相転移・・・鎖状高分子のガラス転移で誕生した生命?
相転移 :第一種相転移、第二種相転移
参考 : ガラス転移点、真空、系、準安定状態、転移点、転移熱、クラウジウス・クラペイロンの式、
マルテンサイト変態、揮発性・不揮発性、超臨界状態
相転移は、ある系の相が、別の相へ変わることです。
相転移は、準安定状態を持つ第一種相転移と、それを持たない第二種相転移、に大別されます。
相転移を起こす温度や圧力等の状態量における値の組を、転移点といいます。
生命は有機物が相転移して誕生した、と考えると、転移点は何でしょうか?
鎖状高分子は、ガラス転移現象がみられ、低分子とは異なる挙動を示します・・・
生体高分子には、鎖状のものが非常に多く存在しており、ガラス転移点は興味深いですね。
余談ですが、クマムシは、クリプトビオシスという、無代謝の休眠状態をとることで、過酷な環境に耐えることができます・・・
これも一種の相転移でしょうか?
尚、クマムシは、宇宙空間に直接さらされても10日間生存できたようです・・・地球最強の生物、という説もあります。
宇宙といえば、インフレーション理論によると、宇宙は、誕生直後の10-36秒後から10-34秒後までの間に、
エネルギーの高い真空(偽の真空)から、低い真空(真の真空)に相転移してできたようです・・・
現在の宇宙で、真空の相転移が起こると、どうなるのでしょうか?
また、現在の宇宙の外?で相転移が起こると、新しい宇宙が誕生するのでしょうか?(多元宇宙論)
尚、一般相対論の宇宙定数 (Λ) で表される、真空のエネルギーが、ダークエネルギーの正体という説もあります。
欧州宇宙機関(2013年)によると、宇宙の質量及びエネルギーに占めるダークエネルギーの割合は、68.3%だそうです。
相転移(相変態)
相転移は、ある系の相が、別の相へ変わることです。
熱力学または統計力学において、
相は、ある特徴を持った系の、安定な状態の集合、として定義されます。
物質が、気体や液体、固体になる相を、それぞれ気相、液相、固相と呼び、
物質が、気体から液体や固体へ、またはその逆等に、相を変えることを、相転移といいます。
相の定義は、理論が扱える状態の定義に依存します。
平衡熱力学では、準安定状態を熱力学的状態として定義できないため、
準安定状態の組を、相として定義することはできません。
系の相が、多種あるのと同様に、
相転移の機構も、対象とする系と相によって様々ですが、
相転移が起こる理由は、その系にとって、より安定な系の状態が現れたためです。
状態が安定かどうかは、
熱力学では、温度や圧力、磁場、電場等の組み合わせによって決定されますが、
微視的には、原子や分子、核子や電子間の相互作用や、これらと場との相互作用、等が寄与しています。
相転移には、
気相、液相、固相間の転移等(構造相転移)の他に、
炭素が、ダイヤモンドからグラファイトへ変化する等、異なる多形や同素体への転移、があります。
その他、
磁気相転移(常磁性、強磁性、反強磁性等の間での転移)
金属・絶縁体転移(モット転移等)
常伝導・超伝導転移(超伝導)
常誘電体・強誘電体転移
真空の相転移(宇宙論)、があります。
それを持たない、 第二種相転移、に大別されます。
他にも、ポール・エーレンフェストの分類法があります。
相転移は自発的に生じる場合もありますが、
一次相転移のように準安定状態を持ちうる場合は、転移点を越えても相転移を生じない場合があります。
準安定状態では、何らかの外的要因で、核となる新しい相が発生し、それが引き金となって系全体に相転移が波及します。
物質の三態間の状態変化、等があります。
第一種相転移の転移点は、圧力により変化します。
物質固有の三重点以下の圧力では、液相が存在しないため、蒸発や凝縮、融解や、狭義の凝固は起こりません。
また、臨界点以上の圧力では、気相と液相の相違がなくなり、単一の相しか存在しません。
一次相転移点の前後では、エントロピーや、モル比熱等が不連続です。
そして、前後の化学ポテンシャル μ1, μ2 とは一致し、
相転移の状態にある2つの相には、クラウジウス-クラペイロンの式が成立します。
第一種相転移は、準安定状態を持つので、
固体表面や、空間に浮遊する吸湿性の微小粒子やイオン等の、刺激するものが存在しないことが原因で、
転移点を越えても、相転移を生じない場合があります。
