元祖「検波ダイオード」  
(再現と教材化の工夫)


  
★観察実験には専門知識と経験が必要です。本サイトの閲覧は理科教育関係者に限らせていただきます。★

1.概要


当時の鉱石検波ダイオード(現在,入手不可)
(左:直径9mm×長さ27mm,  右:直径8mm×長さ28mm)
  「鉱石」にはダイオードの性質をもつ半導体があり,それを用いた「鉱石ラジオ」はラジオや無線通信の原点がわかる貴重な存在でした。歴史を振り返るため,自ら採集した黄鉄鉱などを用いて「針立て式鉱石検波ダイオード」を自作し,教材利用の鉱石ラジオを復活しました。

  鉱石ラジオは,キットとして市販されたり回路図が公開されている「ゲルマニウムラジオ」が利用できます。ゲルマニウム検波ダイオードの替わりに自作の検波ダイオードを取り付ければよいのです。
  学習への利用を検討する中で,検波ダイオードを取り外した「6石スーパーラジオ」の利用が有効であることに気づきました。これによって,教材としての価値が飛躍的に高まったと考えています。

  他の鉱石も試したくなり,地学の先生からいただいたり購入したりしました。商品の鉱石検波ダイオードに使われていた「方鉛鉱」はもちろんですが,「磁鉄鉱」や「シリコン」などとともに「汚れた10円硬貨」なども使えることに気づきました。鉱石「検波ダイオード」参照。

  鉱石検波ダイオード探しは興味深いものですが,学習を想定すると,生徒を採集に連れて行くのは容易ではありません。また,身近な所に鉱山跡があるとは限りません。更に,現在は,すべてのダイオードが工業製品として別素材で作られています。
  そこで,実験室で検波ダイオードを作ろうと考えました(作らざるをえなくなりました‥)。特別な設備は皆無で無謀な挑戦でしたが,なんと,出来てしまったのです。それが,瞬間「検波ダイオード」です。これは針金を用いて安価,簡単,確実,瞬時に自作できるもので,性能も市販の鉱石検波ダイオード(現在は入手不可)やゲルマニウム検波ダイオードと変りません。

  この実験用に開発した改造ラジオを用いると,LEDなど,市販の各種半導体素子や電子機器も検波ダイオードとして働くことがわかるとともに,それらの特徴を考える教材へと発展しました。市販「検波ダイオード」参照。

  自作ダイオードは,交流の整流用ダイオードとして用いることにも成功しました。自作「整流ダイオード」参照。

2.必要なもの (1)実験用改造ラジオ
  6石スーパーラジオキットを組み立て,「検波ダイオード」の代りに基板穴からシールド線を延ばします。先にはミノムシクリップを取り付け,代用となる自作や市販の検波ダイオードを接続します。

※学習用には6石スーパーラジオキット「エース電気(AR-606型)」を採用し,50台製作しました。電子パーツ店や科学教材社の通信販売などで購入しましたが,現行商品かどうかは不明です。他には,中学校技術家庭科の製作実習用に市販されているキットも利用できました。これらは教材用として,検波ダイオードが独立して存在するよさがあります(注:すべてかどうかは確認できていません。)。市販の完成品ラジオは回路がワンチップIC化されていて,検波ダイオードだけを取り外す事はできないはずです。

6石スーパーラジオキットの例(現行商品かどうか不明?)
左「エース電気(AR-606型)」,右「技術家庭科の実習用キットの例」

改造6石スーパーラジオ「エース電気AR-606」

改造箇所
赤いダイオードマークは基板上の印刷)

6石スーパーラジオ回路例「エース電気(AR-606型)」と検波ダイオード


  当初は回路が簡単なゲルマニウムラジオ(鉱石ラジオと同じ)を用い,ラジオの原理や仕組みも教材化するつもりでした。しかし,3階建てビルの屋上にアンテナを設置したにもかかわらず,音声出力は小さく,混信もあります。また,2台に1本程度の屋外アンテナが必要なこともわかりました。電波状態によっても違うと思い,自宅や友人宅でも試してみましたが同じような結果でした。学習では少なくとも2名に1セットは必要で,これでは教材化は難しいと思いました。
ゲルマニウムラジオ製作部品

・ゲルマニウム検波ダイオード
・バリコン(自作可)
・クリスタルイヤホン
   ・コイル用ホルマル線(エナメル線)
・ビニル電線(アンテナとアース用)

※性能は電波状態とアンテナ線による。
注意:アンテナへの落雷

回路説明の提示用に作ったゲルマニウムラジオ
(アンテナとアースを接続すると,実際に受信可能)

  そこで,6石スーパーラジオの検波ダイオードを利用することに気づきました。仕方なくの採用でしたが,この閃きによってさまざまな発展が可能となり,結果的にはベストな選択となりました。

