑務所の

 他の場所において無制限に喫煙を許すことによって、非喫煙者の在監者が

 健康に不合理なリスクをもたらすレベルのETSにさらされる場合、修正第

 8条の違反となる。



【解説】
  この判決は、監房の同室者が吸うタバコから発生する環境タバコ煙(ETS)に原告をさらすことが合衆国憲法修正第8条の禁じる「残酷で異常な刑罰」(cruel and unusual punishments)にあたるとした珍しい判決である。つまり、狭い部屋に閉じ込められたまま四六時中タバコの煙を吸うことを強制される、いわば「タバコの煙の刑」が「残酷で異常」であるということである。刑務所で受刑者がタバコを吸えること自体が驚きであるが、この判決18年後の2009年にネバダ州は、州刑務所内での喫煙を禁止した(この訴訟の舞台となったカーソン市の州刑務所は財政的理由から2012年に閉鎖された)。カリフォルニア州では、2004年、当時州知事であった俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーが、州立刑務所内での喫煙を禁止する法案に署名し、翌年から施行された。
 「残酷で異常な刑罰」であると度々主張されてきたのは、死刑である。1審で死刑判決を受けた被告人が、上訴のさいに死刑を免れるために、死刑が修正第8条によって禁じられた「残酷で異常な刑罰」であると申し立てるのである。合衆国最高裁は、ジョージア州の死刑を決定する刑事手続きが不適切であるとして違憲判決を下したことはあるが、死刑自体が残酷で異常な刑罰であると判示したことはない。

 

2018年03月04日

R v Blau  ナイフで刺されたエホバの証人が輸血を拒否:傷害罪?殺人罪?

ナイフで刺されたエホバの証人が輸血を拒否して死亡した事件:殺人罪 or 傷害罪 ?

女王 対 ブラウ
Rv Blaue

(1975) 61 Cr App R 271
控訴院刑事部
COURT OF APPEAL CRIMINAL DIVISION
1975

R=regina「女王」 イギリスでは、刑事事件の大部分は、女王(国王)が原告という形をとる。)

 犠牲者は、18歳の少女であった。彼女は、エホバの証人の信者であり、そのことを公言し、その教義にしたがって生活していた。1974年の5月3日の午後おそく、彼女の家に控訴人が入ってきて、性交渉を求めた。彼女は拒絶すると彼は、彼女をナイフで襲い重傷を負わせた。傷の一つは、彼女の肺を貫いた。控訴人は逃走した。少女は、よろめきながら道路まで出て近所の家の前で倒れこんだ。彼女は、救急車で病院に運ばれ集中治療病室に入れられた。外科医が彼女を診断し、深刻な傷害を負っており外科手術が必要であると即座に決定した。彼女は大量の血を失っており、施術できるようにする前提として、輸血しなければならなかった。外科医が自分に輸血することを考えていることを了解するとすぐに、少女は、どうしても輸血されたくない旨述べた。彼女は、輸血されることは、エホバの証人としての自分の信仰に反することになると説明した。医師は、輸血しなければ死ぬと彼女に告げた。彼女は、死んでもかまわないと告げた。彼女は、いかなる状況下でも輸血を受けることを拒否したことを書面で承認することを求められ、承認した。翌5月4日の正午過ぎに彼女は死亡した。
 検察側は、彼女が輸血を受けるように勧められた時に輸血を受けていれば、彼女は死ななかったであろうことを認めた。検察側が召喚した証人は、次のことを証明した。すなわち、彼女は、輸血を拒否した時に意識があり、熟慮の上で、かつ自分の決定がどのような結果になるかを承知した上で、彼女が実際に行った決定を下したことを証明した。陪審に対する最終弁論の中で、検察側は、少女が輸血を受けるのを拒否したことが彼女の死の原因であることを認めた。

 第1審において、被告人は、①故殺(manslaughter)、②暴行、③傷害などで

 有罪とされたが、①について無罪を主張して控訴した。

 英米法では、「殺人」を次の二種類に分けている。
(1)murder 「謀殺」:
 「予謀、予め考えられた悪意(malice aforethought)」をもって行われた不法

