基礎食品化学のーと 9


タンパク質  食品のタンパク質

  1. タンパク質の構造に対するアミノ酸側鎖の効果


    図 タンパク質中に見られる修飾アミノ酸

     

  2. タンパク質の構成による分類

    単純タンパク質   アミノ酸の重合体
    複合タンパク質   糖,脂質,リン酸,色素(ヘモグロビン)などと結びついている
    誘導タンパク質  人工的に加工(ゼラチン)

  3. タンパク質の機能による分類

    繊維状タンパク質 コラーゲン,絹フィブロン,β-ケラチン
    筋肉タンパク質
    酵素タンパク質
    輸送タンパク質 ヘモグロビン,膜タンパク
    免疫タンパク質 免疫グロブリン
    ホルモンタンパク質 インシュリン

  4. タンパク質の分離方法による分類

    アルブミン   水溶性,塩溶液に可溶,凝固しやすい,
    グロブリン  水に不溶,塩溶液に可溶,
    グルテン   水,塩溶液,エタノールに溶けない,酸アルカリ溶液に溶ける
    プロラミン  70%エタノールに溶ける
     

  5. タンパク質の変性

    生物のタンパク質は,α構造,β構造,球状の不規則構造あるいは酵素のような特異的な構造などの構造をもっている.これらの構造を維持しているのは,-SS-結合や水素結合(1-2kJ/mol),分子間力さらに疎水性相互作用などである.タンパク質の変性は,タンパク質の主骨格は変化させずに,構造を維持している結合を切断し,タンパク質のコンホメーションを変化させることである.
     

  6. 食品のうまみ

    アミノ酸のうまみ
    L-グルタミン酸,
    生体内でもっとも多く存在するアミノ酸.必須アミノ酸の合成に使われる. ナトリウム塩は調味料として利用される
    L-アスパラギン酸,
     わずかであるが,うまみを示す

    核酸のうまみ
    イノシン酸, (IMP)
    AMPやGMPの合成に使われる
    かつお,肉,魚肉
    グアニル酸 (GMP)
    干し椎茸
     

    うまみは,口に入れたものが可食であるかの判断に使われる. すべてのアミノ酸や核酸が示す必要がない. グルタミン酸は,生体内でもっとも多く存在するアミノ酸であるので,タンパク質食品であることがわかる.
    グルタミン酸は,タンパク質の原料となるほか,生体内で様々な生合成に関与する.
    発酵,熟成によってタンパク質が分解され,遊離のアミノ酸(グルタミン酸)が増加することでうまみが増す.
     

    加工食品では,うまみ成分,香り成分,食感,色などをコントロールしている.

  7. タンパク質の消化と吸収,代謝

    酵素の分泌と分解
    胃    タンパク質分解酵素(ペプシン)
    膵臓   タンパク質分解酵素(トリプシン,キモトリプシン,カルポキシペプチターゼ,エステラーゼ)
    小腸粘膜 ペブチド分解酵素(アミノペプチターゼ,ジペプチターゼ)
     

    小腸上皮細胞による吸収
    アミノ酸  トランスポーター
    ペプチド  トランスポーター
    タンパク質 回腸 トランスサイトーシスor細胞間隙輸送
     

      
    図 タンパク質の動的平衡       菊池榮一(編),動物タンパク質食品,朝倉書店,1994.

      

    日本人のタンパク質所要量  
    最低必要量は,0.64 g / kg と実験的に求められている
    0.64 g / kg  x (利用効率)-1 x 安全率 x 個人変動による安全率  = 1.08 g / kg

    食品中のタンパク質の割合


  8. アレルギー

    アレルギー原因物質(アレルゲン)が腸膜を通り抜けて,リンパ管あるいは血管にはいり,免疫系を刺激しておこる
    タンパク質はアレルゲンとなりうるが,通常は消化酵素で分解されるので問題とならない
    タンパク質の分解が十分でなく,腸管上皮細胞における免疫グロブリン(IgA)があまり働かない場合など
    卵白,牛乳,肉,魚,甲殻類などで見られる

  9. コラーゲン

    皮膚,骨,軟骨,角膜など体を構成するタンパク質の約3分の1
    多細胞動物に見られるタンパク質
    左巻きらせんが3本1組で3重らせん構造
    グリシンが3つおきにあり,プロリン,ヒドロキシプロリン(グリシンの手前のプロリンが水酸化されている)が多い
    リシンやプロリンは酵素による修飾でヒドロキシル化され,構造安定化に寄与する

    図 ヒドロキシプロリン

    ゼラチン コラーゲンの3本のらせんがほどけたもの.熱水にとけ,冷やすとゲル化してかたまりゼリー

  10. 筋肉のタンパク質

    骨格筋
    筋原繊維


    図 筋肉の構造

     ミオシン 太いフィラメント,塩濃度0.1-0.3 Mでフィラメント,0.4-1 Mで溶解. 筋肉の約55%
      重鎖アミノ酸残基2000,分子量20万+軽鎖残基190&170
     アクチン 細いフィラメント 筋肉の約20%
    トロポミオシン,トロポニン 筋肉の約10%
     αアクチニン(3%),ミオメジン,コネクチン 
     筋漿タンパク(30%),細胞質可溶性タンパク 

    筋肉は70%程度の水分を含むが,食肉になっても大部分保持される.筋原繊維を構成するフィラメントの間に保持される.
    保水性は,温度,塩濃度,pHなどに影響される.
    pHが等電点(5程度)になると,フィラメント間の空間が狭くなり,保水性が低下する.
    乳酸の生成がpHを下げる.
    食塩を添加すると,フィラメント間の反発が強くなり,保水性が増加する.
    塩によりミオシンが溶解し,加熱により編み目構造を作る(熱変性)とゲル化する.----ハム

    ハム
    食肉を5-10%程度の塩に塩漬けにする.(味付け,保存料).塩抜き,成形の後,加熱(65-80℃)による結着
    ソーセージ
    食肉を機械的に粉砕して筋肉タンパクを遊離させる.共存する脂肪によって(O/W)エマルジョンを形成する.加熱により,タンパク質間で編み目構造を形成し,ゲル化する.


  11. 乳のタンパク質

    牛乳を遠心分離すると,脂肪と脱脂乳に分離できる.
    脱脂乳を20℃に保ち,pHを4.6にすると,沈殿する.
    脂肪層 脂肪球皮膜タンパク (1 %)
    沈殿画分 カゼイン (80 %)
    上清画分 ホエータンパク (19 %)

  12. 鶏卵のタンパク質

    表 鶏卵のおよその成分
    卵白  水分 89%   粗タンパク 10%  粗脂肪  0.2%
    卵黄  水分 48%   粗タンパク 16%  粗脂肪  33%

    温泉たまご
    60-70℃で30分. 卵黄は,タンパク質凝集体ができるが,卵白は完全にはゲル化しない.

  13. 大豆のタンパク質

    大豆のタンパク質の90%は水で抽出される. グロブリンに分類される成分で,主としてグリシニンとコングリシニン グリシニンは加熱するとシステインが分子内架橋する 豆腐は,グリシニンがコングリシニンを巻き込んでゲル化し,さらにカルシウムイオン,マグネシウムイオンにより,大量の水を含んだ状態で凝固したもの.


参考文献
タンパク質ものがたり,1998,化学同人
動物タンパク質食品,菊池榮一,1994,朝倉書店
タンパク質の科学,1998,朝倉書店
生体高分子,1984,化学同人
生化学 新食品栄養科学シリーズ,2003,化学同人

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Last updated, June 17 , 2008.