  学習では6石スーパーラジオの複雑な回路と鉱石ラジオの簡単な回路を並べて提示し,どちらも検波ダイオードが不可欠な存在であることを説明しました。そして,検波ダイオードを調べ易くするために,6石スーパーラジオの優れた感度や分離度や音声出力を利用することを説明しました。なお,鉱石ラジオでも実験が可能な状況なら,それを用いたり,併用してもよいでしょう。


(2)針立て式検波ダイオード装置

  長さ16cmの1.6mmIVコード(屋内配線用単芯ビニル電線)の先にミノムシクリップをハンダづけして垂直に立てました。このクリップに縫い針を挟み,針先を自重で半導体に接触させます。そして,放送が聞こえる場所を探します。半導体表面の様子は想像するしかないのですが,P型とN型の領域が斑模様に分布しているのでしょう。この肝心な部分がよくわかりません。

  この形に行き着くまでにずいぶんと試行錯誤がありました。下図の市販の鉱石検波ダイオードと全く違う構造にお気づきだと思います。そして,性能だけでなく,教材としてわかり易く,扱いやすく,確実な作動を意図し,おもりやバネを用いたり,更にレコードのトーンアームのような構造で加重を加減したりと,さまざまな工夫をしました。また,生徒実験用に50台ほどを製作する手間を考える必要もありました。

  そして,当初の凝った案から徹底的な簡素化を進めて作ったのが「針立て式検波ダイオード」です。少し太いIVコードとミノムシクリップの自重(約6g)で先の縫い針を半導体に押し付けるようになっています。参考資料が全くない中での工夫であり,この形も名称も全くのオリジナルです。


※改造ラジオから取り出した検波回路の端子と針立て式検波ダイオードの接続時の極性ですが,考慮する必要はありません。もともと,検波ダイオードの極性は無視できることと,針の接触位置によってダイオードの向きは変るからです。

※縫い針は,少しでも先端が細いほうが探しやすいと考え「絹針」としました。
  この研究に関して,霜田光一先生(東京大学名誉教授,当時,物理教育学会会長)より,終戦直後に書かれた論文をいただきました。当時の研究の全容を知ることが出来,ありがたいことでした。その中に,針の研究もあり,タングステン針が良い(高周波数特性)という記述がありました。しかし,私の意図は,最高性能ではなく,身近な素材で誰もが作れる必要十分な性能の教材です。
  そこで,家庭やホームセンターにあるさまざまな針を集めて試しましたが,顕著な違いを感じません。まあ,少しでも細いほうがよかろうということと相談した母の意見で「絹針」としました。


検波実験(黄鉄鉱を用いた例,ベースはステンレス板)
(イヤホン:衛生面を考慮し,フィルムケースに取り付けた。)
実験準備

実験の前に検波ダイオードを接続し,
ラジオ放送の受信を確認します。

(キット付属のゲルマニウム検波ダイオードを接続)
参考:市販の鉱石検波ダイオードの構造

貴重品ですが,側面を切り取りました。
方鉛鉱のかけらがバネで押さえてあります。

3.研究

(1)自然の半導体の利用

  採集するか標本店から購入した鉱石表面を針で探り,検波ダイオードとして機能する部分を見つけるとラジオ放送が受信できます。黄鉄鉱・方鉛鉱・天然磁石(磁鉄鉱)・黄銅鉱・斑銅鉱・閃亜鉛鉱などの鉱石が検波ダイオードとなりました。自然の鉱石ではありませんが,シリコンは極めて高性能です。10円玉などの硬貨も,針先で丁寧に探すと検波ダイオードとなる部分が見つかります。
※詳細は鉱石「検波ダイオード」参照

(2)黒錆検波ダイオード

  針金の表面に瞬時に黒錆半導体を作成し,検波ダイオードとします。
※詳細は瞬間「検波ダイオード」参照

(3)市販の半導体素子の活用

   改造ラジオから引き出した検波端子に,市販の各種半導体素子を接続するとラジオ放送が受信できます。これによって,市販半導体素子のダイオードとしての性質を調べます。
※詳細は研究「市販ダイオード」参照

(4)自作「検波ダイオード」を整流用に活用

   検波実験ではありませんが,自作した検波ダイオードを交流の整流に用いる発展実験です。現代の省電力電子機器を用いて可能になりました。
※詳細は自作「整流ダイオード」参照

4.備考

・平成6年度 『東レ理科教育賞授賞作品集』 P54〜56に掲載されています。
・「科学の祭典CD-ROM 『原子の世界へ旅立とう! PART1』 科学技術館」に収録されています。


・2000年7月15日(土)18:30〜19:00テレビ東京「テクノ探偵団」”電子を自由自在!の謎〜半導体〜”で,提供した「原始ダイオード」実験装置が使われました。内容も,ほぼ私のレポートに沿って構成されたようです。
 
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