  な殺人定義されている。
(2)manslaughter「故殺、非謀殺」
 「予謀なく行われた不法な殺人」と定義されており、挑発(provocation)に

  より生じた激怒状態(heat of passion)で行われた故意殺がその中心をなす。

  また、日本で は「過失致死」にあたる罪も manslaughter に含まれる。

 この事件は、本来謀殺で有罪とすべきケースであろうが、第一審において被告人

 に精神障害(insanity)があり「限定責任」(diminished responsibility)の抗

 弁が認められ、故殺で有罪となった。
   控訴審において被告人は、被害者が輸血を拒否しなかったら死亡しなかった

 のであるから、故殺に該当しないと主張した。


≪Par.1≫  
[1] Counsel for the appellant submitted that the jury should have been directed that if they thought the girl's decision not to have a blood transfusion was an unreasonable one, then the chain of causation would be broken. [2] At once the question arises -- reasonable by whose standards? Those of Jehovah's Witnesses? Humanists? Roman Catholics? Protestants of Anglo-Saxon descent? [3] But he might well be an admirer of Eleazar who suffered death rather than eat the flesh of swine (Maccabees, ch. 6) or of Sir Thomas More who, unlike nearly all his contemporaries, was unwilling to accept Henry VIII as Head of the Church in England. [4]Those brought up in the Hebraic and Christian traditions would probably be reluctant to accept that these martyrs caused their own deaths.

[第1文]
 Counsel for the appellant submitted that the jury should have been
 directed that if they thought the girl's decision not to have a blood
 transfusion was an unreasonable one, then the chain of causation would be
 broken.

〈語句〉
● counsel 名)弁護士 イギリスの弁護士の2つの種類につては、Contract Law

 の事件、Krell v Henry 「クレル 対 ヘンリー」の導入部の説明参照

● appellant 名)控訴人、上訴人
  イギリスでは、第1審である「高等法院(High Court of Justice)」から第

 2審「控訴院(Court of Appeal)」へ上訴(控訴)する場合、appeal(上訴、

 控訴)という言葉が使われる。それを行う人が appellant である。これら2つ

 の裁判所は、同じ場所にある。

  これらの言葉は、控訴院から「貴族院(House of Lords)」(2009年

 9月まで)や 「最高裁判所(Supreme Court)」(2009年10月設立))

 へ上訴(上告)する場合も、同様に使われる。


・submit 他)1.~であると提案する、述べる、2.~を提出する
・jury  陪審
● direct 説示する
 陪審が評議に入る前に、裁判官が陪審に対して、適用される法律や陪審が判断

 すべき事実の争点などについて説明すること。アメリカでは、同じ意味で

 “instruct”という語が用いられる。


・decision 名)決定
・blood transfusion 名)輸血 
・unreasonable 形)不合理な
・chain 名)1.連鎖、2.鎖
・causation 名)1.原因、2.因果関係 


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
   Counsel submitted {①that ~ broken.}
     S     V       O  

   「弁護士は、{ ① }と述べた。」


文型の多重構造
 { ① }の内部の基本構造:第2文型
   jury should  have been directed {②that if ~broken}  
    s            v     c
  「陪審は、{ ② }であると説示されるべきであった。」
    should have been 「~されるべきであった(のにしなかった)」

 { ② }の内部の基本構造:第3文型
   if they thought {③that the girl’s~one},  then~ broken.
     s     v      o
   「もし彼らが { ③ } と考えたとすれば、それなら~。」

 { ③ }の内部の基本構造:第2文型
   decision was one  
     s     v   c
 
● girl's decision ←〔not to have a blood transfusion〕 was
          不定詞の形容詞的用法

● if 節に対応する主節が、the chain…brokenであることは、前にthen(もし~

 なら、それならば…)があること、「コンマ+S+V」の形が続くことから分か

 る。if 節から節の最後のbrokenまでが、submitted that…の節に含まれるこ

 とも分かる。


〈訳〉
 輸血を受けないという少女の決定が非合理的であると陪審が考えたなら

 ば、因果関係の鎖が切断されると陪審が説示されるべきであったと、控

 訴人の弁護人は述べた。



[第2文]
  At once the question arises -- reasonable by whose standards?  Those of
  Jehovah's Witnesses? Humanists? Roman Catholics? Protestants of
  Anglo-Saxon descent?

