15日の記録は『最北の島、礼文島へ渡る』
16日 くもり時々ガス、小雨
早朝、宿の部屋の軒から落ちる雨だれに、
「やはり、雨か・・・。」
と思いながら目を覚まし窓の外を覗いてみると、意外にもそれは雨音ではなく、別の要因の雫の垂れる音だった。
外へ出てみると確かに直前にぱらっとひと雨あった様子だが今はもう降っておらず、予定通りの行動が出来そうな雰囲気。
今日は知床から元地灯台、桃岩展望台へ歩き、時間の都合で知床林道方面にも足を延ばすつもりだ。
机上では数少ない路線バスを駆使して桃岩展望台のルートを反対方面から歩くつもりだったが、昨晩、宿の主人と話すうち、知床まで送ってもらえることになり、昨日のうちにこんな欲張りなルートを歩けることになっていた。
いかにも朝一のスコトン岬行きのバスに乗りそうなアベックを、6時頃、玄関で見かけた。
「8時間コースを歩くんだな・・・。」
「若いし、二人だし、いいな〜。」
こちらにもそんな歳の頃はあったことも忘れ、つい羨望の目で二人を見てしまう。
早めの朝食を一人でいただき、7時半過ぎ知床まで送ってもらう。早朝には降っていなかったのに、小さな雨が降り出した。
知床バス停脇から、今は廃校となった尺忍小学校を右の丘の上に見て農道のような道を行く。
雑草のごとく生えた道端の高山植物を見ながら歩く風情は、後方に見えるはずの利尻島が見えていなくても何と贅沢なことか。
車止めの支柱をすり抜けると次第に道は細くなり、辺りは放牧場のようになる。
登山路らしくなるとガスの中に突然元地灯台が現れた。ガスの中にモノクロの世界が広がる。
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モノトーンの元地灯台 |
遊歩道のお花畑 |
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ここから桃岩展望台までが礼文のお花畑のメインルートだった。
相変わらずのガスや霧雨にもかかわらず、猫岩、桃岩へと続くルート周辺には筆舌に値する素晴らしい景色が広がる。
猫岩はわずかに見えるか見えないか程度、桃岩に至ってはその影すら見ることはなかったが、お花畑の素晴らしさはそれらを見れなかったことを微塵も感じさせない。
「この上に利尻島が見えれば、どんなに素晴らしいことか・・・。」
桃岩まで来れば反対方面から来たツアー団体が次々に上がってくる。
しかし、ここまでしか足を運ばないツアーでは今日のような天候では展望皆無で、気の毒としか言いようがない。
「本当ならこちらに桃岩が見えます・・・。」
添乗員の解説の言葉が虚しさを表わしていた。
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礼文林道 |
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レブンウスユキソウ群落地より元地海岸 |
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時間的に余裕があったので車道に下り、礼文林道へ。
早足で林道をレブンウスユキソウ群生地へ向かう。
しばらく歩くと標識に導かれ林道をはずれ群落へ。
レンジャー小屋手前の斜面にそれはあった。
少し盛りは過ぎたようだったが、それでも沢山の高山植物に混じりひっそりと咲いていた。
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レブンウスユキソウ |
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見下ろせばこちらの斜面にも高山植物が咲き乱れ、その先にはわずかに元地方面の海岸が見えた。
林道を戻ったら香深へは車道を少し歩く。 |
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宿には11時過ぎに戻ることが出来た。
汗を流させてもらったら、色々お世話になった宿をあとにフェリーターミナルへ。
13時45分の利尻行きのフェリーまでは充分余裕があったので、これまで食べずに取っておいた感のウニを、ターミナル2F『武ちゃん寿司』で、ようやく食す。
上にぎりとウニの軍艦。
昨日の夕食にも出されたウニで、すでに現地でのその旨さは実証済みだったが、ここで食べたウニも、もちろん旨かった。 |
ウニ軍艦 |
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(このせいで、身近にある回りながら出てくる寿司はしばらく食べる気がしなくなった)
胃袋が満たされたら礼文島を離れる時間が近づき名残惜しい気分になっていたが、このあと見た岸壁で繰り広げられた光景に、惜別の思いはより大きくなった。
礼文島で名物ユースとして通っている桃岩荘の若者が繰り広げるパフォーマンス。
岸壁からは
「行ってらっしゃ〜い。」
呼応するようにフェリーからは
「行ってきま〜す。」
「また来いよ、帰って来いよ。」
最果ての島で繰り広げられる光景に、胸に詰まるものがあった。
替え歌に乗せて唄うオリジナル曲も本来なら面白おかしいはずなのに、妙に郷愁を誘う。
(神戸新聞『読者の報道写真コンテスト』で入賞した、この際の画像はこちら)
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岸壁と船上とで繰り広げられる見送りのパフォーマンス |
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桃岩荘の若者たち |
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船上からは「行ってきま〜す。」 |
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フェリーと並走して飛ぶウミネコ |
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こちらが乗り込んだ利尻島行きのフェリーでも、岸壁と船上とで同じ光景が繰り広げられた。
遠くになり行く島影に別れを告げ、短い船旅を終え利尻島に再上陸したら、この旅も終わりが近い。
フェリーターミナルから利尻空港までマイクロバスで送ってもらったら、あとは離陸を待つのみ。
ガスの合い間にわずかに見える利尻山頂を見上げると、着いたときの
「特に感慨はなかった。」
とは裏腹に、とてつもない寂しさに見舞われた。
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利尻空港のB737-500と利尻山 |
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沓形市街地 |
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機上の人となると、ホンのわずかな時間で真下には沓形市街地や山側には西大空沢とガスの流れる山頂を見た。
サロベツ付近を飛ぶようになると
「札幌の天気は雨、・・・。」
の機長のアナウンスの予兆のように、すでにガスの中に入り展望はなくなった。
「利尻島はまさに”利尻山”そのものだったし、礼文島は”花の浮島”そのものだった。」
真っ白になった窓の外を見つめ今回の島旅を振り返り、もの思いに耽った。
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利尻山と西大空沢 |
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ガス湧く利尻山 |
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千歳で神戸行きの飛行機に乗り継ぎ飛ぶと、見覚えのあるオレンジ色のカクテル光線に照らされた加古川の神戸製鋼所が眼下に見えて来た。
明石大橋の真上を低空で滑空すると神戸空港に着陸した。
同じ港でも利尻や礼文の港とはまったく違う趣の神戸の港を見ながら家路に着いた。 |
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