電子レンジで過熱した水の突沸は、第一種相転移の準安定状態に由来します。
第一種相転移が進行中の一成分系は、
圧力が一定の場合、系の温度が一定のままでの系外への熱の放出または吸収がみられます(転移熱)。
ある秩序変数が、秩序‐無秩序へと転移する現象です。
構造相転移、
磁気相転移、
常伝導から超伝導状態への転移、
超流動状態、
等があります。
秩序変数としては、
結晶内の原子配列の規則化や、
磁性体の磁気的秩序等、があります。
二次または高次の相転移では、化学ポテンシャルの一次導関数も連続のため、
転移熱は発生せず、比体積の不連続点も発生しません。
一方、二次相転移では、化学ポテンシャルの二次導関数等は不連続で、
比熱や磁化率が、転移点で不連続性を示します。
その他にも、第二種相転移点付近では、物理量の異常性が現れ、それらは臨界現象といいます。
比熱が、第二種相転移点付近で、λの形のグラフを示して発散するケースは、ラムダ転移といいます。
ガラス転移点( Tg )
ガラス転移が起きる温度です。
液体をある速さで冷却していくと、結晶化せずに、過冷却液体になります。
更に冷却を続けると、結晶化することもありますが、
多くの場合は、準安定なアモルファスな固体、つまりガラスになります。
過冷却液体から、ガラスに移り変わることを、ガラス転移といいます。
非晶質の固体を加熱した場合は、
低温では、結晶なみに堅く(剛性率が大きく)、流動性がなかった固体が、
ある狭い温度範囲で、急速に剛性と粘度が低下し、流動性が増します。
このような温度が、ガラス転移点です。
尚、固体の結晶を加熱してゆくと、融点で液体に変わり始め、
固体と液体が共存する間は温度が融点に維持され、固体が全て液体に変わると、再び温度が上昇します。
ガラス転移点より低温の非晶質状態を、ガラス状態といい、
ガラス転移点より高温では、物質は、液体または、ゴム状態となります。
ガラス・ガラス転移がある事を、ポリアモルフィズムといいます。
水が4℃で密度最大になる理由は、ガラス・ガラス転移の影響が残っているためとされます。
ガラス転移点を持つ物質
合成樹脂や天然ゴム等の高分子、
ケイ酸塩のガラス、等があります。
鎖状高分子のガラス転移現象
合成高分子(高分子)である、ポリエステル等は、長くて柔軟に折れ曲がる、鎖状高分子からなります。
高温の液体状態では、通常の低分子液体と同様に、分子同士の位置が自由に変化でき、流動性がありますが、
鎖状分子同士のからみ合いによる粘性があり、低分子液体とは異なる挙動も示します。
鎖状分子の長軸に垂直な方向への運動は、からみ合った鎖状分子同士が互いに邪魔をするために妨げられ、
長軸に沿った運動(レプテーション)のみが許されます。
温度を下げて、融点以下にした時も、結晶化速度が遅いため、一部分しか結晶とならないことが多いです。
結晶とならない部分では、ある温度以下では、レプテーションも妨げられ、
からみ合い点で鎖状分子同士が結合して架橋点となった網目構造となり、ゴム弾性を持つようになります。
これをゴム状態と呼び、
架橋点では分子同士が結合されていますが、架橋点間の鎖状部分は自由に運動できる状態です。
この架橋は、加硫ゴムのような、化学結合による架橋(化学架橋)とは区別して、物理架橋といいます。
更に温度を下げて、ガラス転移点に達すると、
鎖状部分の運動も非常に遅くなり、全ての部分がその位置で熱振動を行うだけの、ガラス状態となります。 トップ
硫黄のガラス転移
単体の硫黄の結晶や、溶液中の硫黄分子は、S8分子からなります。
液体で159℃以上では、S8の他に、鎖状高分子も存在し、約200℃で最も粘性が高くなります。
鎖状高分子を含む液体を、融点以下から室温までの温度に急冷すると、不定形のゴム状硫黄になります。
更に低温にまで急冷すれば、ガラス状態になります。
つまり、鎖状高分子の硫黄は、液体・ゴム状態・ガラス状態、という変化をします。
量子論における真空は、何もない状態ではなく、
常に電子と陽電子の仮想粒子としての対生成や対消滅が起きています。
現在の場の量子論では、
真空とは、十分な低温状態下を仮定した場合に、その物理系の最低エネルギー状態、として定義されています。
宇宙(世界)の一部のうち、考察の対象として注目している部分です。
観測者がいる、系でない部分は、外界といいます。
通常、外界は系と比べて非常に大きく、