〈語句〉
・at once 副)ただちに   
・question 名)疑問
・arise 自)生じる 
・reasonable 合理的な 
・standard 基準   
・Jehovah's Witness 名)エホバの証人
・humanist 名)人道主義者
・Roman Catholic 名)(ローマ)カトリック教徒
・Protestant 名)プロテスタント
・Anglo-Saxon 名)アングロ・サクソン人 
・descent 名)家系、出身


〈文法〉
● “reasonable by whose standards?”は、By whose standards is it reasonable?
 「誰の基準によってそれが合理的であるのか?」を省略した文。 
  itは、前文の「輸血の拒否」の決定を受けている。

● those は standards の繰り返しを避けた言葉:「~のそれら」→「~の基準」


〈訳〉
 ただちに次の疑問が生じる。誰の基準によって合理的であるのか?エホ

 バの証人の基準か? 人文学者か? ローマ・カトリック教徒か?

 アングロ・サクソン系のプロテスタントか?



[第3文]
  But he might well be an admirer of Eleazar who suffered death rather than
  ate the flesh of swine (Maccabees) or of Sir Thomas More who, unlike
  nearly all his contemporaries, was unwilling to accept Henry VIII as Head
  of the Church in England.

〈語句〉
・might well be ~であったとしてもおかしくない
・admirer 名)崇拝者   
● Eleazar 「エレアザル」旧約聖書の登場人物。この判決の注に記された第2マ

 カバイ書(2 Maccabees, ch 6, vv 18-31)には以下のような記述がある。

  ヘレニズム文化を推し進めるシリア王のアンティオコス4世は、人々にユダ

 ヤの神を捨ててギリシアの神々を礼拝することを強要し、律法学者エレアザル

 にも律法が禁じている豚肉を食べることを強要した。エレアザルはこれを拒否し、

 処刑された。

・suffer 他)(苦痛など)を被る、忍ぶ 
・rather than ~よりむしろ
・flesh 名)肉     
・swine 名)豚、イノシシ
Thomas More トーマス・モア(英1478-1535)『ユートピア』の著者。ヘン

 リー8世をイギリス国教会の首長とする「国王至上法(Act of Supremacy)」

 にカトリック教徒の立場から反対したため反逆罪で処刑された。

・unlike ~と異なって  
・nearly all ほとんどすべての
・contemporary 名)同時期の人、同年齢の人 形)同時代の 
・be unwilling to do ~するのに気が進まない
・accept A as B AをBとして受け入れる
Henry VIII ヘンリー8世
・Church of England イギリス国教会 


〈文法〉  
● 基本構造:第2文型
  he be adimire
    S  V   C  「その人は崇拝者である。」
         he 「その人」は前文の「誰の基準」を受けている。

● admire ofの2つの目的語が文末まで続いている。
           ↗ Eleazar〔who suffered ~ swine〕
    admirer of
           ↘ Sir Thomas More 〔who~ England〕


〈訳〉
 しかし、その人は、豚肉を食べるよりも死を甘受したエレアゼル(マカベ

 ア書第6章)の崇拝者、あるいは、ほぼすべての同時代人とは違って、ヘ

 ンリー8世をイギリス国教会の首長であると認める気になれなかったトー

 マス・モアの崇拝者であってもよいかもしれない。



[第4文]
 Those brought up in the Hebraic and Christian traditions would probably be
  reluctant to accept that these martyrs caused their own deaths.

〈語句〉
・those 人々
・bring up ~を育てる
・Hebraic 形)ヘブライ人(語・文化)の 
・Christian 形)キリスト教の、キリスト教徒の、名)キリスト教 
・tradition 名)伝統   
・probably 副)たぶん、おそらく
・be reluctant to do ~するのに気が進まない 
・accept 他)1.を受け入れる、2.を承諾する 
・martyrs 名)殉教者 
・cause 他)~の原因となる、~を引き起こす


〈文法〉
● 基本構造:第2文型
  Those be reluctant
    s     v    c    「人々は気が進まない。」

● Those brought up=Those people ←〔(who were) brought up~tradition〕
  brought upは、後に目的語がないので過去分詞の形容詞的用法と分かる。
  「育てられた(人々)」who were が省略されていると見てもよい。

● would は、主語に仮定が含まれている仮定法過去の用法である。 
  「~した人々ならば・・・するだろう。」

● acceptの目的語が that…であり、その中に第3文型がある。
  accept  { that  martyrs caused deaths}
    v     o    (s)    (v)    (o)
 「 { 殉教者が死を引き起こしたということ } を受け入れる」
      
 
〈訳〉
 おそらく、ヘブライやキリスト教の伝統の中で育った人々であるなら、

 これらの殉教者が自らの死の原因を作ったということを認める気持ちに

 はなれないであろう。
  (※注釈:つまり、暴君がエレアゼルやトーマス・モアを殺したのであり、

    死をもたらした原因が信仰にあるとは考えないということ。)



≪Par.2≫ 
[1] As was pointed out to counsel for the appellant in the course of argument, two cases, each raising the same issue of reasonableness because of religious beliefs, could produce different verdicts depending on where the cases were tried. [2] A jury drawn from Preston, sometimes said to be the most Catholic town in England, might have different views about martyrdom to one drawn from the inner suburbs of London. [3] Counsel for the appellant accepted that this might be so; it was, he said, inherent in trial by jury. [4] It is not, however, inherent in the common law.


