利尻島へ

仙法志御崎公園より夏雲湧く利尻山
◆【利尻島滞在日】 2006年8月13〜15日と16日
パタゴニア


◆【記録と画像】
13日   くもりのち晴れ

サロベツ原野上空まで来ると、左前方に山頂を雲に覆われた島影が見え始めた。

その島、利尻島は南の屋久島とともに、若い頃よりいつかは訪れたいと思っていた島の一つだった。

ここまで来れば、さぞかし気分の高揚を覚えるかと思いきや、利尻山自体がガスに覆われ見えなかったせいか、あまりそんな気持ちにはならなかった。

低空飛行で島をぐるりと廻り込みながら飛行しだすと、地図のとおりの島の形が眼下に広がり、永年の想いがやっと叶うときが近づきつつあることに、それなりの感激めいたものが湧きあがってきた・・・。

「ここが仙法志で、あの池がオタトマリ沼。そうすると、あの集落が鬼脇か。」

相変わらず山は姿を見せてくれないが、下調べしておいた集落が次々と手に取るように現れるから気分は盛り上がる。

利尻島へは神戸より空路、千歳へ渡り、さらに乗り継ぎ空路で入った。

眼下に広がる風景をことのほか間近に見れるのは、乗っているこの乗り物が、今となっては離島やへき地航路にしか就航していないプロペラ機だからこそ。

機内は小ささから来るちょっとした窮屈感はあったが、離陸の際は目線が低くいかにも車が飛ぶような感覚で地上を離れたのは新鮮だった。

巡航高度はジェット機に比べれば半分以下の4500メートルで下界はよく見えるし、それ以上に主翼が機体の上部から生えたような格好の構造上の要因から下界の視界は良好だ。

巡航速度も、やはり半分強ほどなので気流の影響もほとんど受けず、思いのほか快適な飛行が続く。

石狩平野はもちろん留萌市街のほか、天売、焼尻島、天塩川河口やサロベツ原野付近の海岸線も近くに見えた。

北の台地 留萌市街地
北の台地 留萌市街地
最前列はボックス席 天売島(奥)と焼尻島
最前列はボックス席 天売島(奥)と焼尻島
そんな空中遊泳的飛行も、そこは飛行機。30〜40分の飛行を経て、島影を見るようになれば、もう着陸態勢だ。

礼文島の島影が見えるようになると、写真で何度も見たペシ岬らしきコブのような丘がすぐそこに見えてきた。

「利尻島か・・・。」

いよいよ利尻島にランディングのときが近づいてきた。

機長の操縦が上手かったのか機体が小さいせいなのか、はたまたただ単に気象条件がよかったのか、そんなことはどうでもいいのだが衝撃はほとんどなくランディングした。

タラップを伝い、利尻島に第一歩を記す。

利尻島に下り立った第一印象は、意外にも利尻山のことを思ったものではなく、
「遠い島まで来たな〜。」
だった。

この山にあこがれてここまで来た割には、山のことを何も思わなかったことは自分でも何か不思議な感じだった。

利尻山がこれまでどおり雲に隠れていたせいだろうか。

利尻空港のボンバルディア 利尻空港より礼文島
利尻空港のボンバルディアDHC8-Q300 利尻空港より礼文島
滑走路を歩きターミナルビルへ入ると、予約しておいたレンタカーのデスクへ向かう。

一抹の不安があったが、何といっても離島の小さな飛行場、迷うことはない。

レンタカーを借りるのは自分以外には一組のアベックだけのようだ。

しばらく時間があったので空港前に出てみると、海の向こうに横たわる島影が見えた。
「あれが礼文島?」

ここに来るまでに何度も何度も地図を見て、北海道とこの利尻、礼文の位置関係を頭にたたき込んだつもりだったが、いざその場に身を置くと、目の前に見えている島が礼文島に違いないことは分かっても、それがどちらの方向なのかが、よく理解できない。

方向感覚がおかしくなってしまったようだ。

マイクロバスに乗り込んだら港へと向かい、フェリーターミナル前の事務所で手続きを済ませたら予約しておいたレンタカーに乗り込む。(この島ではレンタカーを借りれば空港と鴛泊フェリーターミナル間を送迎してくれる)

