瞬間「検波ダイオード」  
(オリジナル実験)


  
★観察実験には専門知識と経験が必要です。本サイトの閲覧は理科教育関係者に限らせていただきます。★

1.概要

  「鉱石」にはダイオードの性質をもつ半導体があり,それを用いた「鉱石ラジオ」はラジオや無線通信の原点がわかる貴重な存在でした。歴史を振り返るため,自ら採集したり購入した鉱石を用いて針立て式の検波ダイオードを自作しました。

  このような検波ダイオードは興味深いものですが,学習を想定すると,生徒を採集に連れて行くのは容易ではありません。また,私が採集や購入したものを用いるだけでは興味深い学習は期待できません。そこで,実験室で検波ダイオードを作ろうと考えました。特別な設備は皆無で無謀な挑戦でしたが,なんと,出来てしまったのです。それが,「黒錆検波ダイオード」です。

  これは針金を用いて安価,簡単,確実,瞬時に自作できるもので,性能も市販の鉱石検波ダイオード(現在は入手不可)やゲルマニウム検波ダイオードと変りません。同様の開発例,実践例を調べていますが,今のところ類例のない工夫であると考えています。

2.必要なもの (1)実験用改造ラジオ
  「6石スーパーラジオ」の検波ダイオードを置き換え利用することにより,明瞭なラジオ放送で容易に性能確認ができます。

(2)自作検波ダイオード
  針立て式検波ダイオード,針金(直径1.6mm×長さ10cm程度),金床,金槌,ガスバーナー,水
  (銅線やアルミ線も試しましたが,検波ダイオードになりませんでした。)

3.実験の方法

(1)「黒さび検波ダイオード」の製法

  以前から錆びた鉄が検波ダイオードになることは知られていました。錆びた鉄釘などを探して,ゲルマニウムラジオや改造ラジオで試すと,時々,それらしい音が出ます。しかし,明瞭でなく,不安定で,教材として使えるとは思えません。学習となると,納得できる性能のものを,その場で作る必要があります。

  そこで,鉄釘をいろいろな水溶液に浸けて百種類以上の鉄さび(赤錆)を作りました。それらは全く反応がなく,行き詰まりました。だめもとで試したのが,過酸化水素水を溶かした水(オキシドールに近い)で,結果,斑点状に黒い錆ができました。これが十分な検波性能を示したのです。こうして,赤錆ではなく黒錆がカギであることに,偶然,気付いたのです。

  黒錆の作り方を調べると,「濃い水酸化ナトリウム水溶液をつけて水蒸気中で蒸し焼きにする。」とあり,試してみると,黒光りする鉄釘となり,時々,全面が高性能な検波ダイオードとして機能する見事な釘ができます。しかし,時々では困ります (全く作動しないことが多い)。そして,悩みぬき,閃いたのが以下の作成方法です。

  検波ダイオードして完璧な黒錆ではなく,簡易化による怪しげな黒さびを作り,その中から検波ダイオードとして機能する部分を探そうというのです。発想の転換です。

瞬間「黒さび検波ダイオード」の製作方法
    ア,針金を金床にのせ,先の2cm程を金づちで叩いて広げる。
    イ,広がった部分の半分をガスバーナーで赤熱し,水で急冷する。
       (赤熱した部分は黒光りする。不十分な場合は繰り返してもよい。)


針金の先を金床上で叩いて広げる

真っ赤になった針金の先を瞬時に水に浸ける

  これによって,針金の表面には[黒色〜灰色(金属光沢)]の部分までいろいろな種類の錆ができます。この中から検波ダイオードとして性能のよい部分を針先で探すと,必ず見つかりました。明瞭なラジオ放送が聞こえた瞬間,感激しました。

  黒錆が瞬時にできるという良さもあり,瞬間「検波ダイオード」は教材として画期的なものだと考えています。実際に,1年間,中学生を中心に高校生,市民ら2000人以上に体験していただきましたが,丁寧な実験指示をしなくても,すべてが検波ダイオード作りに成功しました。

加熱前の針金の先(金属光沢のみ)

加熱後の針金の先(黒錆〜金属光沢まで連続的に分布)

  黒さび検波ダイオードは,金属酸化物(MOS型)半導体の一種であり,P-N型のダイオード領域が存在すると考えられます。一般に,金属は酸化の進み具合によってP型,またはN型の半導体になることが知られています。

実験準備

実験の前に検波ダイオードを接続し,
ラジオ放送の受信を確認します。

(キット付属のゲルマニウム検波ダイオードを接続)

黒錆検波ダイオード実験(左:改造6石スーパーラジオ)
    黒錆検波ダイオード実験装置の部分
(2本を比較します)

    ・奥:加熱していない針金
・手前:加熱した針金    



    注:黒錆検波ダイオードが実用になるのは数時間です。
    空気酸化が進み,表面状態が変化するからです。
    つまり極めて短命で,実用にはなりません。
    それも納得できる変化で,興味深いものです。

4.備考

・平成6年度 『東レ理科教育賞授賞作品集』 P54〜56に掲載されています。
・「科学の祭典CD-ROM 『原子の世界へ旅立とう! PART1』 科学技術館」に収録されています。


・2000年7月15日(土)18:30〜19:00テレビ東京「テクノ探偵団」”電子を自由自在!の謎〜半導体〜”で,提供した「原始ダイオード」実験装置が使われました。内容も,ほぼ私のレポートに沿って構成されたました。
 
   自由利用マーク  
《SUGIHARA  KAZUO》