[第1文]
  As was pointed out to counsel for the appellant in the course of argument,
  two cases, each raising the same issue of reasonableness because of
  religiousbeliefs, could produce different verdicts depending on where the
 caseswere tried.

〈語句〉
・point out ~を指摘する 
・counsel 弁護人(弁護士) 
・for (~のための→)~を代理する  
・appellant 控訴人
・in the course of ~の過程で、~の間に
・argument 名)議論、弁論 
・case 名)(訴訟)事件、ケース
・raise 他)(問題など)を提起する 
・issue 名)争点、問題
・reasonableness 名)合理性、道理にかなっていること
・because of ~のために(~が原因で)、~を理由とする
・religious 形)宗教上の   
・belief 名)信念、信用
・produce 他)を作りだす、生産する  
・different 形)異なった 
・verdict(陪審の)評決:陪審が評議の後に出す有罪・無罪の決定
・depending on ~次第で、~に応じて
・try 他)を裁判にかける、を審理する


〈文法〉
● As was pointed out…=As it was pointed out…
  it は後続の内容を指している。この表現は、As と was の間に主語がなく、

  厳密に言うと主文の内容を先行詞とする関係代名詞である。
  「 (主文の内容が)指摘されたように」
         
● to the counsel for the appellant 「控訴人(被告人)の弁護士に対して」と

 あり、指摘したのは検察側である。

● 主文の基本構造:第3文型
  casesproduceverdict
   S    V    O 「事件は、評決を生み出す。」
   主語の範囲を確定するためには動詞を探す。主文には、could produce

   まで動詞がないので、その前までが修飾語句を含めて大きく見た場合の

   主語である。

● each raising~beliefs
 上の第3文型の基本構造に挿入する形で主語のtwo cases を付加的に説明して

 いる。
  raising は、主文(two cases)と主語が異なる(each)独立分詞構文と解釈

 できるので、適当な接続詞でつなぐ。「2つの事件、そのそれぞれが~を提起し

 ているのであが」。
  分詞構文は、 前後の文脈に合った適当な 接続詞でつなぐ用法であり、何が適

  当な接続詞であるかは自分が考える
   ・Feeling sick, Mary went to school.  
      「体調が悪かったけれども、メアリーは学校に行った。」        
   ・Feeling sick, Mary was absent from school.  
     「体調が悪かったので、メアリーは学校を欠席した。」
  ~ing 主語が後続文の主語と異なる場合、~ing の前に主語を明示する
    ・Her mtoher feeling sick, Mary was absent from school.   
    「お母さん体調が悪かったので、メアリーは学校を欠席した」

● issue of の of は同格である「~という争点」。

● reasonableness~beliefs の because of がどの語を修飾しているのは、語彙や

 文法知識だけで決定できない「文法判断の限界」である。このような場合、ど

 ちらがの通った話になるかによって確定する

  1つの方法は、周辺の単語を掛かりに他の部分と論理的につながる内容を考

 えることである。
  ここでは「合理性」「宗教の信念」という言葉から、第1パラグラフで問題

 とされた「エホバの証人の信仰のために輸血を拒否することが合理的かどうか」

 「カトリック教徒の信念を貫いて国王に処刑されることが合理的かどうか」と同

 様の内容であることが分かる。したがって「信仰上の信念を理由とする合理性」

 という意味の句が一体となっていることが分かる。


〈訳〉
 弁論の過程で、控訴人の弁護人に対して次のことが指摘された。二つの事

 件――それぞれが、宗教上の信念を理由とする合理性という同一の争点を

 提起しているのであるが――は、それがどこで審理されるかによって異な

 る評決を生み出しうる。
  (※注釈:宗教上の信念から輸血を拒否したことが不合理だとする被告人側

     の主張に対して、検察側は、合理的がどうかは一律に決定できず裁判

     の場所が変われば判断が変わるようなものであると指摘している。)



[第2文]
 A jury drawn from Preston, sometimes said to be the most Catholic town

 in England, might have different views about martyrdom to one drawn

  from the inner suburbs of London.