宿泊地のファミリーキャンプ場「ゆ〜に」は、車でなら港から5分ほどの場所だった。

チェックインし荷物を降ろしたら、先ずは島内観光ドライブに出掛ける。

時計と反対回りで車を走らせる。

鴛泊市街地を抜けると、すぐに夕日ヶ丘展望台。空港を過ぎ、栄浜付近では右手に礼文島がよく見える。

今はあいにくガスの中で、その大きさの全容を見ることは出来ないが、そのガスの中に聳ているはずの利尻山と、のんびりと海上に横たわる島影とはあまりにも対照的だ。

しばらくすると島内最大の市街地、沓形市街地。

交差点を直進すると足湯があり、すぐ先のこんもりした丘のまわりは沓形岬公園。

「雄大な利尻山が見えればよかったのだが・・・。」

少し後戻りし、沓形コースの登山口となっている見返台園地展望台へ車を走らせる。

広葉樹帯の道を高度を上げながらをしばらく走ると、行き止まりの駐車場に着く。

10分ほど急な遊歩道を歩くと、立派な東屋の展望台に着いた。

先ほどまでいた沓形港や海に浮かぶ礼文島は見渡せたが、ハイマツの彼方の利尻山は相変わらずガスに覆われていた。

周回道路に戻り快適なドライブを続けると、やがて南端の仙法志に着く。

この集落はこの島でもっとも漁村らしい小さな集落だった。

海辺を走る道路脇に民家や倉庫が立ち並び、専用の道具が干してあったりする。

時折見かける人たちも、いかにも漁師の風体だ。

その集落のさらに南端に溶岩が磯辺を形成している仙法志御崎公園がある。

陸には土産物屋と、海には天然生けすがあるだけの、他には特に何がある場所ではないように感じられたが、地理的な条件がよかったのか、ここから見る利尻山は山頂がガスに覆われているにもかかわらず、絵になって見えた。(表題画像)

利尻山の噴火によってできた溶岩流の元来の岩の黒さや斜光線によってできる影の黒さと、モクモクと湧く夏雲の白さとのコントラストがよかったのだろう。

沓形岬より利尻山 見返台園地展望台より利尻山を見上げる
沓形岬より利尻山 見返台園地展望台より利尻山を見上げる
オタトマリ沼より利尻東壁 漁船と水平線にサロベツ原野
オタトマリ沼より利尻東壁 漁船と水平線にサロベツ原野(旭浜付近にて)
この付近からは島の東海岸を走るようになる。ちょうど機上からも見えていた辺りだ。

”岬めぐり”を唄いたくなるような海岸の道を行くと、ほどなくオタトマリ沼に着いた。

相も変わらず山頂は顔を見せてくれないので記念写真だけ撮って駐車場を後にした。

ところが間もなく、これまで一度も姿を見せてくれなかった利尻山がここに来て初めてその姿を現し出した。

南面はガスが湧いているが、北面では切れかけている。

島の真ん中に標高の高い独立峰があるこの島では独特のガスの湧き方があるようだ。

このあとも時間の経過とともにガスは晴れ、姫沼にも立ち寄って利尻山を仰ぐと、キャンプ場に帰る頃にはすっかり山は晴れ上がっていた。

これだけ立ち寄っても島内一周はわずか2時間ほどだった。

野塚展望台より 姫沼より利尻山
野塚展望台より 姫沼より利尻山
キャンプ場からは山側には利尻山山頂部、海側にはペシ岬の天辺が居ながらにしてよく見えた。

晴れ上がった空は今日の素晴らしい夕陽を約束してくれているようで、しばらくしたら夕陽のビューポイント、夕日ヶ丘展望台へと向かった。

街外れの展望台の駐車場には数台の車が停めてあった。皆、夕陽を見ようとしている人たちばかりだ。
それもそのはず、今は昼間の天気からは考えられないほどの上天気になっていた。

すぐそこに見える展望台には10分も登れば到着した。
わずかに登れば、ひと味違う景観に出会える。

草地の頂上はのんびりするには最高のシチュエーションで、すでに三脚を立てて構える人、仰向けに寝そべり夕陽を見る人、ほのかに紅く染まる利尻山を腰を下ろし見つめる人・・・。

それぞれがそれぞれの目的に応じた体勢で礼文島の彼方に沈み行く夕陽や、ほんのり赤らんだ利尻山を見る長閑な光景が小さな丘の上で繰り広げられていた。

こちらも三脚を立て、夕陽を狙う。

礼文島のスカイライン付近に雲がたなびき、島影に落日とは行かなかったが、それでも滅多に見ることの出来ない見事な夕陽に遭遇できたことに違いはなかった。

夕日ヶ丘展望台より利尻山 礼文島に沈む夕陽
夕日ヶ丘展望台より利尻山 礼文島に沈む夕陽
サンセットショウを見届けたら、キャンプ場で電球を交換していたおじさんから聞いていた居酒屋、”喰処・こぶし”で夕食と洒落込む。

お盆の時期だったこともあり、お店は地元の若者の同窓会風の団体や観光客も相まって、てんやわんやの大忙し。

もちろん料理は旨かったのは言うまでもなく、最後の一品に小手調べにと思い、うに雑炊を食した。

キャンプ場からは登山口へと続く道路を挟んだ向かい側、徒歩でもわずか2〜3分の至近距離にある利尻富士温泉で今日の汗を流し、今日の締めくくりとする。

明日は利尻山登山の日。
「何とか晴れてくれないかな〜。」


つづきは『利尻山登山とヤムナイ沢』

◆【最北の島、礼文島へ渡る へ

◆【桃岩遊歩道と礼文林道を歩く へ

◆【利尻山の記録へ

◆【礼文岳の記録へ


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