基礎食品化学のーと 7
脂質 (lipid)
おおむね,水に溶けにくく,有機溶媒に解けやすい,植物動物に含まれる物質.
単純脂質
脂肪酸
アシルグリセロール トリアシルグリセロール,ジアシルグリセロール,モノアシルグリセロール
ステロール 3つの6員環に5員環がついている構造の一連の化合物.胆汁酸,種々のホルモン,ビタミンDの前駆体
複合脂質
リン脂質 リン酸を含む脂肪酸のグリセロール,グリセロリン脂質,スフィンゴ脂質
糖脂質 糖がグリコシド結合した脂質
グリセリンと脂肪酸のエステル.
図 7.1 トリグリセリド
利用されている油脂の割合.
植物性油脂 大豆 35%, なたね 31%, パーム,パーム核 14%, トウモロコシ 5%
動物性油脂 魚油 46%, 豚 27%, 牛脂 23%
正式名よりも慣用名が使われる
正式名での位置番号は,カルボキシル基が1になり,炭素数に応じた名前と飽和結合の場所を示す.
食品の分野では,脂肪酸ではカルボキシル基の反対側の遠い炭素を基準にしている.メチル基の炭素をω炭素といい,ω炭素からの位置で不飽和結合の場所を示す.
図 7.4 直鎖脂肪酸 ステアリン酸のスペースフィリングモデル
図 7.5 不飽和脂肪酸 オレイン酸のスペースフィリングモデル
図 7.5b 不飽和脂肪酸 エライジン酸のスペースフィリングモデル
図 7.6 不飽和脂肪酸 リノール酸のスペースフィリングモデル
直鎖脂肪酸の合成
アセチルCoAを介して炭素数が2ずつ増える.したがって食品に含まれる脂肪酸の炭素数は,基本的には偶数.
不飽和結合の導入
不飽和結合は,炭素にして3つおきに入る(非共役).動物では,ω-3とω-6には導入できない.
リノール酸とリノレン酸は,必須脂肪酸
図 7.8 不飽和結合の導入
図 7.9 活性メチレン基
図 7.10 自動酸化の機構
通常の酸素分子は,14の電子のうち12個は対になっているが,2個の電子は,2つの軌道(π*2つ)に分かれて不対電子して存在するバイラジカル構造である.(かがくののおと 8)紫外線や触媒によってエネルギーが与えられると,1つのπ*に2つの電子が入るばあいがある.この酸素分子は反応性が高い.さらにもうひとつ電子が入るとスーパーオキサイドアニオンとなる.これら反応性の高い酸素を活性酸素とよぶ.活性酸素は,不飽和脂肪酸の二重結合に直接反応する.
脂質が酸化され過酸化物になると,分解や重合が進行し,色,におい,粘度が変化していく.
分解により生成するのは,アルデヒド,ケトン,アルコール類
ラジカルはタンパクや糖とも反応し,いずれにしても食品の品質を劣化させる.
抗酸化物
ビタミンE(トコフェロール),C,フラボノイド,ゴマリグナン
合成抗酸化物 ブチルヒドロキシアニソール (BHA),ジブチルヒドロキシトルエン(BHT) 発ガン性が指摘され,現在は使用されていない
油脂の物性
密度 おおむね 0.9 g/ml
屈折率 1.45-1.49
引火点 300-320 ℃
発火点 370-400 ℃
動植物油 引火点が250℃未満の物質は,危険物. ヨウ素価が高い油は自然発火しやすい.
油脂には沸点がないので(沸騰する前に分解する),100℃以上での加熱調理に向いている.しかし,温度が高くなりすぎると,引火する危険がある.
構造と物性
飽和脂肪酸 直線状 結晶化しやすい 融点が高い
不飽和脂肪酸 折れ曲がり構造 結晶化しにくい 融点が低い
炭素数 炭素数が多いほど融点が高くなる
組成分布 脂肪酸の組成がそろっているほど融点の幅が狭くなる
表 トリアシルグリセリドにおける脂肪酸の組み合わせ (脂肪酸の%)
タイプ | カカオ | 牛脂 |
SSS | 2 | 29 |
SUS | 81 | 33 |
SSU | 1 | 16 |
SUU | 15 | 18 |
USU | 2 | |
UUU | 1 | 2 |
物理的性質の調製
テンパリング (カカオ)
加熱して溶解して後,ゆっくり冷却することで,結晶構造を作る.(加熱徐冷 α -> β , もどし β')
ウインタリング 一部結晶化による分離
冷却して一部析出する固体を濾過で除去する.(サラダ油)
エステル交換 グリセリドの組成を入れ替えることによって融点を変える.化学的方法と酵素法(リパーゼ)がある
ウインタリングとエステル交換を組み合わせると,SSS型やUUU型をふやすことができる.(低温10-40℃でのエステル交換反応)
水素付加 不飽和脂肪酸を水素添加により飽和脂肪酸に変える(マーガリン).抽出
クロロホルム-メタノール混合溶媒あるいはエーテルによる抽出
図 7.11ソックスレー抽出器
ケン価
油脂1gをケン価するのに必要なKOHの mg 数.脂肪酸の平均の分子量がわかる
水酸化ナトリウム等のアルカリで加水分解してナトリウム塩になる.せっけん
石けん水を酸性にすると,脂肪酸が析出する.
ヨウ素価
油脂 100 g に付加するヨウ素のg 数.油脂の二重結合の割合がわかる.
酸価
油脂 1 g に含まれる遊離脂肪酸を中和するのに必要なKOHの mg 数.
過酸化物価
油脂 1 kgに対してヨウ化カリウムを加えたときに遊離するヨウ素の mg 数.
油脂を構成する脂肪酸の分析
加水分解とメチルエステル化(エステル交換)
硫酸5%を含むメタノールによりエステル交換(還流75min - 2h)
水洗の後,ヘキサンにより抽出.乾燥の後,減圧蒸留
ガスクロマトグラフィーにより,分離定性定量分析
脂肪酸と1価アルコールのエステル
ロウ 脂肪酸と1価高級アルコールのエステル肉,卵等の動物性の食品に多い.高コレステロール食品の摂取は,動脈硬化の危険因子とされている.しかし,直接的に血中濃度を上昇させるとはわけではないし,われわれの体にとってまったく不必要というわけではない.もともと我々の体の中で合成させているが,その調整機能がくずれたときに問題が生じる.
トリグリセリドは,胃リパーゼにより,1,2-ジグリセリドになる.
短鎖,中鎖脂肪酸では,加水分解を受けやすく,胃でも一部吸収される.
膵リパーゼにより,2-モノグリセリドと脂肪酸に分解される.
胆汁酸やコレステロールにより,ミセルを形成し,小腸上皮細胞から吸収されやすくなる
小腸上皮細胞で再びトリグリセリドに合成され,リンパにより運ばれる
リン脂質
図 7.3 リン脂質
リン脂質は,細胞膜を形成する主成分である.親油性の部分と親水性の部分があり,水の中に2分子膜のミセルを形成する.
ジアシルグリセロールとのリン酸エステル
レシチン(コリン),エタノールアミン(セファリン),セリン,グリセロール,イノシトール
コリンはアセチルコリンの生合成に利用.
マヨネーズは,リン脂質を界面活性剤として利用している.
細胞膜に存在し,糖鎖を外部に出して,分子認識に寄与している.
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