〈語句〉
・draw 他)を引き出す、選び出す 
・Preston 名)「プレストン」 イングランド北西部のランカシャーにある市
・Catholic 形)カトリックの、カトリック的な 
● might 「~かもしれない」 文法上はmayの過去形であるが、mayよりも可能

  性の低在の推測の意味で用いることがある。
 
・view 名)見解、意見 
・martyrdom 名)殉教
● inner suburbs of London 「内郊外」
  大都市周辺の郊外で、都市の中心部に近接した地域のこと。1965年にで

  きた行政区画の「大ロンドン(Greater London)」の内側にあり、12の

  区(borough)で構成されるInner London のこと。その外側には、20の

  区で構成される OuterLondon がある。
       

〈文法〉
● 基本構造:第3文型
   jury have view
    S   V   O「陪審は見解をもつ」
 A jury の後、drawn、said は形容詞として機能できるが、might have は、動詞

 としてしか機能しないので、それが基本構造の動詞であることが分かる。 

●A jury ←〔drawn from Preston〕
  drawn は、後に目的語がないので過去分詞の形容詞的用法であることがわ

  かる。「プレストンから選ばれた陪審」
         
● sometimes said to be…
  saidは、過去分詞の形容詞的用法としてPrestonを修飾している。関係代名

  詞が省略されていると見てもよい。

    Preston, [which is] sometimes said to be…
   say A to be~「Aが~であると言う」の受動態、A is said to be~

   「Aは~であると言われている」という形がもとになっている。

● different view…to~「~とは異なる見解」 
 「~と異なる」という場合の前置詞は通常 from(または than)を用いるが、

  イギリでは to が用いられることがある。この文章ではすぐ後に from が

  あって紛らわしto が使われているのであろう。

● one draw from の one は jury の繰り返しを避けるための語である。
  = a jury drawn from... 文頭と同じ表現。


〈訳〉  
 殉教について、イングランドの中でもっともカトリック的であると言われ

 ることがあるプレストンから選ばれる陪審は、ロンドンの内郊外から選ば

 れる陪審とは異なる見解をもっているかもしれない。



[第3文]
 Counsel for the appellant accepted that this might be so; it was, he said,
  inherent in trial by jury.

〈語句〉
・counsel 弁護人(弁護士)  
・appellant 控訴人
・accept that~ということを(事実として)受け入れる、認める
・so 「そう」
・inherent 形)本来備わっている、固有の
・trial by jury 陪審による審理(陪審裁判)


〈文法〉
● this might be so; it was~
 this と it は、両方とも第2文の内容「どこで裁判が行われるかによって宗教上

 の信念の合理性の判断が異なること」と受けている。

● it was, he said, inherent~ = he said [that] it was inherent~


〈訳〉
 控訴人の弁護人は、それはそうかもしれないと認めたが、それは陪審によ

 る審に内在することであると述べた。
 (※注釈:控訴人(被告人)側の弁護人は、「陪審はそもそも裁判所が所在す

    る地区から選ばれるので、その地区の特色が陪審の判断に反映する。

     判断が場所によって変わることは、宗教上の争点に限ったことではな

    いので、そのことがこの事件における輸血拒否の不合理性を否定するも

    のでではない」と主張しているである。)


                              
[第4文]
 It is not, however, inherent in the common law.

〈語句〉
・inherent 形)本来備わっている、固有の
● common law コモンロー この言葉は主として次の3つの意味で使われる。
  ①(衡平法に対する)コモンロー
  ②(フランス法などの大陸法に対する)英米法
  ③(議会制定法に対する)判例法
 ここでは③の意味、つまりイギリスの判例法という意味で使われている。

〈文法〉
   ・文頭のItは、前文のthis, it と同様に第2文の内容を受けている。
   ・控訴人の弁護人が使ったのと同じ “inherent in” が使われているのは、
    “trail jury”(第3文)と“common law”を対比させて効果的に反論する

    ためである。


〈訳〉
  しかしながら、それは、コモンローには内在しない。
 (※注釈:裁判官が言いたいことは、「裁判の場所(陪審員の傾向)によって

    合理性の判断が変わるということはコモンローに固有なことではなく、

    コモンローの政策は、次のパラグラフで述べるように一貫している」

    ということである。)



≪Par.3≫
[1] It has long been the policy of the law that those who use violence on other people must take their victims as they find them. [2] This in our judgment means the whole man, not just the physical man. [3] It does not lie in the mouth of the assailant to say that his victim's religious beliefs which inhibited him from accepting certain kinds of treatment were unreasonable. [4] The question for decision is what caused her death. [5] The answer is the stab wound. [6] The fact that the victim refused to stop this end coming about did not break the causal connection between the act and death.