エネルギーや物質を交換して、外界が系に対して変化を及ぼすことがあっても、
外界の状態は、常に一定に保たれると仮定されます。
熱力学では、系は、外界との関係から、3つに分類されます。
開放系:外界と、質量とエネルギー(熱、仕事)の両方を交換する系。
閉鎖系:外界と、質量の交換はしませんが、エネルギーの交換が可能な系。
孤立系:外界から完全に独立しており、外界と、質量もエネルギーも交換できない系。
閉鎖系や孤立系等、外界との関係に制限がある系には、その制限に応じた保存則が適用されます。
真の安定状態ではありませんが、大きな乱れが与えられない限り、安定に存在できる状態です。
準安定状態は、小さな乱れに対しては安定ですが、
大きな乱れが与えられると不安定になり、真の安定状態へ変化します。
準安定状態は、非平衡状態なので、いつかは真の安定状態へ変化しますが、変化の時間が非常に長いのが特徴です。
イメージ的には、自由エネルギーが極小値をとるような状態です。
準安定状態は、一つだけとは限らず、多数存在し得ます。
準安定状態同士、準安定状態と最安定状態の間には、エネルギー障壁が存在します。
障壁を乗り越えるような駆動力(熱等)があると、より安定な状態へと移ります。
準安定な状態には、過冷却状態、過飽和状態、ガラス状態、等があります。
相転移を起こす温度や圧力等の状態量における値の組を、転移点(変態点)と呼び、
転移点上の温度を、転移温度といいます。
特定の物質において、転移点は、熱力学的状態により決定される値であり、
特定の成分系の液相・気相転移点では、
圧力値等、状態値が指定されると、残りの状態値である温度、すなわち沸点は一意に決定されます。
このように、相転移の状態値を温度・圧力の相図上では、転移点は連続した線分を形成します。
沸点、融点、昇華点(凝固点)
キューリー温度(強磁性体が常磁性体へと転移する温度)、
第一種相転移が進行中の一成分系は、
圧力が一定の場合、系の温度が一定のままで、系外へ熱の放出または吸収がみられます。
このような機構で生じる熱を、転移熱といいます。
尚、第二種相転移では、転移熱は生じません。
相転移前後を、状態1、状態2とした場合、
それぞれの相の生成エンタルピー H1、H2の総量の差分だけ、転移熱が発生します。
転移熱の単位は、
質量あたりの熱量 ( J / g ) または、物質量あたりの熱量 ( J / mol ) で示されます。
水の気化熱は 2256.7 J / g 、融解熱は 333.5 J / g 、です。
気化熱(蒸発熱、凝縮熱) : 気相・液相間の第一種相転移
融解熱(凝固熱) : 液相・固相間の第一種相転移
物質が、気液平衡の状態にある時、温度、圧力、及び気体、液体、それぞれの体積の関係を表した式です。
物質が気液平衡の状態にある時の、
温度をT 、圧力をP 、気体、液体のモル体積をそれぞれvg 、vl とすると、これらの間には次の関係が成り立ちます。
dP / dT = L / T ( vg - vl )
ここで、L は、その物質のモル蒸発熱です。
尚、この式は、
L を、モル融解熱とし、
vg をvl に、
vl を固体のモル体積vs に、置き換えると、
液体と固体が共存している場合にも適用できます。
マルテンサイト変態(無拡散変態)
結晶格子の各原子が、拡散を伴わずに、共同的に移動することにより、新しい結晶に変わる、ものです。
温度依存性、時間依存性、応力依存性によるものが考えられます。
マルテンサイト変態は、可逆的であり、
温度を下げてマルテンサイトを生成させたものを加熱してゆくと、元の母相に戻ります(逆変態)。
逆変態は、マルテンサイト変態と同様の機構、
つまり、拡散を伴わない剪断変形により、起こります。
形状記憶物質(形状記憶合金等)は、この性質を応用したものです。
揮発性・不揮発性 第一種相転移
物性としての蒸発のし易さ、し難さです。
液体の表面張力に打ち勝つ、熱運動エネルギーを持つ分子は、蒸発することができます。
蒸発は、液体の温度が高かったり、表面張力が低かったりするほど、早く進行します。
超臨界状態 第二種相転移
理想気体または理想液体では、圧力が変化しても振る舞いが変わりませんが、
実際の物質の場合には、高圧になると、気相と液相の振る舞いに相違がなくなります。
その限界の転移点を、臨界点といいます。
臨界点を超えた相の状態を、超臨界状態といいます。