[第1文]
  It has long been the policy of the law that those who use violence on

  otherpeople must take their victims as they find them.

〈語句〉
・policy 名)政策、方針 
● law  この場合は、一般的な「法」という意味ではなく「コモンロー」という

   意味で用いられている。 legal という形容詞にも、「コモンローの」とい

   う意味がある。

・those 名)人々 those people のpeople が省略されたもの。
・violence 名)暴力
・on 前)~に対して
・take 他)を受けとめる、受け入れる  
・victim 名)犠牲者 


〈文法〉
● 基本構造:It has~ { that…them }
 文頭にItがあるので、It~thatの構文であることが分かる。
 (それは~です。that…ということは。→)「…ということは~である。」

● has been は、現在完了の継続用法「(昔から)ずっと~であった。」

● that節内部の基本構造: 第3文型
  those←〔 who use... 〕take victims
   S         v1    V2   O

    「人々は犠牲者を受け止める。」
  主語に関係代名詞が付いた場合は、関係代名詞節内に動詞が1つあるので、
  2つ目の動詞が基本構造の動詞であり、そこまでが関係代名詞節である。

● as they find them(=victims)
 (かれらが犠牲者を見出したとおりに→)「あるがままに」


〈訳〉
 他の人々に暴力を用いる人々は、その犠牲者をありのままに受け入れなけ

 ればならないというのが、長年にわたるコモンローの政策であった。



[第2文]
 This in our judgment means the whole man, not just the physical man.

〈語句〉
・in our judgment われわれの判断では  
・mean 他)~を意味する
・whole 形)完全な、丸ごとの
・physical 形)1.身体の、肉体の、2.物質の


〈文法〉
● This は、= man の関係(This…means…man)になるから、前文に後続のman

 に該当するものがないかを検討すると、「ありのままの犠 牲者」の意味であ

 るとが分かる。

● not just the physical man 「単に肉体としての人間だけでなく」
 つまり、whole man は、「信仰(精神)を含めた人間」という意味である。


〈訳〉
 われわれの判断では、これは、肉体としての人間にとどまらず、全体とし

 ての人間を意味する。



[第3文]
  It does not lie in the mouth of the assailant to say that his victim's

  religiousbeliefs which inhibited him from accepting certain kinds of

  treatment wereunreasonable.

〈語
・lie 自)横たわる、ある、存在する  
・assailant 名)攻撃者、襲撃者
・victim 名)犠牲者  
・religious 形)宗教上の
・belief 名)信念  
・inhibit A from ~ing 他)Aが~するのを妨げる、阻止する
・accept 他)を受け入れる  
・certain 特定の:certain kinds of~ 特定の種類の~
・treatment 名)1.治療、2.取り扱い、処遇
・unreasonable 形)不合理な


〈文法〉
● 基本構造: It does not~ [to say…unreasonable]
  It が前文のThisやmanを受けているとすると「犠牲者や人が口の中にない」

  という意味不明な文になるので、後ろの to say とつながってIt~toの構文

  になっていることが分かる。
   「~と言うことは、加害者の口の中にない」というのも何が言いたいか分

  かりずらいが、文脈から判断して「~と言うことは、加害者には断じて許さ

  れない」というらいの意味である。

● that節内部の基本構造:第2文型  
  beliefs〔which inhibited ~ treatment〕were  unreasonable.
    S                  V      C
   2つ目の動詞(were)の前までが関係代名詞節である。
   「信念は不合理であった。」
                          

〈訳〉
 犠牲者の宗教上の信念が、特定の種類の治療を受けることを妨げた場合、

 その信念が非合理的であったなどということを口にする権利は加害者に

 はまったくない。


[第4文]
 The question for decision is what caused her death.

〈語句〉
・question 名)問題
・for 前)~のための→~を求められている
・decision 名)決定    
● cause 名)原因  他)~の原因となる        
  英単語の名詞は、名詞の意味に対応した動詞として使われる ことが多い 。
    例)She watered  the flowers.「彼女はその花に水をやっ。」  
      He  oiled  his bicycle.「彼は、自分の自転車に油をさした。」   

・death 名)死


〈文法〉
● 基本構造:第2文型
  question is {what…death}
   S     V    C   「問題は、{  }である。」

what caused death
   S     V   O
  what は、外側では第2文型の補語になっているが、内側では第3文型の主語

  になっている。「何が死の原因になったか」


〈訳〉
 決定を求められている問題は、何が彼女の死の原因となったかである。



[第5文]
 The answer is the stab wound.

〈語句〉
・stab 名)刺すこと    
・wound 名)傷 

〈訳〉
  その答えは、刺し傷である。



[第6文]
 The fact that the victim refused to stop this end coming about did not
  break the causal connection between the act and death.

〈語句〉
・fact 名)事実
・victim 名)犠牲者 
・refuse 他)を拒絶する
・come about 起こる、生じる 
・break 他)を壊す
・causal connection 名)因果関係  
・act 名)行為


〈文法〉
・基本構造:第3文型
  fact{that~refused~}break connection
    S        v1   V2    O 「事実は関係を切断する。」
   いきなり主語にthat節が付いた場合は、その用法に関わらずthat節内に

   動詞が1つあるので、2つ目の動詞が基本構造の動詞である。

● fact ={thatvictim refused(to stop this end coming about)}
        S    V     O 
  後に第3文型の完全な文がつづいているので、このthat節は同格である。
  「~という事実」

● stop this end coming about     
  stop A ~ing = stop A from~ing「Aが~するのを止める  

● this end 「この結末」=犠牲者が死ぬこと

●「事実は~を切断しなかった」→「事実があっても、~は切断されなかった。」


〈訳〉
 犠牲者がこの結末が生じることを妨げることを拒んだという事実があっ

 ても、行為と死の間の因果関係は切断されなかった。




≪Par.4≫
[1] In a civil tort case, the wrongdoer can require his victim to mitigate his damage by accepting treatment of a normal kind. [2] As counsel for the Crown pointed out, the criminal law is concerned with the maintenance of law and order and the protection of the public generally. [3]A policy of the common law applicable to tortious liability is not appropriate for the criminal law.  
 Appeal dismissed.


[第1文]
  In a civil tort case, the wrongdoer can require his victim to mitigate his
  damage by accepting treatment of a normal kind.

〈語句〉
・civil 形)1.民事の、2.市民の、民間の
● tort 名)不法行為
  不法行為(tort)とは、故意か過失によって他の人を傷つけたり、他の人の物
 を壊したりするなど、その損害を賠償する必要のある行為のことである。交通
 事故などの場合である。
  この事件のように他の人を故意に負傷(死亡)させた場合、刑事責任に加え
 て、不法行為による民事上の損害賠償責任も負うことになる。

・wrongdoer 名)1.不法行為者、2.犯罪者
・require A to do~ Aに~することを要求する
・victim 名)犠牲者
・mitigate 他)1(損害など)を軽減する、2(苦痛など)を和らげる  
● damage 名)損害、複数形(damages)で「損害賠償(額)」という意味に
  なる。
   例えば、売買契約の買主が、買った物品の価格が、引渡し前に下落したた
  めに、他から契約価格より安く買い、もと契約の物品の引き取りを拒んだ場
  合、売主は、受取りを拒否されて手元にある物品を第三者に売却することに
  よって、もとの買主の契約違反によって生じた損害を軽減する義務を契約法
  上負っている。              
   
・accept 他)を受け入れる  
・treatment 名)1.取り扱い、2.治療
・normal 形)通常の、正常な


〈文法〉
● 文法判断の限界
 by accepting~が修飾している動詞について文法上2つの可能性がある。
  ① require と ② mitigateである。
 どちらであるかは、文法判断の限界に属する事項である。
  ①「不法行為者は通常の治療を受け入れることによって
    ~を犠牲者に要求する」
     治療を受け入れるのが不法行為者になって不合理である。×
  ②「通常の治療を受け入れることによって損害を軽減することを
    犠牲者に要求する」
     治療を受け入れるのが犠牲者になり論理的な文になる。〇
       ① require… × ↖  
               by accepting~
       ② mitigate 〇 ↙  

〈訳〉
 民事の不法行為のケースでは、不法行為者は、その犠牲者に対して、通常
 の治療を受け入れることによってその損害を軽減すべきことを要求できる。
 (※注釈:例えば、保険でカバーされている通常の治療法と薬で適切かつ充分
    な治療が可能であるのに、保険のきかない高額で新奇な治療を受けては
    ならな、というとである。この事件との関連では、被害者は輸血を
    受けることによって死亡という結(損害)を傷害という結果(損害
    に軽減できたと被告人側の弁護士が主張しているである。)



[第2文]
  As counsel for the Crown pointed out, the criminal law is concerned with
  the maintenance of law and order and the protection of the public
  generally.

〈語句〉
・counsel 名)弁護人
● Crown は、名)1.王冠、2.王位  ここでは、犯罪を処罰する権限と
  義務をもつ「国王側、検察側(prosecution)」という意味で使われている。

・point out 指摘する    
・criminal law 名)刑法
・is concerned with~に関わる  
・maintenance 名)維持、持続
・law 名)法
・order 名)秩序
・protection 名)保護
・public 名)国民、市民、公
・generally 副)一般的に


〈文法〉
● concerned withの目的語は、一見すると3つの語句の並列のように見えるが、
 その場合は、3つ目にしか and が付かない。“law and order”「法と秩序」は、
 慣用句とし一体となっているので、maintenance~ と the protection~の
 2つの並列である。
               ↗ maintainance of law and order
     is concerned with  
              ↘ protection of the public   

〈訳〉
 国王側の弁護人が指摘したように、刑法は法と秩序の維持と、国民の保護
 全般に関わる。



[第3、4文]
 A policy of the common law applicable to tortious liability is not appropriate
 for the criminal law.  Appeal dismissed.

〈語句〉
・policy 名)政策  
・common law コモンロー
・applicable 形)適用できる、当てはまる
・tortious 形)不法行為の    
・liability 名)責任
・appropriate 形)適切な    
・criminal law 名)刑法
・appeal 名)上訴、控訴、他)上訴、控訴する
・dismiss 他)(訴え)を棄却する
 

〈文法〉
●    policy      ↖
      of       applicable to tortious liability
    the common law ↙  

  前置詞句などの付いた形容詞句は、後ろから前の名詞を修飾する。
  意味から考えて applicable~はcommon law ではなくpolicyを修飾する。

● Appeal [is] dismissed. 受動態のis が省略されている。


〈訳〉
 不法行為責任に適用可能なコモンローの政策は、刑法には不適当である。
 控訴棄却。
 (※注釈:不法行為の損害軽減義務をこの事件に当てはめると、被害者は輸血
    を受け入れることによって損害を軽減すべきであったということなるが、
    その政策は、民法関するものであり、刑法には妥当しないということ
    である。)


【解説】
 犯罪行為として行為者に責任を問うには、その行為と犯罪被害との間に因果関係がなければならない。どのような場合に因果関係があるかについては、いくつかの説がある。
AがなければBがないと言える場合、AとBとの間には因果関係があるとする説がある。この説は「条件説」と呼ばれている。この事件での控訴院の判決は、「何が彼女の死の原因となったかである。その答えは、刺し傷である」と述べていることから、条件説に従ったと言える。つまり端的に「被告人がナイフで刺さなければ被害者の女性は死ななかった」と判示した。
 これに対して、「社会生活上の経験に照らして、通常その行為からその結果が発生することが相当であると見られる関係」がある場合に因果関係を認める説がある。これは「相当因果関係説」と呼ばれている。仮にこの事件に相当因果関係説を当てはめたとすれば、被告人が被害者に負わせた程度の刺し傷では「社会生活上の経験に照らして、通常」死亡に至ると見ることは「相当でない」から、被告人に殺人罪を問えない、ということになるかもしれない。
 しかし、例えば、もともと病弱だった人を刺して、その人が死亡した場合、健康な人なら死亡するまでには至らなかったとして殺人罪に問えないというのは、不合理であろう。控訴院は、「他の人々に暴力を用いる人々は、その犠牲者をありのままに受け入れなければならない」と述べている。被害者が病弱だったから死亡したという抗弁が認められないのと同様に、被害者の宗教上の信念による輸血拒否によって死亡したという抗弁は認められない。ある宗教を信じている人にとって、他の宗教の教義や慣行は「不合理」に見えるというのは普通のことである。刑法に違反するような反社会的なものでないかぎり、被害者の宗教上の信念が不合理であるとして、加害者の罪を減刑することはできない。これが控訴院判決の趣旨である。



2018年03月04日